イタリアをスケッチする ローマ編

 ついに憧れのイタリアにやって来た。絵描きになることを目指し、「人」と「建物」をテーマに絵を描くと決めたのだが、本場イタリアの建築をこの目で見ていないことに実は引け目を感じていた。皆さんにも古典建築をスケッチする喜びをじっくりお伝えしようと思う。

共和国広場

とても休んでなんかいられない

 ここはローマのホテル。関西国際空港から十数時間のフライトを経たので本来は深夜。疲れた脳の意識がかすみがちなのは当然だった。 しかし機内での現地時間に合わせた時計はまだ午後4時。しかも夏時間せいなのか空は真昼のように明るい。

 このまま寝てしまってはあこがれのローマに来た意味がない…そう思ってエコノミー症候群になりかかった体に鞭打ち、スケッチブックをかかえて街へ繰り出した。

江戸時代から残る広場に感動!

 基本的には楽天家の私だが、初めてのヨーロッパに無計画で動くわけにはいかない。
 事前に動くコースを綿密に決めていたので、行き先を迷うことはない。テルミニ駅のすぐ近くのホテルから北へ歩くと共和国広場に出る。

 もともとはローマ時代、ディオクレティアヌス帝の広場だったものを19世紀に再整備したものだという。
 当初の予定では通過するだけのつもりだったが、雄大な広場とそれを囲む建物全体がすでに江戸時代にはできていて、いまもそのままの姿が残っていることに感動。

 さっそくローマ最初の一枚を描き始めた。
 しかししばらくして気がついた。実はイタリアの建築はこのくらいの古さは当たり前。この程度の感動でいちいちスケッチしていては永久に予定のコースを踏破することはできないと。

サンタ・マリア・デル・アンジェリ教会へ

サンタ・マリア・デル・アンジェリ教会

 共和国広場をスケッチしたあとは、広場に面するサンタ・マリア・デル・アンジェリ教会へ向かう。
 さすがに、いや当然というべきか、建物のデザインを台無しにするような「入場券ブース」という無粋なものは無い。入り口前に立つおじさんに直接入場料を渡して入るのだ。

  ガイドブックのこの教会のお勧め度は星二つ。だからたいしたことがないとわかれば、すぐ次の建物に行こうと思っていた。ところが一歩足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる壮大な宗教空間に圧倒されてしまう。

  またまたスケッチブックを広げることになってしまった。

 壮麗さの秘密は、まず内部空間の巨大さ、次に柱と壁の重々しい装飾、そして対照的に軽やかに浮かび上がる白い天井だ。ペンを走らせながらも心地よい静けさに、時間を忘れ、気がつくと1時間が経過していた。
 いかん・・・今日中にあと4つの建物を見なければ。

「サンタ・マリア・デラ・ビットリア教会」!

サンタ・マリア・デラ・ビットリア教会 逆光がまばゆい

 2枚のスケッチを終えるとさすがにちょっとローマの風景に慣れてきた。「ディオクレティアヌス帝の浴場跡」はちらと見るだけで我慢することができた。

 この教会は大きな道路の交差点に建ち、実はこのあたりが現在のローマ市の中心らしい。
 だが周りには近代的なビルなどまったく無く、どこまで言ってもローマ情緒たっぷり。たまらずスケッチを始めたものの、さすがに時刻はもう夕暮れ。

 太陽は西に傾き、逆光をまともに受ける最悪のコンディション。それでもぎらつく夕日に屹然と建つ石の存在感、三角の破風と十字架のシルエットが美しくて一気に描きあげる。

サンカルロ・フォンターネ教会

 この後「クイリナーレ宮」「サンカルロ・フォンターネ教会」を駆けるようにして見た。
 後者は奇才ボロミーニの設計。規律正しいルネサンス建築とは一味違う、個性的な曲線デザインが感動的だ。
 スケッチしようとしたがさすがにもう夕暮れ。後ろ髪を引かれる思いで帰路についた。

 サン・ピエトロ寺院へ

サン・ピエトロ寺院

 翌日、太陽が昇るのを待ちかねたようにホテルを飛び出す。地下鉄に乗って午前8時前にサン・ピエトロ寺院に到着した。

 朝日が寺院の正面を照らし、少しピンクがかった外壁と白い柱、水色のドームが絶妙のバランスで浮かび上がる。
 さっそくミケランジェロが設計した回廊の片隅に日陰の席を確保し、スケッチブックを広げる。ドームの曲線や列柱のリズムを一心不乱に見つめてペンを走らせる時の高揚感は何物にも変えがたい。

