絵画上達法

ペンと水彩で描く風景画の魅力とは

 透明水彩の技法はある意味で2種類ある。

下書きの線を生かして水彩するものと、線は下書きにとどめ、色だけで表現するものだ。
 前者はいわゆる「淡彩スケッチ」と呼ばれ、いろいろな教本を見ると、柔らかい(2Bくらい)鉛筆で下書きし、薄めの透明水彩で色つけをするという方法が主流だ。
 後者は透明水彩独特の発色と滲みを生かした表現を多用し、鉛筆の線は最後はほとんど消してしまうことを推奨しているようだ。最近の透明水彩を使う画家の作品もほとんどがこちらの方法だ。

 そして私はと言うと、実は両者のいいとこ取りを狙っている。順を追って説明しよう。当初は前者のやり方、つまり鉛筆で下描きをしてから薄く水彩を重ねる方法を取っていた。
 ところができる作品にどうも存在感が足りない。色なのか、形なのか・・・心に引っかかるものを感じながら、ビジネスマンとしての毎日をずっと送っていた。しかしとある久しぶりの休日、一人で横浜にスケッチに出かけた時、一つの発見をしたのだ。

神奈川県立歴史博物館

 その日は連日の仕事の疲れもあり、どうもスケッチブックに集中できない。描きかけた鉛筆の線も気に入らない。
 その頃は建築の設計をしていたせいで、エスキスの道具、パースの道具として常にサインペンを持ち歩いていた。
 そこで、思い切って鉛筆を捨て、真っ白なスケッチブックにいきなり油性の黒いサインペンで描いてみた。
 すると、多少のデッサンの狂いはともかく、白い紙に走る真っ黒な線が創りだす画面に今まで自分が描いていた絵には無い、強さと美しさを発見したのだ。
 その建物は横浜、馬車道にある「神奈川県立歴史博物館」。ご存知の人も多いだろう。明治時代に建てられた名建築だ。それ以来私が描く風景画、特に建築物がモチーフになっているものは、ペンの線と透明水彩のコラボレーションである。

 鉛筆をペンに替え、水彩で風景画を描く。

京都中央郵便局 作者:加藤美稲

 そう決めて、最初に考えた画法は、ペンの線で描かれたパーツを水彩絵具で薄く塗っていくこと。色は基本的にその素材の色を使う。
 この絵は京都の中央郵便局。サインペンでスケッチした後、薄く透明水彩を施している。スケッチブックの紙は薄く、滲み防止加工がされているわけではない。だから透明色の重ねによる美しい発色と繊細な表現はできない。
 そのため色を限定し、重ね塗りをしないことにした。使用したのはレンガ色のバーミリオン、石色のアイボリー、銅板の青緑、後は三原色の混色による濃い装飾の縁取りをサッと塗っただけ。そして最後に画面の一番バランスが取れる位置に青空を描けば良い。
 下書きをしないので、制作時間は短い。A4サイズだが1時間未満でペン描きは終了したと思う。着色も一塗りしただけなので30分ちょっとしかかかっていない。とても効率よい描き方だ。
 もし鉛筆の下描きに同じような素材の色だけを塗ったとすると、単なる塗り絵になってしまうかもしれない。だがインクの上の透明水彩ならば、線の表現が強い分、素材色を薄く重ねるだけで、絵になるのだ。
 「水彩でイラストを描くにはどうしたらいいですか?」という質問を時々聞く。イラストの定義を「対象を明確に、美しい表現で説明する絵」とすれば、まさにこのペンと水彩を使う描き方はイラスト作品にふさわしい。イラストに興味ある人は試してみたら良いだろう。

 しかしながらこの「淡彩スケッチ」の描き方はあくまでペンが主役。水彩は補助に過ぎない。そのせいだろうか、当初は結構満足していたのだが、暫くすると、どうも油絵を描いていた頃の満足感にはやはり程遠いことに気づく。
 どんなにペンでうまく形を取り、どんなに綺麗な素材色を塗っても、そこにあるのはあくまで平面、光や影といった立体感の表現に乏しいのだ。
 もちろん平面の美しさ、面白さを芸術に高めた浮世絵の例もある。でも、スケッチしたときの現地の感動を伝えようと思うとやはり影や立体感、さらなる存在感が欲しいと思うのだ。

 さて、ここで考えてみてほしい。あなただったらどうする?

 「影の部分に白、グレー、黒を素材色に適当に混ぜて塗ればいい」と思った人は不正解。そのやり方は不透明水彩の場合はある程度当たっているが、透明水彩を使う場合は完全に不正解だ。
 理由は2つある。一つは白、黒、グレーの「不透明の絵具」を使おうとしたからだ。これらの色は塗った瞬間に透明水彩の特色である下の色と重ねて透明感ある色を表現するというメリットを消してしまう。つまり下塗りの色はもちろん、ペンの黒の美しさをも消してしまう可能性がある。
 もう一つの理由は素材色に黒やグレーの「無彩色を混色」しようとしたからだ。これをすると素材色の彩度を極端に落としてしまい、鮮やかな色合いが消えてしまう。つまり黒インクと鮮やかな色の対比の美しさが失われてしまいかねないのだ。

私が考案した方法は油絵でよく使うグリザイユ画法を応用することだ。

 グリザイユ画法とは彩色する前に白と黒の絵具によるグレーの階調で立体感を出しておいて、後から透明色を重ねるやり方だ。
 ただしこの方法はそのまま透明水彩では使えない。何故なら先に述べたように、白、黒、グレーの不透明色は下塗りの効果もペンの美しさも消してしまうからだ。
 そこで私はグレーではなく、ブルー(プルシャンブルー)の濃淡を使って立体感を出すことにした。プルシャンブルーは青色絵具の中でも特に透明度が高いことと、水加減で濃いブルーから極めて薄いブルーまで、グラデーションが自由に表現でき、ペンの黒さを引き立ててくれる。水彩グリザイユ画法には最適の色だと思っている。

