1.絵画上達法

水彩画にふさわしいグリザイユ画法とは?

グリザイユ画法で描かれた油絵 「横たわるオダリスク」

 皆さんは「グリザイユ画法」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

 水彩画教室、特に初心者用の教室ではあまり教えてくれない。だがこのブログでは頻繁に登場する、水彩画を描くにあたってとても有用な技法なのだ。
 今回はこの「グリザイユ画法」についてまとめてみる。

目次

1.グリザイユ画法とは?

2.油絵におけるグリザイユ画法

3.水彩画におけるグリザイユ画法

 3.1シンプルな水彩グリザイユ画法

 3.2下塗りの効果を活かしたグリザイユ画法 

4.水彩画グリザイユ画法の注意点

 4.1不透明色を塗ってはいけない!

 4.2色を重ねすぎてはいけない?

5.まとめ

■グリザイユ画法とは?

 グリザイユ画法とは一言で言えば、先にグレーの諧調で明暗を表現し、その上にモチーフの固有色を重ねて、明暗と材質感両方を表現する方法である。ただしこの画法を使いこなすにはある程度の知識とコツが必要だ。以下に具体的に述べよう。

■油絵におけるグリザイユ画法

 皆さんが子供の頃使用していた、いわゆるマット水彩(学童用水彩絵具)を使っていた頃のことを思い出してほしい。
 下の色に新しい色を重ねると、下の色は消えてしまう。これを不透明絵具と言う。
 実は古くからあるヨーロッパのテンペラ画も、フレスコ画もガッシュも日本画もこの不透明絵具で描かれた絵画である。

 不透明絵具で描かれた絵の出来は最終的に一番上に塗る色の巧みさに左右されると言っていい。だがその常識を覆し、絵具に「透明」な世界を持ち込んだのが「油絵」である。

 不透明絵具は基本的に顔料を高密度で塗るもの。だから一番上の顔料の色だけが反射して私たちの目に入る。(透明絵具の歴史と科学については「絵具の知識 透明水彩は何故美しい?→」を参照のこと)。

 一方油絵では顔料を油に溶かすことにより、顔料自身の透過光と反射光、油層の透過光、反射光が混ざり合って目に入る。
 つまり下の色の上に新しい色を重ねても下の色が透けて見えるようになったのだ。これを「透明絵具」という。

 グリザイユ画法とはこの油絵の透明な性質を利用した技法である。具体的に説明しよう。
 まず先に白と黒の絵具を混ぜグレーの絵具を作る。正当な技法ではグレーの階調を3種類→5種類と徐々に増やしてゆき、まずモノクロの絵を完全に仕上げる。

 そして絵具が完全に乾いてから上にモチーフの固有色を透明な油絵具で薄く塗ってゆく。何層にも薄い絵具層を重ねることにより、画面に複雑な表情を生み出すことができるのだ。
 冒頭に掲げた私の好きなアングルの「横たわるオダリスク」はその代表例として伝えられている。

■水彩画におけるグリザイユ画法

 私は若い頃ずいぶんこのグリザイユ画法を使って油絵を描いていた。その作品は今や所在不明でお見せすることは出来ないが、この画法が私に一番合っているとそのころから思っていた。

 だから水彩画を描き始めた時も、初心者用水彩画教本にある「薄い色から」あるいは「遠くの色から」塗るという描き方ではなく、グリザイユ画法を使ってで水彩を描いてみようと思ったのだ。

■シンプルな水彩グリザイユ画法

 最初に考えたのは、油絵のグリザイユ画法をそのまま使うことだ。
 つまり水彩紙にいきなり白と黒を混合したグレーを塗っていくやり方だ。

 だが実は水彩の場合はこの方法はよろしくない。なぜかというと、油絵の場合は油と絵具の層を何層でも重ねられるので、いったん暗くなった部分も上に白を塗れば改めて反射面ができる。

