日本の建物の不思議!「竹矢来」って何?

 古い街並みを描いたことのある人なら、建物の足元に曲線状に竹を斜めに並べた奇妙な置物があることに気付いたことはないだろうか?

 そう上の写真のように。

 この名前は「竹矢来(たけやらい)」という。私の経験では海外の建物では見たことがない。日本独自のものだ。私の水彩画の中にもたびたび登場している。
 では一体何のためにこんなものを設けているのだろう?

竹矢来の目的

 インターネットで調べると、いろいろな書き込みがあるようだが、最大の目的は雨水(あまみず)によってもたらされる建物の汚れ防止だ。

 詳しく解説する前に、まず大前提の知識をおさらいしよう。竹矢来は何故日本だけにあるのか?

 最大の要因は建物や都市が整備された先進国の中では日本の雨量が飛び抜けて多いことだ。
 日本の年間降雨量は約1,800mm。フランスは850mm、アメリカ715mm、ドイツ700mm、イタリアは830mmだ。つまり他の先進国と比べ2倍以上の雨量がある。
 日本は建物に対する雨対策がとても大切な国なのだ。

 もう一つの要因は建物の材料にある。海外の建物が石造、煉瓦造であるのに対し、日本の建物は木造で特に雨に弱いためだ。

 そしてもう一つ。美意識の問題だ。日本人は建物の汚れをとても気にする。海外の建物では足元の汚れは当たり前と割り切っているような気がする。

竹矢来の効果は?

 「竹矢来がないと本当に壁が汚れるの?」と思うかもしれない。何しろ普段私たちが住む、コンクリートのマンションにもガラスのオフィスビルにも竹矢来など無いのだから。

 だが、事実汚れるのだ。上の写真を見てほしい。私が撮影した京都のとある古民家の写真だ。右側の楕円で囲った部分、板張りの外壁の地面から50cmほど下が見事に汚れているのが分かるだろう。

 汚れる原因はまず地面からの泥水の跳ねだ。この家の前の道路は車がかなり通るようだった。車のタイヤから跳ねる泥水がまず挙げられる。
 今はアスファルト舗装だが、この家はおそらく道路が舗装される以前、土の道であった頃からあるはずだ。つまり雨が降る度に抜かるんだ泥の跳ねがかかっていたに違いない。

 外壁を汚すのは道路からの跳ねだけではない。屋根に溜まった土と共に吹き荒れる雨水も直接外壁を汚す。無事なのは屋根や庇の直下だけだ。軒の出が小さい、あるいは庇の位置が高い、まして庇や雨樋が破損していれば被害の程度はさらにひどくなる。

 この写真はそれを証明している。左側の楕円マークを見てほしい。屋根瓦の一部にビニールシートがかぶせてあるのが分かるだろう。そして直下の外壁が他の部分よりもさらに壁の上方まで汚れている。

 雨の影響というのはこれほど大きいのだ。余談だがこの家の表札には外人の名が刻んであった。
 京都にあこがれて町家を購入したのだろうが、日本の雨に対する知識もなく、この汚れを放置する結果になったのだと思う。

 何故、現代建築には竹矢来が無いのか?

 こんなにも日本の町並みを特徴づける竹矢来が何故今の日本にないのだろうか?理由はいろいろある。その優先順位のつけ方は実はむつかしいが概ね以下の通りだろう。

  •  ほとんどの建物の外壁がコンクリートととなり、木造のように雨水の跳ねが壁に構造的な傷みをもたらすことはなくなった。
  •  雨水が外壁の足元を汚すことは事実だが、現代の道路は舗装されかつてのように泥水を跳ね上げることはほとんど無くなった。
  • 屋根勾配はきついほど、室内への浸水可能性は少なくなる。だがそれは雨水を建物の足元に落とし、その跳ね返りが建物を汚す原因となる。
    そのために雨樋があるのだが、先の例のように雨樋が破損したり、降水量が軒樋以上に多いとやはりあふれて結果的に外壁を汚すことになる。

    その点現代のコンクリートの建物は勾配屋根ではなく陸屋根である。
    つまり基本的に雨水を建物の外に流さない。
    陸屋根に溜まるほこりと水は屋上のドレーンに集められ、排水管を通って道路下の下水に直接流す。だから屋根の泥水が外壁にかかることはないのだ。
  •  しかも現代建築の外壁はコンクリートや石、タイルである。だから斜めに降り込む雨や道路から跳ねる雨が壁に当たっても木や漆喰壁と違いそれほど気にならない。

竹矢来は富豪の象徴?

 この竹矢来、京都の町家にはよく見かけるのだが、どこにでもあるというわけではない。
 この竹矢来を設置するためには敷地の境界線から屋敷の外壁を下げなくてはいけない。つまりそれだけ実質の建物に使用する面積が減るわけだ。だから財力が無い町、家には竹矢来はない。

 そしておそらく建物用途も関係するだろう。竹矢来があれば不審者が壁に張り付いて聞き耳立てるなどということも防げる。

 左の写真は奈良の宇陀松山(重要伝統的建造物群保存地区)の町並み。両隣の民家には竹矢来は無く、この豊かな豪商の家だけにあった。(「二つの伊勢街道を結ぶ町! 宇陀千軒の風景をスケッチ→」を参照)

 右の写真は名古屋市内にある旧中村遊廓だ。
当然、不審者が壁にぴったりと張り付いて中を窺うようなことはことはさせたくない。その意味でも竹矢来の存在価値は大きいのである。(「駅裏で発見!レトロな昭和の街の街を歩く→」を参照)

皆さんにまた一つ、日本の風景をスケッチする楽しみを見いだしてもらえたのではないかと思っている。

P.S.
今回は「竹矢来」について解説した。建物をスケッチするとき、あるいは広く絵を描くときに知っておくと便利な知識をこのブログのカテゴリ「ためになる美術講座→」にまとめてある。是非一読してほしい。その他関連記事は以下の通り。興味ある方はご一読を。

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2件のコメント

[…]  この建物は普通の日本の建物にあるような屋根の下で雨を受けて流す、軒樋が無い。だから屋根に降った雨はそのまま外壁を伝って下に落ちる。 その時屋根や外壁の銅板のジョイントに溜まっていた埃は濃縮され泥水となって外壁を覆う。あっという間に外壁を汚してしまうのだ。(その実例については「日本の建物の不思議!竹矢来って何?→」を参照) […]

[…]  雨水は地面に落ちてからも建物を汚す。上の写真は、雨樋を隠したデザインの現代建築の足元の写真だ。屋根から直接落ちた雨は地面のタイルを汚し、跳ね返ってさらに建物の足元を汚しているのがわかるだろう。 京都の町屋に見る「竹矢来」はその泥の跳ねによる汚れを防ぐ工夫だ。(日本建築の不思議 竹矢来って何?→を参照) […]

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