ペンと水彩で描く風景画の魅力とは

 透明水彩で風景画を上手に描く方法は?

 透明水彩で風景画を描くとき、その技法は大雑把に言って2つある。
 下書きの線を生かして水彩するものと、線は最小限、下書きにとどめ、色だけで表現するものだ。

 前者はいわゆる「淡彩スケッチ」と呼ばれ、いろいろな教本を見ると、柔らかい(2Bくらい)鉛筆で下書きし、薄めの透明水彩で色つけをするという方法が主流だ。

 後者は透明水彩独特の重色によるグリザイユ画法とぼかしや滲みを生かした表現を多用し、鉛筆の線は最後はほとんど消してしまうことを推奨しているようだ。
 最近の透明水彩を使う画家の作品もほとんどがこちらの方法だ。

 そして私はと言うと、実は両者のいいとこ取りを狙っている。
 順を追って説明しよう。当初は前者のやり方、つまり濃い鉛筆で下描きをしてから薄く水彩を重ねる方法を取っていた。

 綺麗な色を濁らないように鉛筆線の上に重ねてゆく・・・それなりにきれいな作品はできる。
 ところができる作品にどうも存在感が足りない。色なのか、形なのか・・・心に引っかかるものを感じながら、当時の本業であるビジネスマンとしての毎日をずっと送っていた。

 しかしとある久しぶりの休日、一人で横浜にスケッチに出かけた時、一つの発見をしたのだ。

神奈川県立歴史博物館

 その日は連日の仕事の疲れもあり、どうもスケッチブックに集中できない。描きかけた鉛筆の線も気に入らない。

 その頃私は建築の設計をしていたせいで、エスキスの道具、プレゼン用のパースを描く道具として常にサインペンを持ち歩いていた。
 そこで、思い切って鉛筆を捨て、真っ白なスケッチブックにいきなり油性の黒いサインペンで描いてみた。

 すると、多少のデッサンの狂いはともかく、白い紙に走る真っ黒な線が創りだす画面に今まで自分が描いていた絵には無い、強さと美しさを発見したのだ。

 私が初めてペンでスケッチした、その建物は横浜、馬車道にある「神奈川県立歴史博物館」。
 ご存知の人も多いだろう。明治時代に建てられた名建築だ。
 それ以後私が描く風景画、特に建築物がモチーフになっているものは、ほとんどがペンの線と透明水彩のコラボレーションである。

 ペンと水彩で風景画を描く

京都中京郵便局 作者:加藤美稲

 そう決めて、最初に考えた画法は、ペンの線で描かれたパーツを水彩絵具で薄く塗っていくこと。色は基本的にその素材の色を使う。

 この絵は京都の中京郵便局。サインペンでスケッチした後、薄く透明水彩を施している。スケッチブックの紙質は薄い普通の画用紙で水彩紙ではない。

 だから水彩紙のような吸水性も保水性もなく、美しい発色と繊細な滲みの表現はできない。

 そのため色を限定し、重ね塗りをしないことにした。使用したのはレンガ色のバーミリオン、石色のアイボリー、銅板の青緑、後は三原色の混色による濃い装飾の縁取りをサッと塗っただけ。そして最後に画面の一番バランスが取れる位置に青空を描けば良い。

 鉛筆による下書きをしないので、制作時間は短い。A4サイズだが1時間未満でペン描きは終了したと思う。着色も一塗りしただけなので30分ちょっとしかかかっていない。

 とても効率よい描き方だ。
 もし鉛筆の下描きに同じような素材の色だけを塗ったとすると、単なる塗り絵になってしまうかもしれない。だがインクの上の透明水彩ならば、線の表現が強い分、素材色を薄く重ねるだけで、絵になるのだ。

 「水彩でイラストを描くにはどうしたらいいですか?」という質問を時々聞く。
 イラストの定義を「対象を明確に、美しい表現で説明する絵」とすれば、まさにこのペンと水彩を使う描き方はイラスト作品にふさわしい。イラストに興味ある人は試してみたら良いだろう。

 しかしながらこの「淡彩スケッチ」の描き方はあくまでペンが主役。水彩は補助に過ぎない。そのせいだろうか、当初は結構満足していたのだが、暫くすると、どうも油絵を描いていたころの満足感にはやはり程遠いことに気づく。

 どんなにペンでうまく形を取り、どんなに綺麗な素材色を塗っても、そこにあるのはあくまで平面的な彩色であって、光や影といった立体感の表現と絵の存在感に乏しいのだ。

 もちろん平面の美しさ、面白さを芸術に高めた浮世絵の例もある。でも、スケッチしたときの現地の感動を伝えようと思うとやはり影や立体感、さらなる存在感が欲しいと思うのだ。

 透明水彩で影を描く方法とは?

  さて、ここで考えてみてほしい。水彩画で影による立体感を表現するにはあなただったらどうするだろうか?
 「影の部分の素材色に黒を混ぜて塗ればいい」と思った人は不正解。そのやり方は不透明水彩の場合はある程度当たっているが、透明水彩を使う場合は完全に不正解だ。

 理由は2つある。一つは白、黒、グレーの「不透明の絵具」を使おうとしたからだ。これらの色は塗った瞬間に透明水彩の特色である下の色と重ねて透明感ある色を表現するというメリットを消してしまう。つまり下塗りの色はもちろん、ペンの黒の美しさをも消してしまう可能性がある。

 もう一つの理由は素材色に黒やグレーの「無彩色を混色」しようとしたからだ。これをすると素材色の彩度を極端に落としてしまい、鮮やかな色合いが消えてしまう。つまり黒インクと鮮やかな色の対比の美しさが失われてしまいかねないのだ。

グリザイユを使用した透明水彩技法

  最終的に私が見つけた技法は油絵でよく使うグリザイユ画法を応用することだ。 グリザイユ画法とは彩色する前に白と黒の絵具によるグレーの階調で立体感を出しておいて、後から透明色を重ねるやり方だ。

