今年から「神戸水彩画教室」を開催している。少人数制なので、受講生の個性がとてもよくわかる。自然と指導にも熱が入り、質問もよく出る。水彩画の制作を通じて楽しい時間を過ごしている。
ただ一つ問題がある。講義時間は2時間。講義中心のカルチャースクールならば普通の長さだと思うが、水彩画教室のように実技を伴う講座は言葉の指導では限界がある。かといって私自身で描く実技時間を長くとると、受講生の制作時間が無くなってしまう。
そこで開講スケジュールを工夫し、通常の教室とは別に、私の水彩画制作のデモの時間を取り入れることにした。時間のある人は同じ日に私の水彩画制作デモと通常の講座を両方受けられるというわけだ。
実は私はとても遅筆。本来デモは苦手なのだが、生徒さんの技量向上のためと思えばそんなことは言っていられない。
(※神戸水彩画教室では、少人数で通常講座と制作デモを組み合わせながら、水彩画の構図・明暗・色彩・筆使いなどを学んでいます。→ 神戸水彩画教室の内容・開催日程はこちら)
というわけで今回は私なりの「デモ作品」制作について述べようと思う。
玄宮園を水彩画で描くための事前準備
モチーフは私が取材した風景写真とした。滋賀県彦根城の麓にある日本庭園(玄宮園)である。

この写真をデモ用に選んだのには2つの理由がある。それぞれについて解説しよう
構図を工夫する
通常の観光ポスターであれば、上の写真の上部半分を横長に切り取った構図にすると思う。この庭園の最も美しい部分を凝縮した構図だからだ。だがそれではありふれていて、絵としての面白さがない。そこで今回は画面の下半分に園路を入れてみた。S字カーブの園路が画面にダイナミックな動きを与えてくれ、面白い構図になった。
明暗の計画を立てる
構図が気にいったからと言ってよい絵になるとは限らない。この写真を撮影したのは曇りの日の正午くらいだった、つまり目立った陰影がなく立体感がない。このまま水彩画にして平坦な、つまらない絵になってしまうだろう。
そこで、あえて明暗を強調し、画面にドラマチックな変化を与えるために明暗だけを検討するラフスケッチを作成した(下図)。

