人物画の背景はどうやって描く?

人物画は難しい。描き方、テクニックについてはこのブログでもいくつか紹介している(記事下部のリンクを参照)。だが実は私が毎回悩むのはその背景だ。背景が絵の雰囲気を変えることがままあるからだ。

そこで上の図を見てほしい。左は鉛筆の下描きが終わったところ。右はその完成図「パンジャブの大地」である。

この絵はカルチャーセンターのアトリエで描いた。だから本来の背景はただの白い壁である。だから①図の背景は真っ白だ。画家によってはこの白い壁を利用して反射する光と人物の影をテーマとして描くこともあるだろう。

だが今回のモデルさんが着ている衣装はインド、パンジャブ地方の民族衣装だという。背景が白い壁では絵として愛想がない。ならばそれに相応しいインドの風景を背景にしようと考えた。
だがあいにくと私はインドに行ったことがない。想像だけで、絵にふさわしい風景など描けるわけがない。

そこでインタネーネットでインドのパンジャブ地方に関する画像や記事を調べてみた。歴史も古く広大なインド。当然、様々な写真や文章が並んでいる。

そんな資料の山の中で、最終的に私が選んだキーワードは「シーク教寺院」、「小麦畑」、「ユーカリの木」だった。

だが実はどんな構図にするか決めるのはとても難しい。無限の構図がある。一番手っ取り早いのは背景に先の3つの要素が写った写真を探し出しそのまま借用することだ。
もちろんそんなに都合の良い写真があるわけがない。それに写真のカットをそのまま使用すると著作権を侵害する可能性がある。さらに合成写真にありがちな画面としての不自然さが残る危険性もある。

そこで、風景を借用する「伝統的な手法」に倣うことにした。それは人物の周囲は室内のインテリアを描き、部屋の窓枠の内側に借用した外の風景を描くことである。

この手法の利点は先に述べた室内にいたはずの人物を屋外の風景のど真ん中に配置する「不自然さ」を無くせることにある。
例を挙げよう。有名なレオナルド・ダ・ビンチのモナリザを見てほしい。リアルな女性と背景の幻想的な森の風景が見事に調和している。その理由の一つは、実はあの背景はよく見ると窓枠の中にあるのだ。つまり現実とイメージの背景を窓によって一体化しているのである。

こうして方針が決まった。
まずインドらしい寺院を探そう。今回はシーク教寺院のアーチと柱で囲まれた空間を窓がわりにした。ただし構図に変化を与えるために左右対称に配置せず左半分だけを利用している。
このアーチと柱はヨーロッパのそれとは趣がかなり違うことがわかるだろう。衣装に合わせた背景のパーツとして理想的である。

次に窓枠の外の風景を考える。
もし外部と内部を切り分けるこのアーチの窓枠が無ければ、人物の足元から地平線までを、リアルに描かねばならない。この近景の処理が先に述べた「不自然さ」の理由の一つなのだ。

だが御覧のように、窓枠で画面を切ってしまえば窓の外の風景は遠景だけでよい。つまり見渡す限りの小麦畑を描き、その先にもう一つのキーワード「ユーカリらしき木」をぼかして配置すればよい。この描き方であれば著作権を心配する必要もないだろう。

②図の背景はこうして完成した。自分でも久しぶりに人物と背景が一体化した絵が描けたと満足している。

人物画の背景はむつかしい。だが今回開設した「衣装を意識して背景を決める」手法は大いに使えると思っている。あなたも是非試してみてほしい。

P.S.
このブログでは人物画の描き方について以下のような記事を書いている。参考にしてほしい。

P.P.S.
今回の記事では触れていない絵の詳細な制作プロセスについては、下記で募集している「美緑(みりょく)空間アートギャラリー」で報告しようと思っている。興味のある方は参加してほしい。

P.P.P.S
私の作品はネットショップ「水彩STORE/美緑空間→」で紹介している。こちらもどうぞ。