 ただしこの方法はそのまま透明水彩では使えない。何故なら先に述べたように、白、黒、グレーの不透明色は下塗りの効果もペンの美しさも消してしまうからだ。

 そこで私はグレーではなく、ブルー(プルシャンブルー)の濃淡を使って立体感を出すことにした。プルシャンブルーは青色絵具の中でも特に透明度が高いことと、水加減で濃いブルーから極めて薄いブルーまで、グラデーションが自由に表現でき、ペンの黒さを引き立ててくれる。

美濃の町並み 作者:加藤美稲

 上の作品は岐阜県美濃市のペンによるスケッチに透明水彩で着色したものだ。左がペンだけで描いたもの、右がプルシャンブルーを基本に明暗と立体感を表現したもの、下の図がさらにその上に透明水彩で着色したものだ。

 民家の壁や建具の茶褐色にも背後の山の緑にもその下にブルーのグラデーションが施されている。だから画面に統一感が出るとともに、透明色が重なり合う、優しい表現になる。

  これら淡彩+グリザイユの技法で描いた作品に対して、個展に来たお客様からは当然ながらいろいろな評価をいただく。

 大部分は好意的なコメントなのだが、ある時個展に来ていたお客様から面白いコメントを頂いたので紹介しておこう。

城塞都市トレド 作者:加藤美稲

 彼が見つめていた絵は、スペイン、トレドの町を描いた絵(上図)だ。複雑に建物が密集していてご覧のようにペンの線がとても多い。ペン描きだけで何時間もかかった労作だ。

 あまりにも熱心に見つめているので、気になって話を伺うと、彼は何年もペン画を描いているという。だから私の風景画の細密な表現が気になり、使っているペンの種類を知りたいのだという。

 もっとも根っからペン好きの彼は、どうやら私がペンの上に色を塗っているのが気に入らないらしい。画廊を出るとき「ペン画に色を塗るのは邪道だよ」と呟くように私に告げて帰っていったのだ。

ペンと透明水彩の新しい技法を目指して

  しかし同じ技法を何年も続けていると、もっといい絵が描けないかと少しづつ欲が出る。実はこの風景画制作プロセスに潜むある欠点を感じ始めた。

 透明水彩の場合、油絵よりもさらに透明度が高い。したがって、下地のブルーのグラデーションの上に明るい色を重ねると、下のブルー色が強すぎて上に重ねた淡い色が綺麗にでないことがあるのだ。

  さらに明暗をペンとブルーのグラデーションで完全に取ってあるので、その上から塗る絵具はその明暗の境界を意識せざるを得ない。

 だからたっぷり水を含ませた水彩絵具が偶然生みだす「滲み」のテクニックが使いづらいのだ。
 冒頭に透明水彩の二つの方法のいいとこ取りを目指していると書いた。それが、上記の不満を解消する新しい手法だ。

「海に生きる町」 作者:加藤美稲

 上の図を見てほしい。
ペン画による線の美しさを生かしつつ、透明水彩によるuグラデーションとにじみの面白さで距離感、空気感、あるいは材質感までを表現する…そんな狙いで描いた作品だ。
  
 この作品の制作プロセスはここでは敢えて記さない。
この記事を読み終えたあなたはきっと水彩による風景画の魅力に惹かれた人に違いない。そんな人だけに私が今持っている技術を伝えたいと思うからだ。

 私は「飾ってもらえる絵」が描けるかどうかは天賦の才ではなく、水彩画の理論を知り、それを実践しているいるかどうかだと思っている。

 下記に募集している「美緑(みりょく)空間アートギャラリー」に参加した人には
私の知識と技術を提供しよう。そしてあなたの絵が売れて、見た人の生活を豊かにすることができる…そんなお手伝いがしたいと思っている。

 ただし私自身の絵の制作時間を確保する必要があるので、参加人数は限定させていただく。漏れた方はご容赦願いたい。

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65件のコメント

[…]  「鉛筆や木炭などの単色の線で物の形を表した絵。本来は創作の予備的な下絵として描かれた。また、彩画と対比されることもある。デッサン。」つまり素描=デッサンを一生懸命練習しても、どうやらそれは将来描く本作(彩画)のために捨てられる運命にあるものらしい。 上図はアングルの作品「ベルヴェーズ・フーロンの肖像」だ。1981年アングル展が初めて日本にやってきた時の展示会カタログからの抜粋だ。左は油彩画、右は鉛筆デッサンである。まさに下図として描いたもののようだ。 だが、この定義は大作家、一部の職業画家に対してあてはまるものの、大部分の初心者を含む絵描きにとっては、モノクロのデッサンもできれば作品として飾りたいはずだ。 だから私は風景のデッサンについてはペンと水彩による作品作りを心掛けている(詳細はこちら→https://miryoku-yoshine.com/landscape-painting-with-pen-and-watercolor/ もちろん人物画でもペンの線を活かして水彩画の作品にならないかと試行錯誤してみた。 左はクロッキー帳にペンで人物デッサンしたもの。悪くない。絵になりそうだ。そう思って水彩紙にペンで人物デッサンし、着色したのが右の絵だ。 残念ながら、私は気に入らなかった。何故なら着彩したとたん、ペンの線が色に対して相対的に強くなりすぎるからだ。水彩絵具を塗った顔の表情も光と影もほとんど鑑賞者に意識されなくなってしまうのだ。 […]

