水彩で描く風景画 播磨の小京都

 数年前のこと。今年のスケッチ旅はどこに行こうかと考えていた時、ふと書棚にある一冊の本が目に留まった。「関西日帰り旅」とある。懐かしい。社会人になりたての頃、初めて住む関西に少しでも早く馴染もうと買い求めたものだ。
 今はインターネットで探すので、この本を見なくなって久しかった。パラパラとめくると、何やら印がついている。

 その場所は兵庫県の「龍野」。旧脇坂藩の城下町で、「播磨の小京都」と呼ばれるほど美しい町と書いてある。
 見ると兵庫県とは言え、相当遠い。当時私は芦屋の深江、会社の独身寮に住んでいて往復すると、最低4時間はかかりそうだった。
 きっとページをマーキングしたものの、連日残業続きで休日にそんな時間をかけて小旅行に行く気は起きなかったに違いない。

「決めた。リベンジだ。」とゴールデンウィークの初日、電車に飛び乗った。幸い今住むのはJR住吉駅の近く。往復3時間少々で行けそうだ。
 JR姫路までは新快速があるので問題なし。ここから「姫新線」というローカル列車に乗る。しばらく行くと、周りはすっかり田舎の風景。ワンマン電車なので自分でボタンを押してドアを開き、ホームに降り立つ。
 駅の観光案内の立札に龍野は童謡「赤とんぼ」の作詞者三木露風の生誕地であると書いてある。思わず町のイメージを想像して、ますます期待は高まった。

駅から町までは歩いて15分ほどだった。

 江戸の文化と龍野の自然がとけあった見事な町並み・・・は、残念ながらどこにもなかった。
 写真を見てほしい。
 あるのは、かつての格子戸を取り払い、シャッターやアルミサッシを嵌め、うだつの横にエアコンの室外機を置き、腰の木羽目をタイルに張り替えた奇妙な建物ばかり。
 あるいはコンクリートブロック塀に白ペンキを塗って、立札に「白壁の通り」とうたう無神経さ。
 絵になるシーンを足を棒にして一日中探したが、「美しい」と思える場所はとうとう見つからなかった。同じ兵庫県、城下町として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている「丹波篠山の商家」(詳細を知りたい方はこちら→)とは保存状態にかなりの差がある。
 「今日は成果なし」と諦めて帰ろうとしたものの、この半分廃墟になりかけた町は間違いなく「地方の真実」である。ならばそれを正直に描くのも悪く無いかと、スケッチしたのが冒頭に掲げた水彩画だ。
 ご覧のように、屋根は崩れかけ軒先は垂れ下がっている。柱の間にはやはりシャッターが取り付けてある。多分その奥を駐車場にしてあるのだろう。でも色はくすんでもう何年も開けた形跡はない。
 たぶん人はもう住んでいないのだろうと思い、スケッチブックを閉じ、帰路につこうとした瞬間、突然シャッター横の扉から人が出て来た。
 どうやら用事は壁に埋め込んだ赤と青の自動販売機のメンテナンスのようだ。建物が変化すると人の生活も変わる。まさにこの町の真実を写す1シーンを見た気がする。

 ここまで、龍野の残念な記事をまとめ、このブログをアップしようとして、ネットを調べなおしたら、とてもいい知らせを見つけた。
 私の嘆きが届いたのだろうか。その後、龍野は町ぐるみで保存運動を盛り上げたらしい。そして令和元年12月23日、全国で119番目の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されたという。その記事を調べたところ、私が先に撮った写真の場所はどうやら保存、改修され美しい町並みに生まれ変わっているらしい。
 私が書いている「日本の風景お薦めリスト」で、本当は評価を△にするつもりだったが、この際◯にランクアップしておく。今からスケッチ旅を計画する人、この龍野をスケッチ候補に挙げてみてはいかがだろうか?

P.S.
冒頭の絵はペンと透明水彩で描いている。「半分廃墟」のイメージが強かったので、グリザイユを施した後、画面の色調はあえてセピア色にしてある。こんな私の描き方に興味のある人は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは?」を参考にしてほしい。
他にも私の描いた水彩画の一部を加藤美稲作品集で公開している。興味ある方は参考にしてほしい。

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