ペンと水彩で描く風景画の魅力とは

 透明水彩で風景画を上手に描く方法は?

 透明水彩で風景画を描くとき、その技法は大雑把に言って2つある。 下書きの線を生かして水彩するものと、線は最小限、下書きにとどめ、色だけで表現するものだ。
 前者はいわゆる「淡彩スケッチ」と呼ばれ、いろいろな教本を見ると、柔らかい(2Bくらい)鉛筆で下書きし、薄めの透明水彩で色つけをするという方法が主流だ。
 後者は透明水彩独特の発色と滲みを生かした表現を多用し、鉛筆の線は最後はほとんど消してしまうことを推奨しているようだ。最近の透明水彩を使う画家の作品もほとんどがこちらの方法だ。

 そして私はと言うと、実は両者のいいとこ取りを狙っている。順を追って説明しよう。当初は前者のやり方、つまり鉛筆で下描きをしてから薄く水彩を重ねる方法を取っていた。
 ところができる作品にどうも存在感が足りない。色なのか、形なのか・・・心に引っかかるものを感じながら、ビジネスマンとしての毎日をずっと送っていた。しかしとある久しぶりの休日、一人で横浜にスケッチに出かけた時、一つの発見をしたのだ。

神奈川県立歴史博物館

 その日は連日の仕事の疲れもあり、どうもスケッチブックに集中できない。描きかけた鉛筆の線も気に入らない。
 その頃は建築の設計をしていたせいで、エスキスの道具、パースの道具として常にサインペンを持ち歩いていた。
 そこで、思い切って鉛筆を捨て、真っ白なスケッチブックにいきなり油性の黒いサインペンで描いてみた。
 すると、多少のデッサンの狂いはともかく、白い紙に走る真っ黒な線が創りだす画面に今まで自分が描いていた絵には無い、強さと美しさを発見したのだ。
 その建物は横浜、馬車道にある「神奈川県立歴史博物館」。ご存知の人も多いだろう。明治時代に建てられた名建築だ。それ以来私が描く風景画、特に建築物がモチーフになっているものは、ペンの線と透明水彩のコラボレーションである。

 ペンと水彩で風景画を描く

京都中央郵便局 作者:加藤美稲

 そう決めて、最初に考えた画法は、ペンの線で描かれたパーツを水彩絵具で薄く塗っていくこと。色は基本的にその素材の色を使う。
 この絵は京都の中央郵便局。サインペンでスケッチした後、薄く透明水彩を施している。スケッチブックの紙は薄く、滲み防止加工がされているわけではない。だから透明色の重ねによる美しい発色と繊細な表現はできない。
 そのため色を限定し、重ね塗りをしないことにした。使用したのはレンガ色のバーミリオン、石色のアイボリー、銅板の青緑、後は三原色の混色による濃い装飾の縁取りをサッと塗っただけ。そして最後に画面の一番バランスが取れる位置に青空を描けば良い。
 下書きをしないので、制作時間は短い。A4サイズだが1時間未満でペン描きは終了したと思う。着色も一塗りしただけなので30分ちょっとしかかかっていない。とても効率よい描き方だ。
 もし鉛筆の下描きに同じような素材の色だけを塗ったとすると、単なる塗り絵になってしまうかもしれない。だがインクの上の透明水彩ならば、線の表現が強い分、素材色を薄く重ねるだけで、絵になるのだ。
 「水彩でイラストを描くにはどうしたらいいですか?」という質問を時々聞く。イラストの定義を「対象を明確に、美しい表現で説明する絵」とすれば、まさにこのペンと水彩を使う描き方はイラスト作品にふさわしい。イラストに興味ある人は試してみたら良いだろう。

 しかしながらこの「淡彩スケッチ」の描き方はあくまでペンが主役。水彩は補助に過ぎない。そのせいだろうか、当初は結構満足していたのだが、暫くすると、どうも油絵を描いていた頃の満足感にはやはり程遠いことに気づく。
 どんなにペンでうまく形を取り、どんなに綺麗な素材色を塗っても、そこにあるのはあくまで平面、光や影といった立体感の表現に乏しいのだ。
 もちろん平面の美しさ、面白さを芸術に高めた浮世絵の例もある。でも、スケッチしたときの現地の感動を伝えようと思うとやはり影や立体感、さらなる存在感が欲しいと思うのだ。

 透明水彩で影を描く方法とは?

