建物のある風景の描き方

 皆さんはもし「風景画」を描きなさいと言われたら、どんな絵を思い浮かべるだろうか?
 風光明媚な山や川など美しい自然の風景を描こうとするのではなかろうか?

 しかし、普段私たちが目にしているのは生活の場であって、美しい自然の風景ではなく建物のある風景だろう。

今回はそんな「建物のある風景の描き方」を考えたいと思う。

目次

  1. 「建物のある風景」の特徴
  2. 場所の選定
  3. 構図の決め方
  4. 下書きの描き方
  5. 下塗りの仕方
  6. 明暗の描き込み
  7. 材質の描き込み
  8. 仕上げ
  9. まとめ

「建物のある風景」の特徴

 山や川など自然だけの風景と建物のある風景との一番の違いは、「直線」と「平行線」の存在だ。
 自然だけを描く時はよほどのデッサンの狂いがない限り、私たちの目は「不自然」と思わない。
 ところが直線と平行線がある場合、透視図法を無視した線を描くとすぐに「おかしい」と気づいてしまう。
 その時点でその絵は他によほどの魅力がない限りいい絵として評価はもらえないだろう。

場所の選定

 次は「どこを描くか?」これも難しい。
 一般的には異国の風景の方が人気があるようだが、身近な風景を好む人もいる。
 有名な観光地でも記念撮影はできても絵になる場所は案外少ないと言うところもある。

 やはり事前に調査が必要だ。
 私は「行きやすさ」「絵になる建物の多さ」「背景の魅力度」を基準に選んでいる。
 今回選んだのは滋賀県五箇荘金堂の町並み(重要伝統的建造物群保存地区)だ。上の三つの条件いずれも良しと判断したからだ。

構図の決め方

 建物のある風景の場合は建物をどう配置するかが重要となる。
 描きたい建物を正面から見て、それをスケッチブックの画面の中央に配置する・・・は最悪の構図だ。
 絵は建築の設計図ではない、わかりやすい線ではなく面白い線が画面に必要だ。

 その意味では一点透視の風景の場合、焦点が画面の中央にあるのも良くない。
 具体的に言うと、道路の中心に焦点があり両側に左右対象に建物が並ぶ構図だ。面白もがないことは容易に理解できるだろう。

 今回選んだ例は二点透視の構図。
 画面の左端と画面の右外に焦点がある。構図の中心となるのは茅葺き屋根。
 そのボリュームが画面の中央にあっては面白くない。今回はやや右に寄せ、逆に青空のボリュームを左に寄せて、バランスをとっている。

下書きの描き方(①図参照)

 まずは水彩のための下書きをしよう。
 私は時間を節約するために、スケッチブックに直接ペンで描く(「水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→」を参照)ことが多いが、慣れないうちは先に鉛筆で軽く当たりをとってもいい。

 「透視図」と聞いただけでしり込みする人がいるが、私たちが描くのはあくまで絵画作品。
 そんなに正確さは要求されない。人間の目に不自然に映らない程度の透視図は要領さえつかめば誰にでも描ける。

 基本は建物の棟や屋根の軒や窓などの平行な線を伸ばすと全て水平線上の一点に集まるということだ。

 この絵の場合は茅葺き屋根の最上部の棟のライン、軒のライン、建物と地面が接するラインは、画面の下14くらいのところにある水平線上の左端にある。

 だから作画の手順としてはまず、水平線をペンで薄く引き(手前の塀にその跡が残っているのがわかると思う)、左端の焦点に向けて先に挙げた建物のラインを引く。

 茅葺き屋根の両端位置を決め、取り合う壁の縦ラインを引けばほぼ構図は決まりだ。
 後は各ラインのプロポーションを見てパーツを分割していくだけだ。
 (分割の要領については「下書きはいらない!建物のある風景をペンで描く→」を参照してほしい。)