美濃の町並み 作者:加藤美稲

 上図の左がペンだけで描いたもの、右がプルシャンブルーで明暗と立体感を表現したもの、下の図がさらにその上に透明水彩で着色したものだ。
 民家の壁や建具の茶褐色にも背後の山の緑にもその下にブルーのグラデーションが施されている。だから画面に統一感が出るとともに、透明色が重なり合う、優しい表現になる。
 いかがだろう。これが私の水彩画の制作基本プロセスだ。以来、この描き方を続けているが、個展に来たお客様からは当然ながらいろいろな評価をいただく。
 大部分は好意的なコメントなのだが、ある時個展に来ていたお客様から面白いコメントを頂いた。

城塞都市トレド 作者:加藤美稲

 彼が見つめていた絵は、スペイン、トレドの町を描いた絵で、ペン描きだけで何時間もかかった労作だ。
 あまり熱心に見つめているので、気になって話を伺うと、彼は何年もペン画を描いているいるという。だから私の風景画の細密な表現が気になり、使っているペンの種類を知りたいのだという。
 もっとも根っからペン好きの彼は、どうやら私がペンの上に色を塗っているのが気に入らないらしい。画廊を出るとき「ペン画に色を塗るのは邪道だよ」と呟くように私に告げて帰っていったのだ。
 「邪道」と呼ばれながらも、ペンと水彩で風景画を描き続けているのだが、

実はこのやり方にもちょっと欠点がある。

 透明水彩の場合、油絵よりもさらに透明度が高い。したがって、下地のブルーのグラデーションの上に明るい色を重ねると、下のブルー色が強すぎて上に重ねた淡い色が綺麗にでないことがあるのだ。
 さらに明暗をペンとブルーのグラデーションで完全に取ってあるので、その上から塗る絵具はその境界を意識せざるを得ない。だからたっぷり水を含ませた水彩絵具が偶然生みだす「滲み」のテクニックが使いづらいのだ。

人は常に進化するもの。さらに新しい手法を。

冒頭に透明水彩の二つの方法のいいとこ取りを目指していると書いた。それが、上記の不満を解消する私の新しい手法だ。
 ペン画による線の美しさを生かしつつ、透明水彩によるグラデーションで立体感を出し、水をたっぷり使ったにじみの面白さで素材感を出すのが狙いだ。
 現在何作かチャレンジ中。ある程度そのプロセスを体系化出来れば、いずれ報告したいと思っている。

P.S.
 トップページにも記載しているが、私の創作と活動方針に共感していただける方に「美緑空間アートギャラリー」のメンバー登録をお願いしている。
 私の活動のうち、今回最後に触れたような作品制作の最新情報、テクニックなどは応募してくれたメンバーに優先的に公開していくつもりだ。
 登録システムはまだ構築中であるが、興味ある方はいずれ、是非、メンバーに加わってほしいと思っている。

手のデッサンは難しい?

■手のデッサンにこだわる訳は?

 初心者が人物画を描き始めて最初に悩みむのが顔のデッサン。そして次が手のデッサンではなかろうか。「顔」についてはhttps://miryoku-yoshine.com/face-drawing/を参照してもらうとして、今回は「手」にこだわってみようと思う。
 というのは、私が学生時代以来久し振りに人物画を描き出して、ブログに投稿し始めたころ、自分では特に気にしていなかったのだが、親切で手厳しい友人から「手が変だね」、「女性の手に見えないね」など手のデッサンに関する私指摘が多かったからだ。さらには、その頃お付き合いのあった芸大の関係者からも「手が描けたら一人前だ」と教授に言われたとかいう話も聞いた。それほど人物画における手の表現は重要だということだ。

■どうしたら手のデッサンは上達するのか?

 徹底的に練習あるのみ・・・!では、いささか不親切だろう。私自身の経験から学んだ上達のポイントをまとめてみた。参考にしてもらえれば光栄だ。
 まず最初に指摘しておきたい。手のデッサンが難しいからと言って、いきなり自分の手を見てデッサンし始めた人は、ちょっと勘違いしている。
 初心者の絵で「手がおかしい」という時、その理由は女性らしい、優しいふくよかな手になっていないという意味よりも、もっと根本的なところ、画面の中に収まる手の大きさがおかしいということなのだ。
 だから自分の手だけを見つめ、一生懸命デッサンしても、いつまでたってもいい絵にはならないだろう。

■手の大きさが変になるのには主として2つの理由がある。

 一つは手を描くときにも建物を見るような遠近法の意識が必要だということ。具体的に説明しよう。
 まず基本の条件を設定する。モデルさんのポーズは椅子に座り、両手を膝の上に置いているとしよう。よくあるポーズだ。
 そしてあなたはモデルさんの正面に座ってイーゼルを立て、6号のスケッチブックにデッサンをしている。(この時描くのにややこしいからといって、手を入れない構図にしてはいけない。6号の大きさで手を入れない構図はとても不自然だ。)
 仮に頭から膝下くらいまでを画面に納めたとしよう。手の位置はあなたの目から見て顔よりも手前にある。
 さてここで皆さんに質問だ。顔と手の大きさの通常の比率をご存知だろうか?正解は顎下から額の髪の生え際と手首から中指の先端までの寸法は同じ、つまり1:1の比率で、本来、顔と手は同じ大きさなのだ。
 ところが今あなたが描いている手が膝の上にあるということは、あなたの目から見て顔よりも手が前にある。だから顔よりも大きく描かなければいけない。しかしどうも人間の意識は通常(顔と手の比率が1:1)より大きく描くことに抵抗があるらしい。意識しないとつい、手を小さく描いてしまうのだ。
 もう一つの原因は手のひらの角度を意識できていないこと。あなたがモデルさんを正面から見ているとすると、横にした手のひらを正面側から見ることになるので、手の奥行きは実際より小さく見える。一方先に述べたように手の幅方向は遠近法により通常より大きく見えるはずだ。すると私がよくやるミスなのだが、本来より幅広くしなければいけない手のひらを短くなった手の長さに合わせて狭くしてしまうのだ。
 だから結果的にとても手の小さい人物画が出来てしまうのだ。

■魅力的な手のデッサンはどうやって描く?

