






今回の作品はピースボート船旅(「ピースボートでゆく世界一周スケッチ旅→」参照)で訪れたポルトガル、リスボンの世界遺産「ベレンの塔」だ。
たぶん「世界遺産」ならばどこを描いても絵になるだろうし、観光用の写真も数えきれないくらい世にあふれている。単に世界遺産を描くだけなら現地に行く必要もないともいえる。
だがそれではつまらない。現地で取材し、自分で工夫した、自分だけの水彩画を描きたいと思う。そう思って撮った写真が①図である。
構図について
水平線の位置に注目してほしい。水平線、海のラインが画面の中央よりやや下、6:4くらいの位置にある。
通常の観光写真はベレンの塔が中心となるので、海の面積は小さい。水平線は画面のかなり下に、7:3、8:2くらいになることが多い。
だがこの絵のポイントは海の表情である。御覧のように「岸に押し寄せる波」がとても面白い。だから海の面積をできるだけ広くとりたかった。海とベレンの塔両方の魅力を描きたい…そのちょうどよい位置が、画面の中央ではなく上から6:4くらいだったのだ。
一方垂直線のかなめとなるベレンの塔が影となるコーナーのライン位置もやはり6:4になるように設定している。
この6:4はいわゆる「黄金比」に近い。やはり誰もが美しいと思うプロポーションに落ち着くのだと思う。
次に色彩計画を考える。写真は快晴の朝早い時間の風景だ。だから空の色はまだそれほど青くなく、むしろ白っぽい。もちろんこのまま描いてもよいし、より青い空にすることもできる。
だが今回は思い切ってより「早朝」の風景にしてみることにした。
朝焼けの空は太陽の周囲はオレンジ色に、反対側は青くなる。海は空の色を写す。そして光を受ける壁面もオレンジに染まるはずだ。
そんな原則に基づいて、スケッチしたのが②図である。特にブルーとオレンジのグラデーションが不自然に見えないかをここで確認している。
下塗り
この作品に使用した水彩絵具にリンクを張っておいた。いずれも私の愛用品である。興味のある方は参照してほしい。
下塗りの前に、光る波飛沫をマスキングしておく。今回は細かい粒が多いの丁寧に点描するように塗っている。
次に空の左側から右側に向けて、黄色 〜オレンジ 〜青のグラデーションとなるように塗る。(③図)
具体的な手順は以下の通りだ。
まず最初に水彩紙にたっぷり水を塗る。次にやはりたっぷり水を含んだ太筆を置くように空の明るい部分にレモンイエローを垂らす。そしてその隣に同様にトランスペアレントオレンジを垂らす。最後の画面の右上端にコンポーズブルーを垂らす。下塗りの段階は建物は無視して良い。大気を描くつもりで大胆に塗って良い。筆を置いた跡が目立ちすぎる場合は紙面を傾けて絵の具を流すようにすると、自然なグラデーションになる。
さらに水平線を挟んで同様にコンポーズブルー、トランスペアレントオレンジ、レモンイエローでグラデーションを施す。
海に映る朝日を描く
水面の色は基本的には明るい光の色(オレンジ色)と空の色(コンポーズブルー)が映り込んでできる。
そこでまず明るいオレンジ色の波を塗る。この時波の上部明るい部分は下塗りの薄いオレンジ色を残し、陰部分に濃い目のオレンジを塗るようにする。(④図)
すると相対的に空の色がやや弱いことが分かったので、右上の青空とそれが映り込む右下の海もコンポーズブルーを足しておく。また元の写真にはないが、画面に変化を出すために、背景に遠くの山を描いておく。
海に移る空の色を描く
海に映る空のブルーを塗る。基本は空色であるコンポーズブルーだが、波の頂部は下塗りの薄いオレンジ色を残す。
影となる部分はウィンザーバイオレットを混ぜて塗る。
ブルーの明暗が自然になじむように、霧吹きで水分を足し、滲ませながら波の形を塗ってゆく(⑤図)。
建物に陰影をつける
建物の上部を思い切って暗くする。その暗さとバランスをとりながら、建物の壁面に陰影を施す。暗い部分はコバルトブルーとウィンザーバイオレットの混色。水でぼかしながら明るいところは下地の薄いオレンジのまま残す。(6図)
仕上げ
物見等、窓、手すり、ブリッジ、頂部手すりの凹凸などの細部の明暗を描きこむ。影の色はアリザリンクリムゾンを多めに、サップグリーン、ウィンザーブルーレッドシェードを混色した濃いグレーを使用した。
波のマスキングインクを剥がす。白い不自然なエッジが目立つ部分は水だけを付けたナイロン筆でこすり、なじませる。
波のハイライトを生かすため、隣接する暗い部分をやはり濃いグレー(ウィンザーブルーを多めにする)で描き込む。
建物上部の濃い壁面にさらにグレーを重ね強調する。海面と空の暗い部分に濃いブルーと紫を紙面上で混ぜ全体のバランスを調整して、完成だ(⑦図)。
P.S.
この作品はネットショップ「水彩STORE/美緑空間→」の「ベレンの塔 Lisbon→」で販売中。興味のある方は覗いてほしい。
P.P.S.
水彩画の制作法に関する記事はカテゴリ「絵画上達法→」にまとめてある。水彩画初心者の方は参考にしてほしい。
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