学生時代あれほど絵を描くのに熱中していたのに、絵描きになるという野望を抱くことなく、選んだ道はゼネコンの設計部。高校時代に決めた建築家になるという目標に向かって歩き出したのだ。
もはや絵筆は不要!
鞄にはいつもペンとクロッキー帳を入れていた。設計エスキースの必携品だ。
芸術的センスが要求される建築家とはいえ、所詮はサラリーマンでビジネスの世界で生きている。締め切りに追われ、夜遅くまで気力と体力を消耗する毎日だったが、絵を描くことを完全に忘れていたわけではない。
仕事を終え、飛び乗った終電車!
さすがにここは東京、車内にはまばらながらぽつぽつと人が座っている。でもよく見ると時間のすごし方は皆それぞれ。
着ている服、姿勢、表情、手にしたアイテムも皆違う。あの人の職業は?体調は?などと考えてしまう。
連日の残業で体は疲れ果てているはずなのに、頭は妙に冴えきっているからだ。ついいつも鞄に入れているサインペンとクロッキー帳を取り出して、彼らの様子をスケッチしてしまう。いくつかお見せしよう。
熟睡。というより爆睡か。
長髪で、ネクタイの締め方もちょっとだらしない。
きっとまっとうなサラリーマンじゃない。
ひょっとして私と同類の設計屋か。
仕事の疲れも見せず一心不乱に読書に読書するおじさん。
こちらのお兄さんは肩肘をつき、なにやら思案中いや夢想中か。
いいアイデアが浮かぶといいね。
夜遅いのに案外若い女性もいる。
でもたぶん銀座の女性ではない。がんばるキャリアウーマンか。
こちらのお兄さんは今の仕事が一段落したに違いない。
リラックスして読書にふける。
冬の 電車内は暖かい。ほっとしたせいなのか、ついうとうとと・・・。おかげでクロッキー時間にちょっと余裕あり。
この人はどんな職業なのだろう。でもずいぶん恰幅のよい紳士だ。
描きかけたら、次の駅で降りてしまい未完になってしまったスケッチもある。(きれいな人だったのに残念だ!)
通常プロの水彩画家はやわらかい鉛筆で軽く輪郭を取ってから色を塗っているものが多い。一方、今私が描いている風景画はほとんどがペンで線描きし、上に水彩を重ねたものだ。
この技法を使うようになった理由はこの若い頃のペンとクロッキーによる「終電車の風景」にあったのかもしれない。
P.S.
このブログの関連記事は以下の通り。興味のある方は参考にしてほしい。
■「プロフィールpainter_yoshineはどんな人?→」
■「加藤美稲作品集:街角スケッチ→」
■「加藤美稲水彩画作品集→」
■「人物画の基礎クロッキーの道具と描き方→」
■「誰にでもできるデッサン練習方法とは→」
[…] つまり、朝起きてから仕事にゆき、眠るまでの空間をアトリエにすれば良い。日常生活の中で気になったシーンをすぐ記すクセをつけるのだ。 仕事をサボれといっているわけではない。当然、あるページには仕事のメモがある。しかしそれ以外のページには、あなたの日常があふれているようにするのだ。 上のクロッキー帳はすべて私の過去の日常の一ページだ。ビジネスの記録はさすがにここに出せないが、それ以外のシーンをちょっと取り出していみた。参考になると思う。 ①図は若いころ、友人に子供が生まれ、遊びに行ったときにその子供をスケッチしたものだ。この子も今は結婚して子供がいる。(詳細記事はこちら→)②図は神戸ジャズフェスティバルに出かけた時のスケッチだ。ベースを弾く演者がかっこよかったな。(詳細記事はこちら→)③図は若いころ、設計のコンペに自主応募しようかと帰りの電車内でスケッチしていたものだ。結局仕事が忙しくてコンペには出せなかったが。(詳細記事はこちら→)④図は仕事が終わって、絵の好きな仲間が集まるクロッキー会に出かけた時のもの。仕事に大きなクロッキー帳をもって出かけるのは気が引けるが、会社のノートがこのクロッキー帳なのだから、便利なことこの上ない。⑤図はプライベートで旅行に行ったときの宿泊したホテルの部屋をスケッチしたもの。当時ホテルを設計していたということと、河童さんのイラストがいいなと思い結構まねて練習していたのだ。(詳細記事はこちら→)⑥図は仕事が終わったあと、建築主の接待に付き合って出かけた銀座のクラブの歌手のクロッキー。バブルのころの思い出だ。⑦図は帰りの電車で正面に座って眠っていた男性のスケッチ。「終電車の風景」だ。⑧図は上海に出張したときのスケッチ。すべての仕事を終え、帰りの飛行機に乗る前の空き時間を利用して焦って描いたものだ。 […]
[…] それは私が社会人になって10年がたったころ。建築設計の仕事をそれなりに任されるようになり、充実した毎日を送っていた。(プロフィール「サラリーマンの世界へ→」を参照) […]