 実は縦の分割ラインの正確さに捉われ過ぎると、いつまで経っても下書きが終わらない。
 ある程度、「この当たり!」で割り込んで良い。

 はっきり言えばこの絵の手前の板塀の板の間隔や建具の格子の縦ラインはペンの操作が可能な範囲で雰囲気だけ出している。
 正確さなどまるでないと考えていい。

下塗りの仕方(②図参照)

 いよいよ色を塗ろう。
 悩んだときの水彩画の大原則(水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!」を参照)は「明るい色から暗い色へ」だ。
 透明水彩は「一度塗った暗い色は上にどんな色を重ねても二度と明るくならない」からだ。

 したがって下塗りは「明るく(水をたっぷり使った薄めの色で)」かつ完成時の色調と合わせることが大切だ。
 最後まで明るくしておきたい部分は最初にマスキングインク(「水彩画の道具 マスキングインクって何?→」を参照)を塗っておこう。

 この絵ではパーマネントローズとウィンザーイエローライトを混ぜた薄いベージュ色を基本色として全面に薄く塗り、
乾かないうちに空にコバルトブルーとコバルトターコイズを民家にバーントシェンナとローシェンナを置く
(「透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?→」を参照)。

 暗いところはプルシャンブルーとウィンザーバイオレットを垂らした。
 この段階ではいずれも筆で塗らず、滲むままにしておく方が水彩らしい雰囲気が出る。

明暗の描き込み(③図参照)

 下塗りの陰は薄く滲んだ陰。建物のある風景画には独特のシャープな影がある。
 この影を描くために一旦完全に乾燥させる。
 そしてウェット オン ドライでシャープな影を入れるのだ。この絵では主として軒下の影に濃い影色(プルシャンブル+ウィンザーバイオレット)を入れている。

材質の描き込み(④図参照)

 画面に再び水を引き茅葺き屋根、板塀、木張りの外壁、川、空にそれぞれの色を濃いめに塗る。
 空はコバルトブルーを強く、板塀は一枚一枚に塗の変化をつけて素材感を出す。川にも空と同じ色を薄く塗る。
 ウェット オン ウェットで描いていると最初に描いた濃い色がだんだん薄くなってくる。
 そこで再度乾燥させ、もう一度シャープな影を塗る。外壁に落ちた紫の陰は乾燥後に描いたものである。
 仕上げの前に木立ちのハイライト部分のマスキングインクを剥がしておく。

仕上げ(⑤図参照)

 マスキングインクの白い部分は一切の絵具が塗られていないので紙の純白が現れる。
 いかに明るい部分があるとしてもさすがにこんな色は存在しないのでサップグリーンとトランスルーレントオレンジを使い全体をなじませた。
 最後にウェット状態の川に空の映り込みコバルトターコイズを落として完成だ。

まとめ

 「建物のある風景」の下書きの特徴は直線、平行線。そして着彩のポイントはその線が生み出す「シャープな影」と建物の固い材質感だ。

 その特徴を「明るい色から暗い色へ」という原則に沿って描き進めばいい。決してむつかしくはない。

 さあ、次の休日はさっそく「スケッチ旅」に出かけてみてはいかがだろうか?

P.S.
今回は「建物のある風景」の具体的な描き方をテーマにしたが、このブログには水彩で風景画を描く時のコツを下記のような記事にしている。参考にしてほしい。

 重要伝統的建造物群保存地区のスケッチについては

その他

P.P.S.
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11 件のコメント

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  • […] P.P.S 今回は使用した紙が水彩紙ではないので、線描きのテクニックだけをテーマにした。私の水彩画の描き方については以下の関連記事を書いているので参考にしてほしい。■ペンと透明水彩を使う本格的な風景画の描き方は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」を参照。■透明水彩の基本を知りたい方は「色塗りの基礎的技法」を参照。■「何故上達しない?知っておきたい水彩画の正しい着彩手順!→」■「ペンと水彩で描くミラノ大聖堂 その制作プロセスを公開!→」■「建物のある風景の描き方→」 […]

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