スペイン

スペインをスケッチする マドリード編

スペインはヨーロッパでイタリアに次いで世界遺産の多い国。

マドリードの夜 食事もそこそこに・・・

 歴史的な建造物も多く、スケッチ旅行先としては文句なし。まずは関空から首都マドリードへ向かった。
 しかし今回のスケッチ旅行も実はトラブル続きだった。
まず到着早々、空港からマドリードまでタクシーに乗ったが英語が全く通じない。しかもわざと遠回りをされたらしく、時間も料金もガイドブックに記載された数値の5割り増しぐらい。

油断できない街だと感じた。

 この日は夜遅く到着したので、簡単な夕食を済ませ、時差ボケもあってすぐに就寝。

早朝のマドリード
交通量多く、スケッチを断念

 さて翌早朝。スケッチブックを持ってホテルを飛び出す。まずは王宮を目指す。途中で教会の尖塔がのぞく町並みをスケッチしかかったものの、車の往来が激しくて途中で断念。貴重な時間をロスしてしまった。

スペイン王宮

 そして到着した王宮。ガイドブックでは絶賛していたので、大いに期待していたのだが、外観は今ひとつ。18世紀の建物らしいのでおそらくバロックの建物だと思うが、設計が悪いのか、正門に立つと華麗なドーム屋根は見えず、外壁面に柱型だけが単調に並ぶデザイン。正面の広場も矩形の広いスペースがあるだけ。床のペイブメントも単純で魅力はない。

ガイドブックが絶賛しているからといって、絵描きに魅力的だとは限らない。

 とてもスケッチする気にならず、早々と退散することにした。もっともこれは絵描きとしてのコメント。豪華な内装は観光には最適だともコメントしておく。

スペイン王宮の内部

 次に向かったのはやはりガイドブックでおしゃれなストリートとしての紹介のあったグラン・ビア通りとその周辺の建物。しかしいずれもクラシカルなパーツを冠した現代建築ばかり。中途半端な印象でやはり絵を描く気になれない。
 そのまま歩いて有名なキュベレーの噴水に到着。これも評判ほど美しいとは思えなかった。エル・レティーロ公園まで歩くとさすがに疲労困憊。ここでビールで一息つき、支払いをしようとして気がついた。財布の中身が抜かれている!

エル・レティーロ公園

スリにあったのだ。

 そういえば交差点で目つきの悪そうな黒人達が私の後ろについていたことを思い出した。あの時に違いない。それにしても中身だけを抜き、財布はリュックに戻すとは・・・。実に慣れている。

 もっとも以前、ウィーンで全財産を無くすという大失敗を経験しているので今回はあわてない。店の支払いはポケットの小銭入れから支払い、今後の旅費用はマドリード駅のATMからやはり別の場所に入れてあるクレジットカードで引き出す。
 幸い、すられた金額は2万円くらい。痛い出費には違いないが、大使館に駆け込むほどのトラブルでなく、幸いだった。

 実は事前の調査でマドリードでのスケッチはもともとあまり期待していなかったが、この事件のおかげで、すっかりスケッチする気力は失せ、残りの時間をプラド美術館で過ごすことにした。
 お目当ては当然ベラスケス。広大な展示室を次から次へと見て回り、美術館を出たのは閉館時間ぎりぎり。
 疲れ果て、iPhoneでこの日歩いた距離を見ると、なんと30km。美術館での時間は別としてスケッチ成果ゼロの疲労困憊した1日であった。

皆さんにお伝えする結論!

