透明水彩で描く人物画 デッサン編!

この鉛筆デッサンの目的は何だかわかるだろうか?

 「人物画の基礎練習!」と思った人は不正解。私は単なる練習のために安くはない水彩紙に時間をかけて描かない。

 「似顔絵!」ちがう。そんなに似せるための誇張はしていない。

 「鉛筆画の作品!」と思った人も不正解。鉛筆画を生業とするアーチストの作品をみてほしい。おそらくはこの鉛筆画よりももっと強弱が強く、濃いところはほとんど真っ黒であろう。

 正解は「水彩画の下塗り」だ。私の人物画の作法は上図のように鉛筆でグレーの色調を整え、その上に透明水彩を塗るというものだ。以前、鉛筆の線だけで仕上げた絵とその上に透明水彩絵具を施した絵を比較して大まかな制作プロセスを紹介した。(「素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とは→」を参照)

 しかし、鉛筆デッサンのプロセスそのものは私自身、描くことに必死になっていることもあり、途中の記録画像も無く、完成までの過程をお見せできなかった。
 そこで今回は4つのステップに分け、私の人物画デッサンの途中過程と注意点、作画の秘訣をお伝えしようと思う。

作画前のポイントを復習しておこう。

ここで述べる鉛筆によるデッサンはあくまで、透明水彩の人物画のデッサンの前段階である。したがって練習用デッサンや似顔絵や、作品としての鉛筆画の描き方とは違うことをお断りしておく。
■鉛筆は4Hから4Bまでを必要に応じて使い分ける。
■画面全体をグレーの色調とするため、鼻の頭など一点のハイライトを除き全ての面に鉛筆線を施している。
■最後に透明水彩で色を塗るので、濃すぎる鉛筆は使用しない。

 それではさっそく今回の作品の解説をしておこう。まず以前に売れる人物画を描くために大切な要素としてモデルさんの存在があると書いた。(私の人物画が売れた訳→)このモデルさんは大柄で姿勢もよく、目鼻立ちがはっきりとした美人だった。描いている間、動くこともほとんどなかった。この日は恵まれた条件だったといっていい。

さて最初のポーズ20分が開始された。

 でもいきなり描き出してはいけない。まず構図を考える。
 今回のモデルさんのポーズは片足を上げ、片手をひざの上に置いている。スタイルの良いモデルさんなので本当は全身を画面に入れたかったが、この日のスケッチブックの大きさは8号。とてもいい表情をしていたので、顔は十分大きく描きたかった。だから敢えて足先は画面からカットすることにした。

 次に画面の左右の収まりを考える。具体的には顔の位置をどこにおくかがポイントだ。初心者は顔を画面の中央に置きがちだ。
 でも実はそうじゃない。今回は右手を横にやや突き出したポーズなのでその指先を画面に納めると、顔は画面の中央よりやや右にくるはずだ。

 顔または首の目安とのなる線をスケッチブックに薄く引く。注意しなければいけないのはこの線を多少モデルさんが顔を動かしても変わらない線にすることだ。
 正面の場合は顔の中心線でよいが、斜めの場合は顔の向きに合わせて中心線は変わりやすい。したがって首を目安にしたほうがいい。

 次に上下の位置関係を大まかに捉えよう。今回は私もモデルさんも椅子に座っている。アイレベルは同じだ。
 したがって遠近法上、それほど角度はつかない。頭の頂部から顎下までの距離と顎下からトップバストまでの距離が、教科書とおりほぼ均等になる。1図に引いた薄い水平線がその位置を表す線だ。

 もし私が立って鉛筆を持ち、モデルさんが座ってポーズをとっているとすると、上記の寸法関係は変わるはずだ。
 つまり私の目線に近い頭の頂部から顎下までの距離の方が、顎下からトップバストの距離よりも長く見えるはずだ。

 さあ構図が決まったところで描き始めよう。だが適当に手近な鉛筆を持ってはいけない。
 以前にも述べたが、どこをどの濃さの鉛筆で塗るかはこの後で、透明水彩を重ねる場合はとても重要だ。
 今回は肌の色は3H、上着はピンクだったので2H、インディゴ色のジーンズはそれより濃いH、髪は2B、背景はFを基準の濃さとした。

 最初の20分は全体のボリュームと各部のバランスを捉えることに集中する。私はこの段階では(通常のデッサン教本で教える)Bや2Bの鉛筆は使わない。
 使用する鉛筆は、HまたはFくらいだ。私の経験で言えば、薄めの鉛筆で形を取り始めるほうが、その後の面の表現をするときに正しい明暗のバランスを取りやすい。