 さてここでクイズだ。上の肖像画にある手は誰のものだろうか?簡単すぎて「常識だ!」と叱られるかもしれない。
 そう左側は有名なレオナルド・ダ・ビンチのモナ・リザ。右側は私が思春期の頃、美術の教科書で見てあこがれ、今日人物画を描くきっかけとなったルノワールのイレーヌ嬢の肖像だ。
 私の経験に基づいて言えば、初心者がこだわるのはモナリザやイレーヌのような手全体はもちろんその指の形や表情だろう。
 だからつい細かな手と指のラインをみてしまう。だがそれだけに執着しすぎると、指の曲線だけを追いかけることになる。だから相当に人物画が描ける人でも手に限って言えば、アニメのキャラクターの手のようになってしまうのだ。そういう目で自分の絵をもう一度見直してほしい。
 絵画としての「手」に必要なことは手のひらの物理的な厚みを実直に表現することなのだ。簡単に言えば、箱状の手のひらに棒状の指が付いているという無骨なモデルを意識することが一番大切なのだと思う。

■指のディテールを極めるには?

 やっと魅力的な女性の手の表現するところまで話が進んだ。ただこの段階の話は世の中にいくらでも参考になる本がある。詳細はそちらに譲るとして、このブログでは女性の手と指を描く大原則だけ述べておこう。
 まず指の長さについて。私自身の手を測ってみると、掌の長さは10cmあるのに対して中指は7.5cmしかない。2.5cmも短く、指は掌の3/4しかないことになる(もちろん私は通常の男性よりも少々手のひらが広く、指が短いのだろうが)。
 それに対して一般的な女性の指は掌と中指の長さはほぼ同じだと言われている。この比率を守ることが女性らしい手を描く大原則だ(もちろん手の角度による見え方を考慮して)。
 もう一点は手の甲に並ぶ指の第一関節から第二関節までの寸法と第二関節から第三関節を含む指の先端までの寸法がほぼ同じという原則だ。
 個人的には人差し指から小指までの各第二関節が並ぶラインを手全体の中でバランスよく、正確に描けるかが手のデッサンのポイントだと思っている。
 

P.S.
 私のアドバイスは以上だが、実は今回のようなテーマについては、本当はもっと実際のデッサンを元に説明できればよかった思っている。
 そしてこのブログのトップページで「美緑空間アートギャラリー」への参加をお願いしているが、このサークル活動が有効に利用できるのではないかと考えている。
 例えばあなたがもし自分の描いた「手のデッサン」についての評価を聞きたいと思うのであれば、このサークルに参加して、私のコメントを求めてもいい。 
 あるいはさらに他のメンバーに実例として作品を提供していただけるのであれば、作品は匿名にするとしても、メンバー全体の絵画技術向上に役立つコメントを私から発信できる。
 この私の考えに賛同していただける人は、是非「美緑空間アートギャラリー」に参加してほしいと思う。
※登録システムは現在工事中だ。しばらく待ってほしい。

意外に知らない水彩画上達法とは

 水彩画は子供の頃から親しんだ画材。だから誰でも気軽に始められる。だが誰もがぶつかる壁がある。それは慣れて、筆の使い方も色の混ぜ方、水の含ませ方も一通り覚えた頃に訪れる。

「どこかプロの画家との違いがある。何故だろう?」

 でも子供じゃあるまいし、そう簡単に上達するはずがない。やはりわたしには才能がないのか・・・と諦めてはいけない。やる気があれば絵は必ず上達する。 
 いつまでたってもあるラインを超えられない人には理由がある。それは自分の絵を客観的に見られないからだ。どこが素人くさいのか分析していないからだ。まずは自分と同じテーマで描いた、いい絵をじっくり見てみよう。
 どこで?美術館?有名画家の画集??そんなに都合よく参考になる絵が見つかるはずないじゃないと言うかもしれない。

 心配することはない。いい方法がある。まず入場料は無料。現代芸術作品の世界中の傾向がわかる。その絵が評価されているかどうかは「いいね」の数でわかる。
 もうお判りだろう。インスタグラムだ。(フェイスブックでもわかるが、自分の求める作品だけをハッシュタグ、例えば#人物画 #風景画などと検索すれば、いくらでも参考の絵が出てくる)
 その中で、自分の個性と客観的な人気を合わせ目指す方向を決める。参考になりそうな絵は片っ端から保存しよう。そしてじっくり自分の絵とのギャップを考えてみよう。

デッサン力を別にすれば、通常、素人っぽい絵になる原因は主に二つある。

 ケース1は各部の彩度が鮮やかすぎて画面に統一感がなくなる場合。ケース2は逆に統一感はあるが怖がって全体的に色が薄すすぎる場合のどちらかだろう。
 さて改めて、インスタグラムで自分が選んだ絵と自分の絵を比べてみよう。さてあなたはどちらだろうか?

