水彩画の魅力 「色」とは何だろう?

 水彩画の絵具と色について、このブログで以下のようにいくつかの記事を書いた。
水彩画入門!プロが選ぶ絵具は?
絵具の知識 透明水彩は何故美しい?
有名絵画に見るブルーの秘密
 しかし実は色彩の科学はかなり奥が深く、記事の中で書ききれなかった部分、あるいは記事を書いた時点ではわからなかったが、その後解明できたこと、そして私の中で未だに解決していないことなどがある。

 ここでは、さらに深く「色彩」について私が調べた興味深い事実をお伝えしようと思う。参考にした文献は以下の通りだ。さらに自分で調べたい方は参考にしてほしい。
・世界史を変えた新素材 佐藤健太郎
・いやでも物理が面白くなる 志村史夫
・絵具の科学 ホルベイン工業技術部
・絵画技法と画材の話 第64回日府展関連事業 市民講座 佐藤勝明
・画材の博物誌 森田恒之
・水練顔料に関しての考察 東京学芸大学リポジトリ 速水敬一郎ほか
・光と色彩の科学 齋藤勝裕

■色は何故私たちの目に見えるのか?

 とても原則的な疑問だ。フェルメールブルーが青く見えるのは「青の波長の光だけを反射するから」と前述の記事には書いた。ではどうやって青の波長の光だけを反射するのだろうか?
 これは分子レベルの話になる。物質は特定の波長の電磁波(そのうち400ナノメートルから800ナノメートルの電磁波が可視光)を浴びると、電磁波のエネルギーを分子に蓄え、高エネルギー状態(励起状態)になる。青色絵具は波長の長い光で励起状態になり、そのエネルギーを分子内に蓄える。そして吸収されなかった波長の短い光を反射光として返すので青く見えるのだ。
 高エネルギー状態になった分子は、そのエネルギーを熱として外に出し、元の安定した状態に戻る。ちなみに電磁波のエネルギーは波長が短いほど高いので、放熱するエネルギーも多くなる。つまり赤色の物体の方が青色の物体よりも放熱する熱も多いことになる。太陽の光を浴びた時青色の服よりも赤い色の服の方が暖かく感じるのは理由があったのだ。

■全ての波長を吸収?反射?透過?するとどうなる?

 全ての波長の光を吸収すると黒。では全てを反射すると何色?、そして全て透過するとどうなるのだろう?
 全ての波長光を吸収する物の代表例は墨だ。炭素原子が無定型に集合したもので全ての波長の光で励起状態になる。つまり全ての波長の可視光を吸収するので黒く見える。
 では全ての光を反射するとどうなるか?
 実はこれがややこしい。結論を先に言えば鏡になる場合と白になる場合がある。

 まず水彩紙の白を考えよう。水彩紙の素材は有機化合物であるセルロースであることはすでに別の記事(詳細はこちら→)で書いた。
 そして有機化合物の大半は可視光では励起状態にならない、つまり実は紙は本来透明なのだ。
 そしてその繊維素の直径は水彩紙の原料であるコットンの場合12,000~28,000ナノメートルである。
 可視光の波長は400~800ナノメートルなので、数十倍あり、十分に大きい。この時、光は「ミー散乱」という現象を起こす。
 可視光線の全ての波長が様々な方向に反射されるのだ。繊維素は本来透明なのだが、繊維素の表面で反射される光がある。
 透過した光も次の繊維素の表面で拡散反射され、それがさらに拡散光となって全ての波長が混じり合った光を私たちの目に返す。したがって白く見えるというわけだ。

