6.スケッチの旅 日本編

建物のある風景を描く…北野天満宮

魅力ある風景画を描く秘訣は?

 一番簡単な方法は「魅力的な建物のある風景を描くことだ」。

 もちろん普段の私たちの生活では見られないヨーロッパの建築を描ければいうことはない(「スケッチの旅海外編→」を参照)

 だがそうそう海外でスケッチするチャンスがあるわけではないだろう。だから日本で魅力的な建物を見つけることになる。

魅力的な建物を探す

 ところが日本の宗教施設である神社はヨーロッパの教会建築と違い由緒ある本殿ほど一般人には見られない。

 もちろん教会建築もいわゆる御神体は厳重に守られているものの、どんな大きなキリスト教会でも祭壇に近付いて祈ることができる。私自身どこをスケッチしていても咎められたことはない。

 神々しさを「絵にする」ことが許されないのは日本の「神社」くらいではなかろうか。伊勢神宮しかり、出雲大社しかりだ。(「神代の風景か? 出雲大社を描く」→参照)

天満宮とは

 そんなわけで神社を描こうとすると、いつもストレスが残るのだが、実は神社の中でも全国に1万以上あると言われる「天満宮」は別のようだ。

 というのはまず祀ってあるのは「神」ではなくあの菅原道真公であること。「学問の神様」と呼ばれているが、あくまでも「人」である。

 そのせいか、建物には「荘厳」「厳粛」という言葉よりもむしろ「品の良さ」「立派さ」を感じてしまうのは私だけだろうか?

京都…北野天満宮を描く

 中でも京都の北野天満宮はその総本社であり、本殿は国宝である。一の鳥居から楼門を通り本殿に続く参道は存分に日本の神社の風情を見せてくれる。そして境内の正面に拝殿、その奥に本殿がある。

 もっともこの建物は原初的な神社と違い本殿と拝殿だけのシンプルな構成ではない(「建物のある風景を描く 平野神社→」を参照)。現状の建物は江戸時代初期に建てられたもので、両者と「石の間」、「楽の間」をつなぐ「八棟造り」という形式の神社だという。

 正面から見る拝殿は立派だが、いかに国宝とはいえ、左右対称の構図は絵としてはつまらない。幸いこの神社は本殿の周囲を歩いてスケッチできる。歩くにつれて「八棟造り」の複雑な屋根が華麗な姿を見せてくれる。

 冒頭の写真をみてほしい。美しい桧皮葺の屋根は、素材感は優しいのに、構成はダイナミックだ。何層にも重なる屋根の造形は実にバランスがよく、構図的には文句なく魅力的な絵になりそうだ。

 続く写真に見られるように各所のディテールも美しい。柱、梁、屋根周りの金細工は密度が高く、どれも超一流の工芸品だ。

 あらためて思う。巷の「神々しい」神社と違って、この国宝はそのすばらしさを惜しげもなく、すぐそばでみせてくれる。学問の神様は探求心旺盛な絵描きには優しいようだ。

P.S.
このブログでは文中にリンクを張った以外にも関連する記事を書いている。興味ある人は参考にしてほしい。

■カテゴリ「絵画上達法→
■「スケッチの旅日本編→
■「加藤美稲水彩画作品集→
■「ここを描きたい日本の風景!→
ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→
■「建物のある風景の描き方→

ここを描きたい日本の風景!

 水彩で風景を描き始めたあなた。身近な風景を描くのも楽しいが、旅先で描く風景も楽しいものだ。あなたは次の休みどこにスケッチに出かけるつもりだろうか?

 せっかく行くのだから気持ちのいい素敵な風景画描きたいと思うだろう。だが世の中のガイドブックは案外あてにならない。何故なら絵を描く人を対象に書かれていないからだ。そこで言わば「後悔しないスケッチ」のための「お薦めの旅先リスト」をまとめることにする。

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京都の秋…大原を描く

京都を描くなら…

 風景画が好きな人にとって、京都は最も描きがいのある町だろう。世界遺産の寺院がいくつもある上、交通の便が良い。新幹線はもちろんのこと、市内は地下鉄、阪急、京阪、JR、その他私鉄が通っており、どこの寺院でもアクセスは比較的容易だからだ。

 だから京都をスケッチし始めると、三十三間堂、清水寺、知恩院、南禅寺など市内の寺だけですぐにスケッチブックはいっぱいになるに違いない。

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建物のある風景を描く 平野神社

建物のある風景を描くのが好きだという人はそれなりに多い。私もその一人である。だが実は同じ建物でも「神社」のある風景は絵になりにくい。何故か?今回は神社の基本解説とその一例、平野神社のスケッチを紹介する。

目次
1.神社が絵になりにくい訳
2.神社の様式の基本
3.平野神社の特徴
4.平野神社をスケッチしてみた!