 この場合の欠点は最初の線が薄いと正しい形がなかなか決まらず、仕上げまでに時間がかかるということだ。
 濃い目の鉛筆で形を取り始めると、形のラインを決めやすく、デッサン時間も短くできるが、逆に明暗のバランスを調整するために練りゴムを使用する頻度が増え、余計に時間がかかることもある。このあたりは個人差があるので実際に試してみるといいだろう。

作画時間20分

 上図が最初の20分ポーズ終了時の状態だ。
構図と体のパーツの大体の位置が決まった。顔の細部はまだ描いていない。
 目や鼻、口の水平の位置を大まかにつかむ程度でいい。顔の正確な向きはまだ描き込まなくて良い。

 何故なら、通常モデルさんの視線は安定して固定されるが、首をひねったポーズの場合、顔の向きは徐々に(楽な)正面を向いてくることが多く、なかなか固定されないからだ。この段階では「まだ動く」と思って上下関係だけを捉えておく程度でよい。

 ただし、角度は要注意。大抵は左右どちらかに傾いているだろう。今回の場合は画面で右に(モデルさんは左に)顔を傾けている。
 だから目や唇の方向は画面で右下がりになるはずだ。この基準ラインは薄く引いておこう。そうしないとこの先、正しい細部が描き込めない。

 この段階では鉛筆はHのみ。ただしバストの下と両腿の間が一番暗いのでそこには同じ鉛筆でハッチングを入れてある。
  なお20分もかかってこれだけかと思うかも知れないが、今回は20分×4回で鉛筆デッサンまでを仕上げ、水彩による着色はそのあと20分×4回ポーズを確保できているので、全体としてはこの程度でも問題ないと思う。もちろんデッサンの早い人はさらに描き込んでもらっても問題ない。

さあ2回目のポーズが始まった。

  構図はすでに固まっているはずなので、各パーツの形と明暗を全体のバランスが狂わないように描き込んでいこう。

 この段階で気にしなければいけないことはこのポーズの魅力の決めてとなる部分を発見することだ。
 まずそこを固めないとその後の絵の方針が決まらない。今回の場合は画面の左肩から指先にかけての曲線だ。
 ここが狂うと、というより「美しく」ないと、この先この絵を描いてもつまらないことになる。そしてこの部分は不自然にならない程度に多少誇張してもよいと思っている。

作画時間40分

 上図は2回目のポーズ終了時、つまり40分終了後の状態だ。
上で述べた肩のラインは何度か美しいラインを探したので線が濃くなっているのがわかるだろう。
 また、ここだと思った線が決まったあとは練りゴムで目障りな線を多少消している。

 この段階では顔の左右関係も決め、鼻や唇の形もある程度描き込んでいる。各部と全体とのプロポーションに狂いが無いか、何度も画面から離れて見てチェックすることが大切だ。

 そしてさらに肌と服、髪など画面の明暗バランスを確認するため、最初に決めたそれぞれの濃さの鉛筆で単純にハッチングを入れておこう。
 一番明るい部分が顔、次に上着、その次がジーンズ、もっとも濃い部分が髪という具合だ。この段階ではあまり細かな影を意識する必要は無いだろう。

 さて3回目のポーズが始まった。

ここから先は、各パーツの形ではなく面を意識しよう。
 例えば今回は上着の基本は2Hで描くと決めた。光を受ける左肩の部分は当然明るい。従って一旦全面的に引いた2Hのハッチング線を練りゴムで消す。

 しかしその面は真っ白ではない。だからそこに3Hのハッチングを重ねる。すると服の部分に2Hと3H、2種類のハッチングの面が出来る。こうして体に明るさの違う面が表現できるという訳だ。

 もちろん全ての面の明度差を、全ての鉛筆の濃さを変えて表現するなど出来るはずがない。あとは同じ濃さの鉛筆の中の筆圧の差とハッチングの密度で表現しなければいけない。
 そして モデルさんと画面の全体と部分を常に見比べながらひたすらその作業を繰り返す。ここからは時間との戦いだ。

作画時間80分

 そして80分が修了

 
 上の図は20分×4回=80分が終了したときの絵だ。大切なのはこの段階で、白黒の絵として完成状態とすることだ。そのためにはとにかく手をスピーディーに動かすこと。ここで慎重になっている必要は無い。もうひとつ「絵」として完成させるには大事な要素がある。そう、「背景」だ。この段階では最初に決めたFの鉛筆で軽くハッチングをしている。「軽く」描いているのには理由がある。この段階でまだ背景の具体的なイメージを決めていなかったからだ。

 以前、「私の人物画が売れた訳→」で述べたように人物と背景の表現にふさわしい関係がないとその絵はたぶん売れない。ここではまだその「関係」が決めきれていなかったからだ。

