絵描きのための「インプットブック」とは?

 大抵の人は別途お金を出して買った図録はともかくとして、半券や目録、チラシの類は捨てている人が多いのではなかろうか。

 ある時、とあるビジネス書の「書類整理法」の項目を読むと、書類は分類せず、「時系列にならべればいい」と書いてあった。そのビジネス書では資料ごとに書類封筒に入れ、日付とタイトルを書いて、本棚に順番に挿していくというものだ。溜まってきたら端の封筒から捨てていけばいいので、本棚一つで整理ができる。

 つまり展覧会から帰ってきたら、そのまま袋に入れ本棚に並べるだけでいいということだ。さっそく実行しようとしたが、封筒では一覧性が悪いし、一つの展覧会チラシ資料は封筒にまとまって入れるほど多くない。

 そこで私はA4のクリアファイルに時系列にパンフレット資料を入れることにした。当然一切分類はしていない。冒頭の写真はこのインプットブックの記念すべき一冊目にあるページだ。右は私の好きなバルビゾン派の展覧会の半券が入れてある。

 左は「国吉康雄展」の半券。だが実は私は彼の絵に特に興味があったわけではない。見たかったのはその美術館。建築家白井晟一が設計した「松涛美術館」を見に行ったのだ。そんな何十年も前のエピソードもこの資料があればこそ語ることができる。

 最初はこのような展覧会の資料だけを入れていたが、よく考えれば同じように、生活の中で創造性に刺激を与えてくれるインプット資料は全部一緒に保存すればいいと気が付いた。

 だからこの中には美術館、博物館の展示資料はもちろん、感動した映画のチラシやスケッチ旅行先のインフォメーションセンターで入手した地図、ホテルやショッピングセンターなど話題の建物のパンフレットも入っている。

 そうやってこのインプットブックを眺めると、いずれもその場所、その時代、その人、その街をセンスの良い短い言葉とグラフィックで表現したものばかり。かつては設計の仕事をしていたので、プレゼンテーション資料を作るのに、たびたびこのインプットブックを開いたものだ。インプットブックは次の創作の手助けとなってくれたのだ。

 このブログを書くようになってからは、過去に行った美術館の展示内容や、スケッチ旅の行き先、コース、宿泊先など過去のデータが欲しくなる。そんな時やはりこのインプットブックを開く。

 例えば、左のページの地図はスペインのグラナダだ。ホテルのコンシェルジュがホテルの位置と私の行き先を矢印で書き入れてくれた跡がある。

この地図を見た瞬間、その時歩いたシーンと私のスケッチがピタッと重なるのだ。本当は古い旅の記事のはずなのに、まるで昨日行ったかのように、このブログに書けるのはの旅のそんなインプットブックのおかげであると言っても過言ではない。(「スペインをスケッチする グラナダ編→」を参照)

 私がかつて読んだその「ビジネス書」では、閲覧した資料は常に本棚の一番左に入れろと書いてある。つまり旬でない資料、読まれなくなった資料は徐々に右に寄り本棚の幅がいっぱいになったら、端の資料は価値が無くなったので捨てていいと書いてあった。

 だが私の「インプット資料」はどんなに右に押し出されても不要になることは無い。未だに水彩画家としての私の活動に役立っている。
 上の左の写真は比較的最近見た映画のパンフレット。右も最近の展覧会(「美術館で見た茶室の不思議→」を参照)だ。

 その結果、そうして膨れ上がったクリアファイルはそのビジネス書にある本棚一段分では収まらず本棚2段分が満杯であり、今なお増殖中である。

 あなたの次の展覧会はなんだろう。持ち帰った資料は是非「インプットブック」へ。


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2件のコメント

いつも楽しく読ませて頂いております。11月26日からの水彩画展、楽しみにしております。
私も水彩を描くのが好きなのですが、風景や建物、花等のデッサンやスケッチが苦手です(色々習いましたが)。そこで、自分で撮影した風景や建物、花等の写真を元に、(もう一つの趣味の写真で使っている)フォトショップやライトルーム (共にAdobeの画像処理ソフト)を使って、グリザイユ技法用の下絵となる画像を作成し、これをA3等に切断したモンバルキャンソン300g(日本橋の笹部洋画材料店で安いので)にプリントし、W&N等で彩色して水彩を楽しんでいます。

毎日13:00からは在廊していますので、是非声をかけてください。水彩画の工夫、お互いに情報を交換しましょう!
ご来場、お待ちしております。

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