 マドリードはスケッチ旅行先としては今ひとつ。空港へ行くための宿泊地と割り切ったほうが良さそうだ。

スペインをスケッチする。 グラナダ編

 世界遺産の宝庫、スペイン。最初に訪れた首都マドリードは残念ながら、描きたいと思う風景はあまりなかった。だが次の町

グラナダは期待に違わぬ魅力的な町だった。

 スケッチどころをご紹介しよう。まずグラナダの町を俯瞰する。それほど大きな町ではない。見どころはだいたい3km四方に収まる。
 だからスケッチブックを持っての移動も全て徒歩だ。マドリードから来る列車が到着するグラナダ駅は町の北西端にあり、有名なアルハンブラ宮殿は南東端にある。ホテルが密集する町の中心はその中間にあると考えればいいだろう。

 さて私がグラナダに到着したのは午後。今からアルハンブラ宮殿に行っても、内部を見学するだけで終わってしまい、スケッチする時間は取れないと考え、その日はアルハンブラ宮殿の全景を見られるという丘の上にあるサン・ニコラス広場へ向かった。
 地図で見る限りは、チェックインしたホテルから直線距離で1kmほど。だがこのあたりはアルバイシンと呼ばれる、住宅が入り組んだ地区で、道は曲りくねり、地図など全く役に立たない。時間に余裕を持って出かけよう。
 ただこのあたりの建物は赤瓦の屋根、白い外壁、石畳のコントラストが美しい。そして

高低差のある道と建物が切り取る青い空はアルバイシンの美しさそのものだ。

 時間があればこの空をゆっくりスケッチしたいところだ。ちなみにこのアルバイシンもアルハンブラ宮殿と並んで世界遺産に選定されている。
 さて結局ホテルから1時間ほど歩いてサン・ニコラス広場にたどり着いた。

これがアルハンブラ宮殿か・・・素晴らしい!

 二の句が告げられないとはまさにこのことだ。早速スケッチしようと思ったが、この素晴らしい眺望をカメラに収めようとする観光客がひしめき合い、画帳を開くスペースなど全くない。
 この日は平日。おそらくいつ訪れてもこの状態なのだろう。さてどうするか。実はいい場所がある。この周辺のレストランは全て「アルハンブラ」ビュー。
 窓際の席を確保して、ワインを飲みながらゆっくりスケッチすれば良い。絵描きにとって至福の時だ。

 グラナダでは2泊した。しかし初日は午後の時間をアルバイシンに当てたので、お目当てののアルハンブラ宮殿内部を描く時間は翌日、チェックアウトしてから夕刻の列車に乗るまでの数時間しかない。しかも聞けば、宮殿の入場券を得るためには長時間並ぶ必要があるらしい。
 というわけで、日が昇るとすぐにホテルを出発したが、それでもチケット売り場に到着したらすでに長蛇の列だった。しかも宮殿内部の見学時間に入場時間の指定があり、思いつくままぶらつくわけにもいかない。覚悟はしていても、スケッチ旅行者には実に迷惑なシステムだ。

さていよいよ入城だ。アルハンブラの内部をスケッチしよう

外部の通路のペイブメント

 まず足元のペイブメントに驚かされらる。まだ宮殿に入る前の外部の床にでさえこのように濃密なデザインが施されている。驚きだ。

王妃の間
アラヤネスのパティオ

 そして宮殿の内部。・・・素晴らしい。王妃の間、有名なアラヤネスのパティオ。だがどこも観光客が多く、立ち止まって絵を描くのは迷惑になりそうだ。
 ライオンの中庭に来た。どういうわけか部屋の角に休憩用の椅子が置いてある。誰も座っていない。しめた。というわけでここで一枚スケッチすることができた。ただし・・・

この部屋の濃密な装飾をスケッチをするには相当に勇気がいることを忠告しておく。

ライオンの中庭
部屋中が濃密な装飾で埋め尽くされている

 宮殿を見た後はアルカサバへ。こちらは宮殿の要塞機能部分。人もあまりいないのでスケッチには最適だ。

アルカサバ

 アルハンブラ宮殿は実は大きく二つのブロックに分かれている。一つは先に述べた宮殿と要塞部分。そしてもう一つ、谷を隔てた反対側にヘネラリフェと呼ばれる別荘ゾーンがあるのだ。

アルハンブラ宮殿の裏側とグラナダの町

 そして実はこの別荘から宮殿を見ると、宮殿の裏側とグラナダの町が一望できるのだ。宮殿と町の美しさ両方を描くことができる、最高のポイントだ。でもしょせんアルハンブラの「裏側」でしょう?と言って侮ってはいけない。本当に美しい建築はどこから見ても美しいのだ。