[…]  「鉛筆や木炭などの単色の線で物の形を表した絵。本来は創作の予備的な下絵として描かれた。また、彩画と対比されることもある。デッサン。」つまり素描=デッサンを一生懸命練習しても、どうやらそれは将来描く本作(彩画)のために捨てられる運命にあるものらしい。 上図はアングルの作品「ベルヴェーズ・フーロンの肖像」だ。1981年アングル展が初めて日本にやってきた時の展示会カタログからの抜粋だ。左は油彩画、右は鉛筆デッサンである。まさに下図として描いたもののようだ。 だが、この定義は大作家、一部の職業画家に対してあてはまるものの、大部分の初心者を含む絵描きにとっては、モノクロのデッサンもできれば作品として飾りたいはずだ。 だから私は風景のデッサンについてはペンと水彩による作品作りを心掛けている(詳細はこちら→https://miryoku-yoshine.com/landscape-painting-with-pen-and-watercolor/ もちろん人物デッサンでもペンの線を活かして水彩画の作品にならないかと試行錯誤してみた。 […]

[…]  そして最後が御影公会堂。円柱で支えられたまるい頂部が特徴的なモダニズム建築だ。野坂昭如原作、高畑勲監督のアニメ映画「火垂るの墓」の舞台がこの辺りで、まさに映画の画面にこの建物が登場している。 建物の足元には石屋川が流れ、背景には緑豊かな六甲山が広がる。季節感溢れる風景は休日画家が頻繁に訪れる。 ここは私のお薦めする隠れた神戸NO.1のスケッチポイントだ。ちなみにグーグル検索に「火垂るの墓」「 御影公会堂」と入力すると私の絵が出てくる。この建物はネット上でも人気が高いようだ。なおこの絵のような私の風景画の描き方に興味のある方はこちら(https://miryoku-yoshine.com/landscape-painting-with-pen-and-watercolor/)を参照して欲しい […]

[…] 旧き良き日本の風情を求めて旅をする。 個展の計画をするときは、海外だけでなく、日本の風景もあったほうがいい。必ずしも見に来てくれるお客様が海外の風景にあこがれているとは限らないからだ。 私の経験で言えば、日本人なら誰もがあこがれる風景がいい。「ここ、行ったことがある!」とわかるとそれだけでその絵に好感を持ってもらえる。今までに売れた風景画はたいていそのパターンだった。 日本の旅は年初に一年分の計画をする。行く先は国が選定した「重要伝統的建造物群保存地区」からリストアップしている。現在全国に120箇所ほどあり、私が描いた町はまだ約30箇所に過ぎない。こちらも出来れば生きている間に全て描きたいと思っている。楽しみだ。(私の風景画の描き方に興味のある方はこちら→https://miryoku-yoshine.com/landscape-painting-with-pen-and-watercolor/) […]

[…]  「透明水彩絵の具」が「透明感」を出す基本的な仕組みを知ると、以下のようなその特徴をさらに活かすテクニックがあることに気づく。・透明絵具と不透明絵の具を使い分ける。 実は絵の具、顔料自体にも「透明度」の差がある。透明絵具は顔料の中を透過する光エネルギーが多く、不透明絵具は透過するよりも反射する光エネルギーのほうが圧倒的に多い。つまり不透明度の高い絵の具を下に、透明度の高い絵の具を上に重ねた方が、同じ重ね色でも明るい光が得られることになる。 一般に黄色系の顔料は黄色以外の波長光は吸収するが黄色の波長はほとんど100%反射する。つまり私たちの目には明るい黄色が映る。それに対して緑系の顔料は緑の光を反射するが、透過光も多い。透過した光は下の層の色にまた特定範囲の波長光を吸収された黄緑色の反射光となって私たちの目に入る。 カドミウムイエロー(不透明度高い)の上にサップグリーン(透明度高い)を置いてみるとこの効果がよくわかるはずだ。 ちなみに両方の絵具をパレットで混色し塗るとどうなるのか?重ねとどう違うのか?と疑問に思うかもしれない。 この疑問にははっきりした実験結果が出ている。パレットで混色した「黄緑色」はその特定波長の光だけが目に届く。 一方黄色に緑を重ね双方の特定波長だけを吸収した光は、残った波長全ての混合光として目に届くので、同じ「黄緑色」でも波長の範囲が広い。つまり緑寄りの光も、黄色寄りの光もそれぞの明るさで混じっている。したがって混色した黄緑色よりも深みが出るというわけだ。・線描を活かす もう一つ私が不透明水彩を使わない決定的な理由がある。私の風景画作成プロセス(ブログはこちら→https://miryoku-yoshine.com/landscape-painting-with-pen-and-watercolor/)は、ペンによる線描がポイントだ。不透明水彩は上に絵具を塗ると苦労して描いたペンの線さえも隠してしまうのだ。 一方透明水彩は紙面まで光が届くので、ペンの部分で全ての波長を吸収し、白い面では届いた色の光をそのまま反射させる。したがって重ねた深みある透明色と純粋な黒が共存したまま目に届く。・にじみの効果と透明感の共存 透明水彩画にはさらに油絵では表現できない効果がある。たっぷりと水を吸った紙に絵具を落とすと紙の繊維に吸収される過程が滲みとなって表現される。 この現象を利用してしばしば紙の白色光を生かした、美しい形状の、ムラのない混色を行うことができる。キャンバスに絵具が染み込むことがない油絵には不可能なテクニックである。 […]

[…]  さて、少し冒頭の水彩画の解説をしておこう。 画材はいつものようにペンと水彩だが、今回の題材は街中の風景。川や山など緑豊かな自然の要素がない。建物がメインだ。こんな時はいつも以上に構図に気を配りたい。 この絵では道に沿って並ぶパースペクティブな建物の迫力とそれを受けるアーチのあるマルクス塔をセットにすることで単調な構図になることを避けている。そして中央上部ににコウノトリの巣を配して、画面に緊張感を与えている。 漫然と描き始めると決してこういう構図にはならない。注意してほしい。 そして「建物」を描く時は、いつも以上に正確に影を描こう。この絵でも私の風景画作法とおり(詳細を知りたい方はこちら→)、グリザイユ画法で影を入れてから、彩色している。 ただし、メルヘンチックな雰囲気を大事にしたかったので、通常より陰を薄めにし、赤系の色は派手にしてある。いかがだろうか? […]

