スケッチが好きな旅人の独り言

 私は旅先でスケッチをする瞬間が好きである。

 白いスケッチブックの上で黒いペンの線が幾重にも交差し、形が出来上がっていく。

 輝く太陽の光は青空に散り、建物の外壁を白く焼き、地面に屋根の影を落とす。線が形となり、面が光を受け、画面に色が付き、その風景が自分のものになってゆく。絵描き冥利に尽きる。(「絵を描くことであなたの人生は充実する!→」を参照)

 でもそんな幸せな時間を作り出すのは実は結構大変なのだ。

 私は気ままなぶらり旅はしない。何故なら「何を描くか?」を探すことは時間の無駄だと思っているからだ。

 だから旅の事前準備は結構入念にする。初めてローマを旅した時などはグーグルマップにスケッチ予定の建物、風景とそれぞれを結ぶ最短の徒歩コースを事前に決めiPadに描き込み、それを頼りに移動した。

 もちろん歩く途中で目にする風景が気に入ればそこで立ち止まりスケッチをする。そんな時は大抵立ったまま描く。気が付くと足と腰がしびれてその後苦労することも度々だ。

 途中で偶然見つけた素敵な風景をスケッチできると、とても気分がよい。何か得をした気がするのだ。だが一方で予定のスケッチ地に到達する時刻がが遅くなることを気にして焦る自分がいる。

 何故なら私は旅先で予定した風景は午前、午後最低1枚ずつの絵にすることを課しているからだ。途中に気に入った風景があったからと言って、目的の絵が描けなかったということは許されない。私は自分に厳しいのだ。

 本来なら、午前中に目的地に到着し、すでに一枚描けたはずの予定が遅れてしまうこともある。慌てて絵になる風景を探し回り、ここと思えばさっそく描き始める。本命の風景なので、折りたたみ椅子に腰かけ、日陰を確保する。体制は万全だ。

 だがここにも、時間の制約がある。先ほどまで日陰だったのに太陽は移動し、いつの間にか日向にさらされる。真っ白なスケッチブックに反射した太陽光が目に入る。こうなるともう絵は描けない。だから太陽が移動する前に描いてしまうのだ。

 気が付けば昼をとっくに過ぎている。ここでレストランのある街へ引き返す暇はない。リュックからクッキーを取り出しひとかじり。次のスケッチが待っている。

 旅の楽しみは「食べ物」と「お土産」という人はかなりいる。いやほとんどの人がそうかもしれない。だが私は、スケッチ旅に出かけた時はさっぱりその意欲がない。自分の計画通りに動きたいからだ。だから時間通りに名物レストランと土産物を回る団体旅行には絶対に行かない。

 「計画」と書いたが実はこの計画もいろいろな意味がある。単に目的を最短距離で結ぶわけではない。例えば先に書いた「太陽」の位置、「陽射し」の方向だ。私がよくスケッチするヨーロッパの教会は通常祭壇が東を向いて建っている。つまり反対側にある正面玄関は西を向いている。

 だから朝一番に教会のファサードを描こうとすると逆光になって通常はとても絵は描けない。(カメラを使って敢えて逆光を狙う絵もあるが・・・)だから午前中なら教会の背後を描き、他をスケッチし、午後からまた教会の正面を描くという計画が必要なのだ。

 もちろん、例えばヨーロッパでは広場のテラスで昼間から酒を飲むのが当たり前の文化だ。そこを描く時は、いい絵の構図が取れるテラスのテント下に席を確保し、ビールを飲みながらスケッチをする。

 何時間も炎天下を歩き回った後の水分補給はとても大切なのだ。幸い私は酒に強い。多少飲んだところでペンや筆先が鈍ることは無い・・・?。

 夢中でスケッチ旅をしていると、気が付くとすでに夕暮れだ。昼食をとっていないので当然空腹だ。しかもiPhoneで歩いた距離を見るとたいてい10㎞から20㎞は歩いている。疲労困憊なのだ。

 食事が楽しみな人はここでガイドブックにある有名なレストランを予約することだろう。だが私は一人でスケッチ旅に来たときはやはりそんな欲求が起きない。ホテルへの帰り道で偶然見かけたレストランに適当に入る。

 それなりのレストランが見つからなければ、ホテル近くのスーパーマーケットでパンとワインとハムを適当に買い部屋で食べる。

 そのことを話すと友人は「かわいそうに」という同情した顔を見せるが、私自身は旅先での充実した一日を美味しいワインを飲みながら一人でその余韻に浸るこの時間もまた好きなのだ。

さて次なるスケッチ旅はパリとトゥルーズ周辺の予定だ。どんな風景が私を待っていてくれるだろうか。

P.S.
スケッチ旅については下記のような関連記事を書いている。興味のある方は参考にしてほしい。

■カテゴリ「スケッチの旅海外編」「スケッチの旅日本編
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海外スケッチの旅 5つの心得→
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