この町で忘れてならないもう一つのスケッチポイントは グラナダ大聖堂だ。

グラナダの大聖堂

 いくつもの尖塔が並ぶドームが美しい建築だが、残念なことに小さな建物が密集する町のど真ん中に建っている。地図で見る限り相当に大きいのだが全貌は見えず、周囲を歩き回ると、道の片隅から、ところどころ美しさの片鱗だけを見せてくれる。

椰子の木とグラナダの大聖堂

 でも私は発見した。聖堂が唯一、小さな広場から椰子の木とともに並んで見えるのだ。スペインならではの教会風景だ。大急ぎでスケッチしたのは言うまでもない。まもなくセビリア行きの列車が発車する!

スペインをスケッチする セビリアとコルドバ

スケッチ旅行は欲張ってはいけない!

 スペインの旅を計画する時、一番悩んだのはセビリアとコルドバの旅程だった。時間とお金の制約の中でいかに効率的にスケッチするか。全ては事前の計画にかかっている。必死に時刻表と地図を調べ、少しでも多くの風景、建物を描く・・・。しかし結果的にこの時の私の計画は最悪だった。

 グラナダから3時間半かけて夜遅くセビリアに到着。一泊し翌早朝、2時間だけスケッチし、すぐにコルドバに移動し、夕刻までの3時間だけスケッチする。そこで一泊して翌朝一番ですぐトレドに向かうと言う超ハードスケジュールを選択してしまったのだ。
 つまり1日の午前午後それぞれ別の都市でスケッチ、チェックアウト、移動、チェックインし、スケッチし、また翌日早朝チェックアウトするということだ。

 この時の私のように2、3時間のスケッチのために、3日に渡って数時間も移動するのは絶対にやめたほうがいい。
 何故なら描くよりも移動する方が時間が長いという非効率的な使い方であると同時に、日本語はもちろん、英語さえ通じない田舎駅と列車の中を重いスーツケースを引き摺って移動することに、想像以上の神経を使うからだ。やっと目指す駅とホテルに到着しても疲れはてて絵を描くところではなかった。

 それでもこの時、それなりのスケッチはした。その成果だけは報告しておこう。

セビリアの大聖堂とヒラルダの塔

 セビリアではやはり、世界遺産「カテドラルとヒラルダの搭」がいい。時間のない人はここだけでもスケッチすると良い。
 もうひつ有名な建築はアルカサス。だがこちらは外からは門と城壁が目立つだけ。スケッチには今一つだ。

アルカサス

 コルドバでは何があってもメスキータだけは外せない。特にその内部のイスラミックアーチが連続する空間は圧巻だ。時間があればこの内部空間もスケッチしたかった。

メスキータ内部

 実はこのメスキータ、外観を描こうと思って正面からアプローチすると、意外にいい構図がない。お薦めは門を出て裏側に回り、グアダルキビル川にかかるローマ橋を渡って向こう岸から振り返ってみることだ。美しい橋とメスキータがセットで現れる。スケッチには最高の構図だ。

ローマ橋越しにメスキータを見る

ガイドブックによれば、コルドバは特に観光客対象のフラメンコを見せてくれるらしい。どんな小さなホテルでもフラメンコを観たいと言うとすぐに予約をしてくれる。当初は私も行くつもりだったが、移動に疲れ果て、夜、フラメンコショーに繰り出す元気はとても残っていなかった。

旅行計画を失敗したために、本場のフラメンコを観ると言う貴重な体験ができなかった。残念だ。皆さんはこんな失敗をしないように。

スペインをスケッチする。トレド編。

エル・グレコ 「トレドの風景」

 数年前、同じ建築設計の仕事をしていた後輩から、「新婚旅行でスペインに行きます。いない間よろしくお願いします。」と報告を受けた。
「いいね。それでどこへ行くの?」
「マドリード、バルセロナ、セビリア・・・です。」
「えっ、トレドは行かないの?」
「もし、1日しかスペインにいられないなら、迷わずトレドへ行け。という格言があるでしょ。」
 軽い気持ちで呟いたのだが、彼は急遽、旅行先にトレドを組み込むため、飛行機の時間変更やお嫁さんとの意見調整やら大変だったらしい。

