透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?

私が使用しているウィンザーニュートンの絵具24色セット

 ■愛用の絵具セットとは?

 上の写真は私が愛用するウィンザーニュートンの固形絵具24色セットである。
 汚くて申し訳ないが、透明水彩初心者のためには、使い込んだ状態の方が、わかりやすいだろう。今回はその24色の、あるいはその混色の、さらにパレット上での使い方を具体的に紹介しよう。

目次

  1. パレットの標準色を知ろう
  2. パレットの色配列の不思議
  3. 絵具とパレットの使い方
     3.1風景画を描く時
     3.2人物画を描く時
  4. まとめ

■パレットの標準色を知ろう

 まず、これからこの固形絵具セットを購入しようとする人のために、とある画材店のホームページで現在のウィンザーニュートン24色セットの絵具を調べると以下の通りであった。

 若干私が愛用しているものと違うようだが、欄外に「在庫の有無により、同系色に変わることがある」と記してあるので、多少の差異は理解の上、読み進めてほしい。

  • 黄色系
    730 ウィンザーイエロー
    347 レモンイエロー(ニッケルチタネイト)
    016 オーレオリン
  • 橙系
    724 ウィンザーオレンジ
  • 赤系
    726 ウィンザーレッド
    466 パーマネントアリザリンクリムソン
    502 パーマネントローズ
  • 紫系
    733 ウィンザーバイオレット(ディオキサジン)
  • 青系
    137 セルリアンブルー
    707 ウィンザーブルー(グリーンシェード)
    263 フレンチウルトラマリン
    321 インダスレンブルー
    322 インディゴ
  • 緑系
    719 ウィンザーグリーン(ブルーシェード)
    447 オリーブグリーン
    503 パーマネントサップグリーン
  • 茶系
    744 イエローオーカー
    552 ローシェンナ
    074 バーントシェンナ
    554 ローアンバー
    076 バーントアンバー
  • 無彩色
    465 ペイニーズグレー
    331 アイボリーブラック
    150 チャイニーズホワイト 

 まず私は原則としてアイボリーブラックとチャイニーズホワイトは使わない。特に固形絵具で白は使わないのでパレットから外して好みの色を追加して使っている。

■パレットの色配列の不思議

 まずパレットの固形絵具の並びを見てみよう。上の写真で上の列は左から黄色系、橙系、赤系、紫、青系。下の列は左から緑系、茶系、黒と並ぶ。
 皆さんはこの並びを見て、不思議に感じないだろうか?

 以前カテゴリ「ためになる美術講座→」の中で「色と絵具の科学→」という記事を書いた。その記事を思い出してほしい。

 つまり太陽の自然光は波長の長いものから短いものへ7色(赤橙黄緑青藍紫)の光に分けられる。そして各波長のうち長い波長を反射する絵具が赤色であり、中間の波長を反射する絵具が黄色であり、短い波長を反射する絵具が青色になる。 

 そしてこの3色を均等に混ぜると黒になる。私が黒は使わない理由はここにある。要らないからだ。
 7色のうち赤、橙、黄、緑、青、紫と隣合う色を混ぜてできる中間色を円形に並べると12色環になる。
 これら3原色と12色環の存在とパレットにある絵具の配列を比べて私が疑問に思った理由は2つある。

混色しにくい!

 一つは必ずしも混色し易い順に並んでいないことだ。原則的に色相が似通っている色が近い方が使いやすい筈だ。例えば黄色と緑とそれらを混色してできる黄緑は木々を描くときに頻繁に利用する筈だ。

 だから黄系の絵具と緑系の絵具は近い方がいい。しかしこのパレットでは緑は下段、黄は上段と分かれている。

12色環にない色が!

 もう一つは12色環にない茶系の絵具が他の系統の色よりも多く、何色も揃っていることだ。

 この理由は使い込んでくるとだんだん理解できる、私の理解は以下の通りだ。
 まず上段に配置してあるのは赤、青、黄の絵具の3原色とその類似色なのだ。黄色は3原色だが緑は3原色ではない。黄色と青を混色するとできる。

 だから緑は上段にはないのだ。ただし現実的には、例えば野原を描くときに大量の黄緑をいちいち黄と青を混色していては大変だ。だからすでに混色した緑がある。しかもパレット状では黄と緑は上下に分かれてはいるが同じ一番左にまとめられているので、それなりに近接性は確保されている。

