今回のテーマは水彩画を「ドラマチックに」描くことだ。基本的に水彩画は優しい色使いが特徴である。だから必然的に画面は淡い色調が支配的となる。もちろんそれはそれで「綺麗な絵」として価値があると思う。
なぜ「ドラマチック」が必要なのか?
上の絵はかなり前に私がスケッチした絵である。テーマの説明の前に、まずモチーフとなっているこの建物(ヨドコウ迎賓館)の説明を少ししておこう。設計者はアメリカの建築家「フランク・ロイド・ライト」。
愛知県明治村に保存されている旧帝国ホテルの設計者である。
あるいはニューヨークの「グッゲン・ハイム美術館」(下写真)の設計者といった方がよくわかるかもしれない。
そう、建築に興味のある人にとってはその作品を一度は訪れてみたいと思うに違いない建物だ。同じ設計者の建物が神戸の私の自宅から30分少々で行ける芦屋の山手にある。建築設計に携わる者として、私が早々にスケッチをしたのもご理解いただけるだろう。
さて、絵の説明に戻ろう。季節は5月。現地でサインペンでスケッチをし、帰ってから淡彩で仕上げたものだ。それなりに綺麗に仕上がったと思っており、私にとって愛着のある絵なのだ。
ところが実はつい最近、この建物を主役にして水彩画を描いてほしいという注文をいただいた。自分の気に入った建物を注文品として描けるのだからこんな幸せな話はない。もちろん、喜んでお引き受けした。
だが、以前に描いたことがある愛着のあるモチーフだからといってまさか同じ構図で描くわけにはいかない。なんといっても注文品なのだ。
先のスケッチは基本的には私の満足感を満たすために描けばよかった。だが今回は自己満足ではなく注文主に気に入ってもらいたい。
そのためにはどんな絵を描くべきだろうか?
かなり悩んだあげく、私の出した結論は以下のとおりだ。
「ドラマチックに仕上げる!・・・つまりこの記事のタイトルそのものである。
私の水彩画は、構図上多少の組み換えはするが基本的には、ほぼ見たままの風景である。だが今回はさらにドラマチックな意図的な操作を加えて仕上げてみようと考えた。
ポイントは以下の3点である。下のスケッチを参照しながら確認してほしい。
構図はダイナミックに!
建物の水平線、垂直線に対して、丘の尾根の斜めのラインを画面に取り込むこととした。角度の違う方向線が交叉することにより画面に変化が生まれ面白い構図となるからだ。
明暗を強調する
今回の構図の中で一番明るい部分はもちろん「空」。次に明るいのは直射日光を浴びる建物の白い壁面及び樹木の頂部である。
だが明るい空の中にも明暗のドラマがある。今回は右上にまばゆいばかりの光を表現、逆に建物際はやや暗い青空とし白い外壁とのコントラストを強調した。
季節感を強調する
実はこの芦屋川沿いはこの辺りでは有名な桜の名所である。だからこの年、桜が満開の日を狙って取材に訪れた。
ところが残念ながら、先の構図で絵を描こうとすると、満開の桜の木は画面には出てこない。満開の桜はこの画面のもう少し右側にあるのだ。
そこで本来は一戸建て住宅の屋根が見えていた部分、画面の中央、やや左寄りに満開の桜を移動させていただいた。こんな芸当ができるのが写真家と画家の最大の違いだろう。
桜のピンクは季節感を強調するだけではない。建物周囲が一面の緑で単調となる画面に華やかなアクセントを与えてくれるのだ。
制作のプロセス
このラフスケッチをもとに作成したファーストウォッシュが下図である。
空の明暗、木立の明暗をこの段階ですでに意識していることに注意してほしい。
なお樹林の表現にはハイライトにマスキングインク(「水彩画の道具 マスキングインクって何?→」を参照)を施し、ハーフトーンの樹木の部分には塩を使っている(水彩画の上級テクニック!塩とマスキングインクの使い方」を参照)。
興味のある方はリンク先の記事を読んでほしい。
あとは最初に考えた明暗のスケッチに従って、描いてゆくだけ。マスキングインクをはがし、細部を調整すれば出来上がり(下図)。
いかがだろうか?最初の淡彩スケッチに比べるとかなり「ドラマチックに」描けているのではないかと自負している。
P.S.
今回は同じモチーフを描いても、作者の意図が変われば表現が変わるという事実を書いたつもりでる。
もし、あなたが「なるほど・・・!」と感じたならば、早速実行してみてほしい。そしてわからないことがあれば、下記で募集している「美緑(みりょく)空間アートギャラリー」のメンバーとなることをお勧めする。
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