温泉津温泉を水彩で描く
ここは島根県、JR温泉津(ゆのつ)駅から徒歩で20分ほどの温泉街。水彩画による早朝の風景である。
構図的にはそれほど特筆すべきものはない。だが開店前の、客を迎え入れる灯りが町の温かさを感じさせてくれる。そんな都会には無い雰囲気に惹かれてスケッチしたものである。
朝の絵はむつかしい?
朝の絵(特に水彩画では)を描くのはむつかしい。
何故なら太陽の角度が低いため影が長すぎるからだ。この町のように道が狭いと長く伸びる影が町並み全体を真っ暗にしてしまう。あるいは逆光で町のシルエットだけを描くことになってしまうからだ。
特に油絵のように後からハイライトの白を入れられない透明水彩画では事前の作画計画が極めて重要である。以下の二つのポイントに絞って解説しよう。
①まずは光の方向を確認しよう
むつかしいからこそ、光の方向を正確に意識することが大切だ。
冒頭の水彩画をもう一度見てほしい。この町は山間にあるため、朝の太陽は木々に遮られて町の建物を照らしてくれない。
しかし当然ながら太陽の方向は明るい。ポイントはその反射光が町をどのように照らしているかを分析することである。
このことを意識せず何となく陰のあいまいな「朝の絵」を描く人が多いと思っている。
それでは、この水彩画の光とコントラストの描き方について解説しよう。
- まず太陽は角度が低いので、山並みに遮られ直射光は入ってこない。従って山並みの色は基本的に黒っぽい。
ただし一部の反射光を受ける樹木は明るくなる。
この絵では左上の一本の木を暗い森の中で浮かび上がるように強調して表現している。水彩画の技術としては、この部分は紙の明るさを生かし、重ね塗りをしないということである。 - 太陽の方向はこの絵の左側かつ山の向こう側である。従って反射光もそちらからの光が強い。
絵の右側の路地面の壁はその反射光を垂直に受けるので、正面の建物の壁よりも明るくなる。このコントラストを間違えてはいけない。 - 正面の建物の壁は太陽の方向に対して逆光となる角度なので暗くなる。特に庇下は明るい天空光も遮られるので最も暗い部分となる。
- 正面の道は左からの反射光にそのまま照らされるので壁に比べれば、はるかに明るい。
②朝の色は何色?
次に水彩で表現する朝の風景の「色」について考えてみよう。
- 空の色
空は朝の光に染まる。決して青空にはならない(何故青空にならないかは「空の色は何故グラデーション?→」を参照)。
具体的にはやや黄色みが強いオレンジ色となる。(当然だが赤味が強いと夕陽に見えてしまうので注意!) - 壁の色の表現。
先に「正面の壁は路地の壁よりも暗い」と記した。だが実はその壁色は青っぽい「白」だった。
だが、水彩紙の「白」を残すと当然だが手前の路地の建物の壁よりも明るくなってしまう。つまり論理的なコントラストが狂ってしまうのだ。
そこで今回は実際よりも壁の「青っぽさ」を強調し、コンポーズブルーとウィンザーヴァイオレットを使用して「暗い」表現にしてある。 - 灯りの表現
営業前の「早朝」を表現するにはこの灯りがとても重要だ。実はスケッチした時の灯りはランプが数個見える程度だった。
敢えて、この町の「温かさ」を伝えるのにふさわしい明るさに強調して表現している。
スケッチのすすめ
ここ温泉津温泉はそれほど大きな町ではない。歩けば端から端まで20分もかからないだろう。銭湯に入るだけの単なる観光ならば一時間もあれば十分だろう。
だがじっくり町を歩くとこの町は想像以上に面白い。
この建物をはじめとして大正~昭和初期の建物が並ぶ町並みの風景は日本の情緒たっぷり。スケッチするとそれは完全に自分の記憶に刻まれるのだ。
P.S.
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