私がクロッキー帳をいつも持ち歩く理由は?

私のクロッキー帳から!

 以前にこのブログの別の記事で「デッサン力を磨く一番の方法は、自分の日常をアトリエにすること」と書いた(誰にでもできるデッサン練習方法とは→を参照)
 冒頭のクロッキーはずいぶん前のクロッキー帳に描かれた一枚だ。今回はそんな「日常をスケッチ」した体験談をお伝えしよう。

ジャズなんて…!

 私が好きな音楽ジャンルは一般的にはあまり人気のないクラシック音楽だ。そして全く聴かないのがジャズ。学生時代、ジャズ好きの友人の下宿で(クラシックと対極的な?)散々耳障りな癖のある音を大音量で聞かされて以来、どちらかと言えばロックと共に「嫌いな」音楽だった。

 そんな私が、ある晩飲みに行ったバーのママから「神戸ジャズストリート」のお得なチケットがあるから買わないかと勧められた。

 「ジャズ」という単語を聞いて、内心乗り気はしなかったが、「それ何?」と聞いてみた。すると、神戸三宮の北野坂一帯のライブハウスでプロのジャズミュージシャンの演奏をはしごして聴くイベントだという。
 ジャズに興味のなかった私は、神戸が日本のジャズファンのメッカなのだということをまったく知らなかった。

 この企画も開始は1982年、今では全国的に有名で演奏者も、ファンも毎年その日を楽しみに日本中から集まってくるという。
 そこまで聞くと神戸の住民としては、さすがに興味を覚え、家族サービスのつもりでチケットを購入した。

これがジャズか!

 さて、当日、最初に入った店は「ソネ」。こちらも1969年誕生のジャズの生演奏を聴かせる老舗だ。この時が私にとって生まれて初めてのジャズライブだった。昼間なのに店内は暗く、周りにいる場慣れした人たちは、皆すでに酒を注文し、演奏開始を待ちわびている。

 そのちょっと「不健全な雰囲気」に一瞬尻込みしたが、もともと酒は嫌いではない。音楽も学生の頃に感じた耳障りな音色は無い。何より演奏に熱心なファンが酔いしれている姿がいい。

 「ジャズもいいじゃないか!」と長年抱いていた低評価をぐっと格上げし、次の店に向かう。店の名前、演奏場所の詳細はあまり覚えていないが、「インドクラブ」「神戸バブテスト教会」「神戸倶楽部」などを巡ったように思う。

 この頃になると周囲の人の興奮に感化され、すっかりにわか「ジャズファン」になってしまった。そして最後に入った店が「GREEN DOLPHIN」という店だった。

思わずスケッチ!

 幸い最前列が空いていた。例によって薄暗い店内。演奏者の紹介が終わり、曲が流れ出す。もはやすっかり馴染んだ光景だ。

 そこで私の目に止まったのは右前方のベースの演奏者。かなり年配の日本人だ。特にハンサムな男というわけではない。坦々とベースのリズムを刻んでいる。
 だが耳に入る音よりも気になったのは、演奏する仕草。派手なパフォーマンスがあるわけではない。特に美しいというわけでもない。
 表情、手、身体の動きとポーズが実に大人っぽい。これを「しぶい」というのだろうか。

 この日は、絵を描く気は全く無かったのだが、語りかけるような演奏の一瞬、一瞬が目に焼き付いて消えない。気がついたら、クロッキー帳を取り出してその姿を描いていた。それが冒頭のクロッキーである。

 ジャズを「聴く」ために出かけたが、結局一番私の印象に残っているのは、ジャズの魅力をスケッチしたことだった。

 やはり私は本当の「ジャズファン」にはなれないようだ。じつはそれ以来一度もジャズのライブハウスに行ったことがない。

 皆さんにもこの店を紹介しようと、改めて店のことをインターネットで調べてみた。店の名前 GREEN DOLPHIN は有名なジャズの曲名から来ているらしいことが分かったものの、店の場所は見つからない。どうやら閉店したようだ。残念だ

 実を言えば、水彩画の上達だけを目指すのなら、こんな街角クロッキーなど何の意味もないと思うかもしれない。でも違うのだ。
 一つは「面白い!」と思う自分のタイムリーな感覚を大事にすること。もう一つは短時間で描く線に「集中」する癖を見つけられるからだ。

 

P.S.
このブログに「街角スケッチ→」というカテゴリを作ってある。今回のように「日常をアトリエに」した私のアウトプットを収納する場所だ。興味ある方は覗いてみてほしい。

P.P.S.
街角スケッチは基礎練習として有効だ。だが人物画を本格的に始めようと思った方には、やはり本格的な人物クロッキーをお勧めしたい。このブログの「人物画の基礎 クロッキーの道具と描き方→」を参考にしてほしい。


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1件のコメント

[…]  つまり、朝起きてから仕事にゆき、眠るまでの空間をアトリエにすれば良い。日常生活の中で気になったシーンをすぐ記すクセをつけるのだ。 仕事をサボれといっているわけではない。当然、あるページには仕事のメモがある。しかしそれ以外のページには、あなたの日常があふれているようにするのだ。 上のクロッキー帳はすべて私の過去の日常の一ページだ。ビジネスの記録はさすがにここに出せないが、それ以外のシーンをちょっと取り出していみた。参考になると思う。 ①図は若いころ、友人に子供が生まれ、遊びに行ったときにその子供をスケッチしたものだ。この子も今は結婚して子供がいる。(詳細記事はこちら→)②図は神戸ジャズフェスティバルに出かけた時のスケッチだ。ベースを弾く演者がかっこよかったな。(詳細記事はこちら→)③図は若いころ、設計のコンペに自主応募しようかと帰りの電車内でスケッチしていたものだ。結局仕事が忙しくてコンペには出せなかったが。(詳細記事はこちら→)④図は仕事が終わって、絵の好きな仲間が集まるクロッキー会に出かけた時のもの。仕事に大きなクロッキー帳をもって出かけるのは気が引けるが、会社のノートがこのクロッキー帳なのだから、便利なことこの上ない。⑤図はプライベートで旅行に行ったときの宿泊したホテルの部屋をスケッチしたもの。当時ホテルを設計していたということと、河童さんのイラストがいいなと思い結構まねて練習していたのだ。⑥図は仕事が終わったあと、建築主の接待に付き合って出かけた銀座のクラブの歌手のクロッキー。バブルのころの思い出だ。⑦図は帰りの電車で正面に座って眠っていた男性のスケッチ。「終電車の風景」だ。⑧図は上海に出張したときのスケッチ。すべての仕事を終え、帰りの飛行機に乗る前の空き時間を利用して焦って描いたものだ。 […]

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