風景画の構図を考える! 美山町の茅葺の里

茅葺の里とは?

 京都府の北部に「美山町」という村がある。1993年に重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。

 とんでもない山奥で、鉄道の駅など近くにはない。数年前に気の合う仲間と訪れたが、当然移動手段は車しかなかった。

 私は最近車を運転しなくなったので、もし一人であれば行けなかった場所だ。もっとも最近は本数は少ないが京都駅から直行バスが出ているそうだ。もしあなたが一人でスケッチ旅をするならそのバスを利用するのがよさそうだ。

 さてこの時は、友人たちとの団体行動なので、本来スケッチの時間はとれないはずだった。でもせっかく重要伝統的建造物群保存地区に行くのならせめて一枚だけでもスケッチしたいと、旅の幹事に無理を言って、30分だけ自由行動を許してもらった。

構図を決める!

 今回のテーマは「構図」だ。別の記事(「江戸の風景をスケッチ!美濃紙の町→」を参照)でも触れているが、「構図」は風景画にとって一番大切な要素と言っていい。
 この時は団体行動なので、勝手な行動で遅刻は許されない。じっくり歩き回り構図をあれこれ選んでいる暇はないのだ。

 単体の茅葺の建物で保存状態の良いものはかなり残っている。私が選んでいる「ここを描きたい日本の風景!→」にふさわしい。
 しかしどうせなら町の雰囲気を伝える絵にしたい。つまりより多くの茅葺屋根を画面に入れた構図にしたいと考え、田畑の向こう側のあぜ道から描くことにした。

構図の工夫

最初の案

 初めに描こうと思たのは一番左の写真①だ。
だがご覧のように、ここまで離れると、茅葺でない民家が多く画面に入ってしまう。
 具体的に言うと瓦葺に葺き替えたり、茅葺屋根の上に金属屋根をかぶせてしまった家屋が相当ある。はっきり言って私好みの水彩画にはならない。
 時間がないので、再度駆け足でもっといい場所を探しまわる。自由な位置から描けるわけではない。あぜ道の上からといいう条件だ。

二つ目の案

 そしてやっと見つけた場所が②の写真だ。近景の畑、中景の民家、遠景の杉林と空がバランスよくおさまっている。

 だがこの写真の構図のまま絵にするには2つ問題がある。
 一つはこの日持参したスケッチブックが0号の小さなサイズであること。だから中景の茅葺屋根の民家一軒一軒が小さくなりすぎて雰囲気が出しにくいこと。
 もう一つはこのままの構図では画面の両サイドに、本来描きたくない瓦屋根の家屋も入ってしまうことだ。

 そこでモチーフを拡大する。すると③の写真のように茅葺の屋根の家屋だけが画面に残る。だがこの場合杉林も拡大されるので必然的にスケッチブックから快晴の空が消えてしまう。残念だ。

絵は実物のとおり描く必要はない!

 さてこんな時、あなたならどうするだろうか?

 そう、山を実際より低くすればいいのだ。
 私がこの時描いた水彩画は右端の写真の構図と田畑と民家、杉林まではほぼ同じ。その上方の山の高さだけを半分にしてしまったのだ。

 すると空も画面に入り、広がりが感じられて構図上の収まりがいいだけでなく、「青」空という緑以外の色も現れるので、水彩画としてとてもバランスが良くなるのだ。

 写真家ならこんな芸当はできない。絵描きならではのテクニックといえる。
 結局スケッチに実質使えたのは20分ほどしかなく、正直言うと「作品」としてお見せできるものではない。

 だがこの風景をそれなりに自分のものにしたという満足感は十分に残った。こんな時もあると・・・。

P.S.
関連する記事は以下の通り。興味のある方は参考にしてほしい。

■今回の旅は本来がスケッチ旅ではなかったので、茅葺の民家を十分に見たとは言えない。茅葺をスケッチするなら下記の合掌造りの民家が素晴らしい。

■スケッチ旅について

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