人物画の基礎 クロッキーの道具と描き方

人物クロッキーのすすめ

 巷のカルチャーセンターの初心者教室の受講者作品展を見に行ったことがあるだろうか?

 一番多いのが静物画つぎが風景画だ。「人物画」は上級者コースにならないと描かれないようだ。当然だろう。人物画は静物画や風景画よりもむつかしい。

 何故かというと、風景画、静物画は多少デッサンが狂っても、その風景を見ていない人には、その差がわからない。
 ところが人物画はデッサンが狂うと、たとえそのモデルの人物に会ったことがない人でもすぐに「おかしい」とわかってしまうからだ。

 しかし、実のところ、もっと基礎的な練習がある。それが冒頭に掲載したような人物クロッキーだ。クロッキーとは短時間でものの形をとらえて描くこと。特に人物や動物など、動きのあるモチーフの一瞬の姿を描く練習だ。

 今回はその基礎について書こうと思う。私は「誰にでもできるデッサン練習方法とは→」という記事で「日常をアトリエにする」にはサインペンで、目にするものすべてを怖がらず」に描くのがいいと書いた。

 だからその成果品としてのこのブログの「街角スケッチ→」にはサインペンで描いた人物スケッチをいくつも掲載している。
 だが基礎練習としての人物クロッキーの道具としては、実はサインペンはちょっと敷居が高い。今回は初心者向けに他の道具も紹介しようと思う。

クロッキーの道具

 まず紙。当然だが高価な水彩紙は不要だ。私は基本的にF6サイズのクロッキー帳を使っている。日常の風景をスケッチする時は小さいものをたくさん描くことがいいと思うが、人物のクロッキーは通常、ポーズの時間が決められている。だから同じ時間ならば大きいものを描く方が線の量が増えて、より濃密な練習になる。大ききれば大きいほどいいと思うがあとは持ち運びの手間だけだ。

 なお、最近は百円均一の店でもクロッキー帳を売っている。やや小さいのが難だが、コストパフォーマンスは高い。画材店で買うクロッキー帳と併用するという手もあるだろう。

 次は何で描くかだ。カルチャーセンターならば「2Bから6B程度の鉛筆」を持参と言われることが多いと思う。通常の文房具店で入手できることを考えてのことだと思うが、私は鉛筆はあまり使わない。何故かというと、クロッキーの主役である「線」の表現に対しては鉛筆よりもいい材料があると思うからだ。

 人物を描くときの線にはいろいろな線が必要だ。
基本は「太い」「細い」と「濃い」「薄い」この4つの表現の組み合わせだ。例えば「太くて濃い」は乱反射の無い完全な影の部分に。「太くて薄い」線は反射光を受けるハーフトーンの影の部分に。「細く、濃い」は体の角度が急激に変わる部分かつ、明暗が変わる部分に。「細く、薄い」は明るい部分のグラデーションに。

 あくまで私の個人的な感覚だが、先の柔らかい鉛筆は「太くて濃い」、「および太くて薄い」線は出しやすいが、しょっちゅう先を削っていないと「細い線」が出ないのだ。じっくり人物画を作品として仕上げるときは、削ればいいだけの話だが、スピードを要求されるクロッキーでは削る時間がもったいないと感じてしまう。

 先にペンでのクロッキーは敷居が高いと書いた。
ペンは「細く、濃い」線だ。だから顔や手足、体の輪郭を描くにはうってつけだ。だからイラストには最適なのだが、クロッキーで人の体の立体感をとらえようとするとハーフトーンの部分を表現するためには、いわゆるペン画のハッチングの手法を取らねばならない。

 だがクロッキーでは残念ながらその時間が許されないのだ。だから私のペンのクロッキーは輪郭だけをとらえることがほとんどだ。当然だが立体感は表現できない。

 さらに付け加えるならば、サインペンは強弱がつけにくい。人間の体が急激に折れ曲がるところには、筋肉の緊張がある。光の受ける角度も急激に変わる。線に強弱が欲しいのだがサインペンはそれができない。クロッキーの道具としてはやや性能に劣ると言わざるを得ない。