[…]  この作品の解説をしておこう。紙はもちろん水彩紙。パルプ100%の英国製ラングトンだ。 最近購入したラングトンは、すぐ表面が風邪をひいてしまう気がして、使うのをやめてしまったが、かなり以前に購入したこの水彩紙はまったく問題がない。ロットにより差があるのか、製法が変わったせいなのかは不明だ。 この絵は少し前にこのブログでも触れたが、一度描き終えた後、上から再度着色をしている(その記事「水彩画上達法」についてはこちら→)が、表面強度はコットン100%紙とまったく遜色なかった。 画面の線は、いつものようにサインペンだ。それほど複雑な構図でもないので下書きはしない。いきなりペンで描く。多少の失敗は気にしない。 よく見てもらえればわかると思うが、間違えた線が所々ある。皆さんも、ペンで描くなら、なるべく大胆に描く練習をするといい。実は案外気にならないものなのだ。 絵具はウィンザーニュートンの透明水彩絵具の24色の固形絵具、パレット付タイプだ。 この絵の大きさはSM(サムホール:227mm×158mm)。それほど大きなサイズではく、同じ色を大量に塗る必要はないので、本当は20色も要らない。赤、青、黄色を混色するだけで描けるはずだ。ただやはり人によって好みの色が何色かあり、それがいつも安定して、同じ発色をしてくれるというのはありがたい。 私の場合はグリザイユ(グリザイユ画法について知りたい方はこちら→)に使うプルシャンブルーと、森を描く時のサップグリーン、草原を描く時にサップグリーンに混ぜるウインザーイエローは欠かせない。木々を描くときはセピアも必須だ。 どの水彩画家も自分の画面にオリジナルの色調を持っているが、その秘訣は案外どのメーカーのどの色を中心に据えるかという好みで決まっているのかもしれない。 […]

[…]  私の絵の解説をしておこう。いつものように、ペンと透明水彩絵具で描いている。影はやはりプルシャンブルーによるグリザイユだ。 ただしお気づきかと思うが、いつもよりグリザイユのプルシャンブルーが薄めだ。(グルザイユ画法についてはこちら→) なぜかというと、あまりに初夏の緑が鮮やかなのでプルシャンブルーの「青み」を抑え、サップグリーンの色合いをより強く出そうと思ったからだ。 特に影の部分でブルーを濃く塗ると、ほとんど緑は感じられなくなってしまう。今回は、そのかわりに影の一番濃いところはペンの線の密度を多くして明度差を表現している。 […]

[…]  さっそくスケッチを開始する。いつものように下書きはしない。ペンで反りのあるこう配屋根を注意深く描く。そして屋根の木組みや建具など、慎重に描き分ける。ここで気を抜くとまた、建物だけを無造作に描くことになってしまう。 そうならないポイントは背景となる鮮やかな森の緑と明るい屋根瓦、深い軒の出が生む濃い影の対比だ。これらを描ければ、建物単体だけを描いた「不人気作品」にならずに済むだろう。 具体的にはいつものようにグリザイユで屋根、森の緑、軒下の明暗バランスを先に描き込んでおく。そしてバーントシェンナ、サップグリーン、セピア等を適当に混色しながら塗ってゆく。(私の風景画の描き方についてはこちら→) […]

[…]  というわけでどうせならと、この絵は港から桜島だけを見つめて描いたものだ。 絵の技術的な解説をしておこう。このブログを何度か見ていただいた方なら一見して、私のいつもの水彩画と違うことが分かるだろう。(いつもの水彩画の描き方はこちら→) まず描くべき対象の下書き、輪郭にペンを使っていない。鉛筆だ。何故だかお分かりだろうか? 実はこの絵の他にペンで桜島を描いた絵が2枚ある。だが、それらはペンで描いた山の稜線が目立ちすぎて、山の全体的な質感、存在感がでないのだ。 ならばと、稜線を細くかすれるようなタッチで描くと、シャープで個性的な桜島のラインの面白さが出ない。 そこでこの絵では線は全て鉛筆で下書きをしている。ただし、この鉛筆の線は形を取るためのものではない。あくまで桜島のボリュームを表現するために使っている。だから技法としては、鉛筆による石膏デッサンに近い。 鉛筆だけで、形、明暗で存在感を表現した後、山肌、海、麓の緑に色を入れた。 本来なら空は一番明るい部分なので、鉛筆線を入れずに色だけを塗ってもいいのだが、今回のテーマには頂の白煙の表現が重要だ。 そのため敢えて空の全面に鉛筆でクロスハッチングを入れた。空を若干暗くすることにより、白煙の白さを強調したわけだ。そして山の「桜色」を強調するために、海は濃い目のコバルトブルーとウィンザーバイオレットをたっぷりと使っている。 絵のサイズはいつものSM(サムホール)。しかし桜島の雄大さを表現するなら、その時持っていた最大サイズ6号のスケッチブックに描くべきだった。少し反省している。 […]