 もしケース1の統一感がないことが原因であると判ったら、最初の下塗りとその上に乗せる色の濃さを加減する必要がある。
 インスタグラムには動画で塗りのプロセスを公開している作品もある。具体的な例をチェック、比較してみると良い。

 そして実は、私の場合はケース2だった。特に最初の頃は、ブログでの公開を前提に考えていたので、多少色の薄い絵でも、スキャンして、しきい値を調整し、アップするとそれなりに味が出てしまうのだ。しかし個展で額に入れて実物を飾ると、絵の弱さは一目瞭然となる。
 さてどうするか。もちろん欠点に気がついた時点で、次からの作品で注意することは当然なのだが、それよりももっと効果的な方法がある。
 それは教科書的には多分タブーとされていた方法だ。昔描いた絵に新たに筆を入れることだ。
 それが何故タブーとされていたかというと、スケッチや水彩画は「一瞬の感動の表現」であり、後から筆を入れ描き直すなどとんでもないということらしい。 
 しかし私は自分の作品の問題点が明確にわかっていて、それをほっておくことがいいことだとは思わない。一作ごとに進化するであろう、自分のテクニックで加筆し、絵が良くなるならその方がいいと思っている。

 参考に私の絵の例をお見せしよう。冒頭の右の絵が最初に描いてから数年後に再度筆を入れた絵、左が当初ブログにアップした絵だ。全体的に彩度をあげ、明度差を大きくし、背景の山の表現には水をたっぷり使って、水彩独特の滲みの表現を強調したものだ。
 いかがだろう。水彩画に後から手を加えることは悪いことだろうか。客観的に以前の失敗が頭に入っていれば、新しいチャレンジを重ねることでその効果は具体的に自分のものになる。あなたは確実に上達できるはずだ。

P.S.
ケース2で私と同じテクニックを使うためにはある程度、水彩紙が丈夫であることが前提だ。そのためにも初心者であっても普段から300g/㎡の上等な紙を使うことをお薦めする。

P.P.S.
ケース1の彩度が高すぎる場合は、ケース2のように別な色を重ねても(透明水彩では)思うような色にはならない。むしろ同じ構図を模写して新しいテクニックを試した方がいいだろう。

顔のデッサン練習中!?。知っておきたい5つの勘違い。

勘違いその1 アイドルのデッサンが得意!?

 よく人物画を描く。私の場合は女性像ばかり。うまくいかないときもある。そんなときにこの便利な世の中、インターネットを利用しない手はない。ためしに「顔、デッサン」とグーグル検索してみた。

 驚いた。大半がアニメのキャラクターの描き方のサイトだ。時々リアルな顔の描き方をうたったサイトがあると思って覗いてみると、アイドルの写真を下絵に顔のパーツの描き方を細かに教えているものだ。

 たしかに手っ取り早い。インターネットが発達した現在、無料の人物画像をダウンロードすればモデルをやとう必要もないのだから。だがこのやり方で、アイドルの顔を完全にコピーできたとしても絵描きとしての喜びはちょっと少ないだろう。なにしろ最高に出来た作品がカメラマンと同じアウトプットなのだから。

 もちろん、鉛筆の使い方の訓練としてはOK。枚数をこなせば上達も早い。でもここでは敢えて、対象とするその人物像の生きた表情を描くことにこだわりたいと思う。もちろんアイドルがモデルになってくれたら最高だが・・・。

勘違いその2 デッサンは似顔絵じゃない

 私は女性像を描くために、近くの人物画教室に行っている。一人でモデルを雇う必要も無く安価だからだ。その教室に最近来たばかりの初心者と思われる人が、講師の先生に聞いている。
「全然モデルさんに似ないんです・・・」。
さすがに講師は心得たもの。
「ここは似顔絵教室ではありません。似てないことを気にする必要はありません・・・」。

 この講師の言葉には2つの意味がある。ひとつは初心者に対するファーストステップとして似せるよりも「顔」の基本比率を守りなさいと言うこと。例えば顔を正面から見たとき1/2の位置の高さに眼がある。眉から鼻下までの距離と鼻下からあごの先端までの距離は同じ。眉、目、鼻、唇は顔の鼻筋を通るラインに対して左右対称であるとか・・・。

 もうひとつのポイントは人の個性と表情を描くことはとてもむつかしい。今日、明日ですぐにマスターできるものではなく、練習が必要ということだ。

 念のため断っておくと、大前提として「似顔絵」は人の顔の特徴を誇張して個人を特定することを目的としたもの。だから極端な話、前述の一つ目のポイントである「顔の基本比率」を無視することもある。新聞の政治欄にある風刺画が典型的な使用例であるが、ここでは扱わないことにする。

勘違いその3 目と眉と鼻の関係をよく見て・・・も描けない!

 私がプラハにスケッチ旅行に行ったときのことだ。かの有名なカレル橋で、とある画家が美しい婦人を描いていた。それもいわゆる特徴を誇張した似顔絵ではなく、ちゃんとした肖像画だ。

 使っているのはたぶんガッシュ(不透明水彩)。私が使っている透明水彩のにじみやぼかしというテクニックは使えないが乾燥が速く、橋の上での肖像画制作にはうってつけだ。

  どんな風に描くのか画家の背後で見ていた。恐ろしいスピードで、筆を動かしている。まったく動きに躊躇が無いのだ。
 そんな動きの中で唯一、筆が止まる瞬間があった。それが両目と鼻、眉を描いている時だ。つまり個性を描くレベルではその部分に一番注意を払うと言うことだろう。そして、しかもすばらしい肖像画が出来上がった。時間にして20分ほどだろうか。

 帰ってきてから、私もかの画家のやり方をまねてみる・・・。なるほど、似せるという目的からは目、眉、鼻の関係に集中することが大事だということがわかる。
 でも残念ながら絵全体としてはうまくいかない。なぜならその3点の関係は正確でも、そこだけを見ているとどうしても遠いところにあるパーツつまり顔全体、画紙全体の中で決めた構図内での位置関係がどうしても狂って来るからだ。

 つまりこのやり方は画面の正確な構図が要求される作品には向かない。今思えば、かの画家は画面の中央に眉、眼、鼻の3点セットを描き、それに合わせてあごや髪のラインを最後に調整していたようだった。
 20分という短時間の中で顔だけを描くきわめて特異な手法だったのだ。

 という訳で、橋の上で短時間で美人を仕上げる必要ない私たちは、やはり構図を決め、全体の位置関係を決め、正確なプロポーションを追う地道な練習が必要なのだ。

勘違いその4 決められた比率にこだわるな

 私が顔のパーツの基本比率を知ったばかりの頃。顔の大きさを決めるとすぐにその割付位置に目、鼻、口を置くようにしていた。そうすると、極端な話、モデルを見なくても人物画として違和感が無い、安心して見られる絵となるからだ。