神社が絵になりにくい訳

 冒頭の私の質問がピンときた人は相当建築に詳しい人だ。答えは「本殿がスケッチできない」からだ。

 神社はとても神聖な建物で神の宿る本殿は普通の人は入ることはもちろん見ることも難しい。

 一番格式の高い伊勢神宮では本殿は遥か彼方にあり、皇室の血縁者だけが側で参拝できる。一般の人は近寄ることも、建物を見ることさえもできない。伊勢神宮のシンボル写真がはるか手前の五十鈴川に架かる橋の鳥居なのもそれが理由だ。

 伊勢神宮のように大きくなくても、大抵の神社は本殿と拝殿がセットになっていて私たちが目にするのはその拝殿であり、神社建築独特の屋根とその上にある鰹木や千木も拝殿に隠れて見えない事が多い。

 「風景画」を「人の生活を表現したもの」と定義するなら神社は最も縁遠い風景なのだ。

神社の様式の基本

 だが神社建築は日本独自の文化的な遺産であることに違いない。日本人の絵描きとしては神社を描きたいと思うのも本音である。そういう人のために、神社建築の基本だけ説明しておこう。

 日本の神社には二つの形式的な系統があった。言うまでもなく伊勢神宮と出雲大社である。両者の決定的な違いは前者は平入、後者は妻入りである事だ。共通要素は両社とも直線的な切妻屋根を持つことだ。

 伊勢神宮の建物を「唯一神明造り」、出雲大社を「大社造り」という。だが実は私たちの周りに、この両者に代表される形式の神社建築はあまり多くない。

 その理由は二大神社である社をそのまま真似するのが畏れ多いこと、構造的に進化してゆくこと、優美な日本文化と融合したことなどが挙げられる。

 出雲大社の妻入り形式を受け継いだのが「春日造り」、伊勢神宮の平入の形式を受け継いだのが「流れ造り」である。

 後代の春日造り、流れ作りと古来の大社造り、唯一神明造りとの違いは、入り口に庇のような小屋根がついたことと、屋根が曲線になりイメージが優美になったことである。さらに建物のパーツも朱塗りで華やかになった。

 私たちが普段目にする神社の大半は平入屋根の入り口部分が長く伸びて庇状になった流れ造りだと思う。散歩がてら近所の神社をもう一度見て欲しい。

平野神社の特徴

平野神社はもう一方の発展した形式、「春日造り」である。妻入りの建物の正面に庇がついている。切妻の屋根の一方をそのまま伸ばして庇とする流れ造りよりも建築的には複雑だ。

この様式の代表例は言うまでもなく奈良の春日大社。配置図を見ると、本殿は春日造りの建物が独立して4棟並んでいる。

 だが例に漏れず、この本殿は写真撮影禁止だ。通常は手前の中門から参拝し、本殿は見ることはできない。

 それに対して平野神社は本殿の全貌を間近に見ることはできないものの、拝殿の後ろに、切妻の本殿が4棟並ぶ姿を誰でも見る事ができる。素晴らしいことだ。

 せっかくの日本建築の遺産、どんなに高貴な建築でも「見せないことが」良いことだとは私は思えない。いつかどんな神社の本殿でも誰もが見られるようになってほしいと思う。

 さらに調べてみると、同じ春日造りでもこの平野神社の本殿は2棟づつ連結した建物が並んだ「比翼春日造」別名「平野造り」と呼ばれる貴重な建物らしい。

スケッチしてみた!

 つまり平野神社は学術的に貴重な建築様式であり、かつ本殿が誰でもスケッチできるという珍しい神社なのだ。冒頭のスケッチをご覧いただきたい。神聖な森を背景に4つの本殿の屋根がリズムカルに並ぶ様は神々しく、かつとても美しい。すぐにスケッチブックを広げたことは言うまでもない。

 ちなみにこの絵のままの姿を普通に写真に撮ることはできない。何故なら通常は下の写真のように、手前の拝殿の柱や軒が邪魔して視界は遮られてしまうからだ。

その点、スケッチなら風景画にとって不要なものは自由にカットできる。これもまた絵描きの特権である。

P.S.
今回の記事に関連する記事を以下に記す。興味ある方は参考にしてほしい。
■カテゴリ「ためになる美術講座→
■私の作品実例は「加藤美稲水彩画作品集→
■「神代の風景か? 出雲大社を描く→
■「ちょっと風変わり?伊勢神宮お膝元の町並みデザイン!→
■「ここを描きたい日本の風景!→

水彩で描く桜の風景 世界遺産姫路城!

