透明水彩で描く風景、陰と影は何色を塗るべきか?

所子の風景:加藤美稲

水彩で風景画を描く人へ

 冒頭の質問にあなたはどう答えるだろうか?

 黒を混ぜる?・・・不正解だ。このブログのあちこちで伝えているように、ベース色が濁って汚い画面になってしまう。

 多くの色を混ぜて暗い色を塗る?・・・ある意味正解だ。だが「多くの色」とは何色のこと?これを考えないと実際の水彩画は描けない。

 今回は私なりの答えをこの水彩画を例に説明しようと思う。

作品の説明

 その前にこの水彩画の説明をしておこう。スケッチした場所は島根県の所子(ところご、詳細は「鄙びた農村を描く!いい構図を探す方法は?→」を参照)。国の重要伝統的建造物群保存地区であり、静かな美しい村である。

 スケッチブックの大きさはサムホール、使用した水彩紙はファブリアーノトラディショナルホワイトだ。

 丈夫で滲みも美しく、発色も良い。私の好きな水彩紙の一つである。
山陰の地方の秋の風景だ。天気は晴れたり、曇ったり・・・光と影が交錯する、水彩画にうってつけの風景だ。

陰影の部分はどこか?

 水彩で風景画を描く時に一番大切なことは構図を確認すること。これは不変だ。では今回のテーマ「陰影」について考える時大切なことは何だろう?

 それは描く前に「画面の明暗計画」を立てることである。
初心者は、そんなことは考えず、現地で撮影した写真に忠実に明暗を描こうとする。そして大抵の場合うまくいかない。

 何故かというと、写真の影は往々にして強すぎる。大半が真っ暗で色味が飛んでしまっている。
 それをそのまま写し取ろうとすると、水彩画として美しい絵にはならない。影の中にある微妙な色の変化が表現できないからである。

 ではこの水彩画の大まかな陰影計画を説明しよう。以下の3点に注目してほしい。

  1. 手前の道路に落ちる「木や建物の影」
  2. 左の建物の壁に落ちる「屋根の影」
  3. 逆光で陰となった右の建物の「外壁の陰色」

影と陰の色?

①と②の影は③よりも暗い。何故なら直射光を遮る「形ある影」であり、「黒」に近い色である。ただし②は「形ある影」である点は①と同じだが、地面に当たる太陽の反射光が直接壁を照らすため、その足元は明るくなる。

③はさらに明るい。何故なら形ある「影」ではなく、周囲の反射光を壁全面に受ける「陰」の壁面だからである。

以上の計画を立てたうえで、論理的に透明水彩を重ねてゆく。

  • まず①~③の部分だけに黄色(ウィンザーイエロー)を塗る。
    これは陰影部分の目印とするためと、後に赤系、青系の色を重ねた時にこの部分をより暗く見せる効果があるからだ(三原色を重ねると黒に近くなる)。
  • ファーストウォッシュ
    空を塗る。
    山並みを塗る。
    民家の外壁を塗る(今回はローシェンナ)。
    雲や屋根、地面などの明るい部分は塗り残しておく
  • セカンドウォッシュ
    ①~③すべての暗い部分に青(ウィンザーブルーレッドシェード)を塗る。この段階で外壁の影色は黄と青と茶が重なった、やや緑っぽい陰影色となる。③の外壁はこの段階でほぼ仕上げの色となる。
  • 仕上げ
    「影」となる①と②の暗い部分にはさらに紫色を重ね、「陰」となる③の部分には紫は重ねない。

    ②の木目の壁に素材感と明暗を強調する。ローシェンナと赤味の強い茶色(バーントシェンナ)を混色した茶色と紫色(ウィンザーバイオレット)を画面上で滲ませながら描いてゆく。

    ③の手前の道と木の影にも濃い紫色を垂らしてアクセントをつける。

効果の確認

 最初の明暗計画がどうなったか部位ごとに確認しよう。上の水彩画作品をもう一度見てほしい。

  1. 手前の道路に落ちる「木や建物の濃い影色」→黄+ファーストウォッシュ(茶)+青+紫(一部に濃紫)
  2. 左の建物の壁に落ちる「屋根の影色」→黄+ファーストウォッシュ(茶)+青・セカンドウォッシュ(赤茶)+紫
  3. 逆光で陰となった右の建物の外壁の「陰色」→黄+ファーストウォッシュ(茶)+青
  4. 空や道の最も明るい部分→何も塗らない

 つまり、同じ木の壁の色でも白、ローシェンナ、バーントシェンナの明度の3諧調があり、黄、青、紫をその上に部分的に重ねることによりさらに3諧調の明度が表現できると言う訳だ。

言い換えると、この水彩画はできるだけ少ない色数で豊かな明暗表現、色彩表現をしようとして描いたものなのだ。

 「水彩で描く風景、影は何色を塗るべきか?」という冒頭の質問をもう一度思い出してほしい。

 陰影に黒やグレーを混ぜて塗ると、明度と同時に彩度も落ち、色味が無くなってしまう。水彩画としては好ましくない。

 ところが今回使用した技法では黒、グレーを混ぜず、黄、青、紫の透明色を計画的に重ねることにより明暗を表現している。だから陰影部分にも複雑な色が映えて美しく見える。

 デメリットはこの技法は透明水彩でしか使えないこと。不透明水彩(ガッシュ、ポスターカラー等)では一番上の色だけが見えて下の色は消えてしまうからだ。

 私と同じく、透明水彩に興味のある方は是非試してほしい。できればご意見もいただきたいと思っている。

P.S.
 今回のテーマは水彩画で風景の「陰影」をどう描くかだった。もちろんテクニックは他にもある。私自身作品ごとにその効果を検証しながら水彩画を制作していると言っても過言ではない。
 私が会得した最新の技術、その効果については下記「美緑(みりょく)空間アートギャラリー」のメンバーの皆さんにはその都度報告させていただいている。

 水彩画の技術に興味のある方は是非積極的に参加してほしい。メンバー間でも、お互いに役に立つはずだと思っている。

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