水彩画入門!初めに買うべき道具は?

水彩画家の定義とは?

 水彩画を描き始めたあなたが将来、個展を開くとしよう。当然会場には「水彩画家」と自分の職業を記した名刺をおかなければならない。
 さて、その時あなたは何をもって「水彩画を描いています」と言うのだろう?もちろん誰もが唸るほどの表現力をすでに身につけていれば問題無い。しかし現実的には画力はずっと向上し続けるもので、どの程度なら「水彩画家」であるという定義などないし、まして医師や弁護士、建築士のような国家資格があるわけではない。
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 でも実は、これだけは言えると言うプロの水彩画家の定義(?)があるのだ。

それは「紙」だ。

 プロの水彩画家はほぼ100%いわゆる「水彩紙」に描く。それくらい、紙は水彩画の魅力を引き出すのに重要な存在なのだ。
 (もちろん逆は真ならず。水彩紙を使えば必ずプロと評価されるわけでないが・・・)
 かく言う私は今、名刺に「水彩画家」と記しているにも関わらず、学生の頃は油絵一筋で、水彩画を極めようなんて思ったこともなかった。
 それは、子供の頃から馴染んだ画材であるにかかわらず、水彩画の表現に今ひとつ魅力を感じていなかっただからだ。

 具体的に言うと、油絵と違って色を重ねた時、下の色、あるいは下書きの線が完全に消えない。あるいは油絵の透明色のように、綺麗に色が重ならない。しかも乾くのが遅く、紙の上で色が混ざると、中途半端な筆跡が汚い色で残る。これでは油絵の魅力に勝てるはずがないと思っていた。

こんな私の認識を一変させてくれたのがいわゆる「画用紙」でなく「水彩紙」だった。
 私は学生時代の最後に、いわゆる卒業旅行と称した沖縄八重山諸島ツアーに参加した。せっかくの旅行だからと、当時の私には極めて高級であった「水彩紙(ワトソン紙)」のスケッチブックを初めて買ってみた。

水彩紙の威力とは?

 淡いアイボリーの紙面に透明水彩を含んだ筆をその上に置いた瞬間に、じわっと美しい色が広がる、普通の画用紙では得られない、あの感触は今でも覚えている。
 水分は紙に吸い込まれるのに、色はそのまま紙に残る。次の色を重ねると、微妙なにじみ具合で、美しいまま、画面の上で混ざり合う。
 沖縄の日差しに乾いた紙面にさらに別の色を乗せると筆のエッジをきかせたまま、今度はカラーフィルムを重ねたような効果が出る。
 弘法は筆を選ぶというが、水彩画に関しては間違いなく「紙を選ぶ」だろう。私が水彩画に抱いていた不満は紙が原因だったのだ。この思い出深い初めての水彩紙で描いた沖縄の風景画は今も私の手元にある。
 私は多くの人が大人になったらさっぱり絵を描かなくなる、原因の一つは、安物の画用紙紙しか使わせない子供の頃の教え方にあるのではないかと思っているくらいだ。
 そんなわけで、皆に絵を見せるつもりで水彩画を描き始めたあなたへ。普通の画用紙のスケッチブックを選んではいけない。必ず相応の水彩紙のスケッチブックを選んで欲しい。

どんな水彩紙を選ぶべきか?

 しかし実はこれはかなり難しい課題だ。というのは、試しに「水彩紙の選び方」とネットで検索してみるといい。
 相当数の書込みが見つかるが、使い勝手についてはかなり主観的で、表現にも結果にもばらつきがあり当てにならないなというのが実感だ。詳細な分析には相当の科学的知識と経験が必要となりそうだ。

 そこで今回は、最低限の知識の整理とアドバイスをしようと思う。まず、普通の画用紙と各水彩紙のコスト比較をしてみよう。
 当然値段は画材店により、あるいは在庫状況により相当ばらつくだろう。そこで今回は誰でも買えるネット通販を中心に入手できるものを送料別、消費税込みで調べてみた結果を記す。公平な比較とするため、F6号のスケッチブックを枚数で割った一枚あたりの単価で比較することとした。

 まず一般画用紙のスケッチブックは一枚当たり21円。水彩紙ではないが厚手の画用紙スケッチブック一枚40円。私は学生の頃もっぱらこのスケッチブックを使っていて、水彩紙との差を実感したというわけだ。
 そして水彩紙は300g/㎡を基本とし、ない場合は相応の重量のもので代替した。その結果およそ以下の3ランクに分けらることがわかった。

■¥200/枚前後のもの

ワトソン(混合)、ホワイトワトソン(コットン高配合)、モンバルキャンソン(パルプ)、クレスター(混合)

■¥300/枚前後のもの

ラングトン(パルプ)、ウォーターフォード(コットン)

■¥400/枚前後のもの

ラングトンプレステージ(コットン)、AVALON(コットン)、ストラスモア(コットン)、ファブリアーノ(コットン)

 つまり一般のスケッチブックと水彩紙ではコストに10倍から20倍の差があるわけだ。そしてもちろん3つのランクにはその原因がある。

水彩紙のランクとは?

