スケッチ旅で水彩画を描く人へ
風景画を描く人にとって空をどう描くかは大切なテーマだ。
子供のころを思い出してほしい。誰もがいつも力強く、クレヨンで真っ青に塗ったに違いない。そしてちょっと感情豊かな子は真夏の入道雲を白のクレヨンで塗りつぶすのだ。
つまり風景画の「空と雲」には画家、いやその人間の個性が現れると言っていいだろう。今回はそんな大切な「空」と「雲」の表現をどう描くか考えてみよう。
青空の色とは?
さて、あなたは青空を何色で塗っているだろうか?
通常の12色~24色の透明水彩絵具セットの中ではおそらく「コバルトブルー」を選ぶ人が多いだろう。
だが実はこの色は例えば、乾燥したイタリアの空の色にはぴったりだが湿気の多い日本の空にはやや青すぎる。
私はセルリアンブルーやコンポーズブルーの方が日本の空にはよく合うと思っている。そしていわゆる秋晴れの「抜けるような青い空」にはさらに紫や緑を混ぜる人もいるだろう。
「あなただけの」空色は大切な個性である。是非じっくりと研究してほしい。
均一にムラなく青空を描きたいときは
透明水彩で空を描くなら、均一に「美しく」滲んだ青を塗りたいと思うだろう。
SM(サムホール)程度の大きさならば太筆に水をたっぷり含ませ一気に塗ればよい。
もっとも途中で筆に水を足したりすると、ムラが出てしまうので、水の含みの良い筆(コリンスキーなど)を準備しておこう。
だが6号程度の大きめの絵では、一筆でムラなく塗るのは難しい。そこで以下のテクニックを使う。
まず水彩紙に刷毛で水を引く。紙が十分に水を吸収した後、平筆で均一に空を塗っていく。筆を継ぎ足しても、吸収した水が境目をなじませてくれるので、ムラは出にくい。
ただし、水を足して極端に濃度が変わるとやはりムラになってしまうので注意が必要だ。
空のグラデーションを美しく描くには
一方で空は均一な青一色かというと、たとえ快晴であったとしてもそんなことはありえない。(理由は「空の色は何故グラデーション?→」を参照)地平線に近い部分は白っぽく(赤黄色が入る)、真上になるほど真っ青になる。つまり空はグラデーションで表現するのが自然なのだ。
では青から淡い青へ美しいグラデーションを水彩で表現するにはどうすべきか。
最も単純な方法は画面の上から下へ、1ストロークごとに筆の絵具を少しずつティッシュで拭い、薄い色にしてゆくことである。
水彩紙が湿っている状態、ウェットインウェットで描けば絵具量を調整しても醜いムラは出にくい。
もう一つは逆に下から上に濃い青を重ねて行く方法である。ただしこの方法は一気に塗ることはできない。
具体的には、まず同じく水彩紙に水を引く。そして地平線際の空をたっぷりの水で薄めた青絵具をにじませながら塗る。そして一旦完全に乾燥させる。
その後また水を引き、先に塗った青色より若干濃い青色を境目を重ねるようにしてその上空部分にやはり滲ませるように塗る。
この作業を繰り返し、徐々に空の上方に向けて濃い青色を塗ってゆく。この方法で塗れば時間はかかるが、必ず美しいグラデーションが制作できるはずだ。試してほしい。
空の色に変化をつけたいときは
ムラのない青空は描ける。地平線を明るくするグラデーションも表現できる。
しかし、明るくみずみずしい水彩画の良さを出そうとすると、季節や場所のイメージに合わせ、もう少し他の色を混ぜたくなるだろう。
そんな時はどうするか?
私は青空の絵の具が乾かないうちに、柔らかい筆で水彩紙の上に他の色を垂らすように置いている。水彩紙が含む水分よりも後から置いた色の方に水分が多く含まれていれば、その色はベースの青空にやんわりと広がってゆく。水彩画らしい滲みができるのだ。
ある意味、画面上での偶然に任せたこの色の混ざり具合が透明水彩の魅力であると言える。
ただしこの時色気を出して混色された紙面上の一部を筆でコントロールしようとすると、汚い筆跡が残ってしまう。広がり方をじっくり見極め、「ここ!」と思ったところでドライヤーで乾かすとよい。
①図がこのテクニックの実例である。
ベースの青にコバルトターコイズ(シュミンケ)を塗り、乾かないうちに下部にレモンイエロー(ウィンザーニュートン)上部にウィンザーバイオレットを垂らしている。
雲に動きがある時は
②図をみてほしい。雲の形、流れが画面に斜めに走っている。①図の技法で絵具の滲みをじっと待っているだけではこの表現はできない。
かと言って、斜めの雲との境を筆で描こうとすると筆跡が残り、美しい滲みにはならない。どうしたらいいのだろう?
正解は水を引いた水彩紙に水分たっぷりの青絵具を垂らした後、画面を傾け、絵具を意図した方向、この場合は雲と平行に絵具を流してやるのである。
次に空の青にもう少し深い青の表現を加えよう。上の状態にすぐ絵具を載せてはいけない。せっかく描いた雲の形が当たらしい絵具で滲み、崩れてしまうからだ。
ここは一旦完全に乾燥させ、彩度水彩紙に水を引き、別の青色、今回はウィンザーブルーグリーンシェードとウィンザーバイオレットを垂らして滲ませている。
雲の存在感が強い時は
①と②は透明水彩らしい美しい滲みをウェットオンウェット(「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→」を参照)で描いた。
だが③のように雲にはっきりとした形があり、存在感が強い時はウェットオンウェットでは描けない。何故なら雲の形、つまり青絵具と水彩紙の白の境目をはっきりと描くためには画面が滲まないようにドライの状態にする必要があるからだ。
かと言って雲はくっきりと縁取られた平面ではなく立体である。その陰影は透明水彩らしくウェットな状態で描きたい。
矛盾する要求を満たすにはどうしたらよいだろうか?
結論を言うと、刷毛で水彩に水を引かず、描こうとする空の部分にスプレーで水を吹き、適度な湿り気を与えてから、描画した。
具体的なプロセスを説明しよう。
基本は明るい地平際から青の濃い上空に向かって塗ってゆく。
最初は薄い青色を筆につけ、雲の上部ラインに沿って筆を動かす。部分的には筆を紙面から離し、絵具を垂らす。
この状態では筆のラインがシャープに残る部分とスプレーの水滴と絵具が混じる部分が混在している。
ここで画面を雲のシャープなラインが消えない方向に(上空側を下に)傾ける。
青の水滴が流れながら紙面上で滲むのを待つ。その後乾燥させる。
再度、スプレーで水吹きし、やや濃い青空色で上段の雲を筆で同様に描き、雲の形を崩さないように画面を傾ける。水分が馴染んだらまた乾燥させる。
基本的にはこの繰り返しで空と雲を描いてゆく。一部は雲の形が残り、一部は空と滲む。
此処までは狙い通りだが、雲にはもう一つ大切なポイントがある。
一般に雲の下部は太陽光の陰になるので暗い。そしてその自然の形は複雑、かつ魅力的である。今回はドライ状態の雲の下部を筆で陰影をつけ、水をつけた筆でエッジをぼかしている。つまりこの部分は完全なウェットオンドライである。
以上3つのタイプの空と雲を描いてみた。皆さんも是非自分なりの空と雲の表現にチャレンジしてほしい。
P.S.
今回は言わば透明水彩テクニック実践編だったが、もっと基礎的な記事が読みたいという方は下記を参考にしてほしい。
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あなたの水彩画の技術向上にきっと役立つはずだ。
参考記事