 後輩にそんなことを言った手前、私がスペインに行くのにこの町を外すわけには行かない。今回の超ハードスケジュールの中でトレドだけは唯一2泊を確保したのはそんな理由もあったのだ。
 しかもトレド駅到着を昼の12時頃になるように計画した。だから到着当日に半日、翌日は丸1日スケッチできるはずだった。が、世の中思うようにはいかない。この旅の間、重い荷物を引きずって歩く汗まみれの旅人をあざ笑うかのような快晴続き。それなのにこのトレドに来た途端、天候は大崩れ。2日とも空は暗く、突然の大雨が度々私を苦しめた。

 それでも、トレドで描くべき絵は決めていたので、スケジュール的には楽観していた。勘のいい人はもうお分かりだろう。冒頭に載せたエル・グレコの作品「トレドの風景」だ。本当は人の絵の真似はしたくないが、相手がエルグレコならば誰からも文句は出ないだろう。

 地図で見る限り、同じような構図をとらえようと思うと、ちょっと距離がありそうなので、タクシーに乗ろうかとも思ったが、何しろ絵の構図を考えながらの移動。後ろを見たり、立ち止まったり、描くための足場を確認したり・・・車ではとても無理だと思い、歩くことにした。

トレドの風景 私が見つけた絶景ポイント

 しかし道のりは険しく、想像以上に遠かった。やっと見つけた絶景ポイントは小高い丘の上。人気(ひとけ)もなく、雨を避けられるものは一切ない。描き始めて5分も経たないうちに、待ってましたとばかりに激しい雨が降り出す。残念だがここでスケッチ完成させるのは無理と判断、翌日晴れることを期待して疲れた足を引きずり町に戻った。

翌朝。窓を開けるも雨。あの場所に戻っても絵は描けないと、決断し、町中で雨を避けながらスケッチすることにした。

路地の先に大聖堂が見える

 トレドは大聖堂を中心に道が網の目のように広がる城塞都市。侵入者を防ぐためなのか、真っ直ぐ先を見通せる広い道路は一本もない。
 曲がりくねった路地を上へ上へと登っていくと屋根の間から突然大聖堂が現れる。この町の最大の特徴だ。是非スケッチしてほしい。

トレド大聖堂

 小さな建物がひしめく町の中にあって、目を惹くのが、この大聖堂とアルカサル(軍事博物館)。大聖堂は広場があるので、絵を描くにはもってこいだ。しかし雨天では広場の真ん中でスケッチブックを広げるわけにはいかない、さんざん探し回って、いいアングルで描ける周辺の店舗の庇下を探し当て、なんとかスケッチした。
 一方アルカサルは周辺の道から見ると、これという構図が見つからず、スケッチせず。そのまま道なりに町を一周する。

狭い路地と建物の壁

 中世のままの石壁の建物が続く町は統一感があって美しい。しかし道が狭いこともあって、私の視界を支配するのは壁ばかり。町並みとして映らないのだ。これをスケッチするのはとても難しい。
 エルグレコのとらえたトレドの姿は町の中に入ってしまうと、あの美しさは残念ながら体感できないのだ。

 そうしてトレドをスケッチする難しさがわかってきた頃、町の正門であるアルカンタラ橋にたどり着く。橋を渡り右に曲がると例のエルグレコの絵にある方向だが、逆に左に曲がってみた。振り向くと、アーチのある橋と城門、小さな建物が続き、教会もある。丘の上にはアルカサルもあるという最高の構図が現れた。

 ここだ。迷うことなくスケッチを始めた。途中で何度か雨に襲われるも、その度に橋塔に走り込み、雨宿りを繰り返してなんとか完成させることができた。
 エルグレコと同じ構図の絵は描けなかったが、私なりの「城塞都市トレド」がスケッチできたと思っている。