札幌に不思議な施設がある
広大な敷地にガラスのピラミッドが建っている。
見渡す限りの草原の中に、ポツンと山があり、森と泉がある。
道に沿って歩いていくと
彫刻のような、遊具のような、家具のような、大地の一部のようなオブジェがあちこちにある。
次に何が現れるのだろうと、わくわくする気持ちが抑えられない。
そんな施設がここ。その名を「モエレ沼公園」という。設計者は20世紀を代表する日系の彫刻家イサム・ノグチ。
1988年設計開始。ノグチはマスタープラン完成後、急死。1988年工事開始、17年後の2005年にやっと完成した。
私が訪れたのは完成後3年を経た2008年だ。アート関係者の間では当時相当有名で、かなりの入場者数があったはずだ。
だが、敷地の端から端までを一気にが見渡せない程の広さ。人の気配は感じられない。私のカメラに映った人影はゼロだった。
アートが作る自然と人の不思議な空間に一人放り出されて、無心になる。俗世間を忘れいつのまにか時間が過ぎていく。
かと言って単なる癒しの空間ではなく、退屈することもない。生まれて初めての体験だった。アート好きの人は絶対に行って欲しいと思う。
アートを支える技術とは
一方でこの施設、実は芸術的だけでなく技術的にもよく考えられている。例えば例のガラスのピラミッド。
当然小さなガラスを何枚も繋いでいるのだが、いわゆるガラスをはめるサッシ枠は使用していない。強化ガラスに穴を開け、ガラスの端部の4点で支持している。だから離れてみると、枠は見えずガラスだけでピラミッドが構成されているように見えるのだ。
ピラミッドには当然雨樋などという無粋なものも無い。だから壁面に落ちた雨は一気に壁を降り足元に流れる。
その雨水はガラスに付いたホコリや泥を含んでいるので、そのまま放りっぱなしにすると、足元の仕上げ材を酷く汚すし、歩行者の足元を濡らしてしまう。
それら雨水対策のため、ピラミッドの足元には目立たぬよう周囲全面にグレーチングが敷いてある。取り合う床石のジョイント位置も美しく整えられている。
人々を入り口まで導いてくれる庇のデザインもスリムで美しい。支える柱が数本立っているだけで宙に浮いているようだ。両側の壁を利用して屋根を支えると共に、地震時の横揺れにも対応しているようだ。
この庇、やはり雨樋がない。こういう設計をすると、庇の両側から垂れた雨水は地面の泥や砂を跳ねて建物を汚してしまう。
だからこの庇下の雨が落ちる部分は砂利敷になっている。雨水は砂利の凸凹によって水跳ねを抑えられる。そして雨水は砂利の下を通って近くの排水溝に導かれるようになっているようだ。プロ好みの美しいディテールだ。
内部もよく考えられている。外壁が全面ガラスなので夏は相当暑くなり冷房は必須だ。だがまさかガラスの壁面にエアコンをつけるわけにいかない。かと言って、天井から吊るすにはピラミッドが高すぎる。だからご覧のように足元に空調の吹き出しがあるのだ。
いかがだろう。きっとアート好きも建築好きも満足するに違いない。
P.S.
気になるアート関連情報は、このブログの「ためになる美術講座→」にまとめてある。興味ある人は覗いてほしい。
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