風景画の下書きはどう描いたらいい?

 皆さんは風景画の下書きをどうやって描いているだろうか?

 水彩画の教本を開いてみると、人物画の下書は、いわゆる「デッサン」として細かな説明がされている。
 もちろんこのブログでもいくつか記事を書いている(「素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とはを参照)。

 だが風景画では、実は「下書き」についてあまり触れられていない。
 せいぜい、2B程度の柔らかい鉛筆で紙を傷めないように・・・などと鉛筆の使い方に触れるくらいだろうか。
 そしていきなり「塗り方」の解説をしている場合が多い。

 その理由はおそらく風景画では人物画ほどデッサンの正確さを必要としない。
 それよりもむしろ色彩豊かな自然の描写、その表現方法を教えた方がいいという考えからだと思う。

 そうは言っても水彩画の初心者にとっては、やはりファーストステップは「下書き」であることに違いはない。

そこで今回は以下のように、風景画の「下書き」について考えてみることにする。

目次

  1. 下書きの目的とは?
  2. 鉛筆線は「下書き」だと割り切ろう
  3. 鉛筆線を残したら?
  4. 線を主役にしてみたら?
  5. まとめ

■下書きの目的とは?

 さて、そもそも何故「下書き」をするのだろうか?

 それは多分、失敗するのが「怖い」からだ。失敗した線を消すことを前提としている。
 そして初心者がなかなか上達しない理由の一つは「下書きを書いては消す」という行為をいつまでも繰り返してしまうことなのだ。

 当然絵はなかなか完成しないし、絵具を塗り始めた頃には、消しゴムで紙の表面は痛み、鉛筆の粉があちこちに散り、画面はすっかり汚れてしまっている。

 ここから透明水彩をいかに綺麗に塗ろうとしても、本来の発色は期待できず、美しくならないので、描き続けるモチベーションも失せてしまう。

 ではどうしたらいいだろうか?

 そこで以下の3つの場合に分けて考えてみることにしよう。

■鉛筆線は「下書き」だと割り切ろう。

 線の強弱や美しい線を出そうと思わないこと。目に映る自然や建物の位置をとにかく正確に追いかける。鉛筆で測りながら目印になる縦横のポイントを紙に落としていけばいい。多少の線のはみ出しや間違いは放っておこう。

 焦って一気に線を引こうとしてはいけない。こまめに「測って」短い線を繋いでいけばいいのだ。

 時々、上のようにして引いた鉛筆線を、もう一度なぞって綺麗に仕上げた方がいいですかと聞く人いる。

 そんな必要はない。ここで書いた線はあくまで下書きだ。色を塗る時の目安となる線だ。絵の主役はあくまで「色」であり、塗り終わったら、下書きは消してしまえばいい。

 この時に使う道具は「鉛筆」で、濃さは「B」か「2B」くらいがいい。これ以上薄いと、見にくいし、濃すぎると鉛筆の粉で紙が汚くなる。

 プロの水彩画家の中には、全く鉛筆を使わない人もある。いきなり水彩絵の具で描きだし、そのまま仕上げに入る。

 だが今それを真似る必要はない。それは将来の楽しみに残しておけばいい。

■鉛筆線を残したら?

 それよりも、何度か風景画を描いていると、下描きの線が気にならなくなる時がある。あるいはその鉛筆線を消してしまうと絵がぼやけて魅力がなくなると思える時がある。

 この時は知らないうちにあなたのデッサン力、表現力がついてきた証拠だと思う。

 一般的に、明るさの急に変わる部分(光の方向と平行になる面との境界線)は暗くなり、よく目立つ。すると無意識のうちにその部分の線を濃く、太く描くようになる。あるいは単調に見える細い線の連続が一つの面の存在を際立たせてくれるようになる。

 そうなると、鉛筆の線を全部消す必要はなく、全体のバランスを見て邪魔なところだけを消すようにすると良い。

 さらにデッサン力、画力がついてくると、鉛筆は最初から残す部分だけ使い、邪魔になるであろう部分は初めから絵具で描くようになる。つまり透明水彩独特の完成図がイメージできるようになると、鉛筆の下書きよりも絵具の下塗りの方が重要になってくるのだ。

 世の大半の水彩画家はこの方法で描いていると思う。冒頭の絵は明治時代の水彩画、浅井忠と吉田博の作品。おそらく最低限の鉛筆線を下図にして描いている。

■線を主役にしてみたら?

 もしあなたの鉛筆の線が魅力的ならば、「淡彩画」として仕上げる方法もある。線が主役なので水彩は主に素材の色を塗るだけでいい。

 線をさらに強調したければ鉛筆でなくペンを使えばいい。私がいまだに風景画をペンと水彩で描くのはそのためだ。(詳しくは「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」を参照)

 この場合のペンはもはや「下書き」というよりも「下描き」というべきだろう。

 ここで一つ確認しておこう。前述した「一度鉛筆で下書きした線をなぞって仕上げた方がいいですか?」という質問だ。

 つまり「鉛筆の下書き」を「ペンの下描き」にした方がいいですか?ということだ。これは「あり」だと思う。何故ならペンの線はすでに作品の一部だからだ。

 ただし制作時間を考えると、同じ線を二度引くのはあまり合理的ではない。このブログで下書きをしない方法(下書きはいらない!建物のある風景をペンで描く→)を紹介しているので参考にして欲しい。

 なおペンの種類、使い方に興味のある人は(「水彩画で使うペン、あなたならどれを選ぶ?→」)を参照してほしい。

■まとめ

  • 風景画の下書きは、下書きと割り切って、鉛筆で、きちんと測りながら、短い線を繋いで行こう。
  • 慣れてきたら、活かす線を残し、不要な線だけを消そう。
  • 上達したら、完成図をイメージして、活かす線だけを鉛筆で描き、透明水彩絵具の下塗りを利用しよう。
  • 鉛筆の線に魅力があれば淡彩画を試してみよう。
  • さらに線描が上達したらペンによる水彩画にチャレンジしてみよう。

さあ、恐れず、まずは「下書き」にチャレンジしてみよう。あなたの目指す水彩画はすぐそこにある。

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今日の記事はいわば風景画の基礎編。私の最新の作品を基にした中上級編の記事は以下の通り。さらに勉強したいという方はぜひ読んでいただきたい。また私の風景画作品は加藤美稲水彩画作品集→で公開してる。併せて参考にしてほしい。

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4件のコメント

[…] ■ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→■風景画の下書きはどう描いたらいい?→■水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→■スケッチ旅行に必要な道具とは→■水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→■ここを描きたい日本の風景!→ […]

水彩画は、退職後の2016年にはじめ、コロナ禍で教室を2年休みましたが最近また、始めました
今度は展示会への出品を目標にして楽しんで取り組みたいと思っています。そんなことでネットでどこか作品を見てもらえるところはないかと探していたところこのサイトを見つけ先生のブログを読ませて頂き共感できるところがあり喜んでおります。
これから参考にさせて頂きたいと思います。

小西様
「展示会への出品」を目指すとのこと。素晴らしいことだと思います。
描いて楽しむだけでなく、鑑賞してもらい、人の生活を豊かにする・・・そんな活動を目指しましょう。

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