[…] では具体的に私の絵具とパレットの使い方を述べよう。■風景画を描く時(私の風景画の描き方についてはこちら→) 通常はまずペンで描いた線の上にプルシャンブルーでグリザイユを施す。24色に最初から入っているブルーはウルトラマリンブルー、ウィンザーブルーのようだが、両者ともやや鮮やかすぎて、濃い影の部分に使うと違和感がある。だから私はプルシャンブルーを買い足して使っている。 最近は絵によっては、さらにウィンザーバイオレットを少々混ぜてグリザイユに使用することがある。パレットの右上のゾーンがその混色の場所だ。 そして右上のブルーゾーンはその他に緑を混ぜて、空の色、川や海の色を作っている。 風景画でよく使うのはやはり緑系の色だろう。こちらはもっぱら左下のゾーンで混色している。先程述べた下段パレットの原則通り、右に行くほど明度の暗い混色をしている。黄緑はサップグリーンに上段のウィンザーイエローを混ぜて作り、影となる濃いグリーンはサップグリーン、オリーブグリーンをベースに明度に応じて茶系の絵具を混ぜている。具体的に言うと同じ緑陰でも明るめの部分はローシェンナーを、暗めの部分はローアンバーを混ぜて作っている。 樹木については、茶系の色が結構揃っているのであまり混色しない。明るい木はイエローオーカー、赤っぽい木はバーントシェンナーやバーントアンバーを、暗い木はローアンバー、セピア(この色も買い足している)を中心に使い分けている。 パレット左下に若干赤色のゾーンがあることに気づいた人はなかなか鋭い。これはグリーン系に茶系を混ぜるだけではまだ影が明るすぎる時がある。そんな時グリーンの補色である赤を混ぜると一気に黒に近くなる。そのためにここに赤を置くゾーンを作っているのだ。 […]

[…]  透明水彩を使い始めると、油絵にはない、「滲み」と「ぼかし」のテクニックを極めたくなる。 人物画、風景画いずれにも使えるテクニックだ。(水彩画の基本の描き方については風景画はこちらを→、人物画はこちらを→参照してほしい) 今回はそのテクニックを使う上での注意事項を述べようと思う。 […]

[…]  絵の解説を少ししておこう。スケッチブックの大きさはSM(サムホール)。残り時間があまりないときによく使うサイズだ。(スケッチブックサイズについてのアドバイスはこちら→) 私の風景画の基本的な制作プロセスはこのブログで詳しく書いているので参照してほしい。(詳細はこちら→)。サインペンで輪郭を描き、透明水彩を施している。 今回のポイントは菜の花なので、まずその部分をマスキングインク(マスキングインクの詳細はこちら→)で隠しておく。影の部分を先に塗り(グリザイユ画法)、乾いてから全体に色を重ねる。そして最後にマスキングインクを剥がし、そこに菜の花色つまり鮮やかな黄色、ウインザーイエローを塗ってやれば完成だ。 […]

[…]  だからこの絵は私のいつもの風景画制作プロセス(詳細はこちら→)とは違う。鉛筆で濃淡を取り、その上に透明水彩を塗っている。 具体的に説明しよう。(残念ながらこの制作過程の記録写真を撮っていなかった。わかりにくいと思うが、ご容赦願いたい) まずHの鉛筆で城の輪郭、桜のヴォリュームを描く。 この時注意して見て欲しい。満開の桜は全てが均一なピンク色ではない。よく見ると、両の掌で柔らかく包むくらいの細かな花びらの塊で成り立っている。そしてさらにそれが枝の流れに沿っていくつも重なり合うのだ。 そのピンク色の濃淡を画面全体に鉛筆で丁寧に表現していく。明るい部分の塊は2Hから4Hの薄い鉛筆で、桜の枝や幹はHB~4Bまで使い分けている。 明るいところは当然練りゴムを使う。幹や枝の上に浮かぶ明るい花びらは薄い鉛筆で描くのではなく、濃い鉛筆の背景に練りゴムで描くイメージだ。 この絵は6号。いつものSM(サムホール)に比べると相当大きい。この花びらを鉛筆で丁寧に描くには相当に根気がいる。現地でのスケッチに4時間、風景を写真に取り、帰ってからも続きを描き、結局鉛筆による下描きだけで10時間ほどかかったと思う。 […]

[…]    風景画の描き方は色々ある。大半の水彩画教本では、2Bから4Bの柔らかい鉛筆で下書きをし、色を塗って仕上げた後、最後に邪魔な下書きの線を消すというものだ。もちろんその方法に文句はない。王道だと言っていい。 だが私がその王道を歩かない理由は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」(詳細はこちら→)の記事に述べた通り。 建物の下書き線を鉛筆で書くと、水彩絵具を塗った時、濁って汚く見える。だから邪魔な線を最後に消すことになる。それに対して私は建物をいきなりペンで描く。油性だから水彩を塗っても線が滲まないし、絶対に汚れない。だから消せない。というよりうまく描ければ、そもそも「消す」という手間も省ける。旅先でのスケッチには最高だ。 先の記事の中では「下書きはしない」とだけしか書かなかった。でも皆さんの中には具体的にどう描いたら消さずに済むペン画になるのか知りたいと思う人がいるだろう。今回はそんな、風景画、特に建物の描き方について書こうと思う。 […]

[…]  さて冒頭の絵の説明をしておこう。この絵は私のブログの風景画の描き方(詳細はこちら→)の中で説明用に使った絵なので、制作プロセスについてはそちらを参照にしてほしい。 だから今回の説明は「構図」に絞ろう。先に述べたように道の両側に建物を配置する構図は今ひとつと感じた。 だから町並みの片側だけを描くことにした。すると一般的には建物の軒ラインが1方向に揃って見えるだけで単調な構図になりやすい。それでもこの構図がそれなりに絵になると考えた理由はやはり「うだつ」だ。いくつものうだつとその上に載る鬼瓦が単調になりがちな軒にアクセントとリズムを与えてくれると思ったからだ。かつ背景が空ではなく山並みがあること。空の青と山の緑が茶色の町並みに変化を与えてくれると思ったのだ。 そんな条件にぴったりと合致したの構図は町の中でここだけだったのだ。 […]

[…] P.S.冒頭の絵はペンと透明水彩で描いている。「半分廃墟」のイメージが強かったので、グリザイユを施した後、画面の色調はあえてセピア色にしてある。こんな私の描き方に興味のある人は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは?」を参考にしてほしい。他にも私の描いた水彩画の一部を加藤美稲作品集で公開している。興味ある方は参考にしてほしい(詳細はこちら→) […]

