透明水彩で描く風景 知覧の武家屋敷

知覧の春 作者:加藤美稲

 鹿児島県南九州市にある「知覧」は旧日本軍の特攻隊の基地があったことで有名だ。今でも「知覧特攻平和会館」に戦死した特攻隊員をしのぶ展示がなされている。
 その悲しい歴史には同じ日本人として、心を一つにするために、是非足を運びたい。

 さてこの知覧にはもう一つ有名な名所がある。伝統的建造物群保存地区である、「知覧の武家屋敷群」だ。
 一般に格式の高い武家屋敷は塀と門が立派だ。このブログでも触れている「角館の武家屋敷」(詳細はこちら→)のように、前庭があり、家屋は奥の方にあるので外から見えないようになっている。
 特にここ知覧の武家屋敷は石垣と生垣からなる景観と生垣の向こうにある各家の庭園のデザインが琉球庭園に通ずるものがあり、歴史的価値が高いことが評価されて重要伝統的建造物群保存地区に選定されたという。

 写真を見るとなるほどとうなづける。とても立派だ。普通の観光客は大満足だろう。最初は私も珍しい町並みに町歩きを楽しんでいたのだが、延々とこの風景が続きいつのまにか町外れまで来ていた。えっ?これで終わり?
 確かに生垣は綺麗で立派だが私のように、建築や町のデザインに興味があり、絵になる構図を求めてやって来た絵描きには、生垣だけの町は全く面白味がない。
 建物も通りからは全く見えないから、構図にも工夫の余地があまりない。ならばと、入場料を払いいくつかの庭園を見たが、琉球庭園の影響を受けているためなのか、同じ枯山水でも京都の龍安寺のような本格的な庭園に比べると、南国の色が強すぎてやはり違和感がある。だからこれも絵にならない。

 散々歩き回った末、これといった成果がなく今回は「外れか」と諦めかけたところ、道に面した仮塀の隙間から鮮やかな黄色の地面が目に映った。何だろうと中へ足を踏み入れると、一面に菜の花が咲き誇り、その向こうに藁葺きの民家が建っている。かなり小さいので武家屋敷の母屋ではないだろう。だがこの光景はしっかり私の目に焼き付いた。
 あわててスケッチブックを開き描いたのが冒頭の絵である。

 絵の解説を少ししておこう。スケッチブックの大きさはSM(サムホール)。残り時間があまりないときによく使うサイズだ。(スケッチブックサイズについてのアドバイスはこちら→
 私の風景画の基本的な制作プロセスはこのブログで詳しく書いているので参照してほしい。(詳細はこちら→)。サインペンで輪郭を描き、透明水彩を施している。
 今回のポイントは菜の花なので、まずその部分をマスキングインク(マスキングインクの詳細はこちら→)で隠しておく。影の部分を先に塗り(グリザイユ画法)、乾いてから全体に色を重ねる。そして最後にマスキングインクを剥がし、そこに菜の花色つまり鮮やかな黄色、ウインザーイエローを塗ってやれば完成だ。

 実はこの絵はその段階で最初の個展に出品したが、その後もう一回修正している。以前に水彩画上達法(詳細はこちら→)で書いたとおり、私は一度完成した絵に再度筆を入れることをタブー視していない。
 当時はそれなりに満足していたのだが、菜花の鮮やかさがまだ表現しきれていないと思い始めたのだ。
 ウインザーイエローは水彩の黄色としては申し分無く鮮やかだ。だが透明水彩の場合、油絵と違い紙の白さがどうしても透ける。だから明度は高いが彩度は油絵ほど高くならないのだ。
 しかも一度塗った色は、その上からどんな修正を加えても、それ以上に鮮やかになることは絶対にない。(透明水彩絵具の技術的知識についてはこちら→)

 ではどうするか。答えは、周囲の色の彩度と明度を下げることだ。そして相対的に菜花の鮮やかさを上げるのだ。
 ただし注意してほしい。最初に描いてからあまりに時間が経っていると、水彩紙(水彩紙について詳しく知りたい人はこちら→)が劣化して風邪引き状態になっている可能性がある。その時は諦めた方が良い。思う色に着彩ができず、菜の花の部分まで濁ってしまう可能性があるからだ。
そうなると取り返しがつかない。その絵は失敗作だ。この水彩紙はラングトンだったが、幸いほとんど劣化していなかった。明暗のバランスを壊さないように、再度慎重に筆を入れ、私の「知覧の春」完成だ。

P.S.
私の水彩画はこのブログの作品集で公開している。興味ある方は覗いてほしい。

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