 しかし幸せな気分は長くは続かないもの。
 この絵を描き終えようとするころ、私の視界をたびたび人の姿が遮る。さすがにちょっといらついて、ふとわれに帰ると、いつの間にかすさまじい群集が右手の回廊から僕の目の前まで並んでいる。

 そう、バチカン美術館の開館時間を待つ人達だった。「早起きは三文の徳」・・・もう少し寝坊していたら、サンピエトロは私のものにならなかった。

  次の目標はサンタンジェロ城だ

サンタンジェロ城

 絵描きの旅は今日も忙しい。
 日本では見られない円形の城。こんな巨大な建造物が紀元123年に建てられたというのだから驚きだ。
 日本はまだ弥生時代のはず。こんな巨大な建造物が作れるはずもない。ローマ帝国の偉大さを改めて思い知らされた気がする。

 さて絵を描こうとしたものの、時刻はまだ10時過ぎなのに照りつけるローマの陽光は半端ではない。
 城の円形がきれいに見えて、足元にはアーチの橋がかかって、テヴェレ川には青空が映りこんで、そして何よりも日陰であること。

 こんな条件が適う場所を求めて歩くこと30分。
 やっと確保した街路樹の木陰の下。雄大な城を描くのにふさわしい大きめのスケッチブックを広げる。幸いサンピエトロ寺院と違って、ややこしい装飾はほとんど無し。

 気持ちよくスケッチしていたが、ふと気が付くといつの間にか手元のペン先が反射光でギラリと眩い。そう太陽は昇るのだ。

 そうして灼熱の太陽にさらされ2枚目のスケッチを終えたとき、喉の渇きはもはや我慢の限界に達していた。

 CAFÉを捜し求めて水分補給すべきか、このまま我慢して城に登るべきか。 しばし考えた挙句、古代ローマ人に敬意を表して後者を選択。
 延々と続く階段の長いこと。 時々現れる窓は美しいローマの町並みを切り取って見せてくれる。

サンタンジェロ城より眺める

 それなりに、ローマ文化を堪能しつつ、ひたすら昇る。すると・・・あった。お城のテラスにCAFEが。 運よく日陰の涼しそうな席をゲット。しかも窓の外にはサンピエトロ寺院の光景が広がっている。
ウェイター「注文は?」
もちろん、「ドラフトビア!」
ウェイター「スモール?」
もちろん、「ミディアム!」(本当はラージと言いたかったのだが)
喉が勝手に水分を吸収するのを見届けた後、ゆっくりと眼下の風景をスケッチ。
京都、いやどこかの観光地のように長居をして追い出されることも無く、しばし幸せな時間をすごした。

ローマって素晴らしい。風景も、ビールも。

ナヴォーナ広場 高級CAFEのテントの下でスケッチ

 さて、ゆっくりしてはいられない。今日はまだまだ予定がある。サンタンジェロ城からテヴェレ川を渡り、20分ほど歩いてナボーナ広場へ到着。

 またまた 素晴らしい!左のオベリスクと噴水の彫刻はベルニーニの作品、正面の教会はボロミーニの作品だ。そして広場は真昼の強烈な日射にもかかわらず観光客が溢れている。

  人ごみに邪魔されず、日陰で、しかも座って描けるベストなアングルを見つけた。そこは高級CAFEのテントの下。仕方が無いので(?)、やむを得ずまたまたドラフトビアを注文(しかも2杯!)。昼食のサンドイッチをつまみつつスケッチをした。

  建物の華麗な装飾にひるむことなく、惑わされること無く、さらさらとペンを走らせ…驚くことにわずか30分ほどでこの複雑な広場のスケッチを終えてしまった。

 急に絵が上手くなった気がしたのはローマの雰囲気に手が慣れたからなのか、いつもよりちょっとペースの速いアルコールのせいだったのか。

パンテオン

  さらにナヴォーナ広場を抜けてパンテオンへ。内部は人の頭しか見えない。 この人ごみの中ではスケッチは無理!あきらめてさらに有名なトレビの泉へ。

観光客がひしめいていて・・・

 予想はしていた。
 …が、絵を描くどころか、泉に近づくこともできない。もっとも泉にコインを投げ入れる目的で来たのではないので、早々に退散しスペイン広場へ向かう。

 かの大階段が現れる。皆いったい何をしているだろう。座り込む人があふれていて昇る気にもならない。残念ながらここもスケッチをパス。

 広場の道をまっすぐに抜けるとやっと、やっとポポロ広場に到着する。事前の計画ではこの広場に面する「双子教会」を描くつもりだった。

 ガイドブックの点数も抜群!だが実際目にしてみると、残念ながら、たぶんいい加減な改修工事をしたせいだろう…細部がちょっとお粗末で不自然だった。
 創作意欲喪失・・・ローマのすばらしさが私の建物を見る目を厳しくしたのかもしれない。

