スケッチ好き、旅好きな皆さんへ。
毎年公表される、世界の「大富豪に人気のある都市」ランキングのトップはどこか、ご存知だろうか?
私が目にした新聞記事によれば、毎年、京都とイタリアのフィレンツェが争うのだという。
だが古民家がどんどん無くなってゆく京都の実情を知っている日本人から見れば、フィレンツェの町の大半がルネサンス時代のままであり、建物はどれも数百年建っていると聞くと、軍配はフィレンツェに上げたくなる。
フィレンツェ人気の秘密とは
それはさておき、多少建築をかじった人間から見ると、ただ建物が古いだけでは、旅行好きな大富豪は満足しないと知っている。
大前提として快適に暮らせる設備が必要なのだ。そしてそれは下水とゴミ、空調に現れる。もちろんメインストリートや大聖堂前の大広場は観光地であればそれらは大抵整備されている。
ごみの処理は?
問題は路地裏だ。テレビのニュースで時々映される開発途上国の路地裏が汚いのはゴミ処理と下水が整っていないことが最大の原因だ。
冒頭の写真はフィレンツェの路地裏。当然下水はきちんと処理されている。ゴミは夜、観光客がホテルに帰った後、所定の場所に運び、翌朝普通の観光客が起き出す前に処理しているようだ。
そんなことを何故私が知っているかというと、翌早朝、私が水彩スケッチに出かけると町中あちこちで大量のゴミ処理車が昨夜のゴミを一斉に処理しているのをこの目で見たからだ。
空調は?
ならば空調はどうなっているのだろう。フィレンツェの夏はとても暑いが、湿度が低いせいでとても暮らしやすい。だから小さなホテルの中には暖房はあるが、冷房はないところが珍しくないと聞く。
だがフィレンツェは観光の町。多くの人が集まるショップではそうはいかない。真夏に空調が無い店では客の入りは悪くなるに違いない。
この日、私が訪れたのはフィレンツェ名産の革製品を売る店。ショップの店員は日本語が上手く、さかんに話しかけてくる。
私が建築をスケッチすることが好きなのを知ってか知らずか、「この建物は500年前から建っている」などと聞かされ、つい調子に乗って話し込んでしまう。
その挙げ句、私にしてはけっこう高価な革の上衣を買わされるはめになってしまったものの、満ち足りた気分でその店を出た。
路地に出てふと気がついた。昔ながらのこの町並み。異物は何もない。
確かあの店には空調があった。
500年前の建物の外観だけを残して内部を全面的に空調改修したのならともかく、店内にそんな気配は全くなかった。昔からある壁そのままだった。
ならば、この路地には普通のマンションのバルコニーにあるような、エアコンの室外機があるはずだ。
だが路地にそれらしいバルコニーはない。ならばと古びた建物の外壁をチェックする。
あった。
石のアーチの奥に!窓の縁飾りのその奥に!
必要に応じて空調はするが町並みの雰囲気を壊すようなことはしないということだ。
「さすが」と一人、つぶやいた。
実は室外機を巧みに隠すというこの工夫。フィレンツェだけがしているわけではない。
京都の祇園も奈良の今井町も室外機は格子窓の中に巧みに隠されている。
ある意味観光客の目を欺くカムフラージュなのだが、私は嫌いじゃない。
何故なら私の水彩画には、ずらりと室外機が並んでいるフィレンツェの姿など描きたくないからだ。
皆さんも古い町に出かけたら、広場の銅像の前で記念写真を撮るだけでなく、路地裏ものぞいて見てほしい。
その町の住人の工夫があちこちにあるはずだ。たまにはそんな旅も悪くはないと思う。
P.S.
フィレンツェの路地裏は私が絵を描くためのペンを求めて歩き回ったところでもある。興味がある方は下記の記事もどうぞ。
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