 だがその人らしい個性が出るかと言うとそれだけではだめなのだ。理由は2つある。
 ひとつ目の理由は、パーツの比率には個性があるからだ。眉から鼻下、鼻下からあごの下までの長さは同じと書いたが、当然だが人によってその比率は微妙に違う。一般的に言うと、女性のほうが鼻下からあご下の寸法比率が小さい。だから女性の唇もあごも男性に比べ小ぶりで、女らしい顔になる。
 二つ目の理由は、ここでいう比率とはあくまで正面から見たときの比率であって実際に見える比率とは違うからだ。だから本当は正面から見た似顔絵以外には使えない。
 私たちが描くときは近い部分は大きく、遠い部分は小さく見える。顔にも遠近法を適用しないといけないのだ。
 例えばあなたは立ったままで、座っているモデルさんを描くとしよう。この時あなたはモデルさんを上から見下ろすことになる。すると正確に言えばモデルさんの眉から鼻下の距離は鼻下からあご下までの距離より、あなたの目に近い分、大きく見えるのだ。これを紙の上で同じ比率に描いてしまうと、相対的にあごや唇が実際よりも大きくなることになり、可愛らしい女性にはならないのだ。

勘違いその5 表情にこだわるな

 モデルさんのその瞬間の魅力をストレートに伝えるには、顔のパーツの形を正確に描く必要がある。目の開き具合、黒目の大きさ、瞳孔の開き具合・・・。
 口元の向きで笑顔にもなるし、不機嫌な表情にもなる。小鼻の影、まつげの形も気なるだろう。場合によっては化粧の紅も気になってくる。
 するとついついその魅力的な部分だけを見て影を付け始める。その結果、本来全体として明るいはずの面に暗い塊が現れる。本来暗いはずの面に明るい塊が現れる。人間の目と脳は正確だ。不自然な鉛筆の濃淡は顔の陰ではなく、腫れや出来物のように見えてしまう。こうなると、その修正に膨大な時間がかってしまう。ちょっと逆説的だが、個性を魅力的に表現しようと思えば、まず顔の大きな、自然な明暗を捉え、その明暗の中に個性のパーツがあると考えたほうがいいのだ。是非お試しを。

水彩画の道具 マスキングインクって何?

水彩画を習い始めたあなたに。

濃い背景に白色を塗りたい時、あなたならどうする?
もちろん不透明の白色絵具を塗れば簡単だ。だが透明水彩の魅力は後ろの色が透けて重なる美しさを追求することにある。
不透明な白絵具を塗るのは本来邪道。紙の白を残して塗るのが基本だ。

だから空に浮かぶ白い雲を描きたければ雲は紙の白を残して空だけを青に塗ればいい。
問題は次のパターンだ。空を飛ぶ一羽の白いかもめを描きたかったらどうするか?

この場合はかもめの白を塗り残さなければならない。しかし細いアウトラインのかもめをシャープに空色で塗り残すには、紙を乾燥させておく必要がある。しかしそうすると必然的に空に筆跡が残りやすくなり、塗りムラが出てしまう。

こんな時に利用するのがマスキングインクだ。

これはゴム状の液体で白く残す(または後から別な色を塗る)部分に先に塗っておくと、乾燥後は後から塗った水彩絵具をはじいてくれる。だからまずカモメの形にマスキングインクを塗り、空の部分にたっぷり水を浸み込ませてからムラのないように青を塗る。この時カモメ部分も一緒に塗ってしまうのがコツだ。

塗り終わった後、カモメ部分のマスキングインクをはがせば、下地の白がマスキングインクを塗った形状通り、シャープに残る。このまま白として残すもよし、もちろん別の色を塗って仕上げることも出来る。

私は草むらに光る茎や花びら、暗い森林の中で明るく反射する木の葉、水面の波頭などに使うことが多い。

このテクニックを使えば初心者も完璧…と言いたいが、意外に製品の選び方と使い方が難しく、私もいままで何度か失敗している。初心者、いや中級者に

マスキングインクを使いこなすコツをお伝えしよう。

先に言っておくと私の目で見て今現在まだ完全に満足した製品はない。いずれも帯に短したすきに長しの状態だ。それでも少なくともしてはいけないことだけはお伝えできると思う。

インクの形式はいくつかある。
まずインクケースの蓋を開け、筆にインクを付けて塗るタイプ。長所は細筆を使えば、細い線、しなやかな線が引けるので、ある程度インクで絵が描ける。欠点はインクケースが密閉されないのですぐに硬くなり、2度目以降は筆を使っても細くはならない。3度目以降は単なるゴム粒を置くという状態で、もはや絵を描く道具とは言えなかった。

次に細い金属性または樹脂製のノズルの先からインクを出し直接塗るもの。長所はインクケースの蓋を開ける必要が無いので、インクの硬化を防ぐことが出来ること。短所はノズルの先端が硬質なので、しなりが無くやわらかい線は引きにくい。また長時間使い続けると、空気に触れる先端がどうしても詰まりやすくなる。無理に押し出すと一気に塊が落ちることもあり、なかなか扱いにくい。

最後にボールペンペンタイプ。0.7mmのごく細タイプが発売されたと聞いて、早速注文した。形状はまさにボールペン。しかし通常に描いただけではインクの出が悪い。ボールペンの本体に圧力をかけると、一気に出て太くなる。もう少し使い込めば思うような線が引ける可能性はある。その時はまた報告したい。

次は塗った後の注意事項。


インクを塗った後すぐに水彩絵具を塗ると、水分に溶けてマスキング部分が流れ出すことがある。絵具を塗るのはマスキングが乾いてからにすること。もっともわざとインクと水を混ぜて使う人もいるようだ。


インクを塗った後すぐに水彩絵具を塗ると、水分に溶けてマスキング部分が流れ出すことがある。絵具を塗るのはマスキングが乾いてからにすること。もっともわざとインクと水を混ぜて使う人もいるようだ。