 次に茶系が多い理由だ。茶は先に述べたように、3原色にも12色環にもない。茶色を作るには赤と黄色に黒を混ぜる必要があるのだ。彩度が高い場合赤と黄の混色は橙になる。それに黒が混ざり、明度が下がると茶色になるのだ。

 つまり上段は色相を作り出すときに使用する色、下段は明度を下げる時に使いやすい色と考えられるのだ。だから下段の右端にあったのが黒、その隣がグレーであるのもうなずける。

 言い換えれば明るい基本色は上段で混色して作り、影を作るときは下段の色を混色して使うのが論理的、効率的だと言うことだ。そう考えるととてもよく考えられた配置だと思う。(ただしこの理由はあくまで私の推測であり、ウィンザーニュートン社に確認したものではない)

■絵具とパレットの使い方

 では具体的に私の絵具とパレットの使い方を述べよう。

風景画を描く時(「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」を参照))

 通常はまずペンで描いた線の上にプルシャンブルーでグリザイユを施す。24色に最初から入っているブルーはウルトラマリンブルー、ウィンザーブルーのようだが、両者ともやや鮮やかすぎて、濃い影の部分に使うと違和感がある。だから私はプルシャンブルーを買い足して使っている。

 最近は絵によっては、さらにウィンザーバイオレットを少々混ぜてグリザイユに使用することがある。パレットの右上のゾーンがその混色の場所だ。
 そして右上のブルーゾーンはその他に緑を混ぜて、空の色、川や海の色を作っている。

 風景画でよく使うのはやはり緑系の色だろう。こちらはもっぱら左下のゾーンで混色している。先程述べた下段パレットの原則通り、右に行くほど明度の暗い混色をしている。

 黄緑はサップグリーンに上段のウィンザーイエローを混ぜて作り、影となる濃いグリーンはサップグリーン、オリーブグリーンをベースに明度に応じて茶系の絵具を混ぜている。
 具体的に言うと同じ緑陰でも明るめの部分はローシェンナーを、暗めの部分はローアンバーを混ぜて作っている。

 樹木については、茶系の色が結構揃っているのであまり混色しない。明るい木はイエローオーカー、赤っぽい木はバーントシェンナーやバーントアンバーを、暗い木はローアンバー、セピア(この色も買い足している)を中心に使い分けている。

 パレット左下に若干赤色のゾーンがあることに気づいた人はなかなか鋭い。これはグリーン系に茶系を混ぜるだけではまだ影が明るすぎる時がある。そんな時グリーンの補色である赤を混ぜると一気に黒に近くなる。そのためにここに赤を置くゾーンを作っているのだ。

人物画を描く時(「素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とは→」を参照)

 私が描く人物画はまず鉛筆で明暗を取り、それから固有色を重ねてゆく。風景画のようにプルシャンブルーで完全にグリザイユを施すことはしない。

 なぜかと言うと、特に女性の白っぽい肌を描く時は下地のプルシャンブルーがきつすぎるからだ。

 鉛筆ですでに微妙な明暗を施してあるので、大切なのはベースとなる肌色だ。そこで私のパレットでは肌色専用ゾーンが確保してある。

 風景画を描くときにあまり使っていなかったパレットの左上のゾーンだ。
 一番左上は肌色の明るい部分を、ウィンザーイエローとパーマネントローズを混ぜて作り、その右隣を肌色の暗い部分としてパーマネントアリザリンクリムソンとウィンザーイエローディープ(これも後からの買い足し)とプルシャンブルーを混ぜて作っている。

 そしてもう一色買い足した大切な色がある。それは「ローズドーレ」というピンク色だ。これは私にとって人物画の顔を描く時に必須の色だ。

 通常ピンク色が欲しいときは、赤色(例えばパーマネントローズ)を水で薄めれば良いとされる。

 だが私の場合はその方法ではだめなのだ。
 なぜかというと先に述べたとおり下地全面に鉛筆線を施すので、頬や唇の赤み、服のピンクなどを描くとき、水を加え過ぎると下地の鉛筆のグレーが出て暗くなりすぎる。
 かと言って赤絵具の水を減らすと「ピンク」ではなく、「赤」になってしまい、厚化粧したような顔になってしまう。

 それに比べこのローズドーレという絵具は、彩度の高いピンク色でかつ透明度が高い。だから変に微妙な水分調整する必要もなく、下地の肌色を生かしながらほんのりと赤みを加える時にとても重宝しているのだ。

 もちろん絵によってはさらに多くの混色が少しづつ発生する。離れたパレットゾーンで作った色を筆先に少しだけ混ぜて塗ることもある。この辺りのテクニックは一言で説明はできない。修練、経験が物を言う。

