「絵を描くことであなたの人生は充実する!」

■「美緑(みりょく)空間」とは?

 このブログのタイトル「美緑(みりょく)空間」は私の絵描きとしての世界観を表している。

 「美緑」とは生命感のこと、「空間」とは人の存在する場のことだ。 その二つが一緒になった美緑(みりょく)的な空間を描くことが私の創作活動の目的だ。

 ゆえに私の絵には、自然と共にある人や建物は登場するが「人を寄せ付けぬ秘境」は登場しない。誰もが自分の部屋に飾って安らげる、優しい絵を描きたいのだ。

 そして絵は美術館で見るものではない。 自分の身の回りで、いつも目に触れるものでありたい。

 だから出来るだけ多くの人に「アートのある生活を」提供したい。 いずれは世界中の家庭に。

 それが私の夢だ。

■絵描きとは何をする人?

 夢の実現に、何をすべきか。私の絵描き活動を紹介しよう。

異国の情景を求めて旅をする。
 毎年海外へスケッチ旅行に行くことにしている。といっても私の生活にそれほど金銭的余裕があるわけではない。
 ただ、生涯で描きたいと思う場所を、リストアップすると、残りの人生、毎年スケッチに行かないと描ききれないと悟っただけだ。
 だから人生の予算のうちの「海外スケッチ費用」を絶対的なものとしてカウントしている。
 生涯計画のなかで年間20万円程度の旅行費用など、誰でも、きっと何とかなるはずだ。なにしろ朝から晩まで、初めて見る異国の美しい風景を好きなだけスケッチできるのだ。
 これ以上の人生の喜びは無い。(私の体験談はこちら→https://miryoku-yoshine.com/category/journey-world/
 絵の好きな人は自分で、描きたいところをリストアップしてみてほしい。そして生涯のスケッチ計画をしてほしい。
 私と同様、きっとすぐに、来年の飛行機の早割りチケットを予約したくなるはずだ。(海外スケッチ旅の心構えはこちら→https://miryoku-yoshine.com/overseas-sketching-knowledge/

旧き良き日本の風情を求めて旅をする。
 個展の計画をするときは、海外だけでなく、日本の風景もあったほうがいい。
必ずしも見に来てくれるお客様が海外の風景にあこがれているとは限らないからだ。
 私の経験で言えば、日本人なら誰もがあこがれる風景がいい。「ここ、行ったことがある!」とわかるとそれだけでその絵に好感を持ってもらえる。今までに売れた風景画はたいていそのパターンだった。
 日本の旅は年初に一年分の計画をする。行く先は国が選定した「重要伝統的建造物群保存地区」からリストアップしている。現在全国に120箇所ほどあり、私が描いた町はまだ約30箇所に過ぎない。こちらも出来れば生きている間に全て描きたいと思っている。楽しみだ。

魅力的な女性を描く。
 美しい女性を見て感動するのは誰でもできる。だが、その女性の魅力を自分の手で画帳に表現することは絵を描く人にしかできない。そしてこの楽しみは絵を描かない人には永遠にわからないのだ。
 しかし実は人物画を描こうとすると、たちまち直面する問題がある。初めての個展で人物画を出品したとき、友人の最初の質問はほとんど「モデルは誰?」だった。 つまり、風景は自分で好きに対象を選べるが、人物はそうはいかない。相当の「大家(たいか)」と呼ばれる画家でも好みのモデルを探すのに苦労しているそうだ。
 私の解決法は近所の「人物画教室」に通うこと。来ている人が全員でモデル料を分担するので安く済むからだ。もちろん、モデルさんも、服装も、ポーズも自分の望むようにはならない。それでも画力の向上に枚数を描く事は絶対に必要だ。大いに利用させてもらっている。

作品集「美緑(みりょく)空間」

作品集を執筆、出版する。
 最初の個展のとき私の作品をテーマにした本「美緑(みりょく)空間」を自費出版した。作品制作時の想いを添えている。わかりやすくて面白いとなかなか好評だった。
 そして個展よりも書籍はより多くの人に美緑(みりょく)空間の世界観を伝えてくれる可能性がある。だからいずれVol.2も発行したいと考えている。

美術館、博物館の作品を観て感性を磨く。
 アートにはインプットが必要だ。
どんな天才芸術家でも作り続けるだけの行為、アウトプットだけを続ければいずれアイデアは枯渇する。そうならないために、インプットつまり美的な刺激が必要だ。
 自分が描くジャンルの絵を見ることだけがインプットではない。敢えて違うジャンルの作品を見ることも多い。(例えばこちら→https://miryoku-yoshine.com/the-wonder-of-the-tea-house/
 刺激は美術館だけではない。歴史的な建造物にも美的感覚は刺激される(例えばこちら→https://miryoku-yoshine.com/ohtu-city-anou/)。

このブログ「美緑(みりょく)空間」で情報発信する。
 私がブログを始めたのは約10年前だ。個展を開く自信も、具体的戦略も無かったころ、なんとなくブログなら自分の感性を発信できるのではないかと考えたのだ。
 だがネットによる情報発信効果は私の予想を超えていた。例えば、最初の個展を開いた当時、訪れる人は私の知り合いばかり。案内状を見て作品を目的に来てくれる人はほとんどいなかった。
 ところが前回の個展は、半数近くがSNSを含めたネット情報をみて来てくれたお客様だった。つまり知り合いだから来たのではなく、絵を見たいから来た人が大半だったのだ。
 ネットを利用した情報発信は今やアーチストに欠くことのできないもうひとつの武器だと思っている。

■個展を開くだけで満足してはいられない!?

2度目の個展風景

 幸い、過去3回の個展は好評だった(と思っている)。自分の作品を見てもらい、感想を聞き、見知らぬ人とコミュニケーションが出来る。
 実に楽しい。喜んでもらい、絵が売れれば収入も得られる。金額の多寡ではない。サラリーマンの給料とは一味違う報酬だ。
 でも実は気がついた。このまま個展を繰り返すだけの活動でいいのだろうかと。もちろん私個人はそれなりに楽しく充実した人生だ。
 しかししょせんは私一人の活動。絵が売れればその作品はお客様一人の物になり、「より多くの人に」見てもらうことは出来ない。
 まして「全ての家庭にアートを」提供することなど永久に出来ない。もちろん大作家の作品ならば画商が企画し、バイヤーを世話し、相当の高値で売るという従来の商業的形態はある。
 だが、そんな高値売買の、限られた時間と場所と人脈が支配する世界では、普通の家庭が、いや世界中の家庭で「絵を飾って生活を楽しむ」ことはできないのだ。