私が経験した最大の失敗はマスキングして、上に色を塗り、そのまま1ヶ月ほどほっておいたことだ。気がつくとマスキングインクの脂分が黄色く変色し、水彩紙に染み出していた。マスキングをはがしても黄色いしみはどんなに洗っても絶対に取れない。メーカーによっては塗ってから何日以内にはがしてくださいと明記してあるはずだ。早めにはがすほうがいいだろう。

インクをはがすときは、紙が完全に乾いてからはがすこと。早く仕上げようと、紙がまだ水で湿っているときにインクをはがすと、紙の表面がインクの強さに負けて破れてしまう。こうなると処置は難しい。
避けた部分に色が浸み込み破れた形がはっきり見えてしまうのだ。さらにはがれた部分は他と同じ発色にもにじみ具合にもならない。つまり完全に絵描きのテクニックが使えない状態になってしまうのだ。

マスキングインクの材質と紙の材質はメーカーにより千差万別なので、組み合わせによっては、上記のような失敗は最低限で抑えられるかもしれない。だが、せっかくの作品が最後に消えるはずのマスキングインクで台無しになっては泣くになけない。

ご注意を!

「絵画」と「サイズ」のエピソード

 水彩画の魅力を伝える・・・このブログの使命のひとつだ。絵は初心者ですというあなたに今日は「絵のサイズ」と「モチーフ」についてお伝えしよう。
 まずお聞きしたい。

あなたは今何の絵をどんなサイズのスケッチブックに描こうとしているだろうか?

スケッチブックのサイズ
奥からF8、F6、F4、SM(サムホール)、F0

 描くのは風景画で、習いに行っているカルチャーセンターで教えられたサイズを使っている?それはひょっとしてF8サイズ?またはF6サイズ?
 あるいは持ち運びやすいハンドバックにも入るSM(サムホール)サイズ?
漫然と人に勧められたサイズで絵を描いていると、後で後悔することになる。実は絵にはそれぞれのサイズに適する目的と、場所と、対象がある。

例えばまず、明日あなたが朝から日帰りのスケッチ旅に出かけたとしよう。

 当然電車乗って移動する。抱えているのは勧められたF8のスケッチブックが入った画家用の鞄だ。座席も確保し、さて車窓を眺めながらの楽しいスケッチ旅行に思いを馳せる・・・はずが、気がつくと隣の人から非難の目線。
 当然だ。実はF8サイズのスケッチブックは幅が45cmくらいあり収納ケースは50cmくらいになる。電車やバスの座席幅は40cmくらい。つまりそれをひざに載せて座席に座ると、隣席にはみ出すことになる。そう、F8は周りの人にとても迷惑なのだ。ゆえに私はF6のスケッチブックを持っていく。これなら何とか隣の人と仲良くやれるサイズだ。
 そして電車に揺られること2時間。やっと目的地に到着。ここは日本の伝統的な民家が残る町並みだ。いい景色を求めてさっそく歩き回るとしよう。

あった! F6にちょうどいい構図だ。

F6のスケッチブックに描いた町並み

 さっそく描き始める。 ずらりと並ぶ民家。美しい町並みと背景の山並みがきっちりと画面に納まる。 約1時間経過。まだ下書きも終わっていないけどそろそろ昼時だ。人によってはここで中断。昼食後また書き始める。そしてまた約1時間が経過。
 早い人はそろそろ完成だろうが、まだ終わらない人もいる。帰りの電車まであと2時間たらず。さてどうする。F6をもう一枚描ける人はたぶん少ないだろう。でもせっかく一日をつぶしたのに成果が一枚では寂しすぎる。

そこでSM(サムホール)の登場だ。

SMのスケッチブックに描いた町並み

 この大きさは面積にしてF6の約1/4。2時間足らずでも十分描ける。しかも2、3軒の民家なら町並みとして描き込める最小限の大きさなのだ。私がこのSMのスケッチブックを愛用する所以だ。
さて最初のスケッチにたっぷり時間をかけた人には残り時間は1時間しかないはずだ。

ここで登場するのが0号のスケッチブックだ。

F0サイズのスケッチブックに描いた民家

 サイズは葉書よりも一回り大きいだけなので、描くのにさほど時間は要しない。一時間あれば十分だ。ただし、このサイズでは「町並み」は描けない。一軒の民家とその周りの雰囲気だけだ。それでも2枚目が描けるという事実は大切にすべきだ。こんなときのために私はこの0号のサイズも持っていくようにしている。
 その他に旅行携帯用の葉書サイズのスケッチブックもある。紙質はまったく変わらないプロの絵描き用だ。さすがに小さすぎて作品にはなりがたいが、旅先からのプレゼントには最適だろう。
 実は学生のころ、この葉書に旅先で水彩画を描き、その地から投函、当時好意を寄せていた女性に送ったことがある。私の絵の出来が悪かったからなのか、もともとそんな芽が無かったのか、結果的に、葉書サイズスケッチブックに神通力は無かったことを報告しておこう。

さて別な日。あなたは人物画の絵画教室に行ったとしよう。

いつものF6サイズを持っていく。スタイルのよいモデルさんで衣装は半そでのブラウスと短パン。この日は立ちポーズだ。さて構図を考える。

F6サイズ 人物の立ちポーズで全身を入れる

モデルさんのスタイルがいいので全身を入れたい!・・・と思った人。F6サイズは縦が約40cmなので余白を取ると、顔のサイズはご覧のように必然的に4cmくらいになってしまう。人物画は基本的に表情が決めて。この大きさでは残念ながら「いい表情」は描き難い。つまり

全身を描きたいならF8以上を持ってくるべきだった

 カルチャーセンターで教えられる「F8以上がいいね」はまさに、この時のことだったのだ。

F6サイズの場合は上半身だけの構図が良いだろう。

F6サイズ 人物の半身を入れる

 顔の大きさも大きくなり、女性の表情もきちんと表現できる大きさだ。脚は当然画面に入らないが、必ず手は全部納めよう。手の無い上半身は服だけのつまらない肖像画になってしまう。一方で