 ところが水彩画のグリザイユ画法では明るい部分はあくまで水彩紙の「白」い面で反射した光が明るい面になる。
 いきなりグレー系の色を塗ると、その下の白い反射面を消してしまうことになるのだ。

 だから透明水彩の場合は、白と黒の顔料量を調節したグレーではなく、水分の多少つまり顔料の濃度を調整して明暗を出すのが良いようだ。

 この方法を使うと明るい部分は顔料密度が薄いため、下地の白が反射され、水彩画らしい瑞々しさを保つことができる。さらに特定の色相の濃淡でグリザイユを施すと、上に色を重ねた時、混色による色よりも色相の範囲が広がり、表現がより豊かになるというメリットがある。(詳細は「絵具の知識 透明水彩は何故美しい?→」を参照してほしい)

  私の場合はプルシャンブルーでグリザイユの明暗を表現することが多い。またインテリアを描くときにはセピアの濃淡を使用したこともある。

 油絵の作品の色調はグリザイユの上に重ねる透明色の重ね方で決まる。ところが透明水彩の場合は、グリザイユに何色を使うかで絵の色調が決まってしまう。この基本色の選択が作家によってかなり違うのもこの辺りに理由がありそうだ。
 では「水彩シンプルグリザイユ画法」の具体的なプロセスを説明しよう。

 上図はペン描きが終わった状態。モチーフは有名なスペイン、グラナダの「アルハンブラ宮殿」だ。ペンはいつものようにサインペン。水彩紙はラングトンF6号だ。
 なお、今回のメインテーマではないので割愛するが、透視図法を使って簡単に建物を描く方法については「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方→」を参照してほしい。

 ②図はプルシャンブルーの濃淡で画面全体にグリザイユを施した状態だ。山の頂部分が薄いグリーンに見えるのは、山の色を意識してグリーンを塗ったたわけではない。
 山頂を覆う真っ白な雪を強調したかったので、マスキングインクで紙面を保護したからだ。
(詳細は「マスキングインクって何?→」を参照してほしい。)

 上が完成図だ。プルシャンブルー一色で描いた明暗の上に、樹種の違いによる色、建物などの固有色を重ねている。

 特別に「影の色」を混色によって作らなくても、下地のグリザイユによる明暗が固有色と重なって優しく、自然な陰影表現ができることがわかるだろう。

 そして最後にマスキングインクを剥がすと、純白の雪が表現できるというわけだ。

■下塗りの効果を活かしたグリザイユ画法

 先に述べた「シンプルグリザイユ画法」では基本的に「ウェット オン ドライ」という画法、つまり乾いた紙面に筆で濃淡を描いた。だから水彩画独特のにじみやグラデーションを使うことができない。林の緑も筆先のぼかしによるものだ。

 そこで最近の私は上述のシンプルなグリザイユ画法に、水彩画の特質を活かすちょっとした改良を加えている。それはグリザイユを施す前に絵の狙いに合わせた色調のグラデーションを施しておくことだ。

 上の絵はグリザイユに先行して、下塗りとして3つのゾーンにグラデーションを施し、その後にグリザイユを施した段階である。

 具体的にプロセスを説明しよう。

 まず空のゾーン。朝の光に反射する水面と空のグラデーションである。
 使用した色はインディアンイエロー、トランスルーセントオレンジ、コバルトターコイズ、コバルトブルーである。

 次に明るい空と対照的に陰の塊となる右側の建物のゾーン。
 使用した色はウィンザーバイオレットとプルシャンブルー。やはりグラデーションを施して塗っている。

 そして残る地面や明るい建物のゾーン。
 使用色はインディアンイエローとウィンザーレッドである。

 この段階では細かなパーツの色調の差は意識していない。いずれのゾーンも水をたっぷり使い、にじみやぼかしの効果を最大限に利用したウェット オン ウェットで描いている。