■ブログ「美緑(みりょく)空間」を訪れたひとへ

 そこで提案がある。たぶんこのブログを訪問してくれた方は、絵を見るのが好き、あるいは自分でも少し描く、あるいはすでに相当描けるセミプロの人だろう。
 絵を見るのが好きな人はまず自分で描いてみてほしい。少し描ける人は、画力をつけて、リビングに飾ってもらえるレベルになってほしい。セミプロの人は、個展を開いて作品を少しでも多くの人に見せて、感動させてほしい。
よく考えれば「全ての家庭にアートのある生活を」提供するのは私だけである必要はない。
 感動させる人が多ければ多いほどいいのだ。

■アートギャラリー「美緑(みりょく)空間」のメンバー募集

 先の提案は、言い換えれば、私の個人的活動目標を皆さんに押し付けるというものだ。
 なんて身勝手な。
 そこで考えた。ネットの持つ情報発信力の可能性は先に述べたとおり。この際このブログを利用して私のような絵描き活動をしてくれる仲間を集めたい。
 名前は絵を描いて見せる場なのでとりあえず「美緑(みりょく)空間アートギャラリー」とし、そのメンバーを募集したいと思う。
 入会資格は絵が好きなこと。それだけだ。当然会費は無料だ。自分で絵を描き、いずれは絵描きとして活動をするために必要な情報をこのギャラリーメンバーで共有したい。具体的な内容はメンバーになってから・・・。

メール配信その他のシステムは現在構築中だ。もうしばらく待ってほしい。

PS
 私のブログには以下の5つのカテゴリがある。
「スケッチの旅 日本編」
「スケッチの旅 海外編」
「絵画上達法」
「絵描きとして生きるには」
「ためになる美術講座」
 どれも絵を描こうと思う人にとって有用な記事だと自負している。しかし残念ながら私の経験または意見を一方的に発信するだけのものだ。

また仮に来訪者とメールアドレス交換をして個別に意見交換するとしたら、必ずしも私の考えに賛同しない、不特定多数の人に対応しなければならない。
 これでは、相当の手間がかかり本来の活動目的とずれてしまう。だからこのブログとは別に、世界観を同じくする特定の仲間とサークル的な活動をする場を設けたいと思ったのだ。
 ギャラリーメンバーは最低限自分で絵を描き、上達し、人に見せて、喜んでもらうことを目指してもらいたい。もちろん私の知識と技術の提供は惜しまない。しかし単なる画力向上が目的ならばそのための出版物はいくらでもある。ここではむしろメンバーとのコミュニケーションを大切にしたいと考えている。
 私の作品の制作プロセスやそれについての個別の質問を受けようと思う。これから絵を描くという人には大いに参考になるはずだ。すでに画力のある人は、作品を見せてもらい、メンバー間でのテクニック自慢をしてもらってもいいだろう。
 メンバー全体の実力が上がってくれば、ネット上で展示会を開くのもよい。いずれは(適正価格で)売れる仕組みも作り、世界中に広がれば「美緑(みりょく)空間」の本来の夢の実現に近づくことになる。どんなメンバーが集まるかもわからないので、 具体的な方法は未定だが、メンバーが集まれば意見交換して構築してゆく予定だ。

今から絵描きを目指す人のために

イタリア ローマ ナヴォーナ広場

■今の人生に満足?

 サラリーマンも50代後半になるとその道のキャリアに終わりが近づいてきたことを悟る。そのまま大過なく勤め上げ退職金と年金で余生を送る・・・よくある人生だ。だが私の場合そんな選択が出来なかった。
 もう一度自分の人生を振り返り、これでいいかと問いかける。そろそろ封印してきた「絵描きになる」という道をもう一度追っかけてもいいじゃないか・・・そんな決断をしてしまったのだ。
 そこで今から何をすべきか調べ、考えた。公募展に応募して入選!あるいは個展で評判を取り有名に!などと夢を見る。
 一方“もう何年も油絵を描いていない。時間もない。個展を開けるような作品が溜まっていない。考えただけで困難な問題が山積みだ。

■家族関係に不安はない?

 しかも、さらなる問題が重なった。妻との別居、そしていわゆる熟年離婚だ。その原因は・・・いやひょっとすると双方の想いの一致する離婚原因など存在しないのかもしれない。でもあんな想いを二度としないためにも敢えてその理由を振り返ることにする。
 それはちょうど私が会社での将来に見切りをつけた頃に始まる。それまでは自分の生きがい=会社の未来だった。でももはや自分の未来は自分だけのものと解釈した瞬間、全ての価値観が変わったのだ。
 心に封印していた絵描きになりたいという欲求が蘇ったのは先に述べたとおりだが、問題は私の場合、自分の未来だけが一人歩きし、そこに妻の存在が無かったことだ。こう書くと、人生観を大切にした結果・・・などと高尚な話に聞こえるが、要は自分のしたいことだけに時間とお金を使いたいという身勝手な思い込みに理屈をつけていただけだった。妻から観れば先を見て、今の妻の気持ちを顧みない単なる「思いやりの無い男」だったと思う。
  私と同じように、熟年になって、何らかの人生の決断をしようとしている人は、注意してほしい。離婚は定年後の予期せぬ貧困と精神的消耗を強いる。私も一時はすっかり沈み込み、久しぶりに始めた画家活動にもまったく身が入らなかった。

ローマ共和国広場

■目指す人生のモチベーションはある?

  そんなどん底の私を救ってくれたのはイタリアへの旅だった。会社人生で初めて長期休暇を取っての一人旅。誰に気兼ねすることなくローマ、フィレンツェ、ベネチアへと旅発った。
 はじめてみるイタリアの風景は私を魅了した。毎日朝から晩まで歩き回りスケッチをした。ローマのナヴォーナ広場でスケッチを終え、心地よい疲労感に浸りビールを口にした時の充実感、幸福感はいまだに忘れられない。
 この時の「憧れの地をスケッチする」というシンプルな喜び(ビールの味ではない。念のため)が「遅咲きの絵描き」の先に待つ困難を解決し、今なお活動を続けるモチベーションとなっている。
 なお付け加えておくと、いまは旅先の僕の隣に新たな伴侶がいてくれる。おかげで心も平穏無事だ。でもスケッチの時はやっぱり一人かな。

ローマ サンタンジェロ城

美術館で見た茶室の不思議

 大阪 中之島の東洋陶磁美術館を訪れた。北欧の有名な「アラビア」の陶磁器とマリメッコを見るためだ。この美術館はもともと陶磁器に特化した美術館なので北欧陶磁器の展示は当然なのだが、何故マリメッコなのか不思議に思う人も多いだろう。

 ちなみにマリメッコとはフィンランドのアパレル企業で、ファッションブランド名 でもある。鮮やかな色と大胆なプリント柄をデザインした商品が特徴だ。私の妻もこのブランドの 婦人服と靴が大好きだ。
 フィンランド航空の機体のケシの花(ウニッコという)模様と言えば思い出す人も多いのではなかろうか。

