月夜の絵画、ヨーロッパにある?

 日本人の暮らしには「月」はとても身近な存在だ。私が子供の頃には、中秋の名月には窓辺に団子、里芋、ぶどうを添えて、黄色く美しい満月を眺めた覚えがある。

 月にウサギがいるという故事もこの日に繰り返し聞くことになる。そしてあれほど仲が悪かった私の両親も、この日ばかりは、夫婦喧嘩をしなかった気がする。

 そんな私にとっては、いい思い出ばかりがある「月」だが、「月の絵」となると話は別だ。

 そもそも日本の四季の風景を描くのは、トップページでも書いているように私の絵描き活動のメインの活動の一つだ。だから「桜」「菜の花」「紅葉」などはこのブログでも私自身のスケッチとして何度か記事にしているが、「月」は描いたことがないし、描けると思ったこともない。

 何故かというと、いかにスーパームーンで明るく美しい月であろうと、やはり夜の風景。周囲は暗く、どうしても絵のイメージが暗くなる。少なくとも写真でいうホワイトバランスを相当いじらないと「風景画」にはなるまいと思っていた。

 だが調べてみると、日本の風景を描いた絵、特に水墨画や日本画、浮世絵の世界には月をテーマにしたものは少なくない。やはり日本人には馴染みのテーマなのだろう。

 日本画では東山魁夷の作品「花明かり」がその代表例だろう。満開の「夜桜」、「月」、そして「京都」とこれでもかというくらい日本美のキーワードが詰め込まれている。

 浮世絵では広重がよく月を描いているようだ。どれも風景と月が一体となっている。その時代のその場の一シーンが目に浮かぶようだ。


 ならば、ヨーロッパに月と風景が一体となったような、魅力的な風景画はあるのだろうか?もちろん私自身の鑑賞経験など知れているので、もっぱらインターネット検索に頼った。

 予想通りほとんど無い。当然だ。特に写実を重んじる古典派、ルネサンス以前の絵画ではやはり「月夜」は絵にするには暗すぎるのだろうか、皆無だった。
 ならばある意味、浮世絵に影響を受け、東山魁夷のように自由に色彩を操る印象派絵画はどうだろうかと思い、探してみる。

ゴッホ 星月夜

 印象派の真骨頂はやはり太陽だ。モネのルーアン大聖堂、夕陽や朝陽を描いた絵は有名だ。だが、太陽のない、そもそも夜を描いた絵は多くない。ゴッホの「夜のカフェテラス」はその貴重な1枚だが、画面に「星」はあるが残念ながら「月」は描かれていない。

 「月」を描いた絵画と言えるのは同じくゴッホの絵、有名な「星月夜」くらいだった。だが名画ではあるが、この絵は私が子供の頃に見た優しい月のイメージとはあまりに違う。情念が強すぎて残念ながら私には馴染めない。

 やはり、ヨーロッパには「月が似合う風景」などないのだと、なんとなく思い込んでいた気がする。

 ある時、私がよく見るNHKの「日曜美術館」で明治後期の日本画家「竹内栖鳳」の特集をしていた。「 斑猫」が代表作だ。振り返るようにして毛づくろいする猫の絵と言ったら思い出す人も多いだろう。

 その番組で彼の初めての大作品展が開催されることを知った。しかも関西にやってくるという。

 前半、後半で作品の入れ替えがあったため、二度も足を運ばねばならなかったことはやや不満であるが、勢ぞろいした作品には大満足。彼の代表作品がほとんど揃っていた。


 もちろん先の可愛い猫の絵も、迫力と気品を備えた獅子の絵も大いに感動した。だが実は一番私の印象に残ったのは、その時初めて目にした「月」の絵、いやイタリア、ベニスの哀愁に満ちた風景だった。

 ベニスを描いた絵は古今枚挙にいとまがない。だが大抵は水面に移るイタリアの太陽と青い空がセットの風景画だ。闇に沈むベニスなど描いた画家は私が知る限り思いつかない。

 竹内栖鳳もしてやったりと思っていたに違いない。この絵のタイトルは「月夜のベニス」ではなく、「ベニスの月」。ヨーロッパにも月が似合う風景があったということを彼は証明してくれたのだ。

P.S.
今回は「月」をテーマに記事を書いてみた。自分で旅をして風景画を描き続けることも必要だが、絵描きにとってはやはり常に芸術的な刺激が必要だと思っている。このブログのカテゴリ「ためになる美術講座→」にそんな記事をまとめている。気になる方は参考にしてほしい。

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