北前船の町で見たものは

能登半島をひたすら北へ

能登半島を旅する

 五月。風は涼しく、陽光も心地よい・・・休日はゆっくり家で・・・などとは言っていられない。もうすぐ梅雨、私の好きな水彩スケッチ旅が出来なくなる季節なのだ。

 その前に少しでもスケッチをというわけで能登半島をひたすら北へ、石川県輪島市門前町「黒島」に向かった。

 ここは「重要伝統的建造物群保存地区」に平成21年選定されている。江戸時代、北前船の船主が住んだ町として栄えた。今回の目的はこの有名な海辺にある江戸の町並みを水彩画にすることだ。

黒島とは

 しかし旅の下調べをしてみると、ここはとんでもなく不便なところだった。グーグルで調べると私の住む神戸から何と8時間20分もかかる。その最大の理由は2001年輪島まで通っていた鉄道が今は廃線になったからだ。頼みの綱はバス。しかし隣町の「門前」から「黒島」へ入るバスは朝夕一本ずつしかない。「目前」まで来ながらバス停で2時間、乗り換え待ちしなければならないのだ。

出迎えてくれた日本海の荒波
海の見える町「黒島」

 しかし5月の陽光に輝く日本海の荒波に出迎えられる気分は最高だ。穏やかな神戸の海とはまったく違う風情を見せてくれる。

黒島の町並み

 町も「重伝建」に選定されただけあって当時の町並みを良く残している。屋根は艶のある黒瓦。外壁はグレーに塗られた下見板張り。素材の統一感があり絵になるシーンは多い。ただ個人的な好みでいえば切妻屋根の平入と妻入りが不規則に混在していて、画面に収まる町並みの構成美としてはやや劣る。残念だ。

海に生きる町の未来は?

 夕方着でロケハンし、翌日4枚のスケッチを描き終えた。とても満足するスケッチの旅だったが、気になったことがある。この日は土曜日で休日なのに私が絵を描いている間、他に観光客の姿を一人も見なかった。

 さらに町には飲食店が一軒も無く昼食を取ることもできない(もっとも田舎のスケッチでは良くあることなので、私はチョコやビスケットを携行することにしているが)。

 観光客のための施設は角海家が公開されているが北前船資料館や公共トイレに隣接する公民館らしき施設は鍵がかかってやはり人気(ひとけ)が無い。

町には空き地も目立つ

 ご覧のように町並みも所々歯抜け状態で空き地のぺんぺん草がやけに元気で逆に悲しさが漂う。町並みのデザインをまったく無視した建物もちらほらある。観光で町おこしをしようとしているようだが、今の町の様子を見る限り未来は明るいとは思えない。

 スケッチを終え、バス待ちの2時間を避けるため、隣町のバス停まで歩こうとリュックを担いだ時、民宿のお爺さんが「軽トラで送ってあげる」と優しいひと言。炎天下40分の歩きは正直つらい。本当にありがたい一言だった。

 そういえば、すれ違った住民たちは皆、「いらっしゃい。ようこそおいでくださいました。」と声をかけてくれたし、子供達も僕の脇に来て「こんにちは。おじさん、絵上手!」などと話しかけてくれる。この子達の故郷が消えるのはやはりさびしい。町の中で暖かい言葉が交わされるうちはまだまだ大丈夫と思いたい。

P.S.
 このブログには以下のような関連する記事を書いている。興味のある人は参考にしてほしい。

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■風景画の描き方について


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