満開の桜を描く3つのポイントとは?

春になると花見に出かけ、その桜を絵にしたくなるのは絵描きの習性だろうか。今回取り上げる水彩画は私の自宅近く、石屋川公園の桜を描いたものだ。
小さな川沿いの公園なのだが、アニメ映画にもなった野坂昭如の代表作「火垂るの墓」の舞台となったこともあるので、知っている方もいるかもしれない。原作にも登場するクラシカルな洋風建築「御影公会堂」が現存している。

さて今回のテーマである「満開の桜」を描くには3つのポイントがあると思っている。
一つ目は一番明るい「ハイライトとなる花びら」だ。直射日光を受け角度によって私たちの眼にその反射光が届く花びらだ。

二つ目は小枝ごとに固まって咲いているいわば「花びらのブロック」だ。満開の桜はこのブロックの密度がとても高い。そして各々のブロックには球体としての明暗が存在する。その立体感を意識することが鍵だ。

そしてその花びらブロックは大枝の流れと交差によって、その密度に変化が生まれ、桜の木全体がピンクの雲海に包まれる。この花全体のうねりが最後のポイントである。

これらのポイントを実際の制作ステップに従って見てゆこう。

ファーストウォッシュ(①図)

最初に桜の花びらのハイライトをマスキング(水彩画の道具 マスキングインクって何?参照)する。単位は花びらなので一つ一つは小さいがその数は多い。丁寧に塗ろう。

次に画面の色調を決める下塗りをする。今回は空をコンポーズブルーで、背景の山並みをサップグリーン+コバルトブルーで、中景部分の公園の木々をサップグリーン+メイグリーンで薄く塗った。

そしていよいよ桜部分の下塗りをする。ポイントは「花びらのブロック」の色となる華やかで明るいピンク色だ。今回はウィンザーニュートンの「ロースドーレ」を塗っている。

さて「花びらブロックを描こう」…と言っても、直接描くわけではない。先に塗った薄いピンクの上にその範囲だけをマスキングし、さらに周囲に暗い色(ローズマダー)を置くことによって「花びらのブロック」を浮き上がらせるのである。

こうしてファーストウォッシュに2段階のマスキングを施したのが①図であり、そのマスキングを剥がしたのが②図である。「花びらのブロック」の存在がよくわかるだろう。

中景と近景の描き込み(③④図)

次に桜の花のうねりを描く。
具体的には「花びらのブロック」の密度の差をネガティブペインティング(「水彩技法ネガティブペインティングの使い方→」を参照)で表現することである。
大きな花の流れに注意をして花びらブロックの周囲にウインザーバイオレットを薄く塗ってゆく。同時にうねりに合わせて枝を描きこむ③図)。

画面のメインとなる桜の花びらの明度、彩度がほぼ決まったので、公園、建物(御影公会堂)、道路、川の土手などを描く。

大切なのは距離感と明度の差を意識することだ。今回は橋の周囲は明るく、公園は暗くして画面に明暗の変化をつけた。(④図)

仕上げ(⑤図)

④図の段階ではまだ全体にメリハリが少なく。画面が単調である。そこでまず空の左側にコバルトブルーとウィンザーバイオレットを重ね、明度と彩度を落とすことにより花びらを浮かび上がらせている。

建物(御影公会堂)の庇下、サッシ周りなどに細かな影を入れる。
さらに橋の周りのに細かな影を入れる。
小川の水面の反射と子供とその影を描きこむ。

桜の最下部の影部分にネガティブペインティングを施し桜の花びらをさらに浮かび上がらせる。
以上で完成だ(⑤図)。

P.S.
この水彩画をご希望の方は「水彩STORE/美緑空間→」へどうぞ。