人物画の練習のために顔だけを描きたいという人もいるだろう。

 こんな人はF4、F3くらいでも、人の表情の魅力を伝えることは十分可能だ。私は時間のないときはF4で顔だけを描くことがままある。顔だけと言うのは中途半端に上半身を入れるより対象が表情にフォーカスされるので絵としてそれなりに描く価値があるのだ。このサイズのときのポイントはやはり目だ。まつげまで描きこめる。こちらもチャレンジしてみてほしい。

F4サイズ 人物の顔をメインに描く

「絵画」と「サイズ」についてだけでも絵描きなりの苦労はあるのだ。

スケッチ旅行に必要な道具とは

旅先で美しい風景をスケッチする。

 最高の時間の過ごし方だ。だが実は持っていく道具を間違えると、せっかくの気分が台無しになることもある。今回は水彩画で風景画を描いて見たいという方のために、私のお薦めの画材をお伝えしよう。

まずはスケッチブックから。

 リング綴じのものとブロックタイプのものがあるが、短時間で何枚も描く屋外スケッチにはリング綴じの方がいい。
 通常、水彩画教室などでは大きいスケッチブックを指導されると思うが、私は初心者には小さめのサムホールや0号をお薦めする。私自身の経験で言えば大切なのは

小さい画面サイズで気楽に何枚も描くことだ。

 結果として練習を重ねることにもなり、上達も早かったと思っている。ただし将来個展を開いてみたいと考えている人はもう少し大きい6号ぐらいのスケッチブックも欲しい。小さい絵ばかりだと展示壁面に緊張感が生まれないからだ。
 私の場合は、6号、サムホール、0号を一式持って行き、現地の風景に合わせて適切なサイズを選択するようにしている。まずはこれと思った風景をたくさん描くことだ。

次に紙の種類。

 是非プロ用の300g/㎡の厚手の水彩紙を選んでほしい。発色、にじみ方、表面の強さ、使ってみればその差は歴然だ。安物のスケッチブックは何度も色を重ねると毛羽立って、筆の線がにじみ過ぎたり、色が黒ずんだりして思うような表現ができなくなってしまう。
 私はラングトーン、ワトソン、モンバルキャンソンなどを使っている。材質がコットンかパルプかその混合かによっても値段が変わるがこのレベルの紙ならば、懐具合に応じて買えばいいと思う。(アルシュシ紙が最高級だが相当高価!)

そして筆だ。

 やはりピンからキリまであるが、サムホール程度の大きさの絵ならば6号コリンスキーまたはセーブル(いずれもその毛が取れる動物の名前)の丸筆がいい。普通の文房具店で売っている化学繊維の筆とは柔らかさ、弾力性、水分の含み具合、毛先の揃い具合など雲泥の差だ。たとえ初心者であっても、「弘法は筆を選ぶ」というプロの格言は正しいのだ。
 また色の濃い部分をエッジをきかせて塗ったり、均質に広い部分を塗るために平筆も必要だ。大きさは4号の小さめと8号の大きめの2種類準備するといいだろう。さらに私の場合は細かい部分を描くための0号、やはりコリンスキーの丸筆も愛用している。

最後に絵の具。

 昔はとにかく携帯に便利ということで、手のひらサイズの12色の固形絵の具と筆セットを持って行ったこともあるが、さすがに色が少なすぎる。赤、青、緑それぞれが原色ばかりなので思うような色を出すには初心者には難しい。
 私のお薦めはウインザーニュートンの20色固形絵の具セット。広めのパレットもいっしょになっているのでとても使いやすい。大抵の画材店に単色のピースが売っているので、好みで色を足したり、なくなった色を補充するのも容易だ。

画材さえ揃えばもう安心・・・というわけではない。

 いかに写生が好きでも現地で長時間立ちっぱなしで描くのは辛い。折り畳み椅子(百円均一の店で売っている)も必携だ。
 夏の陽射しを受けた風景。「ここだ!」と画帳を広げた場所が日陰とは限らない。つばの広い帽子を被っていこう。
 紅葉を描こうと思っても、寒い日は指がかじかんで絵どころではない。私はやはり百円均一の店で買った手袋の指先をハサミでカットしたスケッチ専用手袋を持っていく。

最後に時間の使い方のアドバイス。

 私はスケッチに行くときはいつも時間がもったいないので、昼食はとらない。だから描きながら、ちょっと空腹をしのぐクッキーやチョコを持っていく。
 でも時間の使い方はひとそれぞれ。創作意欲より食欲を満たす方が大切という人もいるに違いない。ストレスをためては何のために来たのかわからない。

大切なのは描き始めること。さあ、出かけよう。

イラストのコツ教えます

 私の作品は水彩画が中心だ。しかし実は

最初の個展の時、ペン描きイラストを展示した。

 その中で意外に人気があったのが、ホテル客室の平面を描いたもの。そのうちの一枚、東京ニューオータニ・インのエグゼクティブシングルルームの平面図だ。我ながら細かいとこまでよく書いたものだ。

 実はこのイラスト、ゼロから私が考えたのではない。妹尾河童が「河童が覗いたヨーロッパ」で旅先のホテルをスケッチしていたのを見て、真似をしてみたのだ。当時は結構出張があったので、題材に不自由することはなかった。
 河童さんは本の中で

「僕はプロだから入口に立っただけで部屋のイラストがすらすらと描けるんだ」

と記していたと思う。
一応一級建築士を持っているそれなりにプロの私が思うには、

「それは嘘だ」

と疑っている。何故なら入口から見た透視図は確かにすぐ描けると思うが、部屋の平面図は縦横の寸法、家具との位置、大きさの関係が正確にわからないと描けないはずなのだ。彼の描いた平面イラストは寸法関係がかなり正確で破綻がない。著作権があるのでここにその絵を載せられないが、興味のある人は是非見てほしい。