[…] P.S.今回は絵の解説は特にしていないが、私の風景画の制作方法について興味ある方は 「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」(詳細はこちら→)を参考にしてほしい。P.P.S.これからスケッチ旅に出かけようとしている人は、私の風景画を描く旅先のリスト(詳細はこちら→)と絵描きの目で見た評価を書いているので参考にしてほしい。 […]

[…]  絵の説明をしておこう。使用画材はいつもと同じ。ペンと透明水彩だ。(私の風景画の描き方はこちら→) ただし垂直に伸びるブナと横に枝を張るモミジは木の形も葉の色もまるで違う。緑と黄緑を通常の水をたっぷり使ったウォッシュ技法で一気に仕上げようとすると失敗する。(色塗りの基礎技法についてはこちら→) 特にモミジは目に眩しいくらいの鮮やかな黄緑色なので、最初にマスキングインクで保護しておくことにした。 周辺の暗い緑を描き終わったら、マスキングインクを剥がす。真白な紙の白がモミジの葉の形で現れる。そこに思い切り鮮やかな黄緑色をほどこそう。 大樹の葉が鬱蒼と生茂暗い緑の中に反射して光る葉も重要だ。同様にマスキングインクで保護し、後から明るい色を重ねたものだ。(マスキングインクについて詳しく知りたい方はこちら→) […]

[…]  「ウェットオンドライ」はウォッシュを使って塗った面を完全に乾かしてから、上に次の透明水彩を重ねる手法。私が初めて水彩紙に透明水彩で絵を描いた時に感動したのがこの技法を使った表現の美しさだった。 例えばブルーの下地色をウォッシュで塗った後、黄色を重ねると緑色に見える。そしてブルーの水分を調整してグラデーションをつけた後に同様に黄色でグラデーションを作り重ねると、無限と言っていい緑色が表現できる。 私の風景画の描き方(詳細はこちら→)の基本はこのウェットオンドライによるグリザイユ画法から始まっている。 7図はウォッシュで下塗りした後、プルシャンブルーでグリザイユを施し、さらに山脈の雪をマスキングした状態。8図はグリザイユの上にそれぞれの材料の固有色を透明水彩で重ねたものだ。 […]

[…]  ところで、皆さんは「風景画」を描く上で一番大事なことはなんだと思うだろうか。私は「構図」だと思っている。そして今日の水彩画の最大のポイントはこの「構図」にある。冒頭の私の絵を見て欲しい。 鋭角に交差する道で切り取られた変な敷地。普通なら使い物にならないこの土地もここの住民の「建てたい!」という切望の前には何の障害でもなかったらしい。だから三角形の敷地に合わせてこんな家ができる。 一級建築士の私としては、その内部の使いにくさに同情してしまう一方で、絵描きとしてはこの奇妙な風景に魅力を感じてしまう・・・そんな思いを伝えるのがこの構図なのだ。 そして実はこの構図、画面ではそれなりに納まっているが、現地では私の目と建物までの距離がとても近く、人間の視界の限界に近い。 おそらくデジカメでは一部分しか写らないのではないだろうか。広角のカメラでも周辺には相当の歪みが出ているに違いない。 しかし逆に言えば手描きのスケッチなら、視界の継ぎ足しも、歪みも紙の上でなんとでも修正できる。この奇妙な建物と道の関係を自分なりの構図で絵にできるのだ。 ちなみにこの構図、目をつけたのは私だけでなかった。同じ場所を背景とした吉永小百合さんのテレビCM(JR東日本放映)があったとのこと。見覚えのある方も多いのではなかろうか。 色彩については、ちょっとした工夫をしている。もちろん透明水彩絵具を使用しているのだが、今回はあまり水を使用していない。 というのは外壁を塗るのに通常の水彩技法でにじみを多用すると年月を経た厚い板張りの存在感を出せなくなると思ったからだ。ここでは平筆を丁寧に重ねて、なるべくシャープに、凸凹感を出すようにしたつもりだ。 これらの工夫のせいだろうか、この絵はとても評判がよく、二度目の個展の時、熱心なファンに一番に購入していただいた。 なお、私の風景画の描き方(詳細はこちら→)、透明水彩の基本的な色塗り技法(詳細はこちら→)については別に記事を書いているので参考にしてほしい。 […]

[…] P.S.私の水彩画は加藤美稲作品集(詳細はこちら→)で一部を公開している。興味のある方は覗いてほしい。私の描く水彩画についてもっと知りたい方は下記の記事を参考にしてほしい。ペンと水彩で描く風景画の魅力とは?鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!スケッチ旅行のノウハウを知りたい方は下記の記事を参考にしてほしいスケッチ旅行に必要な道具とはここを描きたい日本の風景! […]

[…] P.S.私の水彩画は加藤美稲作品集(詳細はこちら→)で一部を公開している。興味のある方は覗いてほしい。私の描く水彩画についてもっと知りたい方は下記の記事を参考にしてほしい。ペンと水彩で描く風景画の魅力とは?鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!スケッチ旅行のノウハウを知りたい方は下記の記事を参考にしてほしい。スケッチ旅行に必要な道具とはここを描きたい日本の風景! […]

