水彩画は背景が大切?山奥の寺院 円教寺大講堂を描く

 風景画を描くとき注意しないといけないことがある。以前に私が個展を開いたとき来場者にアンケートをお願いしたと書いた(失敗しない個展の開き方→はこちらから)。

 その結果わかったことが一つある。その時の出展作品は人物画よりも風景画の評判が良かった。しかしその風景画の中に実は人気の無いものがいくつかあるあるのだ。そしてそれらの共通点は、画面全体の構図、背景の色、テーマに何の工夫もなく、建物単体だけをスケッチしたものだ。

 私は建築設計をしていたこともあり、洋風であれ、和風であれ建物のデザインが気に入ると、そのディテールを描くことに集中しすぎるきらいがある。そしてその時展示した作品は自分ではその表現に結構満足していたものだった。それだけに、この結果は少々ショックだった。
 しかし当然ながら、絵を見に来た普通のお客様はそんなことに興味はない。絵として美しいかどうかだけが評価の基準だ。
 大切なのは、タイトルを含め、建物、背景、全体の雰囲気を考えて仕上げないとどんなに建物が正確に描けても「風景画」とは認めてもらえないことだ。

 というわけで今日取り上げるのは「書写山 円教寺大講堂」だ。
  円教寺に行くにはまずJR姫路駅からバスで約30分揺られ、終点である書写山のふもとからロープウェイで山上駅まで上がる。そこから15分ほど山道を歩いたところでやっと寺の中心部に着く。
 山頂には都会の喧騒はまったくなく、漂うのは秘境の気配ばかり。山道をさらに奥へ奥へと進んだその先に広場を中心としたこの宗教空間は出現する。
 うっそうと茂る暗い山道を抜けてきた直後だけに、日光が燦々と降り注ぐこの空間に、神々しさを感じてしまうのは私だけであるまい。

 さっそくスケッチを開始する。いつものように下書きはしない。ペンで反りのあるこう配屋根を注意深く描く。そして屋根の木組みや建具など、慎重に描き分ける。ここで気を抜くとまた、建物だけを無造作に描くことになってしまう。
 そうならないポイントは背景となる鮮やかな森の緑と明るい屋根瓦、深い軒の出が生む濃い影の対比だ。これらを描ければ、建物単体だけを描いた「不人気作品」にならずに済むだろう。
 具体的にはいつものようにグリザイユで屋根、森の緑、軒下の明暗バランスを先に描き込んでおく。そしてバーントシェンナ、サップグリーン、セピア等を適当に混色しながら塗ってゆく。(私の風景画の描き方についてはこちら→

 実は悩んだところが一点ある。軒下の暗さをどの程度にするかである。目に飛び込んできた時のイメージは真っ暗だった。油絵ならば、相当暗い部分でも油層(ニス層)の奥の面からの反射があるため、相当暗くしても奥行き感がある。しかし透明水彩の「黒」の部分は薄く塗っただけでまったく奥行きを感じなくなる。それでは困る。
 最終的に軒下を描くのに使った技法は、プルシャンブルーを薄く塗った後にサップグリーンとセピアを混色してさらに薄く重ねてある。垂木のリズムをある程度残すために、さらに濃淡を施している。
 歴史、信仰、人と自然。全てが溶け合う・・・そんな空間が水彩画で表現できれば最高だ。

P.S.
実はこの広場は映画「ラストサムライ」、NHK大河ドラマ「黒田官兵衛」のロケ地として使われていた。秘境の中の日本の宗教空間・・・ドラマの舞台装置としてはいずれもぴったりだったと思う。


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