 そして完全に下塗りが乾いてから、軒下や植え込みの影をプルシャンブルーとウィンザーバイオレットの混色でグリザイユを施している。

 明暗を表現するのに「シンプルグリザイユ画法」用いたプルシャンブルーを単独で使用せず、バイオレットを混ぜたのは。この絵では「陰」の部分に「青」をあまり感じさせたくなかったからだ。

 バイオレットを加えているので、軒の部分はより無彩色に近い陰になっているのがわかるだろう。
 先のシンプルグリザイユ画法よりも水彩画らしいグリザイユ表現ができていることがお分かりだろう。

 次に、この上に固有色を置いてゆく。民家の外壁にはローシェンナー、植え込み部分にサップグリーンを薄く塗り、全体の調子を確認している。
 重ねた色数はごくわずかであるにもかかわらず、下塗りにグリザイユを施してあるので、色数以上の複雑な表現になっていることがわかるだろう。

 この絵の大半はこの段階で完成しているのだが、建物の表現はもう少し手を入れる必要がある。

 空や海のような自然の造形と違って、建物にはシャープな線がある。その線を境に明暗や色相の違いを描き分ける必要があるのだ。

 そのためには再びウェット オン ドライでエッジを表現し、さらにそれを柔らかくぼかすために、部分的にウェット オン ウェットで描き加える・・・。あるいはドライブラシで濃い色を強調する。これを何度も繰り返すことになる。

 何度も水を引き、ウェット状態を作ると、先に影を入れた濃い色がだんだん薄くなる。そんな時は全体のバランスを見ながら、さらに陰を濃くする。
 こうして完成したのが下の絵である。

■水彩画グリザイユ画法の注意点

 ここまで水彩画におけるグリザイユ画法のプロセスを説明してきたが、油絵にはない注意すべき点がある。

■不透明色を塗ってはいけない!

 グリザイユの下塗りが終了したら、上に塗る色は透明色とすること。せっかく明暗の調子を整えたのに、その上に不透明色を重ねるとその明暗を台無しにしてしまう。

 油絵ならば、部分的にグレーを重ねさらに透明色を重ねるという方法もあるが、透明水彩ではほぼ修正は不可能と考えていい。絵具の選択は慎重にすべきである。

 例えば先の絵で私が建物の基本色として重ねた「ローシェンナー」は透明色であるが、同じ茶色でも「セピア」や「インディアンレッド」は不透明なので、使ってはいけない。

 尤も、下地の色の彩度が強すぎると感じた時は部分的に敢えて不透明色を使うということはある。(水彩絵具の透明度については「水彩画の基本!知っておきたいグリザイユ画法と絵具の透明度→」を参照してほしい)

■色を重ねすぎてはいけない?

 透明水彩の場合は、たとえ透明色であっても、何層も重ねると顔料の密度が濃くなり、紙の白が完全に隠れてしまう。
その瞬間から画面の彩度が極端に落ち、いわゆる「濁った」絵になってしまう。
 言い換えると、「その瞬間」を見極めた時がその絵の完成ともいえる。

■まとめ

 水彩画をある程度学んだ人はぜひこの「グリザイユ画法」にチャレンジしてほしい。
 ただし文中に使用した「ウォッシュ」、「ウェット オン ウェット」など聞き慣れない用語、あるいは透明色、不透明色の科学的な理解など基礎知識を知っておくと、より理解が深まると思う。このブログでは関連する記事をいくつか書いている。
 文中に貼ったリンクはもちろん下記のリンクも是非参照してほしい。

透明水彩の用語と基礎知識→

ペンと水彩による風景画の描き方→

水彩画によるミラノ大聖堂の描き方→

絵具の選び方→

絵具とパレットの使い方については→

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絵具や水彩紙の理論については「絵具の選び方」「絵具の歴史と科学」や「初めに買うべき道具」「水彩紙とは?」の記事を参照してほしい。
 デッサンについてはとりあえず「誰でもできるデッサン練習法」と「顔のデッサン、5つの勘違い!」を読んでほしい。
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「まず顔を小さい方を下にした卵として描く。目は頭のてっぺんと顎下の中央線上にある。目の上の眉を目との関係で決めたら、眉と顎下端の半分の位置が鼻の下である。」

