私は定年後、プロの水彩画家になると決心した。そのためにはまず絵を描くことだと、学生時代以来久しぶりに、猛然と絵を描き始めた。とりあえずの
目標は毎週1枚、年間52枚の絵を描くことだ。
週末は近所の公園に出かけ風景画を描き自分のブログにアップしてみたが、反応はさっぱり。グーグルの検索にも出てこない。友人にブログの感想を聞いてみたが「文章がいいね」と期待はずれの反応。
さらに近くのカルチャーセンターに通って人物画を描き、同様にブログにアップしてみた。やはり友人に聞くと、なんと「風景画のほうがいいね」とつれない返事。
でも考えてみれば、学生時代さんざん油彩画を描いたとはいえ、水彩画はそれほど描いていた訳ではない。だからその頃投稿した作品を眺めてみると
出来栄えはそれほどでもない。
当人の情熱やうぬぼれとは関係なく、世間の目は案外冷静で正しいものなのだ。
むなしく投稿を続けていたある日、「加藤美稲」と google検索すると
私のブログと絵がトップ表示されていた。
とりあえずプロとしてのファーストステップを踏んだのだ。評価される絵を描く「秘訣その1」はやはり「継続は力なり」ということだ。
次のステップは当然売れる絵を描くと言うこと。趣味として友人に見せる程度ならばいざ知らず、画家として売れるためには、絵を見てくれる人に魅力を感じてもらわなければいけない。その方法は基本的には二つある。ひとつは当たり前だが水彩画の絶対的な画力を向上させること。つまり基本のデッサン力、筆使い、色使いのテクニック向上、絵具や紙など素材の知識を蓄えることなどだ。
もうひとつは絵のテーマ。これは
他の画家と差別化できる得意なテーマは何か
ということ。言い換えれば何を描けば売れるかということだ。前者の画力云々は別に述べるとして、ここではテーマについて語ろうと思う。
面白いエピソードを紹介しよう。実は私の第一回個展の時、私の絵に対する好感度を調べようと、作品目録の横に評価点を記入してもらい、切り取って回収し、個展終了後その分析をしたのだ。100人以上の来場者による結果は明白だった。その時は風景画29点と人物画12点を展示したが圧倒的に風景画の評価点が高かったのだ。
さらにこの時売れた絵はすべて風景画でその場所がどこかすぐわかる有名な建物が描かれているものばかりだった。一方私が気に入っていた女性の人物画は最低点であった。つまり私の場合
絵を売りたければ人物画ではなく風景画を描け!
それも有名な建物のある風景画がいいということなのだ。描きたい絵とプロとして描くべき絵は違うということを示す一例だ。
私はビジネスマンとしての特技は建築設計だったので建築様式やディテール、技術的背景、図面や透視図などに親しんできた下地がある。従って、普通の画家は敬遠しがちな伝統的で濃密なディテールの建物を描くことが多く、それが結果として普通の風景画とは一線を画すことになり高い評価をもらったのだと思う。
もちろん絵に対する個人的な思想もある。私は絵の題材として「大自然の神秘」、「人類未踏の秘境」などには興味がない。なぜなら
「人の生命力」を感じない絵には感動を覚えないからだ。
それ以後、私は単なる山や川の風景は描かず、建物を意識した風景を描くようになった。冒頭の絵は有名なスペインの城塞都市トレド、エラスケスの絵が有名だ。そして二度目の個展をしたときの案内状に載せた絵だ。何故この絵を案内状の絵に選んだかというと当時アップしていたブログで抜群のページビューをカウントした人気の絵だったからだ。
個展の直前、この絵を見たであろう朝日新聞の記者から「文化欄に掲載するから」と取材を受けた。質問の中心はもっぱら「何故建物を描くのか」だった。やはり
「差別化」戦略は成功したのだ。
皆さんも売れる絵を意識するなら自分の絵を他の画家とどう「差別化」するかを考えてみてほしい。
P.S.
このブログのカテゴリー「絵描きとして生きるには→」に今回のテーマと関連する記事を掲載している。参考にしてほしい。
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