橋のある風景を描く3つのポイントとは? パリ「ポン・ヌフ」にて

秋のパリを訪れた!

旅の詳細はピースボートでゆく世界一周スケッチ旅→を参照してほしい。さて、この町で私が一番描きたかったのはセーヌ川にかかる橋である。

なぜなら橋には、その時代の人々の暮らしとそれを支える工学的技術が表現されている。そして水面の色と輝きはその季節の色と光が表現されている。
ましてここは花の都パリ。絵にならないはずはない…と意気込んで川沿いを歩き回ったが、この日はあいにく一日中曇天だった。

それでも、あの有名な「ポン・ヌフ」を水彩画作品にしようと構図を決め、カメラに収めた。
が、御覧の通り、光も影もなく鈍いグレーの色調の写真になってしまった(①写真参照)。
もし私の職業がカメラマンであったなら、この日は商売にならずと諦めてしまったに違いない。

だが幸いにも、私は絵描きである。実物通りに(写真の通りに)描く必要はさらさらない。
この橋が持っているイメージを最大限に膨らませて表現してやろうと決心した。

先に結論をお見せしよう。上の右②図が完成作品である。一眼見て、写真とイメージが全く違うことがわかるだろう。「写実」とは程遠い。だが私はこれでいいと思っている。
私が目指すのは「飾って楽しむ絵」なのだから…。

「橋のある風景」を描くポイントとは?

まず第一は「橋の見せ方」である。

先に述べたようにこの日は曇天だったので、橋に影はほとんどなく、立体感が乏しい。だから存在感も希薄である。
そこで今回は橋の正面から光を当て、その周囲を実際よりも暗くすることにした。そして橋の下、アーチは逆に暗部を強調する。こうすれば橋の存在感は際立つことになる。
なおこの手法は特に珍しいものではない。私の尊敬するあのレンブラントのドラマチックな絵はほとんどこの手法によるものである。

もう一つのポイントは水の表現。

もちろん透明度が高くて、水面の光がキラキラと反射し、美しい川であれば言うことなしだ。
だが現実のセーヌ川はご存知の通り濁っており、水面も悪天候のせいでそれほど美しくもない。
さてどう処理するかと悩んだのは事実である。

だが最終的にはこうあってほしいという理想の色に変えてしまった。
「橋の絵」は水面の色調と光の表現で決まるといって過言ではないからだ。

そして最後のポイントは橋の向こう側の風景。

写真を見ればわかる通り、実際には橋と向こう側の風景は連続していて、あまりメリハリがない。
だから今回のように橋を強調しようとする時は、向こうに見える建物をリアルに描いてはいけない。
②図のように橋の反対側の風景は思いきってぼかしたほうが良いのだ。

結果は?

一か月後、この作品を私の個展に出品した。思ったよりも、お客様の評判がよく、ありがたいことに複数の方にジークレー版画を購入していただいた。
実物よりもイメージを大切に・・・という私の方針は正しかったと言える。
もしあなたが、次は「橋のある風景を描こう」と思っているなら、ぜひ今回の3つのポイントを意識していただきたいと思う。

なお誤解しないようにコメントしておくと、絵には「絶対」はない。先の写真のように「鉛色に沈んだセーヌ川の風景」だって描き方によっては十分に絵になるに違いない。
私の好みではないが…。

P.S
水彩画を愛する人のためのメール講座「美緑空間アートギャラリー」を開催している。メンバーの皆さんにはこのブログでは伝えられなかった詳細な情報(例えば今日の絵「ポン・ヌフ」の具体的な制作プロセスなど)を提供している。またメールによる質疑応答にもお答えしている。是非参加してほしい。

P.P.S.
この絵を含む私の作品はネットショップ「水彩STORE/美緑空間→」で販売している。ご希望の方は覗いてみてほしい。