 実は今回この展覧会の一番の目玉は茶室とマリメッコデザインのコラボレーションだった。茶室を説明し始めるとそれだけで一冊の本が書けてしまうが、敢えて誤解を恐れず説明しよう。多少の齟齬はご勘弁願いたい。
 一般の住宅と一番違うのは、部屋の広さと、天井高さ、入り口の寸法関係だろう。基本的にスケールが小さめだ。それは茶室の目的である「主人と客が身分の隔たりなく語り合う」という濃密な空間を作るための作法と言って良いだろう。

 さてマリメッコ茶室。いかがだろう。少なくとも私が見たところ、物理的な空間、寸法の妙はまさに茶室そのもの。自然で違和感はない。
 それでいて壁と天井は全面マリメッコデザインのクロス張り。茶室の権威であれば「とんでもない」とすぐに却下しそうなものだが、美術館の企画が素晴らしいのか、日本とフィンランド、互いのデザイナーが素晴らしいのか、結果として全く破綻がない。
 見事だ。

 もちろん偶然の産物であるはずがない。よく見れば、さすがと思わせる工夫があちこちにある。床の間の周りのクロスは模様こそ大柄だが、色は侘び寂びに通ずるグレー。
 逆ににじり口のアーチ枠の向こうには派手な色のあのウニッコ模様を配している。まさに大胆かつ繊細な設計だ。

 FB(フェイスブック)の「美術館、博物館、芸術関連仲間」にこの茶室を紹介したところ、凄まじい反響があった。メンバーには茶道家もおられたようだが、「斬新、楽しいお茶席になりそう」と全面的に絶賛。きわめて日本的な茶室がこんなに簡単に西洋のそれもかなり奇抜なデザインと何故なじむのか?
 しかし歴史を振り返れば利休による余計な要素を剥ぎ落とした、究極の茶室と言われる一畳代目(とても狭い)の茶室、逆に有り余る財力を投入した秀吉の「黄金の茶室」が並存する。そして今回、ある意味素材を無視した究極の「装飾茶室」ができたように思うのだ。
 実を言うと私は茶道はたしなまない。しかしあの茶室なら、逆にきちんと作法通りにお茶を飲んでみたいと思った。
 茶室とは世界中の文化を呑み込む不思議な空間なのかもしれない。

顔のデッサン練習中!?。知っておきたい5つの勘違い。

勘違いその1 アイドルのデッサンが得意!?

 よく人物画を描く。私の場合は女性像ばかり。うまくいかないときもある。そんなときにこの便利な世の中、インターネットを利用しない手はない。ためしに「顔、デッサン」とグーグル検索してみた。

 驚いた。大半がアニメのキャラクターの描き方のサイトだ。時々リアルな顔の描き方をうたったサイトがあると思って覗いてみると、アイドルの写真を下絵に顔のパーツの描き方を細かに教えているものだ。

 たしかに手っ取り早い。インターネットが発達した現在、無料の人物画像をダウンロードすればモデルをやとう必要もないのだから。だがこのやり方で、アイドルの顔を完全にコピーできたとしても絵描きとしての喜びはちょっと少ないだろう。なにしろ最高に出来た作品がカメラマンと同じアウトプットなのだから。

 もちろん、鉛筆の使い方の訓練としてはOK。枚数をこなせば上達も早い。でもここでは敢えて、対象とするその人物像の生きた表情を描くことにこだわりたいと思う。もちろんアイドルがモデルになってくれたら最高だが・・・。

勘違いその2 デッサンは似顔絵じゃない

 私は女性像を描くために、近くの人物画教室に行っている。一人でモデルを雇う必要も無く安価だからだ。その教室に最近来たばかりの初心者と思われる人が、講師の先生に聞いている。
「全然モデルさんに似ないんです・・・」。
さすがに講師は心得たもの。
「ここは似顔絵教室ではありません。似てないことを気にする必要はありません・・・」。

 この講師の言葉には2つの意味がある。ひとつは初心者に対するファーストステップとして似せるよりも「顔」の基本比率を守りなさいと言うこと。例えば顔を正面から見たとき1/2の位置の高さに眼がある。眉から鼻下までの距離と鼻下からあごの先端までの距離は同じ。眉、目、鼻、唇は顔の鼻筋を通るラインに対して左右対称であるとか・・・。

 もうひとつのポイントは人の個性と表情を描くことはとてもむつかしい。今日、明日ですぐにマスターできるものではなく、練習が必要ということだ。

 念のため断っておくと、大前提として「似顔絵」は人の顔の特徴を誇張して個人を特定することを目的としたもの。だから極端な話、前述の一つ目のポイントである「顔の基本比率」を無視することもある。新聞の政治欄にある風刺画が典型的な使用例であるが、ここでは扱わないことにする。

勘違いその3 目と眉と鼻の関係をよく見て・・・も描けない!

 私がプラハにスケッチ旅行に行ったときのことだ。かの有名なカレル橋で、とある画家が美しい婦人を描いていた。それもいわゆる特徴を誇張した似顔絵ではなく、ちゃんとした肖像画だ。

 使っているのはたぶんガッシュ(不透明水彩)。私が使っている透明水彩のにじみやぼかしというテクニックは使えないが乾燥が速く、橋の上での肖像画制作にはうってつけだ。

  どんな風に描くのか画家の背後で見ていた。恐ろしいスピードで、筆を動かしている。まったく動きに躊躇が無いのだ。
 そんな動きの中で唯一、筆が止まる瞬間があった。それが両目と鼻、眉を描いている時だ。つまり個性を描くレベルではその部分に一番注意を払うと言うことだろう。そして、しかもすばらしい肖像画が出来上がった。時間にして20分ほどだろうか。

 帰ってきてから、私もかの画家のやり方をまねてみる・・・。なるほど、似せるという目的からは目、眉、鼻の関係に集中することが大事だということがわかる。
 でも残念ながら絵全体としてはうまくいかない。なぜならその3点の関係は正確でも、そこだけを見ているとどうしても遠いところにあるパーツつまり顔全体、画紙全体の中で決めた構図内での位置関係がどうしても狂って来るからだ。

 つまりこのやり方は画面の正確な構図が要求される作品には向かない。今思えば、かの画家は画面の中央に眉、眼、鼻の3点セットを描き、それに合わせてあごや髪のラインを最後に調整していたようだった。
 20分という短時間の中で顔だけを描くきわめて特異な手法だったのだ。

 という訳で、橋の上で短時間で美人を仕上げる必要ない私たちは、やはり構図を決め、全体の位置関係を決め、正確なプロポーションを追う地道な練習が必要なのだ。

勘違いその4 決められた比率にこだわるな

 私が顔のパーツの基本比率を知ったばかりの頃。顔の大きさを決めるとすぐにその割付位置に目、鼻、口を置くようにしていた。そうすると、極端な話、モデルを見なくても人物画として違和感が無い、安心して見られる絵となるからだ。