 どんなにいい道具を揃えても、透明水彩の絵の出来を直接左右するのはパレット上での絵具と筆の操作だ。

■まとめ

 今回はあくまで「私流」の使い方を伝えた。だが描く対象によっても、あるいは個人の好み、得て不得手もあるかも知れない。
 それでも描き続けることによって、より満足できるものになる。私自身も現在進行形だ。あなたも頑張って欲しい。

 今回はいわば絵具の並べ方について書いた。その基本的な使い方については「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→」を参考にしてほしい。
また関連する記事を以下に記す。興味のある方は参照してほしい。

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17件のコメント

[…]  さてこの建物は、ソウルで一番広い道路、世宗大路を北へ行った突き当たり、世界文化遺産の「景福宮」の中にある。ソウルは日本の都会に引けを取らない、近代的な建築が建ち並ぶ現代都市。 しかしこの景福宮は都会のど真ん中にある歴史的建造物。しかも敷地はとんでもなく広い。帰国してから調べてみると、面積なんと42万平方メートル。同じく京都のど真ん中にある歴史遺産、京都御所の4倍もあるのだ。 内部を隈なく見て回るだけで数時間かかるだろう。しかも建築も綺麗に保存されており、私のように建築設計に携わってきた人間にはとても見応えがある。それなのにこの時私に残された時間はわずか2時間ほど。 結局、冒頭の「興礼門」と呼ばれる建造物の前で20分スケッチしたものの、残り時間は敷地内の建物を駆け足で見て回っただけで時間切れとなってしまった。 したがって今回は透明水彩の技法について語る内容はほとんど無い。この絵は現地でペンで直接スケッチし、帰国してから淡彩を施したものだ。 だが、制作時間が短いからと言って、適当に仕上げていいわけではない。第一に紙質が悪いので、重ね塗りはできない。一回の塗りで淡彩の効果を出さなければならない。それなりの苦労がいるのだ。 具体的にはペンの線を殺さないような淡い色彩を材質感を損なわない色で塗ることだ。黒い線の美しさを強調しようと思えば、濁って明度、彩度が落ちる危険性がある絵具の混色もなるべく避けたほうがいい。 その意味では淡彩スケッチの時ほど12色の絵具ではなく、最低24色を揃えたほうがいい。(絵具の混色について知りたい人はこちら→) […]

[…]  そんな失敗を防ぐ方法を教えよう。冒頭の写真を見てほしい。私が普段使用するパレット(パレットの使い方はこちら→)にある絵具の順に、水彩紙に色を塗り、その透明度を追記したものだ。〇は透明色、△は半透明色、△×は半不透明色、×は不透明色だ。私はこの表をプラケースに入れ、絵を描くときにいつも見られるようにしている。 この表は、私のようにグリザイユを多用する者にとって、とても役に立つ。例えば風景画を描くときは森や林など緑色が必要だ。私がよく使うサップグリーン、ウインザーグリーンは完全な透明色。しかしシュミンケホラダムのオリーブグリーンは半透明なので濃い色を重ねるとグリザイユで描いた明度の微妙な差が見えなくなってしまう恐れがあるので要注意だ。 […]

[…] P.P.S.今回は紙をテーマにしたがその他の材料、道具については以下に記事をまとめたので参考にしてほしい。■「塗り方」については「色塗りの基礎技法」(詳細はこちら→)■「筆の選び方」については「水彩画入門!弘法は筆を選ぶ?(詳細はこちら→)」■「絵具とパレットの使い方」については「透明水彩入門!絵具とパレットの使い方を知っている?(詳細はこちら→)」■「イーゼルの選び方」については「水彩画の道具 プロが使うイーゼルとは?(詳細はこちら→)」 […]

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[…]  私のパレットにある赤絵具は冒頭の写真にある6色である。右上から反時計周りでカドミウムレッド、ローズドーレ、スカーレットレッド、ローズマダー、パーマネントローズ、アリザリンクリムソンである。 スカーレットレッドだけはシュミンケホラダム、あとはウィンザーニュートンだ。(「透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?→」を参照) […]

[…]  この絵ではパーマネントローズとウィンザーイエローライトを混ぜた薄いベージュ色を基本色として全面に薄く塗り、乾かないうちに空にコバルトブルーとコバルトターコイズを民家にバーントシェンナとローシェンナを置く(「透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?→」を参照)。 […]

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