 それではどうやってこんなイラストを描くのだろう。

一番確かな方法は、片っ端から物のサイズを測り計算しやすい100分の1スケールでノートに書いていくことだ。シングルなら例えば奥行きは6cm、幅は3cm、ツインなら幅は4cm、奥行き8cmと書いていく。椅子は4mm×4mm、デスクの奥行きは4.5mm、シングルベッドは1cm×2cm、ダブルベッドは⒈4cm×2cmなどなど。
 でも私のイラスト見ていただければわかるだろうが、通常のA4サイズのクロッキー帳では1/100サイズでは小さすぎて細かな情報が書き込めない。そして小さな家具や備品までいちいち測っていては、夜が明けてしまう。
ではどうするか。

 特別に私の方法を教えよう。

 まず部屋の入口から窓まで、部屋の奥行き寸法をスケールで正確にはかる。次の窓のある壁の幅を図る。これで部屋の全体の大きさは決定だ。通常シングルルームなら奥行きは6メートル以内、幅は3メートル以内だろう。私のクロッキー帳はA4サイズなので1/30スケールで描くとちょうどよい。つまり部屋の幅は大体10cm、奥行きは奥行きは20cm以内に収まるはず。まずは部屋の全体の姿をクロッキー帳に書きこんでしまうのだ。めんどくさそうに思えるが1cmが30cmと考えればほぼ想像がつくだろう。 

 大切なことはこれ以上細かな寸法を測らないこと。

 次は描こうとするポイントが全体の何分の一に当たるのかを目分量で決め、割り付けていくのだ。例えばベッド幅は部屋の2/3くらいでデスクの長さはさらにその半分とか。
 もっとも建築家としての訓練を積むとインテリアの常識的な寸法は大体頭に入っている。例えば浴槽の長さは1.5mつまり画帳では5cmになることが直感的にわかってしまうのだ。残念なながらここは素人より私たちプロの方がはるかに早く描ける。そして最後に洗面台等に対して適切な大きさの備品類を描きこめば完成だ。
 今改めてこのイラストをよく見ると、TVに「TVゲームがついていた」なんていうコメントが書き込んである。自分のコメントほどある意味正確な情報は無い。是非私のやり方を試してほしい。

 ものを見るときに自分の感じたものをシンプルに表現する。

 実はこれがイラストのコツなのだと思っている。

鉛筆デッサンが教えてくれるもの

 私は大学に入学すると、すぐ美術部に入り油絵を描き始めた。油絵を描けない奴なんてアーティストではない・・・そんな雰囲気があったからだ。そして水彩画にはないカラフルで重厚な油絵独自の表現に魅了されてしまう。展示会に備えて夜遅くまでキャンバスに向かう毎日だった。
 そしてあっという間に一年がたち、二回生になった。私が入学した工学部建築学科は二回生になると「造形演習」という講義がある。

その最初の講義が石膏デッサンだった。

 既にさんざん油絵を描いていた私は、 油絵の技法への興味はかなりマニアックなレベルに達していて、「バルビゾン派の画家コローの色使いは・・・」などと仲間内で講釈を垂れていた。
 いまさら木炭や鉛筆でのデッサンなんて・・・とあまり乗り気でなかった。でも単位を取るためには仕方がない。黙々と石膏のヴィーナス像に取り組んだ。しかし 実は

石膏デッサンは自分の手でやってみると意外に面白いのだ。

 パン屑で木炭をはたき、こする。あるいは濃い鉛筆と薄い鉛筆を使い分け、明暗を描き込んでいく。黒一色でヴィーナスの表情を描き分けることが可能なのだという、言わば「美術の定理」が徐々に理解できるようになるのだ。
 言ってみれば中学生のころ初めてピタゴラスの定理を理解したような一種の驚きと喜びを感じたのだ。基本的だが奥は深い。そして多分その定理の究極を目指すのが墨絵の世界なのだろうと今は理解している。

 さてその後の私。今は油絵でなくもっぱら水彩画を描いている。水彩画の透明感あふれる美しい表現に魅了されていると言っていいだろう。しかし学生の時のように、鉛筆だけで表現するデッサンを避けているかというとさにあらず。

実は私の水彩画の下絵は鉛筆デッサンそのものなのだ。

 上の鉛筆による女性像は練習としての鉛筆デッサンではない。私の水彩画の通常の制作過程なのだ。少しだけ説明しよう。
 世の多くの「水彩画教本(人物編)」を開くと、鉛筆の線はあくまで縁取りとして、軽くあたりを取るのに使うと書いてある。そして教本の主体は水彩絵具による肌色の出し方と明暗の色変化を教えることだ。
 それに対して、私は対象の立体表現と明暗を鉛筆デッサンの世界で完結させる。そしてその上に肌色、髪の色、服の色等の透明な固有色を重ねていくのだ。完全なフルカラーの作品だが実は下地全面にほとんど鉛筆の線が施されている。とても時間のかかる技法なのだ。

 でも逆に画面全体の落ち着いた色調はこの技法によって創り出されており、それが私の水彩画の特徴でもある。
 思えば、今の私のこの水彩作法は大学時代、鉛筆デッサンの可能性に心惹かれたあの講義がきっかけだったのかもしれない。
 実はあの造形演習の先生(確か新制作協会に所属していた)の一言が今でも印象に残っている。「美術の定理」に納得した私と仕上げたデッサンの出来映えを少しは評価してくれたのだろう。彼は私にこう尋ねた

「君はどこかで絵を習っていたのかね?」私はこう答えた。
「正式に習ったことはありません」すると彼は言った。

「絵に正式という言葉は無いのだ」

 なんてかっこいい!その時の彼の言葉が妙に腑に落ちた。芸大に行っていない私が、今でも堂々と絵を描き続けているのは彼の言葉が精神的な原動力なっているのだと思う。
だからこそ、私はいまでも鉛筆デッサンにこだわるのだ。