桜の絵はむつかしい?

加藤美稲 「姫路城春爛漫」

桜の季節がやってきた!

 「今年の花見はどこへいく?」
毎年3月末から4月にかけて各家庭で交わされる会話だろう。
 我家もしかり、今年は関西で屈指の桜の名所、夙川(兵庫県西宮市)に出かけ、手作りサンドイッチとワインで楽しい一日を過ごした。

 私が知っているある画廊はこの季節になると「桜の絵展」を開く。TVニュースで取り上げられる桜前線の情報と連動した企画である。毎年多くのアーチストから出展申込があると聞く。

桜の絵!お薦めは?

  そんな日本人の季節感そのものである桜。プロの画家でなくても「絵にしたい」と思うのは当然だ。だが実は桜を描くのはとてもむつかしい。

 満開の桜は薄いピンクが視界いっぱいに広がる。まさに日本の色だ。
 でも当然ながらピンクの絵具一色で塗れるほど単純ではない。光と影と透け具合よる色の変化は多彩だ。枝の勢いによる色の変化もある。しかも眺める距離と角度によってその表情は微妙に変化する。

 それらを一枚の画面に納めるには、秀でた観察力と高度なテクニックが要求されることは間違いない。そんな桜を描いた有名な絵がいくつかある。私のお薦めをいくつかあげよう。

  •  奥村土牛の「吉野」
     吉野の山に広がる桜をピンクのグラデーションで雲海のように描いた作品である。
  •  奥村土牛の「醍醐」
     醍醐寺の桜を描いている。やはりピンクのグラデーションが美しい。ただこちらは一本の桜の木を描いているので、細かく見ると桜のやや模様化された花びらが見て取れる。おそらく距離感による美しさの違いを描こうとしたのだと思う。
  • 東山魁夷の「花明り」
     ご存知、京都円山公園の枝垂れ桜である。テーマは意表を突く夜桜である。しかし桜の淡いピンクは本来、背景が暗い方が引き立つにきまってる。
     画面いっぱいに輝く夜桜と頭上の満月という、まさに桜の美の究極を追求した作品だと思う。
  • 田淵俊夫の「智積院講堂の襖絵」
     比較的新しい作品で2008年に公開された。私はNHKの日曜美術館を見て初めて知り知り、さらに其の後展覧会で実物を見た。
     本物を自分の目で見たという経験はやはり何物にも変えがたい。印象は強烈だった。
      桜なのに何とピンク色は一切使っていない、墨絵なのだ。グレーの濃淡だけで桜が表現できるという事実、いやその特異な感性とモノトーンの美しさを観る者に思い起こさせるテクニックに心から感動した。
     私の一番のお薦めだ。

桜を描いてみよう!

 さて私自身はというと、実は桜の絵はほとんど描いたことはなかった。特に社会人になってからはもっぱら花見の宴を楽しんでいたせいでもあるが、やはり桜を「絵にする」自信がなかったからだと思う。

 しかしある年の春、建築設計の仕事で愛媛県今治市に単身赴任していた。
 その日はぽかぽかと暖かく、桜前線の報告も満開を告げ、世間はまさに花見一色。その時住んでいたアパートの裏手に川が流れていて、土手には満開の桜が咲いていた。

 一人きりの花見の宴ではちょっと寂しいと気まぐれにスケッチブックをもっていったのだ。
 さすがに満開の桜は美しい。いつの間にかごく自然に画帳を開き、久しぶりに絵筆を執っていた。

 空は青く、花弁はピンクに塗る。土手はところどころに土が見えるものの、一面明るい緑色だ。一心不乱にスケッチをした。この時持っていた絵具は細筆1本が付属する12色セット。それほど複雑な表現はできない。

 当時はそれなりに満足していたのだが、今見ると恥ずかしい出来栄えだ。
 だが桜に感動しそれを「絵にする」試みはとてもいい経験になった。

 それ以来、実は結構な枚数の桜を描いている。描くたびにそのむつかしさがわかってくるようだ。

  •  桜のピンクはどの絵具を使うべきか?
  •  鉛筆の下書きはどこまでするべきか?
  •  花びらのボリュームを表現するにはどうすればいい?
  •  背景の色と明るさはどうしたら桜が引き立つ?

 こんな疑問を自分に投げかけ、答えを探す…その繰り返しだ。
 冒頭の絵は私の三度目の個展に出品した作品だ。それなりに毎年表現に工夫を重ねたせいだろうか、来場者から高い評価をいただいた。
 この作品の制作過程を「水彩で描く桜の風景 世界遺産姫路城!→」に詳しく記している。興味のある方は参照してほしい。

 またこの作品は複数の方から購入希望をいただいた。通常は最初の購入者が決まった段階でその絵は「売約済」と表示するのだが、少しでも多くの人に飾ってほしいとの思いから、今回は「※ジークレー版画印刷」による複製画を提案したところ、快くご理解いただいた。

 桜の絵はむつかしい…あなたもチャレンジしてみてはいかがだろう。

※ジークレー版画印刷
最新のデジタル技術を駆使した現代版リトグラフ。高精緻な撮影によるデータを水彩紙に印刷した複製画である。色彩もタッチも材質感も耐久性も本物と変わらない。
 制作原価のとても高い版画だが複数の人に提供できるというメリットは非常に大きい。制作部数を限定して作品の価値を保証している。私の「世界中の家庭にアートのある生活を提供する」目的のためにも大いに利用したいと考えている。

P.S.
科のブログには以下のような関連記事がある。興味のある方は参照してほしい。

■カテゴリとしては

■水彩画の基礎については

■スケッチ旅について


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1件のコメント

[…]  絵を描く人にとって春の桜と秋の紅葉はぜひとも自分の手で描いてみたいと思うのではなかろうか?春の桜については「桜を描くのはむつかしい?」や「水彩で描く風景 世界遺産姫路城」で役に立つ記事を描いたつもりなので参考にしてほしい。だから今回はもう一方の課題「秋の紅葉」について書こうと思う。それもインバウンドの観光客が聞いたら喜びそうな「京都の紅葉」だ。 […]

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