 次に鏡の場合を考える。セルロースは可視光では励起状態にならない。それに対し鏡の金属は、可視光の全ての波長で励起状態になることだ。
 励起状態になった通常の物体は、吸収した光のエネルギーを熱として外部に放出するため、反射する光としてのエネルギーは小さくなる。
 一方、鏡に施された金属は表面の自由電子の働きで、吸収した光のエネルギーを熱ではなく、光として放出する。だから、反射率はほとんど100%に近い。当然太陽を反射させ私たちの目にあてれば、眩しい。
 それに対して青色の絵具は光のエネルギーを吸収された残りの特定色(青色)の波長光だけを私たちの目に返すので、反射率は低く、当然太陽光のように明るくない。
 通常、鏡の表面は平滑であるので、各波長の光は、反射角に応じて実物と同じ位置に像を結ぶ。この状態が鏡だ。各波長光は全て反射するが水彩紙の様に交じり合ってはいない。
 鏡の表面を荒らすと、反射方向がバラバラに混じり合い、各波長が混じり合う。だからエッチングミラーはある程度像の形は写るが全体は白っぽくなる。
 ちなみに、銀は励起状態になった後、全ての波長の光を返すので鏡になるが、金属により励起状態になった後、発光する波長が違う。金は黄色の波長の光を返し、銅は赤の波長の光を返す。

■無色とは?

 前述したセルロースのように、全ての波長の可視光に励起状態にならない物質は本来無色透明になる。
 しかし径の小さい繊維素が集まって出来た水彩紙の場合は「ミー散乱」により白く見える。
 一方ダイヤの結晶のように単体が波長に対して数千倍~数万倍であり、かつ全ての波長に対して励起状態にならない物体は、ミー散乱しないので表面で反射するか透過するしかない。
 だからダイヤモンドは正真正銘の透明となり「色」は存在しない。もちろんきらめく表面反射と屈折光は存在し、それがダイヤの美しさを際立たせている。

■ちょっと特殊な色もある?!

 黒い墨も白い紙も青い絵具も透明なダイヤモンドも、光が当たる物質が励起状態になるかならないかが、色の有無の原因だった。
 だが実は物質に色があるように見えるのは他にも理由がある。
 「構造色」と呼ばれる色だ。そのうちの一例として、ここでは皆さんに身近で興味のある「空」の色を取り上げる。

 紙の白色がミー散乱によることは先に述べた。それは粒子の径が波長に対して十分に大きく、全ての波長の光を拡散したからだ。では粒子径が波長と同じくらい、つまり空気の分子の径くらいだったらどうなるか。
 これが空が青いのは何故かと言う問いに対する答えだ。
 光は波長と似たようなスケールのとても小さい粒子にあたると、波長の短い(青い)光ほど反射、拡散されやすくなる。この現象をレイリー散乱という。
 その反射拡散が空気分子間で繰り返されるので、太陽の方向を見なくても空は明るく青いのだ。
 だから実を言えば、太陽は「白色光」ではない。青の波長が拡散されているので、太陽を見ると若干赤みを帯びているはずなのだ。
 そして太陽の高度が下がるに従って、太陽光は私たちの目に届くまで大気中をより長く進む必要がある。
 つまり青の波長光は真昼より多く拡散され、目に届くのは一番長い波長の光だけになる。だから夕日は赤いのだ。
 このレイリー拡散による色は、絵具の色にように、分子の励起状態の有無による色とはまったく違う物であることがわかるだろう。

■短波長の光と長波長の光が似た色になる理由

 虹色は一般に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順に並ぶ。
 赤の波長は800ナノメートルくらいで紫の波長は400ナノメートルだ。赤と紫は最も波長が違う色なのに、私たちの視覚ではかなり似た色だ。
 色環も赤と紫は隣り合っている。何故だろう?
 それはこの関係が「倍音」になっているからだという。音楽で言うとオクターブの関係だ。
 400ナノメートルと800ナノメートルエネルギーは違うが同じ色と認識されるのだ。だからいわゆる12色環では赤と紫は隣同士の関係にあるのだ。

P.S.
 この記事のように絵を描くための素養、科学的知識についてはこのブログの「ためになる美術講座」にまとめている。興味ある方は覗いて欲しい。
 今回はずいぶん科学的な記事を書いたが、このブログの本来の目的は絵描きをを目指す人に、水彩画の魅力を伝えることだ。あらためてトップページへどうぞ(詳細はこちら→)。

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