水彩で描く夕日の風景 丹波篠山の武家屋敷

御徒士町武家屋敷群

兵庫県で伝統的な街並みを描くなら…

 ヨーロッパの風景を描くのも楽しいが、日本の風景を描くのも楽しい。特に私は古い日本の町並みに郷愁を感じる。(「美緑(みりょく)空間へようこそ!→」を参照)

 私は神戸に住んでいる。だから日本の風景をスケッチしに行くと言えば、友人はすぐに「京都かい?」と尋ねる。だが実は地元兵庫県にも日帰りでいける、素晴らしい場所があるのだ。

丹波篠山市の特徴

 今回はそのうちの一つ。場所は丹波篠山市。丹波の文化拠点であることを表すために、住民投票により「篠山市」から「丹波篠山市」に名称変更したのは記憶に新しい。しかし変更するだけのことはある。

 この町は旧青山藩の城下町。江戸時代から大正時代までの建物がよく保存されていて、スケッチするにはもってこいの町なのだ。

 特徴的なのは、同じ町に、二つの重要伝統的建造物群があること。通常城下町が重要伝統的建造物群に指定されている場合、武家屋敷又は商家のどちらかだ。


 ところがここは「御徒士町武家屋敷群」と「河原町商家群」の両方が選定されている。地元の文化財の保存意識が高かったのだろう。民俗的資産として「デカンショ祭り」「牡丹鍋」などを大切にしてきたのもうなずける。

 大阪からスケッチに向かう人はJR福知山線の特急に乗れば約1時間10分で篠山口駅に着く。そこから篠山城下町まではバスで15分ほどだ。

河原町商家群 の町並み

河原町商家群 の町並み

 絵を描くのに一番のお薦めは冒頭の写真、河原町商家群だ。
 日本の民家は単純に分けると妻入りと平入りに分けられる。妻入りというのは勾配屋根の三角の形が見える面に入口があるタイプで、平入りは妻入りと直交方向、つまり水平な軒のある方から入るタイプをいう。

 あなたも実家の家を思い出すと良い。どちらのタイプだろうか。どこの妻入り、平入にどういう意味があるかを書き始めるとそれだけで一冊の本が書けてしまう。

 ここでこれ以上説明するのはやめておくが、現在残っている古い町並みでは平入りの民家が軒を揃えて並ぶパターンが多い。この場合は統一感ある美しい町並みとなる。京都の町屋がたいていこれにあたる。

 しかし絵を描こうとすると、平入のタイプは統一感がありすぎて、構図的は面白味にかけるのが欠点だ。

 それに対して、ここ河崎町商家群は妻入りの民家が並ぶのだ。つまり道に面して民家の妻側の三角形が繰り返されることになり、画面にリズムある変化が生まれる。構図的には圧倒的に面白いのだ。

そして昔ながらの「うだつ」「虫籠窓」「千本格子」など江戸情緒を醸し出すパーツも揃っている。是非描いてみて欲しい。

御徒士町武家屋敷群

 一方の 武家屋敷。こちらもちょっと珍しい。というのは、武家屋敷が現代まで残っている場合比較的地位の高い武士の屋敷であることが多い。立派な門構え、広い前庭、蔵、瓦屋根などがその特徴だ。明治の荒波を超え現代までその遺産が残るにはそれなりの資産価値が必要だったのだと思う。

 ところがこの御徒士町は貧しい武士の屋敷が当時のまま残っている。立派な門構えは無し。屋根は農家のような茅葺。庭はまさに猫の額。多分農作物を植えた畑兼用だったのだろう。

 不動産的価値の低いその姿が、現代までそのまま残ったのは奇跡としか言いようがない。これもやはりここ篠山の住民の文化意識の高さのせいなのかもしれない。冒頭のスケッチをした時はもう夕暮れ時。赤く染まる逆光の空に浮かびあがる武家屋敷のシルエットが印象的だった。

P.S.
 大正時代の建物としては、「旧篠山地方裁判所」「旧篠山町役場」が残っている。今は前者は 美術館、後者は観光センターとして土産物を売っている。どちらも建築単体として十分絵になる建物だ。

 篠山城は残念がながら残っていないが城址も美しい。城の石垣と取り囲む堀の水面に映る豊かな樹木の緑は、「水彩画」向きだと言っておこう。

P.S.
このブログでは以下のような関連する記事を書いている。興味のある人は参照してほしい。


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4件のコメント

[…] P.S. 「平入り」と「妻入り」について「平入り」とは切り妻屋根の軒方向から入る形式、「妻入り」とは軒と直行方向、三角形が見える側から入る形式のこと。全国的には平入の町並みが多い。妻入りはこのブログで取り上げた篠山市河原町の商家群(詳細はこちら→)など少数派だ。 […]

[…]  江戸の文化と龍野の自然がとけあった見事な町並み・・・は、残念ながらどこにもなかった。 写真を見てほしい。 あるのは、かつての格子戸を取り払い、シャッターやアルミサッシを嵌め、うだつの横にエアコンの室外機を置き、腰の木羽目をタイルに張り替えた奇妙な建物ばかり。 あるいはコンクリートブロック塀に白ペンキを塗って、立札に「白壁の通り」とうたう無神経さ。 絵になるシーンを足を棒にして一日中探したが、「美しい」と思える場所はとうとう見つからなかった。同じ兵庫県、城下町として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている「丹波篠山の商家」(詳細を知りたい方はこちら→)とは保存状態にかなりの差がある。 「今日は成果なし」と諦めて帰ろうとしたものの、この半分廃墟になりかけた町は間違いなく「地方の真実」である。ならばそれを正直に描くのも悪く無いかと、スケッチしたのが冒頭に掲げた水彩画だ。 ご覧のように、屋根は崩れかけ軒先は垂れ下がっている。柱の間にはやはりシャッターが取り付けてある。多分その奥を駐車場にしてあるのだろう。でも色はくすんでもう何年も開けた形跡はない。 たぶん人はもう住んでいないのだろうと思い、スケッチブックを閉じ、帰路につこうとした瞬間、突然シャッター横の扉から人が出て来た。 どうやら用事は壁に埋め込んだ赤と青の自動販売機のメンテナンスのようだ。建物が変化すると人の生活も変わる。まさにこの町の真実を写す1シーンを見た気がする。 […]

[…]  庭は結構な広さがある。しかも写真右端にある木戸をくぐるとさらに広い本格的な奥庭が広がっているのだ。以前にスケッチした丹波篠山の百石取りの貧しい武士の住居(「水彩で描く夕日の風景 丹波篠山の武家屋敷→」を参照)に比べれば座敷も庭もずいぶんと広そうだ。どうやらみちのくの土地の安さは昔から変わらぬようだ。 […]

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