  さて、ここで考えてみてほしい。あなただったらどうする? 「影の部分に白、グレー、黒を素材色に適当に混ぜて塗ればいい」と思った人は不正解。そのやり方は不透明水彩の場合はある程度当たっているが、透明水彩を使う場合は完全に不正解だ。
 理由は2つある。一つは白、黒、グレーの「不透明の絵具」を使おうとしたからだ。これらの色は塗った瞬間に透明水彩の特色である下の色と重ねて透明感ある色を表現するというメリットを消してしまう。つまり下塗りの色はもちろん、ペンの黒の美しさをも消してしまう可能性がある。
 もう一つの理由は素材色に黒やグレーの「無彩色を混色」しようとしたからだ。これをすると素材色の彩度を極端に落としてしまい、鮮やかな色合いが消えてしまう。つまり黒インクと鮮やかな色の対比の美しさが失われてしまいかねないのだ。

これが私の風景画制作プロセスだ!

  最終的に私が見つけた技法は油絵でよく使うグリザイユ画法を応用することだ。 グリザイユ画法とは彩色する前に白と黒の絵具によるグレーの階調で立体感を出しておいて、後から透明色を重ねるやり方だ。
 ただしこの方法はそのまま透明水彩では使えない。何故なら先に述べたように、白、黒、グレーの不透明色は下塗りの効果もペンの美しさも消してしまうからだ。
 そこで私はグレーではなく、ブルー(プルシャンブルー)の濃淡を使って立体感を出すことにした。プルシャンブルーは青色絵具の中でも特に透明度が高いことと、水加減で濃いブルーから極めて薄いブルーまで、グラデーションが自由に表現でき、ペンの黒さを引き立ててくれる。水彩グリザイユ画法には最適の色だと思っている。

美濃の町並み 作者:加藤美稲

 上図の左がペンだけで描いたもの、右がプルシャンブルーで明暗と立体感を表現したもの、下の図がさらにその上に透明水彩で着色したものだ。
 民家の壁や建具の茶褐色にも背後の山の緑にもその下にブルーのグラデーションが施されている。だから画面に統一感が出るとともに、透明色が重なり合う、優しい表現になる。
 いかがだろう。これが私の水彩画の制作基本プロセスだ。以来、この描き方を続けているが、個展に来たお客様からは当然ながらいろいろな評価をいただく。
 大部分は好意的なコメントなのだが、ある時個展に来ていたお客様から面白いコメントを頂いた。

城塞都市トレド 作者:加藤美稲

 彼が見つめていた絵は、スペイン、トレドの町を描いた絵で、ペン描きだけで何時間もかかった労作だ。
 あまり熱心に見つめているので、気になって話を伺うと、彼は何年もペン画を描いているいるという。だから私の風景画の細密な表現が気になり、使っているペンの種類を知りたいのだという。
 もっとも根っからペン好きの彼は、どうやら私がペンの上に色を塗っているのが気に入らないらしい。画廊を出るとき「ペン画に色を塗るのは邪道だよ」と呟くように私に告げて帰っていったのだ。
 こうして「邪道」と呼ばれながらも、今もペンと水彩で風景画を描き続けている。

新たな技法への挑戦!

  実は最近私の風景画制作プロセスに潜む欠点を感じ始めた。 透明水彩の場合、油絵よりもさらに透明度が高い。したがって、下地のブルーのグラデーションの上に明るい色を重ねると、下のブルー色が強すぎて上に重ねた淡い色が綺麗にでないことがあるのだ。
 さらに明暗をペンとブルーのグラデーションで完全に取ってあるので、その上から塗る絵具はその明暗の境界を意識せざるを得ない。だからたっぷり水を含ませた水彩絵具が偶然生みだす「滲み」のテクニックが使いづらいのだ。
 冒頭に透明水彩の二つの方法のいいとこ取りを目指していると書いた。それが、上記の不満を解消する私の新しい手法だ。
 ペン画による線の美しさを生かしつつ、透明水彩によるグラデーションで立体感を出し、水をたっぷり使ったにじみの面白さで素材感を出すのが狙いだ。
 現在何作かに制作チャレンジ中。ある程度そのプロセスを体系化出来れば、いずれ報告したいと思っている。

P.S.
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 私の活動のうち、今回最後に触れたような作品制作の最新情報、テクニックなどは応募してくれたメンバーに優先的に公開していくつもりだ。
 登録システムはまだ構築中であるが、興味ある方はいずれ、是非、メンバーに加わってほしいと思っている。

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