人物デッサンが好きな人へ。光と影の理論を知れば簡単に描ける!?

アグリッパ面取り

人物画は難しい…

 このブログで何度も取り上げたテーマである。
ではなぜ難しいのか?

 この点を論理的に説明した解説書は案外少ないのではなかろうか。
ネット記事の大半は似顔絵を前提に、目、鼻や唇の「輪郭」と「線」のテクニックにこだわった解説書であるような気がする。

 でも「デッサン」が求める顔の立体感は「輪郭と線」で表現するのではない。あくまでも「面と明暗」で表現すべきなのだ。

 今回は顔の立体感を表現するための理論、言い換えれば人物画を描くための「反射と陰影の理論」を正面から確認したいと思う。

 まずあなたが上の石膏像(アグリッパ面取り)をデッサンするとしよう。石膏像は斜め左上からの自然光を受けている。
 この像はご覧のように顔がいくつもの平面に切り分けられている。かつて私は何故こんな中途半端な石膏像を作るのか理解していなかった。

 だが今この石膏像を眺めていると二つのことがわかるのだ。
 一つは面の角度が変わるとその面の明るさが変わること、そしてもう一つは各面は均一の明るさであるということだ。さらに具体的にみてみよう。

 1番明るい部分は鼻の頭だ。
次に左側の頬。全般には鼻の左側が明るく右側が暗い。

 顎の下、首も暗い。ではこのような明暗の序列がなぜできるのか、科学的な理由をあなたはご存知だろうか?

 実はその理屈はそれほど単純ではない。多くの現象、理論が絡んでいる。順に説明してゆこう。

面の輝度について

 顔の明るさを決める大原則は光源の角度とそれを受ける面の角度で決まる。つまり直角に光を受ければその明るく、斜めから光を受けた面は暗く見える。

 科学的にいうと光源からの反射光の強さをベクトルと考え、面の垂直方向の成分がその面の反射の強さつまり「輝度」となる。

 この反射光は「拡散反射(乱反射)」と呼ばれ、どの方向にも同じ明るさで反射する。つまりどの角度から見てもその輝度は変わらない。

 先の多面体で構成された石膏像が面ごとに均一の明るさになるのは拡散光の強さが光の方向との角度だけで決まるからである。

顔の明暗のグラデーションは何故できる?

 上の画像(アグリッパ)を見てほしい。
先ほどの石膏像と違い、顔の明るさは滑らかにグラデーションとなっている。

 人間の顔は曲面で出来ていて左上側から光が当たると顔の正面よりも左側の方が光をより直角に受ける。右下側に行くほど光が当たる角度が小さいため輝度が徐々に低くなるといいうわけだ。

 そしてあるラインを越えると直接光は当たらなくなる。つまりその部分は本来真っ暗で顔は見えなくなってしまうはずなのだ。

 現実はそうではない直接光が当たらない部分でも私たちは顔の立体感を認知できている。その理由は、直接光以外の反射光(周りの壁や床からの)が顔の反対側を照らしているからである。

 そしてその反射光に対しても拡散反射が起こるため、やはり暗い側の顔にも明暗のグラデーションができるというわけだ。

 ただし反射光は途中で拡散、吸収されるので当然ながら直接光よりも弱い。だから左側よりも右側は輝度対比は小さくなる。

 イラストレーターが人物画を描く時、影側を一色で塗り潰してしまっても、とくに不自然に見えないのはそのためである。

 だから「デッサン」とは顔に当たる直接光、反射光の角度と顔の角度の関係で生ずる拡散反射光の強さで決まると言って良い。

顔の陰と影

 陰影(いんえい)という言葉がある。しかし「陰」と「影」は本来違うものだ。先に挙げた反射光による顔のグラデーションはまさに「陰」である。

 一方「影」は光によって切りとられるある「形」が平面に映り込んだものである。当然、この面には光がないので、論理的には一番暗くなるはずだ。

 具体的には鼻の影が唇の上方に、顎の影が首に落ちる。だからその部分は他の面に比べて格段に暗いのだ。上の石膏像の写真を見ても推測できるだろう。

 次に石膏像ではなく実際の人間の顔を思い浮かべてほしい。さらに暗い部分がある。どこだろうか?