 だがその人らしい個性が出るかと言うとそれだけではだめなのだ。理由は2つある。
 ひとつ目の理由は、パーツの比率には個性があるからだ。眉から鼻下、鼻下からあごの下までの長さは同じと書いたが、当然だが人によってその比率は微妙に違う。一般的に言うと、女性のほうが鼻下からあご下の寸法比率が小さい。だから女性の唇もあごも男性に比べ小ぶりで、女らしい顔になる。
 二つ目の理由は、ここでいう比率とはあくまで正面から見たときの比率であって実際に見える比率とは違うからだ。だから本当は正面から見た似顔絵以外には使えない。
 私たちが描くときは近い部分は大きく、遠い部分は小さく見える。顔にも遠近法を適用しないといけないのだ。
 例えばあなたは立ったままで、座っているモデルさんを描くとしよう。この時あなたはモデルさんを上から見下ろすことになる。すると正確に言えばモデルさんの眉から鼻下の距離は鼻下からあご下までの距離より、あなたの目に近い分、大きく見えるのだ。これを紙の上で同じ比率に描いてしまうと、相対的にあごや唇が実際よりも大きくなることになり、可愛らしい女性にはならないのだ。

勘違いその5 表情にこだわるな

 モデルさんのその瞬間の魅力をストレートに伝えるには、顔のパーツの形を正確に描く必要がある。目の開き具合、黒目の大きさ、瞳孔の開き具合・・・。
 口元の向きで笑顔にもなるし、不機嫌な表情にもなる。小鼻の影、まつげの形も気なるだろう。場合によっては化粧の紅も気になってくる。
 するとついついその魅力的な部分だけを見て影を付け始める。その結果、本来全体として明るいはずの面に暗い塊が現れる。本来暗いはずの面に明るい塊が現れる。人間の目と脳は正確だ。不自然な鉛筆の濃淡は顔の陰ではなく、腫れや出来物のように見えてしまう。こうなると、その修正に膨大な時間がかってしまう。ちょっと逆説的だが、個性を魅力的に表現しようと思えば、まず顔の大きな、自然な明暗を捉え、その明暗の中に個性のパーツがあると考えたほうがいいのだ。是非お試しを。

スペインをスケッチする マドリード編

スペインはヨーロッパでイタリアに次いで世界遺産の多い国。

マドリードの夜 食事もそこそこに・・・

 歴史的な建造物も多く、スケッチ旅行先としては文句なし。まずは関空から首都マドリードへ向かった。
 しかし今回のスケッチ旅行も実はトラブル続きだった。
まず到着早々、空港からマドリードまでタクシーに乗ったが英語が全く通じない。しかもわざと遠回りをされたらしく、時間も料金もガイドブックに記載された数値の5割り増しぐらい。

油断できない街だと感じた。

 この日は夜遅く到着したので、簡単な夕食を済ませ、時差ボケもあってすぐに就寝。

早朝のマドリード
交通量多く、スケッチを断念

 さて翌早朝。スケッチブックを持ってホテルを飛び出す。まずは王宮を目指す。途中で教会の尖塔がのぞく町並みをスケッチしかかったものの、車の往来が激しくて途中で断念。貴重な時間をロスしてしまった。

スペイン王宮

 そして到着した王宮。ガイドブックでは絶賛していたので、大いに期待していたのだが、外観は今ひとつ。18世紀の建物らしいのでおそらくバロックの建物だと思うが、設計が悪いのか、正門に立つと華麗なドーム屋根は見えず、外壁面に柱型だけが単調に並ぶデザイン。正面の広場も矩形の広いスペースがあるだけ。床のペイブメントも単純で魅力はない。

ガイドブックが絶賛しているからといって、絵描きに魅力的だとは限らない。

 とてもスケッチする気にならず、早々と退散することにした。もっともこれは絵描きとしてのコメント。豪華な内装は観光には最適だともコメントしておく。

スペイン王宮の内部

 次に向かったのはやはりガイドブックでおしゃれなストリートとしての紹介のあったグラン・ビア通りとその周辺の建物。しかしいずれもクラシカルなパーツを冠した現代建築ばかり。中途半端な印象でやはり絵を描く気になれない。
 そのまま歩いて有名なキュベレーの噴水に到着。これも評判ほど美しいとは思えなかった。エル・レティーロ公園まで歩くとさすがに疲労困憊。ここでビールで一息つき、支払いをしようとして気がついた。財布の中身が抜かれている!

エル・レティーロ公園

スリにあったのだ。

 そういえば交差点で目つきの悪そうな黒人達が私の後ろについていたことを思い出した。あの時に違いない。それにしても中身だけを抜き、財布はリュックに戻すとは・・・。実に慣れている。

 もっとも以前、ウィーンで全財産を無くすという大失敗を経験しているので今回はあわてない。店の支払いはポケットの小銭入れから支払い、今後の旅費用はマドリード駅のATMからやはり別の場所に入れてあるクレジットカードで引き出す。
 幸い、すられた金額は2万円くらい。痛い出費には違いないが、大使館に駆け込むほどのトラブルでなく、幸いだった。

 実は事前の調査でマドリードでのスケッチはもともとあまり期待していなかったが、この事件のおかげで、すっかりスケッチする気力は失せ、残りの時間をプラド美術館で過ごすことにした。
 お目当ては当然ベラスケス。広大な展示室を次から次へと見て回り、美術館を出たのは閉館時間ぎりぎり。
 疲れ果て、iPhoneでこの日歩いた距離を見ると、なんと30km。美術館での時間は別としてスケッチ成果ゼロの疲労困憊した1日であった。

皆さんにお伝えする結論!

 マドリードはスケッチ旅行先としては今ひとつ。空港へ行くための宿泊地と割り切ったほうが良さそうだ。

スペインをスケッチする。 グラナダ編

 世界遺産の宝庫、スペイン。最初に訪れた首都マドリードは残念ながら、描きたいと思う風景はあまりなかった。だが次の町

グラナダは期待に違わぬ魅力的な町だった。

 スケッチどころをご紹介しよう。まずグラナダの町を俯瞰する。それほど大きな町ではない。見どころはだいたい3km四方に収まる。
 だからスケッチブックを持っての移動も全て徒歩だ。マドリードから来る列車が到着するグラナダ駅は町の北西端にあり、有名なアルハンブラ宮殿は南東端にある。ホテルが密集する町の中心はその中間にあると考えればいいだろう。

 さて私がグラナダに到着したのは午後。今からアルハンブラ宮殿に行っても、内部を見学するだけで終わってしまい、スケッチする時間は取れないと考え、その日はアルハンブラ宮殿の全景を見られるという丘の上にあるサン・ニコラス広場へ向かった。
 地図で見る限りは、チェックインしたホテルから直線距離で1kmほど。だがこのあたりはアルバイシンと呼ばれる、住宅が入り組んだ地区で、道は曲りくねり、地図など全く役に立たない。時間に余裕を持って出かけよう。
 ただこのあたりの建物は赤瓦の屋根、白い外壁、石畳のコントラストが美しい。そして

高低差のある道と建物が切り取る青い空はアルバイシンの美しさそのものだ。

 時間があればこの空をゆっくりスケッチしたいところだ。ちなみにこのアルバイシンもアルハンブラ宮殿と並んで世界遺産に選定されている。
 さて結局ホテルから1時間ほど歩いてサン・ニコラス広場にたどり着いた。

これがアルハンブラ宮殿か・・・素晴らしい!