 現在のところの私の愛用は黒色のダーマトグラフだ。黒く濃く描ける。私はまんべんなく回転して使っているようで、先端はいつもある程度緩く尖っている。だからやや横にすると太い線が、垂直にすると細い線が引ける。そして濃い、薄いは力の入れ具合しだいだ。

 もう一つ最近の私のお気に入りがある。それは「GRAFSTONE」という製品で鉛筆の芯だけでできている。当然すべてが芯なのでシャープに切り出せるし、力の入れ具合による濃淡も、傾け方による細い太いも自由自在だ。
 この画材を知ったのは最近読んだ「クロッキーの基本 早描き10分・5分・2分・1分 」という教本で取り上げられており、その華麗で繊細なタッチに魅了されたからだ。興味ある人は参考にするといいだろう。

 黒く、線の強弱がつけやすいという意味ではチャコールペンシルもいい。だが元来が木炭だけあって画面が汚れやすい。保存という意味では、いちいちフキサチーフを使う必要があり、やはりスピード重視で何枚も描くクロッキーには合わない。

 クロッキーは人物画の練習だと割り切れば、面白い道具を使うのもいい。例えば筆ペン。ちょっと力を入れると、とんでもなく線が太くなる。だがコントロールできれば濃さも、強弱も、太さも思いのままだ。芸術的な筆のソフトタッチを極めるなら筆によるクロッキーは案外最良の選択かもしれない。

クロッキーの描き方いろいろ

 次にクロッキーを描くときの注意点だ。ポイントはとにかく時間内で完成させること。通常は最初に20分ポーズ、次に10分、5分、2分と短くしてゆく。

 20分は相当長い。特ににヌードであれば服の影などに時間を描ける必要が無いので、ほとんどの人が描ききれるが、初心者は5分ポーズになったとたん、最後まで描けないことが多い。最後まで描けない理由はおそらく20分ポーズと同じ描き方をしてしまうからだろう。

 上段の3つのクロッキーは10分~20分ポーズである。時間があれば少しでも立体感を出す描き方をしたい。だから影もある程度入れている。

 一方、下段の4図、5図のように、5分で描き切るためには物理的に線を減らさないといけない。だから、最初から影は描かくつもりはない。そのポーズに現れる線の強弱で立体感を出したい。4図の場合はあごから首の線、ウェストからお尻の線が強くなる。上図のクロッキーはいずれもダーマトグラフを使用している。

 次にサインペンだ。6図は20分ポーズだったと思うが、ポーズがややつまらないと感じたので、ダーマトグラフで描いた後、残り時間でサインペンを使って同じポーズを描いたものだ(7図)。

 ダーマトグラフは濃く描けるが、あたりを取るときは薄い線が引ける、そのあと濃い線を重ねるという描き方ができるが、サインペンは当然だが、そういう芸当はできない。描いた線を利用して残りの線をバランスを取りながら描くということになる。

 左図はサインペンのその特徴を生かして、ペンを画面から離さず一筆書きのようにして描いてみた。すると多分正しい線に近いほど線が重なって黒く、太くなってゆく。サインペンの欠点を補ってくれる描き方かもしれない。(現在チャレンジ中!)

 9図と10図の二つはサインペンであることを考え、そのポーズのかなめとなる一本の線だけを描くようにしたつもりだ。

 上の3つの図は、先に述べた筆ぺんでのクロッキーにチャレンジしてみたものだ。慣れていないので、私の場合、太い線が太くなりすぎ、細い線はもう少し伸びてほしいところの手前で切れてしまう傾向があるようだ。今後の課題だと思っている。

関連記事はこちら

 今回は人物クロッキーについて書いた。デッサン全般については次のような関連記事を書いている。参考にしてほしい。

 絵画上達法全般については

 水彩で描く人物画については

クロッキーを作品にする方法とは?

 さて、以前にも書いたが、クッロッキー帳に描いたスケッチは当然水彩画にはできない。だからなかなか個展に出すような作品にはなりにくい。
 そこで考えたのがスキャナーでデジタル化し、パソコンで色付けする方法(「パソコンで描く水彩風イラスト 初級編→」を参照)である。
 案外面白い表現ができる。よい作品が出来たらアップするつもりである。お楽しみに。

P.S.
人物クロッキーよりも風景画の描き方が知りたいという方は以下の記事を参照してほしい


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20件のコメント

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