[…]  さて、そんな美しいミラノの大聖堂を描こうとしたものの、実は完成のイメージをどうするかしばし悩んだ。塗りなおしの効かない水彩画は油絵と違っては最初の制作計画がとても大切なのだ。 先に述べたようにこの聖堂のファサードはとんでもなく複雑だ。無数の尖塔を、見たままに、いつものようにペンと水彩で描き切るか?(私の風景画の描き方に興味ある方はこちらを→)あるいは思い切って省略し、面の変化と形だけの表現とするか? 当然前者は相当の時間と根気が必要だ。さらにいつもならペンの線も多少の失敗は何とでもなるという気で描くのだが、これだけ線が複雑に絡む建物はさすがに慎重さを要する。 悩んだ末、結論はいつも通り「ペンと水彩で見たままを描く」だ。せっかくイタリアまで来たのだから、とことん自分の描き方で・・・と思ったからだ。 私が旅先で使用するスケッチブックのサイズは通常F0、SM(サムホール)、6号の三種類(その理由はこちら→)だが、今回はもちろん6号だ。大きめのサイズでないとあのディテールは描ききれない。 いつものように下書きをせず、いきなりペンで描いた・・・と言いたいところだが、さすがに今回は鉛筆で軽くあたりを採っている。と言ってもあまり細かく鉛筆で下書きしていてはそれだけで時間を採られてしまう。 だから、建物全体の縦横のサイズ、屋根の勾配比率、目立つ尖塔の位置と間隔だけをチェックすることにした。おおまかな鉛筆の線を頼りにその間にある尖塔や装飾は、誤解を恐れずに言うと、「上から、目に入る順番に」描いていく。 本来、スケッチの基本は「全体から細部へ」なのだが、これだけ「細部」が多いと「全体」と「細部」を行き来するだけで時間がかかってしまうからだ。 もちろん各パーツの位置は透視図法に従って矛盾の無い位置に描くことは必要である。ただこれもあまり図法にこだわって分割線を何本も引いているとこの無数の垂直線、どれがどこにあるかわからなくなり、やはり時間をロスしてしまう。(透視図法を使った建物の描き方はこちら→) だからある程度のガイドラインがあれば、思い切って(対象をよく見ながら)直感で位置決めをする勇気も必要だ。 それでもペン描きだけで2時間半以上はかかったかもしれない。気が付いたらすでに日が傾いていた。 […]

[…] P.S.水彩画の描き方についての関連記事を下記にまとめている。興味ある人は参考してほしい。・私の風景画の描き方についてはこちら→・ペンを使った建物の描き方についてはこちら→・水彩絵の具の基本的な使い方についてはこちら→・風景画でどこを描いたらいいか悩んでいる人はこちら→ […]

[…]  私の水彩画は途中段階でグリザイユ画法を使う(詳細はこちら→)。下地で明暗を表現してから、上にモチーフの固有色を重ねる方法だ。この時、上に重ねる色がもし不透明色だったら下の描いたグラデーションがどんなに完璧であっても、その効果は台無しになってしまう。 ところが初心者はそんなことは知らず、欲しい色相だけを見て塗ってしまう。しかも水分を乾燥させてから塗るべき色を湿っているときに塗ったりするので、濁った(汚い)色が画面に広がってしまうのだ。 […]

[…]  ある日、アトリエを片付けようと、昔の資料を整理していた。本棚の奥から古いメモ書き兼用の安物のスケッチブックが出てきた。どのページも黄ばんでいる。パラパラとめくる。その中に見つけたのが、冒頭のスケッチ、長崎の「グラバー邸」だ。 私のサインの上にある日付を見るとなんと1984年4月。30数年前のスケッチである。この頃は今のように真剣に絵を描こうなどとは思っていなかったはずだが、一応スケッチだけは残していたようだ。 水彩紙ではないので、最初から水彩絵具を塗るつもりがなかったようで、影の部分をサインペンでハッチングしている。 今も風景画を描くとき(詳細はこちら→)はサインペンを利用するが、ペンによるハッチングの影は描かない。何故なら透明水彩の淡く、明るい発色の表現とそれはなじまないのだ。それでも今思えば、とても貴重なスケッチだ。 […]

[…]  私の時間は限られていた。だからほとんど悩むことなく、「ここ!」と構図を決め、「南の王国」の風景をペンでスケッチした。 幸い水彩紙(ラングトン)を持ち歩くようになった頃だった。おかげでスケッチだけで終わることなく、帰国してから透明水彩で仕上げることができた。 この絵の制作プロセスは、「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは(詳細はこちら→)」に記した基本通りであまり変わらない。ペンの線を生かすように、透明色であるプルシャンブルーでグリザイユを施した後、固有色を重ねている。 ただ、今回は常夏のハワイでのスケッチ。暑さを避けるため、私がスケッチブックを広げたのは当然だが、緑豊かな木陰の中。 だから宮殿の風景を切り取る周囲の樹木は逆光になるので、どうしても暗くなる。これを奥の風景と同じブルーでグラデーションを施すと手前の木々が真っ青になってしまい、そのあとの固有色(サップグリーンなどの透明色)が美しく見えない。 だから手前の木々の暗部はわざと不透明度の高いオリーブグリーンを主体とし、さらに赤みのあるウィンザーバイオレットを加えて明度を落としている。 このグリザイユ画法と絵具の透明度の関係については少し勉強が必要だ。以下に詳しい記事を書いているので参考にしてほしい。「水彩画の基本!知っておきたいグリザイユ画法と絵具の透明度(詳細はこちら→)」 […]

[…]  冒頭の水彩スケッチの説明をしておこう。町並みは一見、美しいが手入れの行き届いていない、廃屋に近いものもある。「ベンガラ色」も色あせ、褐色に近いものもある。 それでも絵描きの目で見ると、この町には他の町にない魅力がある。それは平入と妻入りが混在する珍しい町並みである上に、山道に沿って民家が並ぶのでうねるような高低差が軒のラインと屋根のスカイラインに現れることだ。 静的な佇まいが多い一般的な日本の町並みに比べてとてもダイナミックなのだ。だから絵としての構図はとても気に入っている。 次に色彩だ。町は確かに「赤い」が、水彩画として真赤に塗るわけにはいかない。先に述べたように、実際は風化した褐色に近い色も多いからだ。 だからこの絵ではいつものようにグリザイユ画法を使い、下地にプルシャンブルーで影をつけ、さらにベンガラの彩度の落ちる部分にもプルシャンブルーを入れている。 上に重ねる赤はクリムソンレーキとバーミリオンだ。両方とも単独で使用すると彩度が高すぎて風景画には使いづらい色だが、このように下地にブルー系を塗っておくと、ちょうどいい味が出るようだ。(私の水彩による風景画の制作プロセスについてはこちら→) […]