 まず原料の差だ。カッコ内にコットン、パルプ、混合、コットン高配合と書いた。原則的にコットンはほぼセルロース100%であり、吸水性が高く、水彩紙として性能が良い。
 しかし天然コットンは、本来栽培地が熱帯から亜熱帯の湿潤地域に限られ、稀少でコストが高い。そこで木材から採取した繊維のうちセルロースの比率を高めて繊維素としたものがパルプであり、通常の印刷物は全てパルプ製の紙である。

 したがってコットン100%が一番値段が高く、パルプの比率が高くなるほど安価にできる。上の例では一枚400円前後のものはいずれもコットン、200円前後のものはいずれも混合である。
 ラングトンだけがパルプ100%でコットン未使用なのに一枚300円もするのは製法に描き味を浴する工夫があるに違いない。実は私はこのラングトンを愛用していた。吸水性が高く、表面がけば立つこともない。パルプとは言え、性能にはとても満足していた。
 コットンの良さは吸水性だけではない。色が白く、時間が経っても黄ばみがないことだ。
 私が初めて使用した水彩紙であるワトソン紙に描いた作品は、残念ながら皆さんにお見せできる状態にない。なぜかと言うと、紙がすっかり黄ばんで、角が脆くなっている。当然全体的にくすんでみすぼらしい絵になってしまっている。
 この耐久性のなさもその成分によるものだ。ワトソン紙はすでに述べたように、パルプ混合紙だ。ほぼ100%セルロースであるコットンに比べ、パルプには他にリグニンという成分が含まれており、これが最初から紙がアイボリーに見えた原因である。もっとも白を好む画家が多いのでパルプを白く染めて水彩紙にしたものもあるので、買った時に白ければ、黄ばまないということではない。

水彩紙の耐久性には三つの要素がある!

 一つは紙の酸性度。元々紙の成分であるセルロースは酸にとても弱い。酸に触れると高分子化合物としての結合が切れて、しなやかさが失われて脆くなるのだ。水彩紙の製造時にサイジングという滲み防止加工をする工程があるが、リグニンを含むパルプ紙ではこの過程で使用する液体が紙を酸性にしてしまうのだ。

 もう一つは光のエネルギーによる劣化。セルロースそのものは可視光に対して比較的安定しているが、リグニンはセルロースよりも光の影響を受けやすく、黄色以外の波長を吸収する構造に変わってゆく。したがってパルプ原料の紙は黄ばむというわけだ。
 もっともコットン100%であっても、基本的に高分子化合物は紫外線に弱いという性質を持つ。芸術作品の展示に太陽光が嫌われるのはここにもその原因がある。

 最後は表面のにじみ過ぎを押さえるサイジング剤。水彩紙は吸水率が高いのでそのまま水彩絵の具を垂らすと、キッチンタオルを水で濡らした時のように、しみがどこまでも広がってしまう。
 これでは流石に絵にならないので、適度ににじみが抑えられるようサイジング剤を施すわけだ。このサイジングはとても湿気に弱いらしい。実はにじみ具合や、表面強度、吸水性には文句なかったラングトンを私が最近使わなくなったのは、どうもサイジングの劣化が激しい気がするからだ。
 サイジングが劣化すると、水と共に絵具が瞬時に紙の中に染み込み、表面が黒ずんでしまう。とても絵にならないのだ。

 というわけで、ちょっと説明が長くなったが、練習用と割切るのでない限り人に見せる水彩画を描くには、コットン100%の水彩紙を選ぶことをお勧めする。
 そして水彩画らしい自然なにじみと筆のエッジを活かそうと思うと、表面仕上げはは「中目」がいい。
 「荒目」は凹凸が大きいので塗りにムラが出すぎるし、エッジを効かせにくい。「細目」は凹面に絵具が溜まりにくく、水分が広がってにじみの効果が使いづらいと聞く。

 参考までにお伝えしておくと、私は作品として描くときは、アルシュ、ファブリアーノ、アヴァロン、ラングトンプレステージのいずれかを使うようにしている。今のところこの4種類であればそれほど好みの差は感じていない。

 水彩画にとって一番重要な水彩紙。水彩画家と名刺に書くかどうか、あとはあなた次第だ。

P.S.
さらに水彩紙を極めたいという方は、こちらの記事を読んでほしい→https://miryoku-yoshine.com/more-knowledge-of-watercolor/
今回は紙をテーマにしたが、「塗り」についてもっと知りたい人は「色塗りの基礎技法」(詳細はこちら→)を参考にしてほしい

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