6.スケッチの旅 日本編

ここを描きたい日本の風景!

 水彩で風景を描き始めたあなた。身近な風景を描くのも楽しいが、旅先で描く風景も楽しいものだ。あなたは次の休みどこにスケッチに出かけるつもりだろうか?

 せっかく行くのだから気持ちのいい素敵な風景画描きたいと思うだろう。だが世の中のガイドブックは案外あてにならない。何故なら絵を描く人を対象に書かれていないからだ。そこで言わば「後悔しないスケッチ」のための「お薦めの旅先リスト」をまとめることにする。

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二つの伊勢街道を結ぶ町! 宇陀千軒の風景をスケッチ

 次の個展に備えて、出品予定作品をチェックした・・・。いかん、作品が足りない・・・これでは壁面が埋まらない!。
 慌ててスケッチの予定を追加する・・・毎度のことだ。自由なアーティストを気取ると、ついつい予定が伸びてしまう。大いに反省している。
 でもすでに海外のスケッチ旅は計画が終って航空チケット代は払ってしまった。予算的には近場でのスケッチしか許されない。

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二つのスケッチが語る山辺の道の風景とは?

 私がまだ社会人になりたての頃、奈良「山辺の道」をスケッチしたことがある。季節は5月、ゴールデンウィークだ。生憎の雨だったが新緑が鮮やかだったことを覚えている。
 何時間も畦道やら山道を歩くのだが、とある寺の裏庭に小さな小屋が立っている。覗くと中に地蔵が並んで立っていた。古ぼけた小屋に守られているせいか、地蔵さんの赤い涎掛けが鮮やかだった。
 長閑で微笑ましい地蔵さんの姿が私の記憶に刻まれた。

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日本最古の西洋住宅?グラバー邸をスケッチ!

 ある日、アトリエを片付けようと、昔の資料を整理していた。本棚の奥から古いメモ書き兼用の安物のスケッチブックが出てきた。どのページも黄ばんでいる。パラパラとめくる。その中に見つけたのが、冒頭のスケッチ、長崎の「グラバー邸」だ。
 私のサインの上にある日付を見るとなんと1984年4月。30数年前のスケッチである。この頃は今のように真剣に絵を描こうなどとは思っていなかったはずだが、一応スケッチだけは残していたようだ。
 紙は水彩紙ではなく、普通の画用紙だ。だから影の部分をサインペンでハッチングしている。
 今も風景画を描くときは、アウトラインにサインペンを利用するが、ハッチングの影は描かない。何故なら透明水彩の淡く、明るい発色をと黒いハッチングの線が喧嘩するからだ。昔のスケッチなのでご容赦願いたい。

 さて今回何故、このグラバー邸を取り上げようと思ったかというと、理由は二つある。
 一つはこの建物の設計者が貴重な存在だからだ。私がよくスケッチする洋風の近代建築の設計者は大抵が海外の建築家(例えばジョサイア・コンドル)が設計したものか、彼らの弟子の日本人建築家(例えば辰野金吾片山東熊)が設計したものだ。
 このグラバー邸はそのどちらでもない。時代は彼らが活躍した明治よりも古い江戸時代、1863年に建てられた。だから、当然建築家などはまだおらず、建て主の貿易商トーマス・グラバーにも建築家としての素養は無かったようであるから、実質的な設計をしたのは当時の大工の棟梁だったのだ。
 日本人の住宅しか知らなかった彼らが、当時の西洋人の日常生活の代名詞であるバルコニー、ガラス、暖炉と煙突などを設計し、この地に建設した。驚きだ。
 この建物、2013年に「グラバー邸150周年」を迎えたという。私がスケッチをした当時、実はそこまでこの建物に価値があることを知らなかった。だが少なくとも「絵になる建物だ」と思わせてくれたことは事実である。

 二つ目の理由はこの建物が最近特に注目されるようになったからだ。このグラバー園、当時はそれほど観光客が多かったとは思えない。むしろ「長崎平和公園」の方が有名だっただろう。
 実は長崎市は1970年からこのグラバー邸のある敷地を「長崎の明治村」とする計画を推進していたらしい。私がここを訪れた以後、多くの建物が移築され、この構想が「グラバー園」としえ軌道に乗ったせいだろう。1991年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定され、2015年には、なんと「九州・山口近代化産業遺産群」の構成資産として世界遺産に登録されたのだ。
 この長崎の世界遺産をスケッチするについて個人的にコメントしておこう。実はグラバー邸を描いた同じスケッチブックには、やはり世界遺産に含まれる「大浦天主堂」も描いていた。
 しかし今回このブログの記事を書くにあたり、「大浦天主堂」は掲載しなかった。何故かというと、もちろんあまりにも昔のスケッチで、その出来栄えに満足していないこともあるのだが、天主堂に「モチーフ」として魅力を感じなくなったからだ。
 当時はそれなりに感動したからこそ、スケッチしたのだと思うが、その後私はヨーロッパの巨大な世界遺産の教会建築をいくつか見ている。教会建築に求められる「神への畏怖」はやはり建物の巨大さに直結する。大浦天主堂はやはり「小さすぎる」のだ。どうしても物足りなさを感じてしまう。(もちろん世界遺産としての価値は別物だが)
 さて、今回の記事により、長崎を一応私がスケッチしたお薦めリスト「ここが描きたい!日本の風景」に入れておく。だが冒頭に述べたように何しろ三十数年前のスケッチ。「長崎の明治村」構想が成就し、世界遺産に選定された今はさらにスケッチすべきシーンが増えているに違いない。
皆さんのスケッチ旅の行く先に加えて損はない・・・かな?

