水彩画入門!弘法は筆を選ぶ?

左からナイロン平筆、馬毛平筆、コリンスキー丸筆、スクワラルオーバル筆

 ■水彩画の道具は揃った?

 水彩画を描き始めたあなたへ。
 あなたに合う水彩紙(水彩画入門!始めに買うべき道具は?」を参照)と絵具(水彩画を始めた人へ!プロが選ぶ絵具とは?はもうを買っただろうか?

 そんなあなたが、次に知りたいのは当然「筆」だろう。今回は筆について書く。

 皆さんの記憶にある、子供の頃使った水彩画の道具を思い出してほしい。紙は画用紙、絵具はいわゆるマット水彩(半透明水彩)、筆はナイロン筆だったはずだ。

 紙と絵具についてはすでに先のブログ記事で、子供の絵に対する情熱を冷ましてしまう、とても悪い選択だと書いた。

 ただ、プロの使う水彩紙は普通の画用紙のコストの10~20倍、絵具に至っては100倍する場合もあることを考えると、それなりに分からなくもない。

 しかし筆については話は別だ。普通の太さ、6号程度で馬毛の筆なら今でも200円程度で買える。それほど負担ではないだろう。ナイロン筆でなく子供の頃から是非、天然毛の筆に馴染んでほしいと思っている。

私が筆にこだわる訳とは

 何故こんなことを言うかと言うと、私の筆に対するこだわりの原因は子供の時代にあるからだ。

 小学校の4年生くらいだったと思うが、実は私はすでにとても良い筆を1本だけ使っていた。

 8号くらいの平筆で、柔らかくふさふさとして、触るだけでも気持ちが良い。水に濡らすと、水分をたっぷり吸うので、一度に広い面が塗れる。

 毛先にしなやかな弾力があるので、力を抜くと元の形に戻る。パレットでいちいち形を直す必要がない。毛先の形も崩れない。平筆なので、縦に塗れば広く、横に塗れば細い線が引ける。

 一方、それまで使っていたナイロン筆は毛先はバラバラ、水分は吸わずすぐにパサパサになり、弾力はありすぎて、柔らかい線が引けない。小学生であっても良いものはいいとちゃんとわかるのだ。

 あまりに使い勝手がいいので、結局私はその愛用筆一本で全ての絵を描くようになったのだ。私のプロフィールに書いた「絵で稼ぐことを覚えた子供→」のエピソードには実はこの筆の存在があったのだ。

 何故小学生の子供がそんな筆を持っていたのかわからない。少なくとも私の両親は絵にほとんど興味はなかったので、知り合いか、親戚の誰かがくれたのだろう。私を絵の好きな子供にしてくれた偶然のヒーローの存在に感謝している。

 ■筆の材質は何がいい?

 さて、まず筆の材質はナイロンでない天然毛のものを選ぼう。
 私が小さい頃持っていたあの筆の材質はわからない。かのヒーローから狸の毛だと聞いたような気もするが確かではない。

 ただ濃い茶色をしていたことを覚えているので、自分で筆を買うようになってからもその色の筆を探してしまう。

 冒頭の写真を参考にしてほしいが、今私が気に入っているのは、コリンスキー(イタチの仲間、特に極寒の地に住む)の毛で最高級品だが、馬毛と違って相当高い。

 だから0号から6号までの細目の筆はコリンスキーだがそれ以上はセーブル(やはりイタチの仲間)、あるいはそれに近い混毛筆を使っている。

 なお、最近レンブラント製のリス毛の筆を使ってみたところ、とても使いやすい。詳細を「レンブラントの水彩用オーバル筆を使ってみた!」に描いているので参考にしてほしい。

 小さい頃愛用していたかもしれない純正狸毛(?)の筆は残念ながら普通の画材店では見当たらないようだ。いずれ見つけたらまた試したいと思っている。

 ■筆の形状と使い勝手は?

 初心者用が一般に使うのは丸筆だ。長所はどの方向にも均一な線が引けること。力を入れれば太い線が、力を抜けば細い線が自在に引けることだ。欠点は広い面が塗りにくいことだ。

 広い面を塗るには平筆が便利だ。この筆は方向を変えることによって塗りの幅を変えられる。それなりのテクニックは必要だがとても便利な筆だ。

 平筆の先端を斜めにカットしたスラント筆というのもある。平筆は細い線を引く時、筆を立てて使う必要があり、手首の使い方にやや違和感がある。それを自然な形で線が引けるようにしたものが「スラント筆」だ。

 私も本当はこの筆の天然毛が欲しいのだが、画材店で見かけるのは全てナイロンと天然毛の混合物なので、今のところ使っていない。

 そのかわりとして使っているのが大きめ目の「オーバル筆(冒頭写真の一番右端)」だ。平筆の穂先が尖った形状をしている。

 例えば上下方向に使う時には平筆として広い面積を塗れる。そして左右方向には細い線を筆を不自然に立て過ぎることなく、塗れる。先端だけを使うと細い丸筆としても使えるので、今のところ気に入っている。

 ■自分の愛用筆を探そう

 実のところ水彩紙や絵具の選択は絵の出来栄えに直接影響するが、筆はある程度のものさえあれば、テクニックでカバーできると思っている。

 それだけに自分のよく使うテクニックにあった筆の存在はとても頼りになる。個人の好みが一番分かれる画材が筆であるとも言える。

 インターネットの水彩画サイトにも、画材店のサイトにも筆に関する記事は非常に多くある。しかし、絵具や水彩紙に対する評価以上に定性的、直感的な評価が多い。

 記事を鵜呑みにするのはやめたほうがいい。「自分の」愛用筆はやはり自分で試して見つけるしかないと言うのが私の実感である。付け加えておくと筆は消耗品である。残念ながら愛用であればあるほど痛みも早く、愛用できなくなる。私はセールの時に愛用筆をストックとして買っておくようにしている。皆さんにもお勧めしておく。