[…]  いやむしろ今回はある程度上達した方へといった方がいいかもしれない。この記事を読む人は、すでに水彩紙も筆も透明水彩絵具も、パレットも買い揃え、スケッチ旅にも出かけた。風景画なら私の記事「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」を、人物画なら「素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とは」をすでに読んでくれているに違いない。 […]

[…] P.S.今回はスケッチ旅の様子を記事にしたが、「肝心の水彩画はどうやって描くの?」と思っている人は以下に制作編をまとめているので参考にしてほしい。■ペンと透明水彩を使う本格的な風景画の描き方は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」を参照。■透明水彩の基本を知りたい方は「色塗りの基礎的技法」を参照。■建物を描くための透視図法のコツを知りたい方は「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方(詳細はこちら→)を参照。■透明水彩の正しい着彩手順を知りたい方は「何故上達しない?知っておきたい水彩画の正しい着彩手順!(詳細はこちら→)」を参照。■ペンと透明水彩による風景画の制作プロセスを具体的に知りたい方は「ペンと水彩で描くミラノ大聖堂(詳細はこちら→)」を参照。 […]

[…] P.P.S.今回はスケッチ旅の様子を記事にしたが、「肝心の水彩画はどうやって描くの?」と思っている人は以下に制作編をまとめているので参考にしてほしい。■ペンと透明水彩を使う本格的な風景画の描き方は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」を参照。■透明水彩の基本を知りたい方は「色塗りの基礎的技法」を参照。■建物を描くための透視図法のコツを知りたい方は「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方(詳細はこちら→)を参照。■透明水彩の正しい着彩手順を知りたい方は「何故上達しない?知っておきたい水彩画の正しい着彩手順!(詳細はこちら→)」を参照。■ペンと透明水彩による風景画の制作プロセスを具体的に知りたい方は「ペンと水彩で描くミラノ大聖堂(詳細はこちら→)」を参照。 […]

[…] P.S.私の描く水彩画について下記に基本的な記事をまとめている。参考にしてほしい。■ペンと透明水彩を使う本格的な風景画の描き方は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは」を参照。■透明水彩の基本を知りたい方は「色塗りの基礎的技法」を参照。■建物を描くための透視図法のコツを知りたい方は「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方(詳細はこちら→)を参照。■透明水彩の正しい着彩手順を知りたい方は「何故上達しない?知っておきたい水彩画の正しい着彩手順!(詳細はこちら→)」を参照。■ペンと透明水彩による風景画の制作プロセスを具体的に知りたい方は「ペンと水彩で描くミラノ大聖堂(詳細はこちら→)」を参照。スケッチ旅行のノウハウを知りたい方は下記の記事を参考にしてほしい■スケッチ旅行に必要な道具とは■ここを描きたい日本の風景! […]

[…]  私のその偏見を取り払ってくれたのは、やはり、日本に、それも珍しく神戸に巡回されてやってきた人気の「印象派展」の中の一枚の絵だった。 その絵とは冒頭に掲げたマネの「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」だ。実はこの絵、教科書で見たのか、雑誌だったのか覚えていないが、とにかくその年になるまで知らなかったというわけではない。 ただ、「イレーヌ嬢の肖像」ほど感動したわけでなく、「なんだか黒っぽい女性像だな」という印象しかなかった。 特に透明水彩画を描くようになってからは、「黒」の絵具については水彩画の透明感を損なうもの(詳細記事はこちら→)としてしか感じていなかったので、よけいに共感を覚えなかったのだと思う。 […]

[…]  トップページを見ていただければわかるように、私の風景画はほとんどがペンと水彩で描いたものだ。その経緯は「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは(詳細はこちら→)」に書いている。 線の美しさが活かせることがその最大の理由だが、絵を始めたばかりの初心者にとっては、やはりペンでいきなり描き始めるのは敷居が高い。鉛筆に勝る下書きの道具はないだろう。 今回はそんな人のために、鉛筆の線の上に水彩を塗る、淡彩スケッチのコツを述べよう。 […]

[…]  このブログの本当の目的はトップページにあるように水彩画の魅力を伝えることにある。だから 水彩画の描き方 やスケッチ旅の道具や心構えやなどの記事を書いている。 しかし毎回、旅先で作品を完成させる時間があるわけでもない。白黒のペンで殴り書きのようなスケッチしかできない時もある。きっと絵を描くのが好きなみんなさんも事情は同じに違いない。ではそのイラストはどうするか?今回は私の旅先でのイラストを友人へのプレゼントに使った例をお話しよう。 […]

[…] ■ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→■風景画の下書きはどう描いたらいい?→■水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→■スケッチ旅行に必要な道具とは→■水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→■ここを描きたい日本の風景!→ […]

[…] P.S.このブログでは以下のような、本文中にリンクを張った以外にも関連する記事を書いている。興味のある人は参照してほしい。■カテゴリ「スケッチの旅海外編→」■「海外スケッチの旅 5つの心得→」■「加藤美稲水彩画作品集→」■「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」■「パソコンで描く水彩風イラスト初級編→」■「ペン画で風景画を描くコツとは?→」■「水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→」 […]

[…] ■「スケッチの旅日本編→」■「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→」■「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」■「スケッチ旅行に必要な道具とは→」■「鉛筆はいらない!下書きしない風景画の描き方→」■「水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→」 […]

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