 二の句が告げられないとはまさにこのことだ。早速スケッチしようと思ったが、この素晴らしい眺望をカメラに収めようとする観光客がひしめき合い、画帳を開くスペースなど全くない。
 この日は平日。おそらくいつ訪れてもこの状態なのだろう。さてどうするか。実はいい場所がある。この周辺のレストランは全て「アルハンブラ」ビュー。
 窓際の席を確保して、ワインを飲みながらゆっくりスケッチすれば良い。絵描きにとって至福の時だ。

 グラナダでは2泊した。しかし初日は午後の時間をアルバイシンに当てたので、お目当てののアルハンブラ宮殿内部を描く時間は翌日、チェックアウトしてから夕刻の列車に乗るまでの数時間しかない。しかも聞けば、宮殿の入場券を得るためには長時間並ぶ必要があるらしい。
 というわけで、日が昇るとすぐにホテルを出発したが、それでもチケット売り場に到着したらすでに長蛇の列だった。しかも宮殿内部の見学時間に入場時間の指定があり、思いつくままぶらつくわけにもいかない。覚悟はしていても、スケッチ旅行者には実に迷惑なシステムだ。

さていよいよ入城だ。アルハンブラの内部をスケッチしよう

外部の通路のペイブメント

 まず足元のペイブメントに驚かされらる。まだ宮殿に入る前の外部の床にでさえこのように濃密なデザインが施されている。驚きだ。

王妃の間
アラヤネスのパティオ

 そして宮殿の内部。・・・素晴らしい。王妃の間、有名なアラヤネスのパティオ。だがどこも観光客が多く、立ち止まって絵を描くのは迷惑になりそうだ。
 ライオンの中庭に来た。どういうわけか部屋の角に休憩用の椅子が置いてある。誰も座っていない。しめた。というわけでここで一枚スケッチすることができた。ただし・・・

この部屋の濃密な装飾をスケッチをするには相当に勇気がいることを忠告しておく。

ライオンの中庭
部屋中が濃密な装飾で埋め尽くされている

 宮殿を見た後はアルカサバへ。こちらは宮殿の要塞機能部分。人もあまりいないのでスケッチには最適だ。

アルカサバ

 アルハンブラ宮殿は実は大きく二つのブロックに分かれている。一つは先に述べた宮殿と要塞部分。そしてもう一つ、谷を隔てた反対側にヘネラリフェと呼ばれる別荘ゾーンがあるのだ。

アルハンブラ宮殿の裏側とグラナダの町

 そして実はこの別荘から宮殿を見ると、宮殿の裏側とグラナダの町が一望できるのだ。宮殿と町の美しさ両方を描くことができる、最高のポイントだ。でもしょせんアルハンブラの「裏側」でしょう?と言って侮ってはいけない。本当に美しい建築はどこから見ても美しいのだ。

この町で忘れてならないもう一つのスケッチポイントは グラナダ大聖堂だ。

グラナダの大聖堂

 いくつもの尖塔が並ぶドームが美しい建築だが、残念なことに小さな建物が密集する町のど真ん中に建っている。地図で見る限り相当に大きいのだが全貌は見えず、周囲を歩き回ると、道の片隅から、ところどころ美しさの片鱗だけを見せてくれる。

椰子の木とグラナダの大聖堂

 でも私は発見した。聖堂が唯一、小さな広場から椰子の木とともに並んで見えるのだ。スペインならではの教会風景だ。大急ぎでスケッチしたのは言うまでもない。まもなくセビリア行きの列車が発車する!

スペインをスケッチする セビリアとコルドバ

スケッチ旅行は欲張ってはいけない!

 スペインの旅を計画する時、一番悩んだのはセビリアとコルドバの旅程だった。時間とお金の制約の中でいかに効率的にスケッチするか。全ては事前の計画にかかっている。必死に時刻表と地図を調べ、少しでも多くの風景、建物を描く・・・。しかし結果的にこの時の私の計画は最悪だった。

 グラナダから3時間半かけて夜遅くセビリアに到着。一泊し翌早朝、2時間だけスケッチし、すぐにコルドバに移動し、夕刻までの3時間だけスケッチする。そこで一泊して翌朝一番ですぐトレドに向かうと言う超ハードスケジュールを選択してしまったのだ。
 つまり1日の午前午後それぞれ別の都市でスケッチ、チェックアウト、移動、チェックインし、スケッチし、また翌日早朝チェックアウトするということだ。

 この時の私のように2、3時間のスケッチのために、3日に渡って数時間も移動するのは絶対にやめたほうがいい。
 何故なら描くよりも移動する方が時間が長いという非効率的な使い方であると同時に、日本語はもちろん、英語さえ通じない田舎駅と列車の中を重いスーツケースを引き摺って移動することに、想像以上の神経を使うからだ。やっと目指す駅とホテルに到着しても疲れはてて絵を描くところではなかった。

 それでもこの時、それなりのスケッチはした。その成果だけは報告しておこう。

セビリアの大聖堂とヒラルダの塔

 セビリアではやはり、世界遺産「カテドラルとヒラルダの搭」がいい。時間のない人はここだけでもスケッチすると良い。
 もうひつ有名な建築はアルカサス。だがこちらは外からは門と城壁が目立つだけ。スケッチには今一つだ。

アルカサス

 コルドバでは何があってもメスキータだけは外せない。特にその内部のイスラミックアーチが連続する空間は圧巻だ。時間があればこの内部空間もスケッチしたかった。

メスキータ内部

 実はこのメスキータ、外観を描こうと思って正面からアプローチすると、意外にいい構図がない。お薦めは門を出て裏側に回り、グアダルキビル川にかかるローマ橋を渡って向こう岸から振り返ってみることだ。美しい橋とメスキータがセットで現れる。スケッチには最高の構図だ。

ローマ橋越しにメスキータを見る

ガイドブックによれば、コルドバは特に観光客対象のフラメンコを見せてくれるらしい。どんな小さなホテルでもフラメンコを観たいと言うとすぐに予約をしてくれる。当初は私も行くつもりだったが、移動に疲れ果て、夜、フラメンコショーに繰り出す元気はとても残っていなかった。