明るい部分は空、建物の屋根、手前の水際の園路である。
暗い部分は城の庇と窓。中央の屋根の上から山の両横に広がるVの字になった林の影、二棟の建物の間の影、建物の庇下、池右横の樹木の影、そしてS字を描く園路と池の縁のラインである。
実物の写真に比べて明暗が強調されているのがわかるだろう。
制作開始!
いよいよ制作デモを行う。使用する水彩紙はF4号。ブロックタイプ、300g/㎡だ。
鉛筆による下描
きまず先に考えた構図や明暗のスケッチについて受講生に解説しておく。
Bの鉛筆で輪郭線のみ下書きをする。影は水彩で直接描くので不要だ。(約30分)鉛筆の先は極力とがらせる。建物の細い線を正確に引くときには必須だ。それだけではない。鉛筆の粉が紙の繊維の間に入り込むので、水彩を載せたときに紙を汚さないのだ。
約30分で下書きを終える。
ファーストウォッシュ・制作デモ
いつも教えている通り、遠いところ、薄い色、明るいところ、広いところから塗る。この段階はウェットオンウェットが原則だ。
※ウォッシュやウェット・オン・ウェットなど、水彩の基本的な塗り方については「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!」で詳しく解説している。
最初に空の部分に水を引く。写真を見てわかる通り、実際の空は薄いグレーだが、これではつまらない。一部に雲の白い部分を残し、コンポーズブルー、ウィンザーバイオレット、コバルトブルーを置き、紙を傾けて各色をなじませる。
城は細かな明暗が必要になるので後回しとする。
大面積である山の緑を塗る。最初にスプレーを吹き紙に水を含ませる。乾かないうちにサップグリーン、メイグリーン、オレンジを塗る。この時白い部分を残し、すべて塗りつぶさないこと。
林の陰影を適当に塗ってはいけない。先に描いた明暗スケッチに従って、大まかな山の木のまとまりを表現しておく。陰影部分はブルーや紫を混ぜた緑を垂らし、滲ませる。
「遠いところから順に・・・」という原則に当てはめれば、次は建物の屋根の番であるが、明暗スケッチで示した通り、今回はハイライトとして強調する部分である。よってここも塗り残しておく。
屋根下の建物を描く。茶色の壁面と障子、柱などを描く。水面に映る建物を同時に塗る。
池の右横の大きな樹木を描く。この樹木は画面の上部中景と池や園路の近景をむすぶ非常に重要なパーツである。明暗スケッチにおいて建物の庇下とともに暗部として強調されていることを確認してほしい。
園路はメイグリーンとサップグリーンを滲ませながら塗ってゆく。特にマスキングインクを塗った小さな花の周りは塗り残しの無いように注意する。
ここまでで開始から約2時間。本来は一通り基本色を塗り終えるファーストウォッシュを終えるところまで進めたかったが、一応デモはここまでで終了。残りは自宅で仕上げることとした。
デモに参加した方に感想を聞くと、鉛筆の下書きの程度、水スプレーを使った絵具の滲ませ方、平筆や丸筆の使い分け方など、私が何気なく使っている小技が参考になったとのこと。
それなりに制作デモの効果はあったのかと思っている。
ファーストウォッシュ・自宅での制作
池を塗る。先に池の部分に水を引いておく。サップグリーンを水で溶き、建物のすぐ下に垂らし、紙を傾け絵具を下方に流すようにする。水に映る明るい屋根部分、城、空の部分はティッシュで軽く拭き取る。
城と建物の屋根に青系のグレーで軽く影をつける。ここまででファーストウォッシュ完了だ(下図)。

中景の描き込み
中景となる建物の細部を描き込む。柱や建具の細部を描き込む。
屋根下の影、二棟の建物の中央部の影を強調する。
右側樹木の影を強調する。
園路と庭園の境目のS字ラインを強調する。

水彩画の仕上げ
近景を仕上げる。
マスキングインクをはがし、草花を描きいれる。同時に園路の右側をブルーと紫を塗りやや暗くすることにより、池際の草花ゾーンを強調する。
明暗スケッチを見直して、陰影の濃い部分に筆を入れる。
城の屋根下ライン、窓など。遠景なので、極端に濃くせず、端部は水でぼかす。
林の部分。中央から両サイドに向けて見える影ゾーンを強調する。
二棟の建物の庇下、中央部をさらに濃い影を入れる。
屋根に薄く色を入れる。この部分はハイライトの部分として強調したいので、サンプル写真のような濃い茶色を塗らないこと。
水面に映る建物、林、城の陰影を部分的に強調し、端部を水でぼかす。
以上で完成だ(下図)。
制作デモを終えて
結果的にファーストウォッシュまでに2時間、仕上げまでにさらに4時間ほどかかってしまった。デモであることを意識するともう少し要領よく描きたかった。
特に建物と池の表現は、ファーストウォッシュでの色が薄すぎたようだ。だから仕上げの段階で気に入った彩度、明度になる案で何度も色を重ねることになってしまった。
受講生の皆さん、次回はさらに要領よく仕上げます。お楽しみに!
神戸で水彩画を学んでみたい方へ
今回ご紹介したような制作デモでは、完成作品を見るだけでは分かりにくい「どの程度まで下描きをするのか」「どのタイミングで紙を濡らすのか」「どの筆を使うのか」といった、実際の制作過程をご覧いただけます。
神戸水彩画教室では、少人数で質問していただきながら、構図・明暗・透明水彩の基本技法などを学んでいます。初心者の方も参加いただけます。












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