P.S.
今回はスケッチ旅の様子を記事にしたが、「肝心の水彩画はどうやって描くの?」と思っている人は以下に制作編をまとめているので参考にしてほしい。
■ペンと透明水彩を使う本格的な風景画の描き方は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」を参照。
■透明水彩の基本を知りたい方は「色塗りの基礎的技法」を参照。
■建物を描くための透視図法のコツを知りたい方は「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方(詳細はこちら→)を参照。
■透明水彩の正しい着彩手順を知りたい方は「何故上達しない?知っておきたい水彩画の正しい着彩手順!(詳細はこちら→)」を参照。
■ペンと透明水彩による風景画の制作プロセスを具体的に知りたい方は「ペンと水彩で描くミラノ大聖堂(詳細はこちら→)」を参照。

スケッチ好きにおすすめ! 江戸東京建物園

 建物のある風景、古い街並みを描くのが好きな人にとって、「東京はスケッチする場所が少ない!」と思っているのではないだろうか?

 私自身、10年ほど東京で仕事をしていて、そう思っていた。事実、古い町並の証明である国の選定する「重要伝統的建造物群保存地区」は東京には一つもない。

 だがそんな、人におすすめの場所がある。それが「江戸東京建物園」だ。場所は東京都小金井市。「都立小金井公園」内にある。東京駅からはJR中央線で武蔵小金井へ。そこから公園までバスでゆく。1時間と少々で行ける。

 江戸から昭和初期までの建物を移築、保存したもので愛知県犬山市の「明治村」と似たようなテーマパークだ。(「歴史遺産をまとめてスケッチ!明治村」はこちら→)。
 最も都内に位置するだけあって、敷地の広さ自体は明治村の1/10以下である。

 ただ、私が感心したのは「建物園」と言いつつ、「人」が住む場を演出していることだ。明治村はどちらかというと「博物館」であり建物は展示物である。

 この「建物園」では建物は人が住む器であることを意識しているようだ。移築されている建物もいわゆる「名建築」というよりも「懐かしい建物」が多いようだ。いくつか紹介しよう。

 まずは藁葺き屋根の農村(吉野家)。冒頭の写真の建物だ。周囲は緑に囲まれた林の中の一軒家。いい雰囲気だ。

 近づいて見ると、屋根の煙出しから囲炉裏(いろり)の煙が出ているようだ。薄暗い座敷では野良着を着た老人が何やら手作業をしている。農村の生活が演出されていて、まるで歴史小説の1シーンを見るようだ。
 もちろん観光客が話しかければ、建物の由来を説明してくれるに違いない。

 こちらは昭和初期の銭湯「子宝湯」だ。私は子供の頃まさにこんな銭湯に通っていた。

 さすがに、営業はしていなかったが、入口の番台も上が空いた男湯、女湯の間仕切りも当時のままだ。ただこの銭湯は私が行っていた銭湯よりもかなり格調が高い。

 定番の「富士山」はもちろんだが、平家物語の那須与一や弁慶と牛若丸の絵もある。室内の装飾的な造作もなかなか凝っている。

 映画「千と千尋」に出てくる「湯屋」のモデルになったらしいということで、この建物園での人気は随一だという。

 最後に私の一番のおすすめを教えよう。先程の「子宝湯湯のすぐ近く、路地を曲がるとこの風景が現れる。

 何ということはない、木造の古びた建物が並んでいる。感心したのは路地の風景を作り込んでいること。
 まず一番リアルな演出は地面を土のままとしたこと。そして家の前の地面には各家庭が思い思いに鉢植えで季節感を演出する。
 さらに窓の手すりには布団が干してあるという懲りようだ。

 これだけでも、昭和の町の記憶を呼び起こしてくれるに十分なのに、しばらく懐かしさに浸っていると、何と麦わら帽子を被り、首に手拭いを巻いたおじさんが路地に水撒きを始めた。考えて見れば、こんな暑い日に、土埃の舞う道に面した家の住民にとっては当たり前の仕事だ。

これが「向こう三軒両隣」の風景なのだと納得。早速スケッチブックを広げペンを走らせたことは言うまでもないだろう。

P.S.
スケッチ好きな人のために関連する記事を以下にまとめている。参考にしてほしい。

ここが描きたい!日本の風景→

スケッチの旅 日本編→

スケッチの旅 海外編→

スケッチ旅の道具→

ペンと水彩で描く風景 安芸の小京都

竹原の町並み 作者 加藤美稲

 今日の絵は広島県にある「竹原」。JR広島駅から呉線という単線のローカル線に揺られること、約2時間。
 国の指定した「重要伝統的建造物群保存地区」だ。元々は製塩の町として発展し、今も江戸時代の街並みがよく残っているという。
 この日は、真冬、1月だったがぽかぽかと陽気がよく、スケッチブックを持ってこの町を訪れた。

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水彩で描くみちのくの風景 角館の武家屋敷

大樹の門 作者:加藤美稲

 今回のテーマである角館(秋田県仙北市角館町)は私にとって特別な町だ。
 というのも、私がスケッチ先としてよく選んでいる「重要伝統的建造物群保存地区」の選定制度が施行されたのは昭和51年から。今から40年ほど前、私が大学の建築学科に入学した翌年にあたる。
 実は私が古い建物をスケッチし始めたのはこの制度と「町並み保存」という運動を知ったのがきっかけだ。特に妻籠、白川郷、三寧坂、祇園、萩、角館はこの制度による第一回の選定地区であり、建築を学び始めた大学生の私に「人」と「町並み」というこのブログ「美緑空間」にとって大切なキーワードを意識させてくれた町でもあるのだ。

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