姫路城 春爛漫

日本の風景を描くなら…

 私が描く日本の風景は古い町並みが多い。その理由はトップページで触れた通りだ。そして「町並み」は一般に建物単体で見るとそれほどの文化的価値はない。

 住民の努力によって町ぐるみで保存活動をしないと、すぐに町並みは歯抜け状態となる。このブログでも、いくつかの町並みで残念なコメントをせざるを得なかった。

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近代建築をまとめてスケッチ! 京都三条通り

 大抵の人は京都で風景画を描こうとすると、東山の寺院群を目指す。もちろん世界遺産でもあり、スケッチするのに不足はない。

 だが問題はあの人出だ。

 清水寺や産寧坂(三年坂)や祇園の町並みは常に観光客の群衆がひしめいている。とてもスケッチブックを広げられる状態ではない。

 今回は京都の人混みにうんざりしている人のために、それなりに、じっくりと「風景画」が描けるとっておきの場所を教えよう。

 それは京都3条通りの「近代建築群」だ。以下にその概要を記す。スケッチの参考にして欲しい。

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明石城の桜を描く

今年はどこの桜を描こうか?

 私は神戸に住んでいる。毎年桜の季節は満開の日を心待ちにしつつスケッチブックをもって出かける。今年はどこをスケッチするか、探すのも楽しみの一つだ。

 このブログ「水彩で描く桜の風景 世界遺産姫路城!→」で記事にしたように、神戸界隈で一番の名所はこの姫路城だが、欠点は人が多すぎること。特に近年はインバウンドの観光客が多く、賑わいは半端ではない。

 もちろん花見を楽しむには、多少の賑やかさはあっても良いとは思うのだが、スケッチブックをもって一人絵を描く者いとっては、すぐ横で宴会をやられるのはどうも苦手だ。

 そこで人の少ない桜の隠れた名所を探し回ることになる。だが桜だけを見るなら、実は近くの公園にも相当立派な桜がある。でもスケッチするとなると、絵の構図上何かインパクトのあるものが欲しい。

明石城でスケッチするならここ!

 それらすべてを満足するのが今回おすすめする「明石城」だ。「姫路城」と同じく「城」と「桜」をテーマにする「日本の風景」が描ける。このブログ「美緑空間」の活動方針ともぴったりだ(「絵を描くことであなたの人生は充実する!→」を参照)
 世界遺産ではないけれど、城壁の隅に建つ櫓(やぐら)は国の重要文化財である。文化的な価値も十分であると付け加えておこう。

交通の便もよい。JR明石駅から門まではほんの数分。櫓は駅のホームからも見ることができる。

写真は櫓下の通路から見上げたところ。桜以外の木が混ざっているので「桜に埋め尽くされた」という雰囲気が出ていないのは残念だが、「日本の風景」としては文句ないだろう。私は周りの宴会客を無視してここでスケッチをしている。

そしてもう一枚はお濠際に1本だけ咲く桜だ。桜の木が密集し花びらだけが視界を覆うさまは誰もがたたえる美しさだ。

だが歴史を刻んだ灰色の石垣を背景に見事な枝ぶりに合わせて満開の花を咲かせる一本桜もまた美しい。私は迷わずここでスケッチブックを広げている。

「そうはいっても桜が少ないのでは?」という人へ

家族と一緒に訪れた時は「絵」よりも「花見」が大切だろう。まったく心配ない。実はこの明石城、江戸時代初期、関ヶ原で生き残った西国の大名達の監視のために作られた軍事拠点であったため、城の区画は広大で、明治以降施設が解体された今も「明石公園」として面積は55haもある。

区画の奥に「剛の池」があり、その周囲は全て桜である。満開時は先の「視界が花びらだけで覆われる空間」を存分に堪能できるはずだ。その写真はあえて載せていない。スケッチブックをもって家族と一緒に出掛けてみてはいかがだろうか?

P.S.
水彩画で風景画を描いてみたいという人へ。このブログでは以下の関連記事を書いている。興味ある方は参考にしてほしい。

スケッチ旅についての便利な情報は
■「ここが描きたい日本の風景!→
スケッチ旅行に必要な道具とは

絵の基礎知識については
■「鉛筆デッサンが教えてくれるもの
水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!
透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?→

風景画の描き方については
建物のある風景の描き方→
鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方

二つの伊勢街道を結ぶ町! 宇陀千軒の風景をスケッチ

 次の個展に備えて、出品予定作品をチェックした・・・。いかん、作品が足りない・・・これでは壁面が埋まらない!。
 慌ててスケッチの予定を追加する・・・毎度のことだ。自由なアーティストを気取ると、ついつい予定が伸びてしまう。大いに反省している。
 でもすでに海外のスケッチ旅は計画が終って航空チケット代は払ってしまった。予算的には近場でのスケッチしか許されない。

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二つのスケッチが語る山辺の道の風景とは?

 私がまだ社会人になりたての頃、奈良「山辺の道」をスケッチしたことがある。季節は5月、ゴールデンウィークだ。生憎の雨だったが新緑が鮮やかだったことを覚えている。
 何時間も畦道やら山道を歩くのだが、とある寺の裏庭に小さな小屋が立っている。覗くと中に地蔵が並んで立っていた。古ぼけた小屋に守られているせいか、地蔵さんの赤い涎掛けが鮮やかだった。
 長閑で微笑ましい地蔵さんの姿が私の記憶に刻まれた。

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