水彩画入門!「ふちどり」はどうするの?

「水彩画を描く時の「ふちどり」はどう描くべきだろうかか?」
 あなたはこんな疑問を持ったことはないだろうか?

 考えてみると鉛筆、クレヨン、筆、ペンなどどんな画材も基本は線だ。モチーフのアウトラインを描くと必ず縁どりができる。

 その線はどうするのか?実に意味深い疑問だと思う。今回はその素朴な疑問について考えようと思う。

目次

  1. ふちどりの定義
  2. ふちどりの機能
    1. 背景とモチーフを描き分ける。
    2. 光による陰影による面の角度の変化を描き分ける
    3. 同じ面で違う色や材質の変化を描き分ける
    4. 作者の意図的な強調表現
    5. それらの複合
  3. 3.水彩画のふちどりの処理方法は?
    1. 絵本の挿絵を描きたいなら
    2. 線のタッチを活かす水彩画を描きたいなら
    3. 淡いグラデーション表現を活かす写実的な水彩画を描きたいなら
    4. 現代的な表現、抽象的表現の水彩画を目指すなら
  4. まとめ

■ふちどりの定義

 まず「ふちどり」の定義を決めておこう。「ふちどり」とは以下の2つの条件を満たす線のことだ。

  • 線の太さ、濃さ、色に存在感があること。
  • モチーフや背景の色とは違う色であること。

つまり細くて、薄くて、何となく引いてある線も、背景の中に紛れていたり、モチーフの中に埋没した線は「ふちどり」とは呼ばないことにする。

■ふちどりの機能

 ではふちどりにはどんな働きをしてくれるのだろうか?私は以下の5つではないかと考えている。

  • 背景とモチーフを描き分ける。
     ふちどりのもっとも基本的な機能である。ラスコー洞窟壁画(上図①)にある動物を描いた線も初めてクレヨンを与えられた小さな子供が描く絵の線も同様の機能だといえる。
  • 物体の面の角度の違いを描き分ける
     写実的な絵画においては光が物体に当たって生ずる陰影の変化を描き分ける線である。光が強く、角度の変化が大きいほど、面が接する稜線は濃く見える。

     逆になだらかな曲面の変化ではふちどりは見えにくい。私は水墨画は描かないけれど、垂直面と水平面の変化を明暗で描き分ける画法であると本で読んだことがある。蕪村の山水画(上図②)にも線と面を墨の濃淡で描き分ける手法が使われている。

     ピカソの抽象的表現(上図③)の人物のふちどりは一見すると、無秩序に引かれているように思えるが、よくみるとこの「面の角度の違い」を強調した作品であることが分かるだろう。
  • 同じ面で違う色や材質の変化を描き分ける
     浮世絵や版画はこの手法を使っているだろうと思っていたが、意外なことにこのパターンはほとんどない。
     色違いはふちどりなしで塗り分けるパターンがほとんどである。
     例外は純粋な装飾である、金属線で顔料の範囲を塗り分ける有線の七宝焼くらいだろうか。やはり「立体のモチーフを描く」という絵画の原則に基づくと、同一平面を仕切るふちどりは邪道なのかもしれない。
  • 作者の意図的な強調表現
     ふちどりそのものに作者の意図を表現する。近代、現代の絵画における抽象表現。上にあげた「自然な」ふちどりの強弱を意図的に変えたもの。
  • それらの複合

■水彩画のふちどりの処理方法は?

 では私たち水彩画家は①から⑤の機能をどのように使い分けたらいいのだろうか?
 私の個人的な意見を以下に記そう。皆さんも考えてほしい。

  1. 絵本の挿絵を描きたいなら
     主人公が童話に登場する動物であったりする場合、ふちどりを強調し、イラスト風に表現する例が多い。モチーフの「わかりやすさ」を重要視するからだろう。
     主人公のキャラクターよりも叙情的なイメージを大切にする場合はふちどりはしないほうがよさそうだ。いわさきちひろ氏の作品がその代表。技術的にはぼかしや滲み、淡い色調が表現の中心となる場合は輪郭線は邪魔になるからだろう。
  2. 線のタッチを活かす水彩画を描きたいなら
     いわゆる淡彩画、淡彩スケッチと呼ばれる絵だ。特に建物のある風景を描く場合は、シャープな明暗の変化が多くなる。
     その線自身が美しい場合は透明水彩を使うと線の存在感と透明水彩の瑞々しい色彩両方のメリットを活かすことができる。
  3. 淡いグラデーション表現を活かす写実的な水彩画を描きたいなら
     明治時代、日本に初めてもたらされた透明水彩の西洋画風の描き方だ。私たちの目に映るままを描こうとすると、本来なら「ふちどり」は存在しない。明暗の変化と色の変化があるだけである。
     だから「ふちどり」つまり輪郭線は塗り分けのための下書きと割り切る。強すぎる線は最後に消す。これが透明水彩の「本来の」描き方と言える。
  4. 現代的な表現、抽象的表現の水彩画を目指すなら。
     私自身抽象画は描かないし、モチーフあるいは画面から具体的な生命感が伝わってこない絵には興味を感じないので、残念ながらコメントできない。

 だが絵画の可能性は無限だと思っているので、一切の制約を離れた「ふちどり」の表現が生まれるかもしれないとは思っている。

■まとめ

 「ふちどり」・・・簡単なようで、実は奥が深い。ふちどりをするかしないか、あるいはどこを何色で強調するか、今回の記事をきっかけに色々な絵を改めて見てもらうといい。

 絵本にも、墨絵にも、日本画にも、淡彩スケッチにも、抽象画にもヒントがある。自分なりの方法を考えてほしい。

P.S.
 私が描く風景画は上記の②ペンで「ふちどり」をするタイプと、③明暗と色の変化を主体とするタイプの両方がある。
 前者の手法については「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」を読んでほしい。今回のテーマの理解に役立つものがあるはずだ。
 後者の手法については効果的な水彩グリザイユ画法の使い方→を読んでほしい。特に光の明暗による形の表現について参考になるだろう。

 一方私の人物画は「ふちどり」をしないタイプである。何故なのかは「素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とは→」を参考にして欲しい。

P.P.S.
上記以外にもこのブログでは関連する記事を書いている。興味のある方は参考にしてほしい。

P.P.P.S.
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