旅行計画を失敗したために、本場のフラメンコを観ると言う貴重な体験ができなかった。残念だ。皆さんはこんな失敗をしないように。

スペインをスケッチする。トレド編。

エル・グレコ 「トレドの風景」

 数年前、同じ建築設計の仕事をしていた後輩から、「新婚旅行でスペインに行きます。いない間よろしくお願いします。」と報告を受けた。
「いいね。それでどこへ行くの?」
「マドリード、バルセロナ、セビリア・・・です。」
「えっ、トレドは行かないの?」
「もし、1日しかスペインにいられないなら、迷わずトレドへ行け。という格言があるでしょ。」
 軽い気持ちで呟いたのだが、彼は急遽、旅行先にトレドを組み込むため、飛行機の時間変更やお嫁さんとの意見調整やら大変だったらしい。

 後輩にそんなことを言った手前、私がスペインに行くのにこの町を外すわけには行かない。今回の超ハードスケジュールの中でトレドだけは唯一2泊を確保したのはそんな理由もあったのだ。
 しかもトレド駅到着を昼の12時頃になるように計画した。だから到着当日に半日、翌日は丸1日スケッチできるはずだった。が、世の中思うようにはいかない。この旅の間、重い荷物を引きずって歩く汗まみれの旅人をあざ笑うかのような快晴続き。それなのにこのトレドに来た途端、天候は大崩れ。2日とも空は暗く、突然の大雨が度々私を苦しめた。

 それでも、トレドで描くべき絵は決めていたので、スケジュール的には楽観していた。勘のいい人はもうお分かりだろう。冒頭に載せたエル・グレコの作品「トレドの風景」だ。本当は人の絵の真似はしたくないが、相手がエルグレコならば誰からも文句は出ないだろう。

 地図で見る限り、同じような構図をとらえようと思うと、ちょっと距離がありそうなので、タクシーに乗ろうかとも思ったが、何しろ絵の構図を考えながらの移動。後ろを見たり、立ち止まったり、描くための足場を確認したり・・・車ではとても無理だと思い、歩くことにした。

トレドの風景 私が見つけた絶景ポイント

 しかし道のりは険しく、想像以上に遠かった。やっと見つけた絶景ポイントは小高い丘の上。人気(ひとけ)もなく、雨を避けられるものは一切ない。描き始めて5分も経たないうちに、待ってましたとばかりに激しい雨が降り出す。残念だがここでスケッチ完成させるのは無理と判断、翌日晴れることを期待して疲れた足を引きずり町に戻った。

翌朝。窓を開けるも雨。あの場所に戻っても絵は描けないと、決断し、町中で雨を避けながらスケッチすることにした。

路地の先に大聖堂が見える

 トレドは大聖堂を中心に道が網の目のように広がる城塞都市。侵入者を防ぐためなのか、真っ直ぐ先を見通せる広い道路は一本もない。
 曲がりくねった路地を上へ上へと登っていくと屋根の間から突然大聖堂が現れる。この町の最大の特徴だ。是非スケッチしてほしい。

トレド大聖堂

 小さな建物がひしめく町の中にあって、目を惹くのが、この大聖堂とアルカサル(軍事博物館)。大聖堂は広場があるので、絵を描くにはもってこいだ。しかし雨天では広場の真ん中でスケッチブックを広げるわけにはいかない、さんざん探し回って、いいアングルで描ける周辺の店舗の庇下を探し当て、なんとかスケッチした。
 一方アルカサルは周辺の道から見ると、これという構図が見つからず、スケッチせず。そのまま道なりに町を一周する。

狭い路地と建物の壁

 中世のままの石壁の建物が続く町は統一感があって美しい。しかし道が狭いこともあって、私の視界を支配するのは壁ばかり。町並みとして映らないのだ。これをスケッチするのはとても難しい。
 エルグレコのとらえたトレドの姿は町の中に入ってしまうと、あの美しさは残念ながら体感できないのだ。

 そうしてトレドをスケッチする難しさがわかってきた頃、町の正門であるアルカンタラ橋にたどり着く。橋を渡り右に曲がると例のエルグレコの絵にある方向だが、逆に左に曲がってみた。振り向くと、アーチのある橋と城門、小さな建物が続き、教会もある。丘の上にはアルカサルもあるという最高の構図が現れた。

 ここだ。迷うことなくスケッチを始めた。途中で何度か雨に襲われるも、その度に橋塔に走り込み、雨宿りを繰り返してなんとか完成させることができた。
 エルグレコと同じ構図の絵は描けなかったが、私なりの「城塞都市トレド」がスケッチできたと思っている。

有名絵画に見るブルーの秘密

先日、高校時代の教養ある友人から突然、ラインアプリで次のような質問をもらった。

 「ところで画伯(彼は僕のことを親愛と、からかいの情を込めてこう呼ぶ)、「フェルメールブルー」はラピスラズリであるということはわかりましたが、染付けのコバルトブルーがフェルメールに与えた影響は、あるのでしようか?調べても出て来ません。ご存知ないですか?」

 なるほど。興味深い質問だ。この際「青色」について調べてみようと思った。
この質問に答える前にまず基礎知識を復習しておこう。以下はネットや専門書から調べた概要だ。
 まず色の元になるのは顔料や染料である。繊維の間に染み込んで発色するのが染料、繊維の表面に広がって発色するのが顔料だ。絵の具は顔料を水系または油系の液体に溶かして使用するものだ。
 古来、人類は植物や動物から取り出した藍のような天然有機素材を染料として着物を染め、鉱物から取り出した無機顔料で白い磁器に絵付をしてきたというわけだ。

 さて問題の染付の青とフェルメールの青の関係。前者は金属のコバルトによるものでコバルトブルーと呼ばれる。
 フェルメールがよく使った青色は宝石のラピスラズリ(アルミと硫黄が含まれ、コバルトは含まれていない)を砕いて顔料とした絵具でウルトラマリンブルー、あるいは彼の名を取ってフェルメールブルーなどと呼ばれる。現在の絵具の色ではウルトラマリンブルーの方が濃く、深い青色だ。

 友人の質問に対する答えは

 結論を先に言うと「フェルメールは染付けの青は知っていた。しかし素材としてのコバルトブルーの影響を受けていないし実際に使用してもいない。」だ。
もちろん両者は色の名も鉱物の組成も違うので、物理的に違うのは明白だが、友人の質問は芸術家として影響を受けたかということなので、もう少し解説がいる。

フェルメール 牛乳を注ぐ女
テーブルの左端の壺に注目!