 正解は「鼻の穴」だ。

 暗いはずだった鼻の下も首もどこからか反射光を受けるので真っ暗ではない。だが鼻の穴は所謂「くぼみ」であり、その反射光さえ受けないだろう。
だからより暗くなるのだ。

 ただし、忠告しておくと人物画として描くときいかに「濃い」からと言ってはあまり鼻の穴を強調しすぎると「美しい女性像」にはなりにくい。ご注意を。

鼻の頭はなぜ明るい?

 上述した拡散反射と影だけでは明るさが決まらない部分がもう一つある。いわゆるハイライトである。
 具体的にいうと鼻の頭や頬、瞳の輝き、下唇の上側などのきわめて明るいごく小さい部分である。

 なぜこれらのハイライトができるのだろう。
拡散反射は表面の微細な凹凸によってあらゆる方向に反射する減衰した光だった。

 一方鼻の頭に現れる「ハイライト」は「鏡面反射」と呼ばれる。
光源の光が鼻の頭にある入射角で当たると同じ角度で反射する。その反射光は入射光と原則的に同じ強さである。その光源の像が見ている人の目にちょうど重なった時、鼻のその点がまさにハイライトとなるのだ。

 ではなぜいつも鼻の頭にハイライトが現れるのか?

 論理的に言えば顔の曲面の向きと光源と見る人の目の位置が条件に合えばどこにでもハイライトは生じうる。

 ただ、一般に光源は上方にある。従って強い反射光を返すにはその面は上向きである必要がある。

 顔のパーツで上向きなのは、おでこ、鼻、頬、下唇、顎の上面くらいである。

 このうち、額は見る人の目の高さよりも上にある可能性があり、その場合は反射光は目よりも上に行ってしまうだろう。

 残りのパーツのうちハイライトになりやすいのは何か?
ハイライトにはもう一つ条件がある。周囲の面との輝度対比が強いことである。

 これは言い換えると光を受ける面の角度が急激に変化する部分である。もうお分かりだろう。
 曲率が一番急激に変化する部分、それが「鼻の頭」なのだ。

もう一つのハイライトとは?

夏の思い出:加藤美稲

 なお石膏デッサンでは生じないが、実際の人物を描くときにはもう一箇所ハイライトになりうる場所がある。上の人物画(水彩画)を見ればわかるだろう。

 それは瞳である。
理由は眼球が球面であるためかなり広範囲の光源を反射しうること。かつ表面が肌と違い水晶体なので輝きが強いからだ。

 ポスターに使う写真撮影では「瞳の輝き」がレンズに映るように照明の位置をその都度調整するという。

 だがこの理屈をそのまま使うにはちょっと注意が必要だ。
眼は一般に鼻、頬、眉に比べて顔の奥にあり影になりやすい。だから必ずしもイラストやアニメのように大きな瞳が一様にキラキラと光っているわけではない。

 人物画として、バランスを欠かぬよう注意したい。
私の人物デッサンを上手に描くための理論編はこれで終わりだ。

 顔の輪郭や各パーツの「線」にこだわるのはもうやめよう。この記事を読んだあなたの人物デッサンのフィニッシュは決まっている。

 練りゴムの先端を尖らせ鼻の頭にハイライトを入れよう。
これで完成だ!

追加

p.s
 かなり長くて、ちょっと理屈っぽいこの記事を一生懸命読んでくれたあなたは相当の人物画好きだと思う。

 上に述べたように人物画は難しい。私自身描き終えるたびに新たな課題が見えて来ると言ったらいいだろうか?

 でも私は、その解決法を単純に描いた枚数やまして個人の才能に帰する気はない。

私が思うにその鍵は「論理」だと思っている。この記事もその解決法のひとつだと思って書いている。

 論理は相手を選ばないし、スランプもない。
だから論理を知れば誰でも着実に絵をかきつづけ、上達するはずだと思っている。

 このブログで募集している「美緑(みりょく)空間アートギャラリー」は各人が絵を描き、上達し、アートのある生活を提供する仲間のためのグループだ。

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