効果的な水彩グリザイユ画法の使い方

グリザイユ画法とは

 元来は油絵で使用する古典的な描画技法である。
まず白と黒の絵具を混ぜ、グレーの色調の濃淡だけグリザイユで画面を仕上げる。その後、各部の固有色に合わせ多めの油で溶いた絵具で薄く重ねて塗る。
 この技法を完璧に使用すると色彩に統一感がありながら美しいグラデーションのある画面が出来上がる。アングルの人物画(「裸婦の名画「グランドオダリスク」に会う!→」を参照のこと)がその典型だ。

水彩画におけるグリザイユ画法とは

油絵で写実的な絵を描くにはきわめて有効なグリザイユ画法だが、透明水彩においてはやや事情が異なる。理由は以下の通りだ。

  • 透明水彩では最も明るい白は水彩紙の塗り残し部分であり、本来白絵具の混色は使わない。またブラックの絵具は透明水彩絵具の特質であるみずみずしさを失ってしまう。
  • うすい絵具を重ね塗りをしても、油絵のような「油層」が無いため、複雑な光の透過、反射の効果が得られない。むしろ湿った紙面上での異なる色の滲み具合によって光の反射や透明感を出す方が水彩画独自の効果が得られる。 

 それらの事情を踏まえ、私自身は水彩画用に工夫したグリザイユ技法として白と黒の混色ではなく、プルシャンブルーの濃淡で諧調を表現し、その上にうすく固有色を重ねるという技法を採っていた。
 こうすると、ブラックの混色による濁りを避け、グリザイユ的な雰囲気を出すことができるからだ。
 しかし一方でこの方法は「青みが」が勝ちすぎて、配色によってはグラデーションが美しく見えないという欠点がある。水彩においてはグリザイユ画法は、万能な技法ではなかったのだ。

水彩グリザイユ画法を効果的に使う

 今回制作するのはJR山崎駅の近く、サントリー醸造所のある風景(下写真)である。

 ご覧のように山並みが重なる緑豊かな風景で、水彩画にはもってこいの題材である。
しかし、一方でこれだけ周囲に緑が多いと、似たような色が重なって遠近感が非常に出しにくい。
 一般に遠くの緑は青っぽく描くと距離感が出せる(空気遠近法)。しかし今回に緑は殆どがいわゆる「中景」に該当し、そもそも距離にそれほどの差がない。
 うかつに緑を塗り始めると、メリハリのない平坦な絵になりがちなのである。

 そこで今回は「一面の緑」部分にグリザイユ画法を使うことにした。
つまりまずグレーの諧調だけで緑の明暗を描き分け、立体感を表現する。その後樹種の違い、距離の違いを緑の色相を使い分けることにより表現し、さらに水彩画特有の「ぼかし」で微妙な距離感を表現するのである。

プロセス1:グレーの色調だけで山並みを描く

プロセス1

 一番上の写真を見てほしい。背景となる山並みだけをグレーで描いた段階である。
今回はプルシャンブルーではなくウィンザーニュートンの「ペイニースグレー」を基調のグレーとした。やや青みを帯びたグレーである。

 水彩画のグリザイユにおいては、グレーの濃淡表現は黒と白の絵具を混ぜるのではなく、グレー色を溶かす水分量で調整する。つまり一番濃い部分は生のグレー色であり、黒ではない。そして一番明るい部分は水彩紙の塗り残し部分である。

 以下の二点に注してほしい。

  • 山の中腹右側は樹種が違うためか、かなり明るい黄緑色が強い。絵としても単調さを避けるためにこの部分は強調したい。従って写実的に表現するためにはもっとグレーの色調で明暗を入れるべきであるが、彩度を強調するために、あえて白を強く残している。
  •  建物の屋根は最も明るい部分となるので、マスキングインクで保護している。また建物の外壁等、明らかに緑ではない部分はグリザイユの対象から外している。

プロセス2:山並みの緑を重ねる

プロセス2

 単調にならないように、そして距離感を出すために、すべて同じ緑色を塗らずブロックごとに緑を塗り分けている。

仕上げ

完成

 背景の山並みがほぼ塗り終えたので、建物と近景の樹々を塗る。この段階での注意点に触れておく。

  • 色相のバランスを考えること
    背景が緑系統の色ばかりなので建物は意識して異なる色相とすること。今回は茶系をベースにブルー系の陰をにじませることによって背景の緑から浮かび上がるようにしている。
  • 明暗のバランスを考えること
    今回は殆どが「中景」に属するため、空以外、絵として強調する明るい部分が無い。従って、近景には思い切って濃く、暗い緑を配し、中景との距離感の差を強調している。

以上で「水彩グリザイユによる山並みを描く風景画」完成だ。皆さんも機会があれば試してみてはいかがだろうか。

P.S.
今回は特定の技術を取り上げて記事を書いたので、水彩画初心者にはやや読みにくかったかもしれない。だがこのブログでは下記のような初心者に優しい記事も掲載しているので参考にしてほしい。
今後も初心者向け、中級者向けそれぞれの記事を少しづつ増やしてゆくつもりなので、時々覗いてほしい。

  1. 参考カテゴリ
  2. 水彩画の基礎技術
  3. 風景画の描き方

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