水彩画入門!空と雲の描き方は?

 風景画に必ず登場するのものは何だろう?

 それは空と雲だ。

 空の無い風景画は「風景画」と呼ばない。そして雲の無い風景は計算しつくした心象画かスケッチ時によほど快晴に恵まれたかどちらかだろう。

 今回は心象画ではなく普通の雲のある風景の描き方を考えたい。

目次
1.「雲」でわかる絵描きのレベル
2.「雲」は塗り残し?
3.「雲」の理論を知ろう!
4.「雲」の描画テクニックあれこれ
5.まとめ

■「雲」でわかる絵描きのレベル

 私が子供(小学校の低学年)のころ、初めて行った「県立美術館」で見た風景画・・・展覧会名は全く覚えていないが、おそらく学生の優秀な水彩画展だったような気がする。

 プロではない絵だったと思うが「さすが!優秀賞!」と感動したことがある。どの絵も「空」の表現がとてもリアルだったことだ。

 私がそのころ描いていた空は「青」で塗りつぶすこと。雲を意図して描いた記憶はない。ところが、その県立美術館で見た絵は「雲」がとてもリアルに描いてあった。

 なるほど、「雲が描けないと美術館には飾ってもらえないのか・・・」などと子供心に感じた覚えがある。

それ以来、油絵も水彩画も作家が空と雲にどんな表現をしているか注意深く見るようになった。

■「雲」は塗り残し?

 水彩画の教本を開くとたいてい風景画の描き方が載っていて、雲の描き方も載っている。

 わたしが読んだ本では「雲は絵具を塗らないで白く残す」とある。おそらくほとんどの教本がそう書いてあると思う。

 だが単に白く塗り残すだけでは、リアルな空と雲にはならない。その理由を説明しよう。

■「空」と「雲」の理論を知ろう!

 絵描きのテクニックを考える前に少し、空と雲の理屈を調べよう。まず大抵の水彩画家が最初に塗る空の青。皆さんは何故空が青いかご存知だろうか?

 それは空気があるからだ。もし空気のない月から空の風景を描くと、暗天に白く輝く太陽が見えるだけだ。

 太陽光はいわゆる波長の違う7色が混じっている。月の上から見る太陽は真空中を全ての波長が真っ直ぐ目に届く。だから白い。空は太陽の光を反射するものは何もないので真っ黒だ。

 一方地球には大気がある。大気は窒素、酸素、2酸化炭素などが含まれ、微細な粒子が散乱している。

 太陽の光は大気中でこれらの微粒子に乱反射され、空気中に拡散してゆく。だから地上から見る空は暗黒にならない。ではその空は何故「青い」のか。

 問題は拡散される光の種類だ。大気中の粒子はとても小さいので波長の大きな光は反射されず、通過してしまう。波長の短い青色の光だけが微粒子に反射されるのだ。だから空は青い光で満たされるというわけだ。

 では何故雲は白いのか?

 雲の成分は水滴である。したがって空気中の微粒子に比べるととても大きい。だから全ての波長の光を反射するので白いというわけだ。

 真っ青な空にポッカリと雲が浮かぶ風景。周りの空気は青い波長の光が散乱した背景として青く、そこに浮かぶ水滴の塊はだけが全波長を反射する。だから雲はくっきりと描いていい。

 だが曇天の時はどうだろう?

 曇天とは地上から蒸発した水滴の量が多い場合だ。遠くに見える雲の上部、表面はまだ全波長の光を反射してくれるので白い。だが雲の中に入った光は水滴に拡散され、吸収される。そして下に行くに従い全ての波長の光が届かなくなり、黒に近くなる。

 だから曇天の雲は上部は青空に対してくっきりと描き、下部は徐々に暗く描くのが正しい。その逆は理屈が通らない。雲の中の水滴は気候状態でその密度に差があるので、雲の明暗にもそれが現れる。

 さらに雨雲が頭上を覆う時、本来は同じ水滴の雲であるが、真下にいる私たちには、白い光の反射光は届かず、拡散、吸収された残りの光がわずかに届く。だから雨雲は黒く、昼間でも薄暗くなるのだ。

 ちなみに飛行機の中から雲海をスケッチすると何色の雲になるだろう?

 もうお分かりだろう。どんなに水滴の密度が高い「雨雲」であっても、上から見る雲は全ての波長の反射光である。だから「白い」。

■「空」と「雲」の描画テクニックあれこれ

 先の質問に戻ろう。「雲は塗り残す」このテクニックはウェット オン ドライ(「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→」を参照)で空を描く時はとてもいい方法だ。

 空の青色を雲の形に沿って筆で塗り、雲の内部以外の空を同じ青で塗りつぶせばいい。

 ところが画面の空が広い場合、ウェット オン ドライで空を塗るとムラが出来やすい。空の青をムラなく塗ろうとすればウェット オン ウェットの方がいい。

 この技法で雲を塗り残すと雲のエッジににじみが出る。入道雲のようなシャープなエッジの雲は描けない。そんな時は塗った後、すぐにティッシュ又は布で雲のエッジを鋭くリフティングするしかない。

 それでもドライの状態の筆の筆致に比べると甘さが残る。ムラの無い空と雲のシャープなエッジの両方を表現しようとすると雲のエッジ部分をマスキングインクで保護してからウェット オン ウェットで空色を塗ることになる。

 しかも先に述べたように雲の下部は水分の密度の差により、柔らかなグラデーションのグレーであったり、シャープな形を残すグレーもある。ある程度ドライとウェットを使い分けないとリアルな雲にはならない。

 さらに空の表情は青と白だけではない。朝や夕は空に赤色が混じる。この理由は長くなるのでここでは割愛する。(「水彩画の魅力 「色」とは何だろう?→」に詳しく解説しているので参照して欲しい。)

 青い空の一部が夕陽に赤く染まる・・・こんなロマンチックな風景を描くには、ウェット オン ドライで筆のタッチを活かすよりも、空の青を平塗りし、乾かないうちに赤色を垂らすといい。

 柔らかく自然に混じりあい、透明水彩らしい夕焼け空が描けるだろう。

■まとめ

 いかがだろうか?たかが「空」と「雲」と言えど一筋縄では描けないことが理解してもらえただろう。

 青い空、白い雲という単純なイメージだけではリアルな空は描けない。空も雲も絵具と筆もそれぞれ理屈を知ると使う技法にも納得がいくはずだ。
 なお、いわばこの記事の続編として「透明水彩実践テクニック!空と雲の描き方→」をアップロードしている。是非読んでほしい。

 このブログには本文中のリンク以外にも参考となる以下の記事がある。是非読んで欲しい。

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