透明水彩で描く風景画 アルハンブラ宮殿

 言わずと知れたスペイン、グラナダのアルハンブラ宮殿。有名な写真はいくらでもある。
 世界遺産としてテレビでも何度も放映されているだろう。でも敢えて言いたい。自分で描いた一枚は特別な存在だ。その時その場所で感じたことが必ず絵に現れているからだ。

 絵描きとしてのスペインの歩き方はすでに記している。(カテゴリ「スケッチの旅海外編スペイン→」を参照)
 今回は私が描いたアルハンブラ宮殿の水彩画制作プロセスとテクニックについて述べようと思う。

その絵の狙いは何?

 私は風景画を描く時、筆やペンを走らせる前に、何故このシーンを描こうとするのか自問することにしている。

 ただ単に「綺麗!」で済ませただけではその後の描画方針が決まらないからだ。その意味ではこのアルハンブラ宮殿の水彩画はいい例になる。

 この絵を描いたのは3月。グラナダの3月はすでにかなり温かい。昼間は汗ばむこともある。

 そんな気候のもと、私がこの光景を見た時の感動を具体的に記そう。

  • 宮殿の建築的な造形の美しさ。
  • 城壁を囲む春めいた樹々の色。
  • 宮殿の背景となるシエラネバタ山脈にはいまだ真っ白な雪。

 言ってみれば悠久の時を刻んだ宮殿と移ろう春の色、冬の名残り、この三つの対比が面白いと思ったのだ。

ふさわしい制作手法を考えよう

 そしてその対比を、ペンの線、水彩画の魅力である微妙な淡い色調と紙の白との対比でいかに効果的に表現するかを考えるのだ。

具体的に記そう。

 全体にグリザイユを施した後は画面の雰囲気に相応しい色を塗っていく。この絵の場合は、春の樹々に新芽が吹き始めた様子をウインザーバイオレットとサップグリーンで表現した。

 建物は土、石の色でローシェンナー、イエローオーカーが主体だ。背後の山はビリジアンにプルシャンブルーを混ぜている。いわゆる空気遠近法だ。

 そして最後にシエラネバタ山脈の雪部分のマスキングインクを剥がす。すると雪の部分は水彩紙の白が浮き出て、すでに塗り終えた空よりも明るく、白くなる。

 空と山の明度対比は論理的にはあり得ないと思うが、印象的にはこの方がいい。ただしそのままだと山脈全体が白すぎて画面の中で違和感があるので影の部分にプルシャンブルーを塗り、周囲と馴染ませる。
これで完成だ。

参考記事

 今回はこの水彩画独特のポイントを記したが、水彩画全般については以下の関連記事を参考にしてほしい。
■カテゴリ「絵画上達法→
■わたしの水彩画作品実例は「加藤美稲水彩画作品集→

 水彩画の基礎については
■「水彩画入門!これだけ揃えれば十分?→
■「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→
■「水彩画を始めた人へ!プロが選ぶ絵具とは?→
■「透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?→
■「水彩画にふさわしいグリザイユ画法とは→

 風景画については
■「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→
■「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方→
■「建物のある風景の描き方→


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2件のコメント

[…]  上図の左がペンだけで描いたもの、右がプルシャンブルーで明暗と立体感を表現したもの、下の図がさらにその上に透明水彩で着色したものだ。 民家の壁や建具の茶褐色にも背後の山の緑にもその下にブルーのグラデーションが施されている。だから画面に統一感が出るとともに、透明色が重なり合う、優しい表現になる。 上図は日本の町並みだが、この手法はヨーロッパの風景でも通用するようだ。スペインのアルハンブラ宮殿を同じ手法で描いているので、プロセスも併せて参考にしてほしい(詳細はこちら→)。 いかがだろう。これが私の水彩画の制作基本プロセスだ。以来、この描き方を続けているが、個展に来たお客様からは当然ながらいろいろな評価をいただく。 大部分は好意的なコメントなのだが、ある時個展に来ていたお客様から面白いコメントを頂いた。 […]

[…]  水彩画を精力的に描き出したあなたへ。 このブログでお勧めしたような水彩紙、筆、絵具などの「描く」道具についてはもう理解していただいていると思う(カテゴリ:絵画上達法を参照)だが透明水彩は紙の「白」を塗り残すのが基本。だから絵具から下地を「隠す」道具が必要だ。それが「マスキングインク」だ。その基本的な使い方については「水彩画の道具マスキングインクって何?→」ですでに触れた。この記事を読み進める前に目を通してほしい。 また、私の作品紹介で以下に具体的な使用例を記しているので、参考にしてほしい。 「水彩画入門色塗りの基礎技法を覚えよう!」 「ペンと水彩で描く風景画!ミラノ大聖堂を描く秘訣は?」 「水彩で描く風景 角館の武家屋敷」 「水彩で描く風景画 相倉と菅沼の山村」 「水彩で描く風景 世界遺産姫路城」 「水彩で描く風景画 アルハンブラ宮殿」 […]

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