水彩で描く風景 絵のような町?ローテンブルク!

マルクス塔

 ドイツのローテンブルクはロマンティック街道と古城街道の交差点にある町だ。そして言わずと知れた観光客人気NO.1の町でもある。その理由は町を囲む城壁と内部の町並みが中世のまま残っているからだ。
 絵描きとしては、張り切らざるを得ない。ガイドブックによれば町の大きさは東西1km、南北1.2km、全長3.4kmほどとあるので、観光だけであれば半日で回れる規模だろう。
 だが今回、敢えてこの町で3泊し、腰を落ち着け、じっくりと絵を描くことにした。

 実は私はスケッチ旅行の時、いつも駅から歩いて行けるホテルを取ることにしている。
 海外のタクシー運転手があまり信頼できないことと、チェックイン時に重いスーツケースを引いて駅からホテルまで石畳(日本と違い、ヨーロッパの歴史ある町は今でもほとんど石畳だ)の上を歩くのが辛いからだ。
 この町も駅からタクシーこそいらないが、城内のホテルを取ると最低15分以上歩くことになる。ホテルが町の入り口から遠ければ30分近く歩く羽目になるかもしれない。もし城中のホテルを予約する場合は場所を事前に確認しておくことだ。

レーダー門

 駅前のホテルにチェックインし、早速城門に向かう。この小さな門が町の入口、レーダー門だ。
 かつてはいかめしい門番が守っていたはずの堅牢な門だが、見た目は実に可愛らしい。素材は石と漆喰だろう。周辺の樹木の緑と実によく調和している。門を早く潜りたい気持ちを抑えまずはここで一枚スケッチしよう。

 門をくぐると、現れたのは、まさに中世の世界。冒頭の描いた私の絵の通り、おとぎの国に来たようだ。
 通りに面して赤い屋根、ハーフティンバーの民家が建ち並ぶ。その正面にあるのは時計台のあるとんがり屋根のマルクス塔だ。
 塔の外壁に銃眼があり、塔の足元のアーチの向こうにはさらに町並みが続いている。城壁の中にさらに城壁があるイメージだ。調べてみるとここがはるか昔のこの町の城門だった。
 塔の右隣、三角屋根のてっぺんに奇妙な皿のようなものが載っている。さらによくみると、何やら動くものが・・・どうやら鳥が2羽羽を休めているようだ。
 ホテルに帰ってから調べてみると、この鳥はコウノトリでこの町の名物になっているそうだ。
 「コウノトリ」はドイツの国鳥、そして昔から赤ん坊と幸福を運ぶ鳥として大切にされている。ローテンブルクは微笑ましい伝説を大切にする町でもあったのだ。

 さて、少し冒頭の水彩画の解説をしておこう。
 画材はいつものようにペンと水彩だが、今回の題材は街中の風景。川や山など緑豊かな自然の要素がない。建物がメインだ。こんな時はいつも以上に構図に気を配りたい。
 この絵では道に沿って並ぶパースペクティブな建物の迫力とそれを受けるアーチのあるマルクス塔をセットにすることで単調な構図になることを避けている。そして中央上部ににコウノトリの巣を配して、画面に緊張感を与えている。
 漫然と描き始めると決してこういう構図にはならない。注意してほしい。
 そして「建物」を描く時は、いつも以上に正確に影を描こう。この絵でも私の風景画作法とおり(詳細を知りたい方はこちら→)、グリザイユ画法で影を入れてから、彩色している。
 ただし、メルヘンチックな雰囲気を大事にしたかったので、通常より陰を薄めにし、赤系の色は派手にしてある。いかがだろうか?

 見所をもう少し探ろう。マルクス塔を潜り、右へ2街区ほど行くと、もう一つの城塔、「ヴァイサー塔(白い塔)」がある。
 この塔に向かう道の両側に建つ建物。屋根の赤い色も壁の漆喰の白も、ハーフティンバーの建築様式も完全に中世のものだ。
こんなに観光客に人気があって、メルヘンチックな美しい町なのに意外なことにユネスコの世界遺産にはなっていない。
 正確な理由はよくわからないが、建物をよく見るととても綺麗で案外新築が多そうだ。この写真にある建物も外観は中世だが中身は実は近代的なホテル。「本物」でないことがその理由なのかもしれない。
 ただ住民の町とその歴史に対する愛着は並大抵ではなさそうだ。新築であっても現代の材料を一切使わず、石や木や漆喰で作る苦労は想像するにかたくない。
 駐車場は観光客の目線、あるいは鳥瞰のカメラ目線からは見えない位置に巧みに設計されている。

 私が一番驚いたのが衛星放送のTVアンテナ。なんと建物の色に合わせて色がついている 。緑の外壁につくアンテナは緑に、赤い屋根の上に付くアンテナは赤に塗られていた。ここまで気を使う住民がいるとは、長年古い町並みをことさら意識してきた私にとって初めての経験だった。

 この日、周囲を役場の建物で囲まれた「マルクト広場」で、とある楽団が演奏していた。
 ここは市民が集う町の中心。広場に面して小洒落たバーがある。さっそくその音楽を聴きながら、石畳に据えられた古めかしい木のテーブルで名物のフランケンワインを飲む。もちろんスケッチブックを広げて。

 町の周囲を囲む城壁を出ると、中世の商人が通ったであろう石造のローマ橋がある。
 町を出て、草原からローマ橋越しに見るローテンブルクの町はこれまた美しい。大聖堂とそれに連なる民家も、所々にある公園の緑も全てが絵になっている。
 私にとって絵のことだけを考えた、充実した3日間が終わった。

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