トリニタ・デイ・モンティ教会へ

スペイン広場とトリニタ・デイ・モンティ教会

 そこで今度はボルゲーゼ公園を経由してトリニタ・デイ・モンティ教会へ向かうことにした。 実はこの教会の下が先程通ったスペイン広場だ。

 教会が一番美しく納まる構図を求めてあの人ごみの大階段を降りることに。
 こんなところでスケッチブックが広げられるだろうかと心配したが、ちょうどこのとき広場でお祭りが始まった。
 ありがたいことに階段に座っていた人たちは一斉にそちらに移動。その一瞬の隙をついて立ち位置を確保、スケッチすることができた。

 描き終えたとき、さすがにもう足と腰は麻痺状態・・・。 帰ろう!ビールが待っている。

コロッセオへ

コロッセオ

 ローマ滞在最後の日。
 夕刻にはフィレンツェ行きの列車に乗らねばならない。今日も描きまくるぞと意気込み、またまた急ぎ足の旅に出る。

 この日の最初のスケッチはあまりに有名なコロッセオ。その存在感。見る人を圧倒するフォルム。精密に組み上げられた巨大な石の塊。柱にも壁にもあちこちに削ぎとられたような窪みが残っている。

 降り注ぐ雨が石を溶かしたのか、戦人(いくさびと)の槍のあとなのか、いずれにしても、2000年の時が刻まれた証拠にちがいない。

 興奮する気持ちがペンの動きを加速するのか、快調にこの日の一枚目を描き終えた。そして次は隣接するフォロ・ロマーノ。期待にたがわぬローマの遺跡。さてスケッチをしようとしたとき、気がついた。

なんとペンケースが無い!

 手提げ袋を芝生の上に横たえたとき滑り落ちたに違いない。
 真っ青になり、心当たりを必死に探すも、もはや無駄。海外では一瞬でも手元から離れたら二度と戻ることはないという格言を現実に味わうことになった。

 どうする・・・・さんざん悩んだ末、最後は楽天家の私。列車の時刻までは観光を楽しむと割り切った。 かくしてローマ3日目の成果は一枚のみとなってしまった。残念。

 さて市の中心部に戻って、フィレンツェ行きの列車が発つぎりぎりまで、明日使えるペンが売っていないかとあちこち探し求めたが、店頭に並ぶのは事務用、お土産用のおしゃれな水性のペンばかり。

 水彩絵具を重ねても滲まない、細い油性のペンはとうとう発見できなかった。失意のうちに列車に乗り込むこととなった。

P.S.
この後の私の旅がどうなったかは「イタリアをスケッチする フィレンツェ編→」を読んでほしい。

P.P.S.
このブログには以下のような関連記事がある。興味のある方は参照してほしい。

■カテゴリーとしては

■スケッチ旅については

■水彩画の描き方については



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2 件のコメント

  • […]  当初は海外にもこの手提げバッグを海外にも持って行った。だがローマで愛用のペンケースを無くす(詳細はこちら→)という失敗をしてしまったが、その時使っていたのがこのバッグだった。 このバッグは口が閉まらない。だから水平に置くと中身が出てしまう。もちろん何事も注意深く扱えば問題ないのだが、私の性格はスケッチを始めるとと、それ以外はほとんど何も気を使わなくなる。 しかもせっかちなので一枚描き終わると、忘れ物をチェッすることなくすぐにそこを立ち去ってしまう。そして落としたことに気づき、慌てて戻っても、ご存知の通り海外で置き忘れたものは絶対に戻ってこない。 そうして度々大事なものをなくしたので、旅先にこのバッグを持っていくのはやめてしまった。 暫く新しいバッグを捜し求め、ようやく見つけたのが6号のスケッチブックが入るリュックサックだ。やはり布製、ポケットも多く、収納力も大。ホルベイン製だ。 ならばこれが最良かと言うと、やはり海外で失敗している。それはスリ対策だ。海外ではリュックは前にかけよと言う記事を読んだことがある。だがまさか自分がスリに会うとは思っておらず、油断していた。 気がつくとリュックの口は大きく開けられ、中の財布のお金だけ抜かれていた。私はスペインで同じ手口で2度もスリにやられた(詳細はこちら→)。仕方がないので今は海外では6号が入る肩掛けのナイロン製のショルダーを使っている。しかしやはりポケットがほとんど無いので使いにくい。やむを得ずバッグインバッグを中に入れて使っているが、今度はそれ自身の重さがかなりあるので全体がとても重くなる。海外用バッグは未だ悩みの種だ。 […]

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