 しかし人物画は難しい。上の理屈を覚えている程度ではうまく描けない。
 風景画なら余程、遠近法の理屈(詳細はこちら→)を無視しない限り、デッサンの狂いを指摘されることも、酷評される事もない。しかし人物画は目、口、鼻、耳の位置と顔の大きさの基本比率を間違えると、モデルに似る似ない以前に、人の顔に見えなくなってしまう。

 しかも、厄介なことに、この「基本比率」はどうやら素人にもわかるらしい。絵を描いたことの無い人にも「おかしい」ことだけは指摘できるのだ。本当に人間の目は不思議だと思う。

 先に書いた「目が頭の半分の位置にある・・・」というルールは正しい。私も長い間これを頼りにデッサンをしていた。だがこのルールはあくまで人間の顔を正面から見た時にのみ通用する。

 だから顔を傾けたりすると途端に適用しにくくなる。例えば斜め上を見た人を考えよう。2つの目は卵形の円形ラインに沿って、並ぶことになるが、もともと人間の顔と卵とは膨らみ方が違うので、もはや目があった水平ラインは何の役にも立たない。

 しかも首の付け根や、あごの形や耳のつき方は卵を想定して基本比率を想定していてはたぶん描けない。だから結局、最後は「モデルをよく見て描きなさい」ということになる。

 モデルが優秀で動かない人ならば「よく見て」描けるが、基本のできていないモデルを描くと悲惨だ。最初に顔を描き、デッサンが全部終わる頃には顔の向きが最初とまるで変っていたりする。基本比率が通用しない角度の位置で描いていると、どこを修正したら良いかわからなくなる。

 だからモデルが多少動いても、正確な顔が描ける方法、手順はないかと探りたくなる。実はそれを教えてくれる本がある。 冒頭に写真を掲げた、A・ルーミス著「やさしい顔と手の描き方」だ。

 出版は1977年と記載されている。随分と昔の本だが、今でもAmazonで在庫を気にすることなく手に入る。余程人気があるのだろう。

 私も読んでみた。図解が必要なので、詳しい解説は避けるが、今まで覚えていた方法と違う点は2つある。一つは顔のデッサンで最初のガイドラインになるのが目ではなく眉だということ。もう一つは頭の外径は卵形ではなく球形の両サイドカット型に顔の平面をくっつけた形だということ。

 著者はこの理論を人間の頭蓋骨から導いたという。この方法の一番良い点は顔の基本比率が正面から見たときだけでなく、立体として詳細に理論を展開できることだ。

 もちろん練習が必要なのだが、彼の理論を突き詰めれば、どんな角度の顔も自由自在に描けるという。私もその理論を現在習得中だ。ただ頭をサイドをカットした球と捉える感覚がまだ身についていない。私の場合、顎下の位置を決めたときに、頭の球体を実際より小さく描きがちで、結果的に眉と目の位置が上がり過ぎ、面長の顔になる傾向にあるようだ。

 この失敗については「顔のデッサン3つの教訓!なぜ似ない?(詳細はこちら→)」で述べている。参考にしてほしい。そんな注意点はあるものの、解剖学を前提にかかれているだけあって、本の内容全般にとても説得力がある。

 もし今から、顔の基本的な比率について知りたい、何か本で勉強したいと思う人がいるなら、是非この「やさしい顔と手の描き方」 を読んで欲しい。きっと役に立つはずだ。

P.S.
今回は顔のデッサンをするときの本について書いたが、人物画の描き方については以下の記事を書いている。参考にしてほしい。
素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とは→
顔のデッサン、5つの勘違い→
顔のデッサン3つの教訓!なぜ似ない?→
私の人物画が売れた訳→
手のデッサンはむつかしい?→
透明水彩で描く人物画 デッサン編→
忘れがちな人物デッサンのコツ→
人物クロッキーの道具と描き方→