水彩画の基礎技法!効果的な「下塗り」とは?

 プロの水彩画家が描く絵と素人のそれとの一番の違いは何だろうか?

プロの画家には何となく絵にその人独自の雰囲気がある。素人の画家にはそれがない。そして個性的な画家であればあるほど「全体の雰囲気で」誰の絵なのかすぐにわかる。

 では独自の雰囲気とは何だろう?本当はとてもむつかしい問題だと思うが、多くの初心者のためにあえて答えを出そう。それは「色調の統一感」だと思っている。

 そして実は初心者でも、基礎技法のひとつである「下塗り」をきちんとマスターすれば「色調の統一感」を出すことはそれほどむつかしいことではない。

 「そんなの当たり前!」という人、逆に「下塗りって何?、何のためにするの?」と疑問に思う人、両方いるのではないかと思う。

 今回はあまり目立たないが大切な「下塗り」の技法について考えたい。

目次

1.下塗りって何?
2.下塗りは何のためにするの?
3.下塗りの準備と道具
 3.1紙
 3.2絵具
 3.3筆
4.下塗りの具体的な方法とは?
5.下塗りが終ったらどうする?

■下塗りって何?

 水彩画では「ファースト ウォッシュ」(「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!を参照)という。ウォッシュと言うように水をたっぷりと使い、仕上げを想定した、比較的薄めの色を画面全体に塗ることをいう。

 もちろん絵の狙いによってまったく下塗りをしないこともあるし、全体ではなくゾーンを決めてそれぞれ別の色で下塗りする人もいる。

■下塗りは何のためにするの?

 この疑問を感じた人はとても鋭いと思う。何故なら、私たちが子供のころ使っていた不透明水彩(マット水彩)では、下塗りしても上に別な色を重ねたら下の色は消えてしまう(絵具の知識 透明水彩は何故美しい?を参照)。だから下塗りはあまり意味がなかったからだ。

 ところが透明水彩絵具は白と黒以外は基本的に透明色だ。だから最初に下地に何か色を塗っておけば、上に色を重ねても下の色が重なって見える。

 下塗りはこの性質を利用している。つまり最初に自分の作品の基本の色調となる色を塗っておけば、上から別な色を塗っても画面全体の色調は保たれる。

 例えば絵を黄色っぽい色調にしたければ、各色に黄色を混ぜて塗るのではなく、最初に黄色を塗っておき、乾燥してから上にそれぞれの色を塗ればよい。

 仮にブルーを塗り、隣に黄色を塗るとしよう。それぞれが三原色の一つなので両者は対比色として並ぶだけだ。

 ところが先に黄色を塗った上の一部にブルーを塗ればその部分は両者が重なった色(緑色)に見える。つまり黄色の色調の中で青みを表現することになる。

 上の図はまず上半分にウィンザーイエローで下塗りをした後、右半分にコバルトブルーを重ねたサンプルだ。したがって基本的には左上が黄色、左下が紙の白のまま、右下が青、右上が緑のゾーンになる。2色しか使っていないにもかかわらず、ブルーの濃淡、黄色の濃淡だけで重なり部分に様々な表情が現れることが理解できるだろう。

 初心者がチューブからパレットに出した生の絵具を思い思いにあちこち塗ると彩度は高いが画面に統一的な色調は生まれない。こんな「素人っぽい」絵になることを防いでくれるのが「下塗り」なのだ。

■下塗りの準備と道具

 水彩画の「下塗り」には注意すべき事項がいくつかある。最初にそれを説明しておこう。

■紙

水をたっぷり染み込ませて使うので、当然普通の画用紙ではなく「水彩紙」が必要だ(水彩画入門!始めに買うべき道具は?を参照」)。

 私は下塗りの前にまず裏から刷毛(百円均一店で売っているもので十分。私は幅7cmほどのものを使用している)でたっぷりまず水だけを塗る(水張をしたパネルにはこの方法は使えないが)。

 そしてその裏面を硬質の樹脂製の板の上に紙に乗せる。すると水彩紙が勝手に板に密着し水張したようなしわの無い状態になってくれる。

 水張りの手間がいらないので私はいつもこの方法を使っている。そして表面にやはり刷毛で水だけを塗る。これで紙の準備は完了だ。

■絵具

 下塗りの時は広い部分に絵の具を塗るので、いちいちパレットで混色していては時間のロスになるし、色の濃度にもばらつきが出てしまう。
 私は百円均一店で売っている幅も深さも適当な薬味用の小皿に下塗り用の絵具をたっぷりと溶いておくようにしている。