 フェルメールが活躍していた時代(17世紀中頃)は世界史におけるオランダの絶頂期。染付がオランダに輸入され、彼はそれを見ていたと思われる。何故なら彼の絵の中に中国製と思われるブルーの磁器が登場しているからだ。ご覧のように絵の中のフェルメールブルーと見事に調和している。

 しかしこの青はコバルトブルーではない。

というのは当時のコバルト顔料は熱を加え、酸化させて始めて鮮やかな青が発色するものしかなかったからだ。つまり陶磁器を制作する過程でしか発色しなかった。
 画家がアトリエで絵の具として使えるコバルトブルーが発明されたのは19世紀。フェルメールが活躍したのは17世紀なので、残念ながら彼はコバルトブルーは使えなかったのだ。
 一方ラスピラズリは古くからある青色の顔料で特に聖母マリアのマントなど高貴な色として重宝されていた。

 彼がラピスラズリを魅力的な青として選んだのもうなずける。

 ただ鉄分によって発色する安価な他の青色絵具と違い、ラピスラズリは金とほぼ同単価で取引されていたというほど、とんでもなく高価な絵具だった。「フェルメールブルーは彼が小品、寡作だったから生まれた。大作、多作だったら彼は破産していただろう。」などという説もあるくらいだ。

モネ 睡蓮
モネブルーの水面

 どうやらブルーという色は芸術家の心を揺さぶる色のようだ。

 陶磁器用のコバルトブルーと同じ組成で 工業的に合成されたコバルトブルーはまさに同時代の印象派のルノワールやモネが多用した。モネ・ブルーと呼ばれる青はこのコバルトブルーらしい。
 日本では東山魁夷の東山ブルーが有名だ。(ただし彼が使った岩絵具の正体は私が調べる限り、工業製品らしいけれども、明快に特定できなかった)

伊藤若冲
背景のブルーに注目!

 伊藤若冲のブルーも有名だ。こちらは江戸時代、当時できたてほやほや輸入工業製品のプルシャンブルー。名前の通りプロシア(ドイツ)で発明された。当然高価な青だった。現代の絵具でその発色を見ると、コバルトブルー、ウルトラマリンよりもさらに濃いが、透明度は高いという素敵な青だ。
 ちなみに私が描く水彩画は日本の秋空はコバルトブルー。ローマの夏空はフェルメールブルー(ウルトラマリンブルー)。陽光の影はプルシャンブルーで描いている。どんな色なのか何となくイメージしてもらえるだろうか。

 もっとも現在は事情が変わりつつあるようだ。

 プロ用の絵の具は今でも鉱物と同じ成分の合成無機顔料を使うが、学童用の絵具は高価な顔料、毒性のある顔料(カドミウムイエローなど)は好ましくないので、石油から作る有機系(高分子化合物)顔料に置き換わっているらしい。
 有機系顔料は一般に連鎖する炭素原子の結合が紫外線に弱いため、鉱物から取れる無機系顔料に比べて耐候性に劣る。
 しかしどの波長の光を反射させるか(波長の短い光だけを反射する顔料が私たちの目にはブルーに見える)、人間が設計できるので、好きな色を安価に無限に生み出せる可能性がある。
 遠い将来、現代作家の名を冠する有機系顔料による「〇〇ブルー」を崇める人が現れるかもしれない。

水彩画の道具 マスキングインクって何?

水彩画を習い始めたあなたに。

濃い背景に白色を塗りたい時、あなたならどうする?
もちろん不透明の白色絵具を塗れば簡単だ。だが透明水彩の魅力は後ろの色が透けて重なる美しさを追求することにある。
不透明な白絵具を塗るのは本来邪道。紙の白を残して塗るのが基本だ。

だから空に浮かぶ白い雲を描きたければ雲は紙の白を残して空だけを青に塗ればいい。
問題は次のパターンだ。空を飛ぶ一羽の白いかもめを描きたかったらどうするか?

この場合はかもめの白を塗り残さなければならない。しかし細いアウトラインのかもめをシャープに空色で塗り残すには、紙を乾燥させておく必要がある。しかしそうすると必然的に空に筆跡が残りやすくなり、塗りムラが出てしまう。

こんな時に利用するのがマスキングインクだ。

これはゴム状の液体で白く残す(または後から別な色を塗る)部分に先に塗っておくと、乾燥後は後から塗った水彩絵具をはじいてくれる。だからまずカモメの形にマスキングインクを塗り、空の部分にたっぷり水を浸み込ませてからムラのないように青を塗る。この時カモメ部分も一緒に塗ってしまうのがコツだ。

塗り終わった後、カモメ部分のマスキングインクをはがせば、下地の白がマスキングインクを塗った形状通り、シャープに残る。このまま白として残すもよし、もちろん別の色を塗って仕上げることも出来る。

私は草むらに光る茎や花びら、暗い森林の中で明るく反射する木の葉、水面の波頭などに使うことが多い。

このテクニックを使えば初心者も完璧…と言いたいが、意外に製品の選び方と使い方が難しく、私もいままで何度か失敗している。初心者、いや中級者に

マスキングインクを使いこなすコツをお伝えしよう。

先に言っておくと私の目で見て今現在まだ完全に満足した製品はない。いずれも帯に短したすきに長しの状態だ。それでも少なくともしてはいけないことだけはお伝えできると思う。

インクの形式はいくつかある。
まずインクケースの蓋を開け、筆にインクを付けて塗るタイプ。長所は細筆を使えば、細い線、しなやかな線が引けるので、ある程度インクで絵が描ける。欠点はインクケースが密閉されないのですぐに硬くなり、2度目以降は筆を使っても細くはならない。3度目以降は単なるゴム粒を置くという状態で、もはや絵を描く道具とは言えなかった。

次に細い金属性または樹脂製のノズルの先からインクを出し直接塗るもの。長所はインクケースの蓋を開ける必要が無いので、インクの硬化を防ぐことが出来ること。短所はノズルの先端が硬質なので、しなりが無くやわらかい線は引きにくい。また長時間使い続けると、空気に触れる先端がどうしても詰まりやすくなる。無理に押し出すと一気に塊が落ちることもあり、なかなか扱いにくい。

最後にボールペンペンタイプ。0.7mmのごく細タイプが発売されたと聞いて、早速注文した。形状はまさにボールペン。しかし通常に描いただけではインクの出が悪い。ボールペンの本体に圧力をかけると、一気に出て太くなる。もう少し使い込めば思うような線が引ける可能性はある。その時はまた報告したい。

次は塗った後の注意事項。


インクを塗った後すぐに水彩絵具を塗ると、水分に溶けてマスキング部分が流れ出すことがある。絵具を塗るのはマスキングが乾いてからにすること。もっともわざとインクと水を混ぜて使う人もいるようだ。