 さてモデルさんを前にした制作は前段階で終了したわけだが、透明水彩で仕上げに入るにはやはりもう少し、細かな部分に手を入れたい。
 このモデルさんは最後に写真を許可してくれたので、残りは写真を下に制作する。

  最後の段階のテーマは画面全体の魅力作りだ。

 まず、表情だ。いままで敢えて顔の細かな描き込み、表情については触れなかった。最初から顔にこだわると、眼が近視眼的になり全体のバランスが狂いやすくなるからだ。

 でもこの段階では存分に描き込んでいい。目が魅力的なモデルさんだったので、目元を明確に描いた。といってもアイラインを濃くするわけではない。
 目の上下に注目して欲しい。まぶたの内にある眼球全体を意識しながら影を入れていくのだ。ここをきちんと描くだけで表情はぐっと引き締まる。

 次に大事なのは口元だ。ここも単に唇の外形線を濃くするわけではない。ポイントは、唇は顎骨の曲面に沿ってついていることと、上唇は下唇に比べて想像以上に暗いということだ。そしてこれを外形線ではなく面の影で表現することだ。

 なお顔のデッサンについて、初心者が陥りやすい注意点(顔のデッサン5つの勘違い→)を別にまとめてあるので参考にしてほしい。
 次に手のデッサン。こちらも別に初心者用の注意点(手のデッサンはむつかしい?→)をまとめてあるので参考にしてほしい。

 そして髪の毛。初心者は髪の流れの方向に単純に線を重ねることが多いが、その描き方では全体が濃くなるだけで、髪のボリューム感や艶は出ない。
 私は明るい部分はばっさりと練りゴムで消し、白っぽいままにしてあまり線を重ねない。というのは水彩で表情を付けたほうが豊かな表現が可能だからだ。

 そして濃い部分はあまり濃すぎる鉛筆を使わず、髪の毛の流れる方向とは違う方向にハッチングを入れることにしている。こうすると明暗で髪のボリューム感が表現できると同時に、影の部分でも真っ黒にならないため、後の透明水彩による色での表現が可能になるからだ。

 帽子や服の細かな皺と背景はほぼ同時に進めることにしている。
 何故なら画面全体の魅力を考えたとき、背景の明度と服の明度の関係はとても大切だからだ。
 つまりバックに溶け込むような部分とバックから浮き出るような部分の表現の差は実はバックの明度と皺などの細かな明暗表現の対比が決め手になると思っている。

 背景をどうやって決めたかを説明しよう。私の場合背景のパターンは3種類だ。
 ひとつはバックに屋外の風景を入れる場合。特にモデルさんが民族衣装などを着ている場合、このパターンがふさわしい。

 もうひとつは抽象的な塗りパターンを施す場合。これは服の色、ポーズに特徴がある場合、それを強調する部分にふさわしい色を塗るパターンだ。印象派のドガが踊り子の白い衣装の背景を極端に暗くして踊るポーズと衣装の白さを強調しているのもこのパターンといえるだろう。

 最後のひとつは人物の後ろに現実的な壁を設定し、壁の仕掛けと表情で人物との関係を描く場合だ。有名なのはフェルメール。窓から差し込む壁面の光りと影、壁に架けた絵などに意味をもたせる場合が多い。

 今回は服装そのものにそれほど特徴があるわけではない。だから背景に特殊な風景はいらない。
 ポーズもそれほど突飛なものではない。だから背景の色を敢えて強調する必要も無いだろう。
 全般的に女性らしく柔らかな雰囲気にするのがいいと思った。すると最初は当初の予定通りFの鉛筆で全面ハッチングをしていた壁が、急に暗く、うっとうしく見えてきた。

 悩んだ挙句、一旦濃くしたその壁を人物のぼんやりとした影を除いて練りゴムで、消すことにした。もちろん、せっかく描いた線を全部消すようなことはしない。壁にも絵としての表情が欲しいのでわざと消しムラを残している。以上の描き込みが終了した状態が冒頭の絵だ。

Painter_Yoshine流の「透明水彩で描く人物画 デッサン編」の完成だ。

P.S. 
今回は人物画のデッサンの実践的なプロセスを書いたが、人物画を描くための基礎練習、技法については、下記の記事を書いている。興味のある方は参考にしてほしい。
■「人物画の基礎!クロッキーの道具と描き方→
■「水彩画入門 色塗りの基本技法を覚えよう!→
■「水彩画の基本!知っておきたい グリザイユ画法と絵具の透明度→
なお、今回の記事の続編として、この絵の色塗りのプロセスを説明する 「透明水彩で描く人物画 色彩編」を書くつもりだ。できれば(トップページ→)で募集するアートギャラリー「美緑(みりょく)空間」のメンバー間で共有し、技術向上に役立たせたいと思っている。
興味ある方は是非参加して欲しい。

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