「真昼の風景」は何故描きにくいか
風景画で一番大切なことは「構図」である。このブログの読者は当然ご存じだろう。だが同じ構図でも朝の風景、午後の風景、夕焼けの風景を水彩画で描き分けると全く表情が異なる。当然だ。
太陽光の色と角度が変われば町の色も陰影も一変するからだ。
そこで今回のテーマ「真昼の風景」を想像してほしい。
この時太陽は真上にある。つまり私の風景画に登場する町並みの屋根や庇の影は真下の地面に落ちるので、壁面は原則として日の当たらない陰となる。
つまり描くべき町並みの壁面には光と影のコントラストがなく単調で陰鬱な表情が残ることになる。デジカメで素人写真を撮ると、どの方向の壁も真っ黒で面白みのない風景になってしまうわけだ。
だから私は、水彩スケッチに出かけるとまず太陽の方向、角度をチェックし、狙った構図が引き立つ時刻を選んで水彩画にするようにしている。
だが当然ながらいつも理想の時間帯を選べるほどスケッチ旅に余裕があるはずがない。さらに方角によっては真昼の時間帯でないと逆光になって描けない場合もある。
と言う訳で今回は敢えて「真昼の風景」を描いてみた。
場所は島根県JR駅「温泉津温泉駅」から歩いて20分ほど。明治から昭和初期の面影を残す温泉街の町並みである。現地でペンでスケッチし、自宅のアトリエで透明水彩をほどこしたものである。
さてそんな、むつかしい「真昼の風景」にチャレンジするからには、当然ながら留意点がある。順に解説してゆこう。
①民家が一直線に並ぶ構図を選ばない
真上に太陽がある時、街道に沿って一列に並ぶ民家を描くと、先に述べたように軒の影で壁面はすべて陰になる。だが上図の水彩画を見てほしい。道が折れ曲がっているので民家の角度も少しずつ変化していることがわかる。
だからほぼ真上からの日光であるが、方向ごとに壁面に落ちる影の落ち方が複雑で画面が単調になりにくい。
真昼の風景だからこそ、やはり「構図」が大切なのだ。
②光の当たらない壁面の表情を豊かに
近景左側の建物、中景の屋根と庇下の壁面は本来は陰となり、デジカメ写真ではほぼ真っ暗に映る。
だが水彩画としては単色の黒ではなく表情豊かに描きたい。そのために以下のような工夫をしている。
- 陰となる壁面よりもさらに暗い影を強調する。
特に地面に落ちる軒の影は重要である。当然この影の境界はけっしてぼかしてはいけない。
そのため今回は道の明るいところをマスキングテープで保護したうえで影を塗っている。 - 陰となる壁面に明度の変化を与える。
陰となる壁面は原則として大半が暗くなる。だが、実は地面の反射光を受けるので、足元の部分は建物の上部よりもやや明るい。今回は壁面の上部は青味を強く、地面際は明るく描いて単調さをカバーしている。
③真昼の日光を強調する
真昼の風景の短所ばかりを強調してきたが、当然メリットもある。それは「光の強さ」である。
「光の強さ」を生かすのは油絵ならば最後に塗る「白絵具」だろう。だが透明水彩では一番明るい部分は「水彩紙の白地」を残した部分である。
だから水彩画で通常以上に「光の強さ」を強調するためには、通常以上に明暗の強弱を描かねばならない。具体的には暗い部分をより「暗く」より「濃く」する必要がある。
「暗く」とは絵具に黒を混ぜることである。だが透明水彩において、安易に「黒絵具」を混ぜると画面を濁らせてしまう。
今回は赤(アリザリンクリムソン)と青(ウィンザーブルーレッドシェード)と緑(パーマネントサップグリーン)を混色し、黒に近いグレーを作り、水彩紙の白と対比させている。
- 森の陰影
私は通常、森を描く場合、ファーストウォッシュで塗ったサップグリーンにブルーを混ぜた影色のグリーンを重ね明暗を表現している。今回は真昼の影を強調するため最も暗い部分には、緑の補色となる赤味を強くしたグレーを影色として加えている。 - 白壁に落ちる影
現実には「黒」に近い影が壁面に落ちている。だが今回は画面全体の色調を考え、敢えて青味のあるグレーで影を塗っている。ただし壁面の白を強調するため通常よりも水分を減らした濃いグレーとしている。 - 白の強調
日光の強さを強調するもう一つの方法は水彩紙の「白」を強調することである。この作品では「白壁」にはほとんど色を重ねず、壁面に映る影との対比を強調している。
また現実の道路はアスファルト舗装であり、本来グレーである。だが垂直の日光を受けて最も明るく輝く部分であるため、やはり敢えて絵具を塗らず、ほとんど「水彩紙の白」を残し、明るさを強調している。
以上で「温泉津の町並み」完成である。「真昼を描くテクニック」が皆さんの水彩画制作の参考になれば幸いである。
P.S.
今回は「真昼の風景」を描く水彩テクニックをテーマとした。実はこのブログに同じく温泉津の町並みの「朝の風景」を描くテクニックについて記事を書いている(「水彩画で描く朝の風景、2つのポイント!→」を参照)。こちらの記事も是非読んでいただきたい。
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