テーマを考える
「橋」は絵描きにとって魅力的な題材だ。このブログの「橋のある風景を描く3つのポイントとは?ポン・ヌフにて」で記したとおりである。
ただしポン・ヌフはパリという大都会の橋だったが、今回描こうとするのは南フランス、アヴィニョンを流れるローヌ川の有名な橋…と言えばお分かりだろう。「橋の上で輪になって踊ろう…」の一節で有名な「サン・ベネゼ橋」である。
ポン・ヌフとの一番の違いはそれが都会ではなく、いわば田舎の、豊かな自然の中にある橋だということだろう。テーマとして挙げるなら「自然と歴史の対比」だろうか。
構図を考える
そこでまず風景画で一番大切な要素である「構図」を考えよう。
写真①および②を見てほしい。両方とも現地で絵にしようと私が撮影した写真である。最初は①の写真を絵にしようと考えた。実によく自然の風景になじんでいる。文句なく美しい。
だが、絵にしたときはどうか?見る人へのインパクトが無い。なぜか?
一番の理由は橋の水平ラインと川の水面が平行なので画面に変化がない。また橋の壁面が全部陰になり明暗も単調だ。そこで周囲を歩き回り、見つけたのが②の構図である。
水平の川の水面に対して橋の線が斜めに画面に納まるので変化が出る。さらに橋の一部に日が当たるので明暗の変化もある。
つまり絵としては構図的に圧倒的に②のほうがいいというわけだ。
まずはファーストウォッシュ!
先にハイライトとなる水面の波と手前の緑の中のアクセント色となる葉をマスキングする。
そして空全体に水を引き、コンポーズブルーとウィンザーバイオレットを薄く垂らす。空は基本的には明るい部分なのでいきなり濃いブルーを塗ってはいけない。
写真を見てわかるように現地は水平線近くは白く高くなるほどブルーになる。だが今回は橋の中央の建物、光が当たる部分を強調したかったので、対比としてその周囲をやや暗く、紫を濃くしておく。実際の通りに塗る必要はないのだ。
次に川向こうの森を塗る。遠景なのでぼかして塗る。やはり先に水を引いたあと、メイグリーンに少しだけサップグリーンを混色して塗っている。
次はいよいよ橋だ。今回は大部分が逆光で暗くなる。ただし、だからと言っていきなり黒っぽい色を塗ってはいけない。素材感が出なくなる。
そこで石の素材色として明るい茶系の色であるローシェンナとバーントシェンナシェンナをベース色とし、逆光の暗さを出すためにそこにコンポーズブルーとバイオレットを垂らした。一番暗い部分にはさらにコバルトブルーを垂らしている。
ただし中央の建物部分は明るく強調したいので、この段階では塗り残しておこう。
次に川の水面を塗る。森の緑と同じグリーンの上に橋の映り込みを意識してローシェンナを垂らす。橋の映り込みのない右下部分は空のコンポーズブルーを塗っておく。
近景の緑は「自然の中にある橋」を表現するのにとても重要だ。背景の淡いグリーンに対比して青っぽい緑(ウィンザーグリーンブルーシェード+コバルトブルーあるいはウィンザーイエロー)を主体としながら、明暗を使い分け、草むらの立体感を表現する。
ここまででファーストウォッシュ完成だ(下写真③)。
中景を描く
中継の明暗を書き込む前に、水面の細波と手前の草むらにセカンドマスキングを施しておく。ファーストウォッシュの明るい部分を残すのが目的だ。そしてその周囲には暗い色を置いておく。これが陰影表現の決め手となる(下写真④)
中景の橋に陰影をつける。主としてセピアとコバルトブルーを使用してグラデーションで表現。さらに橋が水面に映りこむ部分の明暗も描き込んでおく。(下写真⑤)
続いて中景の石の材質感を表現する。石の輪郭はドライブラシでぼかしながら表現する。ローシェンナとセピアにウィンザーバイオレットとコバルトブルー、アリザリンクリムゾンを混ぜて陰影を表現する。橋の眼に近い部分は石の目地を描き入れ遠近感を出す。
さらに橋の中央ハイライトになる部分に影を入れ、立体感を出す。この時大切なことは影を濃くしすぎないこと。他の部分と同化してハイライトに見えなくなるからだ。同じ理由でこの部分の素材感にこだわらないほうがいい。むしろ光とその反射面を意識することが重要だ。(下写真⑥)。
近景を描く
仕上げの筆を入れる前に、近景草むらに施したマスキングインクをはがしておく(下写真⑦)。
川の水面のさざ波、草むらの明るい部分、ごく一部のハイライトが見えている。
実はマスキングインクをはがした段階で、草むらの緑が白すぎ、色の変化が少ないことに気が付いた。そこでメイグリーン、オリーブグリーンなどを明るい部分にかぶせ、変化を与えている。
そして草むらの暗い部分にはもう一段階暗い、アリザリンクリムゾンとコバルトブルーを混ぜた黒に近いグリーンで濃い影を描きこんだ。
仕上げに近づいた。
画面右側と左上方にさらに樹木を描きこむ。「豊かな自然」をイメージさせるためには必要な要素である。ただしあまり強調しすぎると「橋」のイメージが弱くなる。だから下部の草むらよりはやや弱めの表現でぼかしながら仕上げている。
最後は左下アクセントの草花に黄色とオレンジ色を垂らして完成だ(写真⑧)。
P.S.
- 南フランスの旅については「絵になる風景を求めて…南フランスを旅する→」に詳しく記している。この地方を旅するノウハウもお伝えしているので、ご一読を!
- 同じく南フランスの世界遺産「ポン・デュ・ガール」の制作プロセスを「光を描く!3つのポイントとは」に記している。参考にしてほしい。
- 今日の水彩画作品が気に入った方は水彩STORE/美緑空間「サン・ベネゼ橋 Avignon→」から購入できる。興味ある方は覗いてほしい。
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