P.S.
このブログの関連記事を以下に記している。興味ある方は参照してほしい。


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10件のコメント

[…]  やはりピンからキリまであるが、サムホール程度の大きさの絵ならば6号コリンスキーまたはセーブル(いずれもその毛が取れる動物の名前)の丸筆がいい。普通の文房具店で売っている化学繊維の筆とは柔らかさ、弾力性、水分の含み具合、毛先の揃い具合など雲泥の差だ。たとえ初心者であっても、「弘法は筆を選ぶ」というプロの格言は正しいのだ。 また色の濃い部分をエッジをきかせて塗ったり、均質に広い部分を塗るために平筆も必要だ。大きさは4号の小さめと8号の大きめの2種類準備するといいだろう。さらに私の場合は細かい部分を描くための0号、やはりコリンスキーの丸筆も愛用している。(筆の詳しい話はこちら→) […]

[…]  水彩画を描き始めた人へ。必要な道具はもう全部揃えただろうか。もしまだ道具に不安があるなら、水彩紙について→、水彩絵具について→、筆について→、マスキングインクについて→別に記事を書いているので参考にしてほしい。 今日は意外に皆さんが気を使っていないイーゼルについて説明しよう。 […]

[…] まず店に「画材」として並んでいるものからチェックしよう。・水彩絵具12色セット 残念ながら絵描きとしてはこれは使えない。発色も良く無いし、本格的な水彩の技法も使えない。理由は別に記事を書いているので(詳細はこちら→)参照にしてほしい。・筆 ナイロン製はやめたほうがいい。理由は別記事で書いているので(詳細はこちら→)参照してほしい。 ただし最近「馬毛」の大、中、小3本セットを発見した。柔らかく、水の含みもいい。毛先も細く、ある程度しなるので私はぼかし用の筆として愛用している。・画用紙 これも水彩紙としては使えない。理由はやはり別記事で書いたので(詳細はこちら→)参照してほしい。 ただしクロッキー帳としてなら十分使える。ちょっと小さいのと、背表紙が薄く、描くときに支えにくいのが難だが、画板が準備できるようなアトリエだったら十分だ。・パレット プラスチック製しかないが、十分使えると思う。私自身は固形絵具とパレットがセットになったものを使っているので、この品は使っていない。 ・刷毛 透明水彩絵具をわざと滲まて使うとき、水彩紙全面に水を引く。この際に通常の平筆では幅が狭すぎて手間である。 画材店で日本画用の刷毛を見ると結構高い。そこで百円均一店で探したところ、幅6cm程度の刷毛を見つけた。 多目的用と説明してあるだけに、毛先はちょっと硬いが絵具をつけるわけではないので、問題はない。これも重宝している。 ここからは正式な絵の道具ではないが、持っているととても役に立つ。試して欲しい。・パレット皿 同じ色を大量に塗るときは、通常の随時混色用パレットではなく、単独の皿に混色しておくと良い。 浅すぎると水が広がりすぎて絵具濃度が一定しない。深すぎると筆を出し入れするのに邪魔になる。そしてできれば何色か同時に準備出来るほうがいい。 というわけで私は普通の白い陶器の薬味皿(二つ仕切)を2セット準備している。そして仕切りの大きさは、当然自分の使う最大筆が余裕を持って入る大きさ、深さは一度に作る色の量に十分な深さのものをえらべばよい。・水入 これも画材店に行くとかなりいい値段がする。携帯用で特殊な機能が必要な場合はともかくとして、実は水入ほどシンプルな機能の画材はない。百円均一店で十分なはずなのだ。 そう思って探してみたが、実はなかなかそれらしいものが見当たらず苦労した。 食器類は全般に浅すぎる。バケツの類は深すぎる。何より仕切りがない。筆を洗う部分の汚れた水と混色用のきれいな水は分けるべきなのだ。 可動仕切りのある整理ボックスは仕切りが、密着していないので、水が隣と混ざってしまう。 しかしある日、ついに全ての欠点を克服した理想の水入を見つけた。それは卓上リモコンボックスだ。広い、深い、仕切りが密着して水漏れがない。以来私の愛用の水入はこれである。十分だ。・水彩紙保存袋と乾燥剤 水彩紙風邪ひき現象(詳細はこちら→)とその後の苦労(詳細はこちら→)については別にところで述べたとおり。 そこで、水彩紙を乾燥した状態に保つため、最近は密封袋に入れ、乾燥剤を同梱して保存している。 袋は寝具や衣類を入れるものにすると8号のスケッチブックでも楽々入れられる。乾燥剤は好きなものを選べば良い。豊富に揃っているはずだ。 […]

[…] P.P.S.今回は紙をテーマにしたがその他の材料、道具については以下に記事をまとめたので参考にしてほしい。■「塗り方」については「色塗りの基礎技法」(詳細はこちら→)■「筆の選び方」については「水彩画入門!弘法は筆を選ぶ?(詳細はこちら→)」■「絵具とパレットの使い方」については「透明水彩入門!絵具とパレットの使い方を知っている?(詳細はこちら→)」■「イーゼルの選び方」については「水彩画の道具 プロが使うイーゼルとは?(詳細はこちら→)」 […]

[…] ■各種水彩画の道具と使い方は「水彩画入門!弘法は筆を選ぶ?→」「水彩画を始めた人へ!プロが選ぶ絵具とは?→」「透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?→」■水彩画の基礎技法については「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→」「水彩画の基礎技法!「下塗り」の大切さを知っているか?→」■その他カテゴリ「絵画上達法→」私の作品の実例は「加藤美稲水彩画作品集→」 […]

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