印象派の絵画に見る女性像とは

 「展覧会を成功させたかったら印象派の絵画を呼べばいい」かつて美術館の企画担当者は口を揃えてこういったという。今回はそんな人気の印象派の中でも有名な「女性像」について述べたい。

イレーヌ・カーン・ダーンヴェール嬢の肖像

 個人的に言えばもちろん印象派の絵は大好きだ。
 上の絵は有名なルノワールの「イレーヌ・カーン・ダーンヴェール嬢の肖像」。私が魅力的な女性像を描きたいと思ったきっかけとなった絵だ(「私の人物画が売れた訳は…→」を参照)。 

印象派の大義と女性像

 もっとも「イレーヌ嬢」は魅力的な「女性像」というにはちょっと幼すぎる。
 ならば参考となる大人の女性像は無いかと、ルノワールの他の作品はもちろん、モネ、ゴッホ、シスレーなど印象派の画家の人物画を探してみたが、どれも私の望む女性のイメージとは違うのだ。

 というのは一般的に印象派の絵画は大胆な筆のタッチを残すものが多く、女性の肌を描くには私にはやや不適当に思える。
 何より「印象派」の大義を強調するためなのか、絵の主役は肌を照らす明るい光であり、そこには魅力的な女性の表情は描かれない。
 ルノワール「陽を浴びる裸婦(中央)」やモネの「日傘の女(右側)」などはその好例だろう。
 
 だから私は恐れ多いことに「印象派には見るべき女性像の絵画はない」などと思っていたのだ。
 その思い込みは社会人となって、日本の美術館にやってきたいくつかの印象派の作品を見ても変わらなかった。私にとって印象派はずっと疎遠な芸術だったのだ。

発見「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」!

 私のその偏見を取り払ってくれたのは、(珍しく)私の地元神戸に巡回されてやってきた人気の「大印象派展」の中の一枚だった。

 その絵とは上図、マネの「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」だ。
 実はこの絵、その時始めた知ったというわけではない。雑誌なのか、TVなのか頭の片隅に記憶だけは残っていた。

 ただ「イレーヌ嬢の肖像」ほど感動したわけではない。「なんだか黒っぽい女性像だな」という印象しかなかった。
 特に透明水彩画を描くようになってからは、「黒」の絵具を多用する絵は水彩画の透明感を損なうもの(「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」を参照)としてしか感じていなかったので、よけいに共感を覚えなかったのだと思う。

 ところが実物を見ると私の思い込みとは全く違っていた。
 いわば「諸悪の根源」と嫌っていた「黒」はマネの手にかかると上品でクラシカルな装いの女性の美貌を引立てる、魅惑の色に変貌するのだ。

 黒い服に包まれたモリゾの活動的で知的な表情、私をまっすぐ見つめる大きな瞳は私を虜にした。しばし立ち止まり、その絵を見つめ続けた。どのくらいそこに立ち続けたか覚えていない。

 後日、調べてみると、ベルト・モリゾは裕福な家の出身で、絵を習っていたという。
 私の想像通り「上品、活動的で知的な」女性であったことは想像に難くない。そしてその後、マネと知り合い、彼から絵を習い、印象派の画家としてデビューした。
 そしてなんとマネの弟と結婚した。

 まさに「印象派の女性像」その名の通りの人生を送ったのだ。

P.S.
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