■筆

 やはり刷毛を使う。ただし一色で全面を塗ってしまうときは先の安価な刷毛でもよいが、下塗りを塗り分ける時は、化学繊維の混ざった毛先はかなり硬く不揃いなので、使いにくい。

 だから私は下塗り用として日本画用の天然毛の刷毛を使っている。とても使い勝手が良いと思っている。

■下塗りの具体的な方法とは?

 ここからは具体的な例を挙げて説明しよう。
①図はペンでの下絵の終った状態(水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→を参照)である。当然だが画面は真っ白だ。今回は画面に統一感を出すために、全面に下塗りを施すことにする。

 題材は古い町並みの風景なので落ち着いた「ベージュ」の色調で画面を統一しようと考えた。そこでまずパーマネントローズとウィンザーイエローを混ぜたベージュ色を先の小皿に大量に作っておく。

 全体に水を吸った水彩紙をやや斜めに傾ける。すると紙の許容保水量を超えた水が下方に集まってくるのでその水滴だけをティッシュで吸い取ってやる。これで下塗りの準備は完了だ。

 ②図は下塗り完了図だ。ここまでの制作過程を順に説明しよう。

 日本画用の刷毛にベージュの下地色をたっぷりと含ませ全面に塗る。まずはムラのないように塗る。

 主として横のストロークで塗り、やはり紙を傾けると下に向かって自然にムラなく流れてくれる。統一感を与えるための下塗りなのでこの段階では下書きの線は一切気にしない。

 実は「色調の統一」だけを目的とするなら、このまま下塗りを終え、乾いてから次の色を塗ってもよい。だが透明水彩には滲みやぼかし、グラデーションという独特の技法がある。

 せっかく画面がウェットの状態なので、ベージュの下塗りが乾かないうちに効果的に別の色を垂らそう。

 例えば青空だ。コバルトブルーをところどころに置いている。その際建物に近い部分は明るめにしたいのでセルリアンブルーを垂らすかベージュ色をそのまま残している。

 もし下塗りが完全に乾いてから空の青を塗っていたらもっと空の「青」は強調されていただろう。今回は町並みの雰囲気に合わせて、青が下地色に滲むような手法を使った。

 また材質感を描き込む前に立体感を確認しておきたかったので、下塗りがある程度乾いた段階で薄く建物の陰をプルシャンブルーで入れておいた。これで下塗りは完了だ。

■下塗りが終ったらどうする?

 下塗りで画面の色調と概略の立体感が表現できた。白と黒のペン画から全体に統一された色調の下図に変化したことがわかるだろうか?あとは建物などの材質感を描き込むだけだ。具体的に説明しよう。

③図は下塗りの上に建物の壁、建具、屋根などの材質に合わせた色を一通り塗ったところである。

 民家の板張り壁はローシェンナ、バーントシェンナで、黄色のビルの外壁はインディアンイエローで、いずれもほとんど混色をせずシンプルに塗り分けただけであるが、下塗りの影響をうけて全体として馴染んだ色調に見えている。

④が完成図である。

 ③の状態で80%完成だが、当初描いた影の部分が水にぬれてだんだんぼやけてくる。そこで全体のバランスを見てシャープな、濃い影をもう一度入れる。バランスとして空の色も白っぽく見えるのでやや濃く色を入れる。これで完成だ。

 完成図をみて気づいて欲しいのだが、この絵の最も明るいのは民家の屋根上の空の雲だ。

 通常「雲は紙の白を残す」と教えられると思うが、今回は「統一感」を重視したので、この色は紙の白ではなく、下塗りの「ベージュ色」を残したものである。色調に統一感があれば「白」を表現するために必ずしも「紙の白を残す」必要はないわけだ。

P.S.
今回は水彩画の基礎技法である「下塗り」について述べた。このブログには下記のような関連するカテゴリや記事がいくつかある。興味ある方は参考にしてほしい。

■カテゴリ「絵画上達法

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