インクを塗った後すぐに水彩絵具を塗ると、水分に溶けてマスキング部分が流れ出すことがある。絵具を塗るのはマスキングが乾いてからにすること。もっともわざとインクと水を混ぜて使う人もいるようだ。

私が経験した最大の失敗はマスキングして、上に色を塗り、そのまま1ヶ月ほどほっておいたことだ。気がつくとマスキングインクの脂分が黄色く変色し、水彩紙に染み出していた。マスキングをはがしても黄色いしみはどんなに洗っても絶対に取れない。メーカーによっては塗ってから何日以内にはがしてくださいと明記してあるはずだ。早めにはがすほうがいいだろう。

インクをはがすときは、紙が完全に乾いてからはがすこと。早く仕上げようと、紙がまだ水で湿っているときにインクをはがすと、紙の表面がインクの強さに負けて破れてしまう。こうなると処置は難しい。
避けた部分に色が浸み込み破れた形がはっきり見えてしまうのだ。さらにはがれた部分は他と同じ発色にもにじみ具合にもならない。つまり完全に絵描きのテクニックが使えない状態になってしまうのだ。

マスキングインクの材質と紙の材質はメーカーにより千差万別なので、組み合わせによっては、上記のような失敗は最低限で抑えられるかもしれない。だが、せっかくの作品が最後に消えるはずのマスキングインクで台無しになっては泣くになけない。

ご注意を!

「絵画」と「サイズ」のエピソード

 水彩画の魅力を伝える・・・このブログの使命のひとつだ。絵は初心者ですというあなたに今日は「絵のサイズ」と「モチーフ」についてお伝えしよう。
 まずお聞きしたい。

あなたは今何の絵をどんなサイズのスケッチブックに描こうとしているだろうか?

スケッチブックのサイズ
奥からF8、F6、F4、SM(サムホール)、F0

 描くのは風景画で、習いに行っているカルチャーセンターで教えられたサイズを使っている?それはひょっとしてF8サイズ?またはF6サイズ?
 あるいは持ち運びやすいハンドバックにも入るSM(サムホール)サイズ?
漫然と人に勧められたサイズで絵を描いていると、後で後悔することになる。実は絵にはそれぞれのサイズに適する目的と、場所と、対象がある。

例えばまず、明日あなたが朝から日帰りのスケッチ旅に出かけたとしよう。

 当然電車乗って移動する。抱えているのは勧められたF8のスケッチブックが入った画家用の鞄だ。座席も確保し、さて車窓を眺めながらの楽しいスケッチ旅行に思いを馳せる・・・はずが、気がつくと隣の人から非難の目線。
 当然だ。実はF8サイズのスケッチブックは幅が45cmくらいあり収納ケースは50cmくらいになる。電車やバスの座席幅は40cmくらい。つまりそれをひざに載せて座席に座ると、隣席にはみ出すことになる。そう、F8は周りの人にとても迷惑なのだ。ゆえに私はF6のスケッチブックを持っていく。これなら何とか隣の人と仲良くやれるサイズだ。
 そして電車に揺られること2時間。やっと目的地に到着。ここは日本の伝統的な民家が残る町並みだ。いい景色を求めてさっそく歩き回るとしよう。

あった! F6にちょうどいい構図だ。

F6のスケッチブックに描いた町並み

 さっそく描き始める。 ずらりと並ぶ民家。美しい町並みと背景の山並みがきっちりと画面に納まる。 約1時間経過。まだ下書きも終わっていないけどそろそろ昼時だ。人によってはここで中断。昼食後また書き始める。そしてまた約1時間が経過。
 早い人はそろそろ完成だろうが、まだ終わらない人もいる。帰りの電車まであと2時間たらず。さてどうする。F6をもう一枚描ける人はたぶん少ないだろう。でもせっかく一日をつぶしたのに成果が一枚では寂しすぎる。

そこでSM(サムホール)の登場だ。

SMのスケッチブックに描いた町並み

 この大きさは面積にしてF6の約1/4。2時間足らずでも十分描ける。しかも2、3軒の民家なら町並みとして描き込める最小限の大きさなのだ。私がこのSMのスケッチブックを愛用する所以だ。
さて最初のスケッチにたっぷり時間をかけた人には残り時間は1時間しかないはずだ。

ここで登場するのが0号のスケッチブックだ。

F0サイズのスケッチブックに描いた民家

 サイズは葉書よりも一回り大きいだけなので、描くのにさほど時間は要しない。一時間あれば十分だ。ただし、このサイズでは「町並み」は描けない。一軒の民家とその周りの雰囲気だけだ。それでも2枚目が描けるという事実は大切にすべきだ。こんなときのために私はこの0号のサイズも持っていくようにしている。
 その他に旅行携帯用の葉書サイズのスケッチブックもある。紙質はまったく変わらないプロの絵描き用だ。さすがに小さすぎて作品にはなりがたいが、旅先からのプレゼントには最適だろう。
 実は学生のころ、この葉書に旅先で水彩画を描き、その地から投函、当時好意を寄せていた女性に送ったことがある。私の絵の出来が悪かったからなのか、もともとそんな芽が無かったのか、結果的に、葉書サイズスケッチブックに神通力は無かったことを報告しておこう。

さて別な日。あなたは人物画の絵画教室に行ったとしよう。

いつものF6サイズを持っていく。スタイルのよいモデルさんで衣装は半そでのブラウスと短パン。この日は立ちポーズだ。さて構図を考える。

F6サイズ 人物の立ちポーズで全身を入れる

モデルさんのスタイルがいいので全身を入れたい!・・・と思った人。F6サイズは縦が約40cmなので余白を取ると、顔のサイズはご覧のように必然的に4cmくらいになってしまう。人物画は基本的に表情が決めて。この大きさでは残念ながら「いい表情」は描き難い。つまり

全身を描きたいならF8以上を持ってくるべきだった

 カルチャーセンターで教えられる「F8以上がいいね」はまさに、この時のことだったのだ。

F6サイズの場合は上半身だけの構図が良いだろう。

F6サイズ 人物の半身を入れる

 顔の大きさも大きくなり、女性の表情もきちんと表現できる大きさだ。脚は当然画面に入らないが、必ず手は全部納めよう。手の無い上半身は服だけのつまらない肖像画になってしまう。一方で

人物画の練習のために顔だけを描きたいという人もいるだろう。

 こんな人はF4、F3くらいでも、人の表情の魅力を伝えることは十分可能だ。私は時間のないときはF4で顔だけを描くことがままある。顔だけと言うのは中途半端に上半身を入れるより対象が表情にフォーカスされるので絵としてそれなりに描く価値があるのだ。このサイズのときのポイントはやはり目だ。まつげまで描きこめる。こちらもチャレンジしてみてほしい。

F4サイズ 人物の顔をメインに描く

「絵画」と「サイズ」についてだけでも絵描きなりの苦労はあるのだ。